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クリスマスを過ぎても・2008

クリスマスは特別
12月22日  〜俊貴〜


「ただいま、聖貴(まさき)はもう寝たのか?」

深夜近く、残業を終えて帰ってくるわたしを迎えてくれる妻の温かい笑顔。
「おかえりなさい、もうとっくに寝てますよ」
「そっか……君も寝てていいのに、朱音」
出迎えた妻を引き寄せて唇をそっと奪う。口ではそう言っても、本当はこうやって出迎えて待っていてくれるのが嬉しい。
「大丈夫よ、聖貴とたっぷりお昼寝してますから」
それじゃ、少々寝れなくさせても大丈夫だな?明日は休みだし、今夜は……と気がはやる。


息子の聖貴が生まれてもうすぐ1年たとうとしている。
クリスマスに結ばれて、クリスマスに将来を誓い合った俺たちは、奇遇にもまたクリスマスに新しい命を授かった。お正月が予定日だったのに、ハプニングが発生してちょうど25日に日付を変えてすぐに生まれた我が家の長男。昨年のハプニングに関しては今回は自分の不徳の致すところで、責任の全ては自分にあったと言いたいところだが、どこまでも関わってくるのがあの馬鹿夫婦、富野達だった。あいつのボケ振りにはいつも手を焼く。去年も言わなくていいことを朱音に言い、やらなくていいおせっかいをやいて、さんざん掻き回された挙げ句に朱音の出産だった。

なのに……

「なあ、本気で今年のクリスマスは富野達も呼ぶのか?」
「ええ、そうよ。クリスマスと言っても23日よ?麻里ちゃんもまだ赤ちゃんが小さくて大変でしょう?クリスマスの準備らしいことできないって言うから……美奈ちゃんも今年のクリスマスは聖貴と一緒だって張りきってるらしいわ」
「そ、そうか……」

富野のところは、去年のクリスマス以来別居生活を解消し、離婚訴訟も取りやめて夫婦円満な生活に戻った。いや、戻ったというよりもようやく本当の夫婦になれたんだろうな。毎年毎年迷惑かけやがって、だ。そしてすぐに報告された二人目の妊娠。オイオイ、おまえ達はクリスマスになにをやってたんだ?と言いたくなってしまう。9月に男の子が生まれ、亜貴と俺から一文字戴きましたとかぬかして複雑な気分にされたものだ。
しかし、そんな展開を一番喜んでいたのは美奈ちゃんだろう。弟か妹が欲しいといってたからな。
可哀想に自分の父親と母親が喧嘩してるところばかり見せられて育ったのに、悪い方に皮肉れもせず良く育ったもんだ。少々おませでしっかりしすぎてるのはしょうがないが、あの子は自分の母親よりもうちの朱音をリスペクトしてるというか、母として、女性として尊敬してるらしく、自分もああなりたいと日々近づこうと努力してるらしい。母親の手を弟に取られても、ちゃんと手伝いながらもどうしていいか判らない時は朱音に電話して来るというのだから……
まあ、朱音も面倒見がいいし、美奈ちゃんが可愛いんだろうな。富野の子だって言うのだけが気にくわないがな。
しかし、その美奈ちゃんがうちの聖貴を気に入ったらしく『将来結婚するの!』と言い出した時は驚いた。その理由が俺たちの子供になれるからだというのだから。

『それにまさきくんはとしきおじちゃまのこどもだから、しょうらいきっとそっくりになるでしょ?だからいまのうちにやくそくしておくの』

そう宣言されてもまだ聖貴は『あー』だの『ぱー』だのしか言えない乳幼児なんだが、朱音も将来聖貴がいいと言ったらなんて返事をするもんだから完全にその気だ。
まったく……そうなったらあの富野と親戚だぞ??それだけは是非避けたい。一生あいつらに振り回されるのは御免だ!

