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〜部屋〜
「智也、なんでピーマン残すの?」
「俺、ピーマンだめなんだ。」
「…人参もだめって言ってなかった?」
「ああ」
子供みたいだけどしょうがねえ。嫌いだって言えば、もう二度と食卓に出てくることはなかった。
家政婦は雇い主の意向には逆らわないからな。
「あ、そ。でも昨日食べた餃子の中には入ってたわよ。」
「ほんとか?」
「茹でてすり下ろして入れたもの。気がつかずに食べてるんだから食べれるわよ。」
「けど、これ塊だろ?」
「食べてみて、苦くないから。」
しなっとなったピーマンをそっと口に運ぶ。
「あれ?甘辛くてうめえ…なんでだ?」
「砂糖醤油で炒めたの。そうすれば苦くないでしょ?」
「へえ…」
郁の料理は家庭料理だった。『可愛くない』といって育てられた彼女は、精一杯手伝いをして、母親の気を惹こうと思ったらしいが、母親の愛情は可愛らしい妹に注がれて、その手伝いも『当たり前』ですまされたと言っていたけれども、こんなあったかい料理食って育ったんならいくらか俺よりましだろう。
家政婦の作るのは子供の好きそうな料理ばかりだったし、一人暮らしを始めてからは、コンビニや弁当屋で事は足りた。
だから、みそ汁と漬け物と温かいご飯があるだけでも、俺には十分だった。
「智也は偏食しすぎなのよ。」
俺の身体を気使ってくれる人がいるというのは、なんかいいな。


「あ、智也、洗濯物たたんでくれたの?」
「ああ、乾いてたからな。」
料理は出来ないけれども、洗濯ぐらいなら俺にも出来る。しかし、コイツってば色気のない下着にカジュアルな服ばっかり…洗濯はラクだろうけど、時々どっちのか判らなくなる。
「なあ、おまえ服とか買わないの?」
「別に傷んでないから。」
女って服色々もってるもんだと思っていた常識はコイツに覆された。
「よそ行きの服とか、もってるのか?」
「入学式で着たスーツがあるけど?」
たぶん俺の方が服多いよな?口も手も出さない変わりに、金だけ出す親が居る。毎月そこそこの生活費が口座に振り込まれいる。大学を出るまで貰えるらしい。


買ってやりたいなって、思った。
郁の場合は、家賃食費光熱費払った残りが小遣いらしいけど、コイツは本代ぐらいで他の物に使わないから足りてるだけなんだ。普通の女ならバイトしなきゃやっていけないだろう。引っ越した先の家賃は、郁持ちなので、俺はその半分の金額を郁に渡してる。それで郁は食費とかにしてるみたいだけれど、無駄使いしてるとこは見たことがない。


バイトでもするかな?
就活で忙しくなる前に、ちょっとだけ。


「な、買い物に行こうか?」
「なんで?」
「いや、バイト代入ったから。」
「何か欲しい物あったら、自分で買ってくればいいじゃない?」
郁には一緒に買い物に行くとかいう考えはない。そのくせ、たまに一緒に食料品買い出しにいくと嬉しそうにするんだ。
「とにかく、行こう。」
「あたしは、いい…」
「なんでだよ?」
「あたしこんな服しかもってないから、スーパー以外一緒に行けるようなとこないから…」
なんだ、気にしてるんだ?だったら尚更だ。
「いいよ、ジーンズとTシャツで。俺もその恰好だから、並んだらペアみたいだぜ?」
「そ、そうかな…」
躊躇する郁を連れ出す。
はじめて、誰かのためにバイトした。今まで頼まれてなにかしらやったことはあったけど、そんな金、飲みに行けばすぐになくなるし、女連れていけばいくらでも使ってくれるしな。
だけど、郁は友人だった時の名残か、必ず割り勘にしようとするし、奢ると奢りかえそうとする。食事作ってもらってるからと言って、ようやく外食代や材料代をださせてくれる。


