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先生とあたし

12.抑制

「二学期になると推薦入試も始まるからな、みんな準備を怠るなよ。体育祭もあるが体調を崩したりしないように。」
クラス担任の話に、クラスがざわめく。うちはちょうど理数科系だからほとんどが受験進学組。3年の二学期が始まってすぐの体育祭も、去年のように力が入れられずに終わってしまうのかも知れない。

「城野さん、なににでるの?」
「障害物競走になってしまったの。」
女子の少ないクラスなので、必然的に女子のでなきゃいけない種目に集中する。
最近は三つ編みをやめた。先生がすごく嬉しそうにあたしの髪を触ったりするから、すぐにはずせるようバレッタでまとめてあげたりしている。これだと障害物も楽かも知れない。

二学期が始まるまで、夏休みはあたしにとってすごく濃い時間だった。
先生の部屋で過ごす時間。勿論勉強も必死でやらないと怒られるから頑張ったけど、あのホテルに行った日からあたしと先生はかわったのかも知れない。
ううん、あたしが変わってしまった。
快感を解放する術をしったあたしは度々せがむように先生に身体をゆだねた。先生も、あたしでイッテくれるようになった。目の前で、なんども...
恥ずかしいけど、夜ベッドの中で自分でその高ぶりを沈めることもあった。
『カレシ出来た?』
見た目の変化に何度もそう聞かれた。クラスの女子、男子、中学の時の同級生。
『依里子には社会人の彼氏がいるんだからね、ガキはどいたどいた。』
冗談半分におどけて亜美ちゃんが腕組みする。髪型変えたのもあるけど、雰囲気が柔らかくなったって言われた。これは全部先生のせいだと思う。
だって、自分が可愛いなんて思ってなくても、ずっと『可愛い』とか『好きだ』とか繰り返されたら少しだけ自信もっちゃうもの。あばたもえくぼかもしれないけど、誰かに愛されてる女の子は綺麗になるのにこんな魔法使ってたんだと判ったの。亜美ちゃんも可愛い方だけど、遠山君とつきあい始めてもっと可愛くなったもの。
そういえば、おねえちゃんも高校に入ってからすごく綺麗になったっけ。高校卒業してからなんてすごく...あれも先生の魔法だったんだろうか?

だけど

二学期が始まってから、まだ一度も二人っきりで逢ったことがない。
教務室にはいつも誰か質問にきてたりとかで先生を独り占めなんて出来ない。放課後も受験対策の補習やその準備やらで先生の帰りも遅い。土日もあたしの予備校が重なって、なかなか逢えない。
最も受験生が出歩くのも許されない時期にさしかかってるんだけれども。

体育祭、先生はクラス担任を持ってないので本部席でじっとしてたり、準備を手伝ったりしていた。
あたしは障害物競走。最後に紙に書いたものを持って来なければいけない。
<眼鏡をかけた若い男の先生>
その紙にはそう書いてあった。眼鏡をかけた先生なんていくらでもいるけれども、若い先生は少ない。
だけど...
「先生、深山先生おねがいします!」
あたしは本部席に駆け込んだ。そしてその紙を見せると先生の腕を引っ張った。
「わかった。」
にこっと笑った先生は立ち上がってあたしの腕をとった。
ううん、手を繋いだ。
「おお!」
勿論他にも校長先生と手を繋いで走ってる子もいるんだけど、滅多に笑わない深山先生が笑ったことに本部席がざわめいたのだ。
「こうやって堂々と手を繋げるなら、体育祭もいいもんだな。」
ゴールして、手を離す寸前にそう耳元で囁いた先生は、一瞬だけキツく手を握り返えしてくれた。
普段いい子にしてるとこんなにご褒美が待ってるのだろうか?
恒例の全校ダンスでも最後に順番が回ってきた。先生は足りない男子生徒の替わりに入ってたんだと思う。周りがいるから話なんて出来ないから、繋いだ指先で会話する。回るところで強く握られたり、引き寄せる力が強かったり、それだけでクラクラしそうなほどの幸せを感じることが出来たのは健全だったと思う。

あたしだけは...

「せ、んっ...」
さすがに体育祭の後は補習もない。先生方も打ち上げと称した宴会に出掛けるらしい。そんな中、先生は戸締まりの当番を買って出て、最後まで校内に居残ることに決めたらしい。それはダンスの時に告げられていた。
残っているのは元気に部活をする生徒だけ。ほとんどのクラブがお休みになってるらしいけど、大会前のクラブだけは居残って頑張っているのだろう。そのかけ声が教務室にも漏れ聞こえてくる。
あたしは、壁に押しつけられて、先生のキスをひたすら受け止めていた。
「ふっ、うんっ...」
生まれてくるのは疼くような快感。身体って覚えるものなのだ。夏休みの間、キスの後触れられて開かれた身体は、次の快感を求めて暴走しはじめる。あたしに擦りつけてくる先生の下半身もすごく熱くなってるのが判る。