「飾り付けもある程度やってるけど、高いところは俊貴さん手伝ってくれるでしょう?明日は朝から飾り付け済ませて、ケーキのスポンジはもう焼けてるから明日デコレーションするだけなの。チキンもスパイスに漬けてるし、オーブンで焼くのに少し時間がかかるけど、明日は朝から大忙しよ!勝の所のおばさんもちらし寿司作って持たせるって言ってくれたから少しだけ楽なの。みんな23日のお昼前から来るっていってるから、それに間に合わせなきゃ!」
「へえ、凄い計画だな?で、その計画の中に今晩の予定は入ってないのか?」
「え?」
一瞬朱音の表情が曇る。何もそんなにいやがることはないだろう?
「一昨日は休日出勤だったし、昨日は明日の準備の買い出しでおまえも聖貴も疲れてしまってただろ?いくら25日に有給がとれたからって、明日の休み前の今夜を有効に使わないつもりはないぞ?」
今のところ仕事にも復帰せず、子育てに勤しんでいる朱音との約束。休みの前の夜は時間が許す限り夫の相手をすること、だ。
「だって、土曜の夜もあんなにするから!!だ、だから、寝不足で、買い物の途中で疲れちゃったのに……まだあれからそんなに日がたってないじゃない?それにイブの夜も……なんでしょう?」
俺たちにとって特別なイブの夜は、そりゃ普通に寝かすつもりはない。平日はセーブして、育児で忙しい彼女を労ってるつもりだ。だが、休み前はついセーブしきれずに朱音を求めてしまうのはしょうがないといってくれ。今年のクリスマスは見事に平日だし、その前の週末や間に空いた月曜に有休を取るヤツも居たが、俺たちにとってクリスマスが大切な日なんだ。だから、今年は……

『課長、これ』
数ヶ月前、富野がニヤニヤして差し出してきたのは有給願いだった。
『なんだ、おまえは仕事もちゃんとこなせてないクセに有給だけは一丁前に取るつもりなのか?』
どうしても富野にだけは辛辣な口調になってしまうが、こいつがそんなことを気にしたこともない。
『よく見てくださいよ、それ課長の有給願いですよ』
確かに、自分の名前になってるし、日付は12月25日だった。
『営業企画一同、その日は課長無しでもちゃんと仕事しますから!今年は恒例のクリスマス前のプレゼンも10月の決算後になったでしょう?だったら、課長休んでくださいよ。オレら課長にはお世話になりっぱなしだし、朱音、いえ奥さんにも迷惑かけっぱなしなのでこれぐらいさせてください!』

さすがにその時はジーンときた。富野が悪いヤツじゃないのもわかってる。朱音が長い間想い続けていた相手だったんだからな。物好きだとはおもうが……
彼の薦めるままに25日のクリスマスに有休を取ったので、今年はイブはゆっくりできる。だからこそ23日の富野家と合同クリスマス会に相成ったわけだ。


「明日の朝からの準備は俺がやるから。俺が風呂に入って食事してる間に今できることは全部しておくんだな。その方が懸命だと思うぞ?」
呆然とする朱音に熱烈なキスを残し、俺はバスルームに向かった。
朱音が大急ぎで用意してたチキンに火を入れ、俺が食事してる間にケーキのデコレーションを済ませたのはいうまでもない。さすがわが妻は、チキンはすぐに焼けるように、ケーキの生クリームもすぐ絞れるように用意しておいたのだろう。それじゃあとは存分にベッドで彼女を食べ尽くすだけだな?

食事の後、まだなにやら支度をしようとする朱音を抱き上げてベッドまで拉致って、それからたっぷりと可愛がってやり最後には懇願する朱音と共に果てる天国を味わってから深い眠りについた。
2008.12.22
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今年ももう後わずかでクリスマスが??
早すぎます一年たつのが……
今年はかなり無理をしてますが(笑)やっぱこの二人を書かないとクリスマスが来ない??
そして、もう切っても話せない富野夫妻(笑)
何とか間に合いましたので引き続き明日もお楽しみ下さいませ♪

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