「郁、あんなの着てみないか?」
ウインドウに見える春らしいシンプルなスカートとカットソー
「え、いいわよ。似合わないから。」
「そんなことない、着てみろよ?」
「いいって、あんな明るい色の服、似合わないわ…」
こう言うときって、郁は頑固だ。
「郁は色白いから、似合うって。」
「いいってば!それより、智也の買いたい物って?」
「郁の服。」
「え…」
あ、固まってる。可愛いでやんの。
「おまえに服買ってやりたくって、バイトしたんだ。」
「あ、そ、そう…だったんだ」
照れてる??気がつかなかったんだ。俺がバイトするって言ったら吃驚してたもんな。
「でも、あたし買ってもらう理由がない。」
普通彼女だってだけで十分あると思うんだが…
「男が服を買うのは、それ着せた女脱がして楽しむためだ。」
「ええ??」
「食費出すのは当たり前だろ?だったらおまえの身体喰ってるから、服ぐらい、って痛えな!」
郁が拗ねたような顔して俺の足を踏んできた。
「何よ、その例え!」
「わりい、要するに、郁に何かしてやりたくなったんだ…一緒に住めば、やっぱおまえの方が負担多いだろ?俺、朝夜なく手だすしさ。それで、まあ、お礼っていうか…」
「お礼なの?」
「いや、違う!そう言えばおまえ受け取るかなって。でないとおまえ受け取んねえだろ?」
なんて言ったら上手く伝わるんだ?女なら欲しいって言う物を買い与えるだけで良かったのに、それが親父の金でも何とも思わなかったのに…
「わかった、じゃあ、選んで?あたし、そうゆうの選べないから…」
もじもじしてる郁も可愛いぜ。


数時間後、郁は上から下まで俺が選んだ物を身に付けた。
下着も、ちょっと色っぽいの着けさせた。綿のスポーツタイプも悪くはないけど、今日の服に合わせてだ。春色のデザインはシンプルなもの、それから線の細いミュール。
「これなら、智也の隣にいてもおかしくない?」
照れくさそうに笑う郁が愛しい。
自分に自信のない彼女は俺の横に並ぼうとしないから。
「いつもの郁でもおかしくはない。おまえが、その方が自信持てるだろって、おもったんだ。」
「う、うん…ありがとう、智也。」



それから、デートした。
郁にとっては初めてのデートらしい。ゲーセン行ったり、公園歩いたり、最後は…

「なっ、なんでここ??」
「たまにはいいだろ?」
「部屋に帰ればいいじゃない、なにも、こんな…」
「初めてだろ?こんなとこ来るの。」
「そりゃそうだけど…」

ラブホに連れてきたら、郁が吃驚してるんだ。
こいつ、ほんとに経験ないからな…

「郁に自信つけてもらおうと思ってな。」
抱きかかえてベッドに連れて行く。
「ほら、ココ鏡の間だってよ。どっち向いても鏡があるだろう?」
「や、ちょっと、趣味悪い…」
「なんで、見てみろ?」
鏡に映るのは、キレイなお姉さんの郁と、俺。
「たっぷり見せつけてやるから、料金分楽しもうぜ?」
「いやぁあ!!」
嫌がる郁をその気にさせて、鳴かしまくったのは言うまでもない。
翌朝、部屋まで連れて帰るのが大変だったけど…


それ以来、郁も少しずつ自信つけたかもしれない。
相変わらず普段は飾らないけれども、たまにふたりで出掛けるときにお洒落してるし、知らない間に少しだけ服も増えた。俺好みの下着も身につけてる。

可愛いや、やっぱ郁は…
捨てられないようには、マジで俺の方。
無茶して嫌われない程度にしとかないといけないんだけど、郁が悪いんだからな?
普段と違う顔するから、オレの前だけで。

だから、ついつい、鳴かせちまうんだ…


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以上拍手からおろしてきたお話でしたw

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