あたしだけじゃなかった。新学期が始まってから体育祭までも2週間、我慢してたのはあたしだけじゃなかったんだって。
「依里子...こうしたかった。運動場のど真ん中で抱きしめたいほどだったんだ。堪えるのに苦労したんだからな。」
先生の手があたしのバレッタに伸びてそれを外すと、髪が落ちていく。
「あたしも抱きつきたいの、必死で我慢しました。」
正直な気持ち。誰もいなかったら...
「障害物でおまえがあの紙を差し出したときそのまま攫って逃げたいほどだったんだぞ?」
あたしの髪をすくい引き寄せ、先生は口づけた。
今、ここに攫われ、閉じこめられているけれどもそれはいいのかしら?
部活終了まであと1時間。身体が待ちこがれているみたいだった。
「このまま我慢するのが一番いいのだろうな。受験生のおまえにこれ以上手を出すと支障が出るだろう、だけど...」
「あたしが、我慢出来ないかも、です。先生...」
キスが増えるたびに身体が震える。あたしも、もう限界かもしれなかった。
しらなかったら、我慢していたかも知れない。キスだけで。
まだ身体を繋げていないけれども、覚えてしまった快感。先生はこんなモノと2年も闘ってきたの?
「じゃあ、どうして欲しいか言いなさい。ここでは私からはしてあげられないからね。」
少し意地の悪い先生の声も切羽詰まってるように聞こえるよ?
「じゃあ、先生は我慢出来るんですか?」
「しようとしてるんだがね、判っていて、そんな風に煽るつもりなのか?」
あたしは運動会のあとのままの先生のジャージのズボンに身体を擦りつけていた。いつものスラックスと違う感触。生々しい高ぶりが熱をもってあたしに伝えてくる。先生の興奮を。
「だめ、ですか?」
「だめじゃないよ。でも言いなさい、どうして欲しいか...」
「先生も言ってください、そしたら言います。」
「まったく、今日の依里子は強情だな?」
それだけ嬉しかったんだよ。みんなの前で手を繋げたのが嬉しかったんだって、言ったら先生気を使っちゃうかな?
「だって...」
「そんな顔をしたら私が我慢出来なくなるって知っててやってるのか?2週間触れられなくて、我慢も限界に来てるのは私の方だ。だけど、受験のことを考えると、ちゃんと決めておかないといけない。」
「きめる?」
「ああ、学校ではもう、触れない。キスもしない。今日が最後だ。」
「そんな、先生!!」
「その代わり、土曜日、予備校の後、家に来なさい。ちゃんとノルマ果たして勉強していたら、そうしたら...ご褒美をあげるよ?」
「ほんとうに?」
「それは1週間我慢した私へのご褒美でもあるがね。それでいいか?土曜日だけは、なんとかするから。」
「じゃあ、今日は?」
「体育祭、頑張ったご褒美だよ。だけど、声を出してはいけないよ?」
「はい」
「どうして欲しい?」
「もっとキスしてください。それから、あたしに触れてください、いっぱい...」
「わかった、では私からも言おう。舌を出しなさい、それから私に触れるんだ。依里子の手で気持ちよくしておくれ。私も依里子を気持ちよくしてあげるから。」
甘美な言葉に酔いながらキスを繰り返し、お互いの身体に、衣服の下に手を滑り込ませながら、触れる。
学校では最後。
その言葉が切なくも甘い気分に二人をさせた。

「はぁ...んっ、ひんっ、せ、せんせい...」
押さえていても漏れる嬌声。先生の指先があたしを翻弄する。身体だけが先走りして、熱くなって、痺れて、震えるほどの快感を与えられてしまう。胸の先をキツくつままれたり、ぬかるんだ脚の付け根を何度も擦られたり、敏感になって立ち上がった蕾を擦られて、我慢出来なくなったとき、先生が小さな声で言った。
「イキなさい。」
「ひんっ」
こりっと弾かれてあたしは一瞬気が遠くなる。そして戻ってきた瞬間おかしくなるほどの快感が指の先にまで広がっていく。
夏の間に覚えたソレはすぐに消えるからまだ良かった。
もしかして本当にしちゃうともっとすごい快感なんだろうか?
イッてしまったあたしを見る先生も限界のようだった。
ジャージから取り出されたソレはあたしの手には余っていたけれども、自分だけで済ませたくない。これが男性の生理なら...
あの時のように、ぎこちない手つきのあたしに手を重ねて先生が激しく扱く。
「うっ...」
くぐもった声が耳元で聞こえた。手の中が強く脈打ったあと、太股の内側に熱いモノがかかって、そして一気に冷えた。

先生が何かで拭いていた。それは先生の着ていたTシャツだった。目の前には男の人の身体があった。
「他になくてな...どうせ私も着替えるからいいんだ。」
そういってそのシャツを自分のカバンに無造作に突っ込んだ。
先生のモノとあたしのモノを拭いたソレを先生が洗うのだろうか?あたしはじっとカバンを見つめていた。
「気になるんだったら、この後家に来て洗ってくれるか?」
思わず頷いていた。
先生はほっとしたような表情で笑ってくれて、替わりのYシャツを着込んでいた。
「部屋に来たら、来週のご褒美の先払いを求めてしまいそうだよ。」
「我慢するんじゃなかったんですか?」
「我慢がきかないのは私の方だったな。これからは、校内では抑制する。絶対にだ。だから依里子も私を誘惑しないでくれよ?今のような表情をしたり、髪を上げて見せつけたりしないでくれ。」

どうやら先生はあたしが髪を上げるのには賛成しかねるらしかった。
翌日から三つ編みに戻ったあたしに失恋したのかという問いが飛び交ったけれども、首筋に残ったキスマークを見つけた亜美ちゃんが、それはないわと反論してくれた。

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一気書き〜 いいのか、受験生…

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