風花〜かざはな〜


番外編〜「藤沢力也の苦悩」〜


「もう行くの?」
「ああ、起こして悪かったな。」
オレは数枚の紙幣を枕元に置くとベッドを出た。
「やだ…いらないって言ってるのに…」
「そんなわけにはいかないだろ?オマエはこれが商売なんだからさ。」
女は身体を売るのを生業としている。
昔、親父に連れられてきてからだから、ずいぶんと長い付き合いになるが…
初めての女でもない。
初めての女は親父の愛人だった。
手を出されるのが嫌で、親父はオレをココに連れてきたのだ。
「ねえ、好きな人出来た?」
この女はオレが初めてここに来た15の時に16だったから、今じゃ19か。
オレやゆき乃と一つしか変わらない。
「ああ…」
「そう」
女はシーツから抜け出てオレの後ろから抱きついてきた。
「なんだ?もう帰るんだが?」
「少しだけ…こうしていて。」
ゆき乃を諦めたわけでもないが、自分の物にもならないことは十分承知していた。
今更自分で抜くわけにも行かず、時間を見てここへ来る。
相手はこの女とは限らない。他にも女はいるし、この女が空いてるとは限らない。
ここは、上流階級の紳士を相手にする娼館だ。
「ねえ、キスして?」
この仕事をする女はあまりキスを好まない。
キスは心まで許していないという、彼女らなりのプライドなのだ。
「いいのか?」
「お願い…」
オレはそっと唇をあわせてやる。
「んっ!」
女の舌が入り込んできて、オレを貪ろうと蠢く。
オレはそれに答えてやりながら、その滑らかな身体に指を這わせる。
すぐに快感を訴えはじめるその身体をベッドに落とし、再びのしかかる。
まだ若いこの身体は、時間さえ許せば、なんどでも女に向かっていく。
「あっ…力也さん…」
再び俺自身を受け入れて、腰を蠢かせる。
男をイカせる絶品の身体…性器…
「どう、したんだ、オマエらしくない…」
無言で交わる、オレはスーツのまま最後を迎えると、身体を離し身支度を調えた。
「また来る…」
そう言い残して。

けれども次に訪れたときには彼女はもう居なかった。
どこかの金持ちに引かされたのだという。
「あの娘、あなたのこと本気だったんだよ…でも自分に本気じゃないって判ってたから何も言えなかったって…」
「そうか…」
聞いたところで自分には何も出来なかった。
まだまだこの業界でも駆け出しで、なんの力も財産もない。
何よりも、自分の気持ちはゆき乃から離れてくれない。
代わりに抱いた女がいろいろ教えてくれたが上の空だった。

あいつもこんな気持ちで女を抱いたんだろうか?
ゆき乃に想われ、ゆき乃を想い、ゆき乃を泣かせた男。
宮之原恭祐、今では信頼のおけるビジネスパートナー
恋のライバルだった。

オレは思考を振り切って女の温もりに溺れていく。
今は…ただ、忘れたかった。忘れていたかった。


    

力也ファンの方ごめんなさい〜〜(涙)
でも、完結記念にUPしなおしてみましたw
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