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「もぉ...だめぇ、やだ、っん」
「奈津美、可愛い。」
「だめ、ん、名前呼ばないで...」
「まだそんなこと言うの?素直じゃないな。素直なのはこっちだけ?」
彼の舌があたしの敏感な蕾を刺激する。
「あぁっ、いいんっ!ねえ、もう、もう...」
「感じてる?だったら僕が欲しいって言ってよ。」
あたしの間に埋めた舌で激しく嬲る。
「ひゃぁっ、んんっ、あぁ......」
まただ。階段を駆け上がろうとするとそこから突き放される。
さっきからもう何度も。もう、身体も心もおかしくなっていく。
胸に、身体のあちこちに、咲かされた赤い花が、リビングの床に散らさている。
身体のどこもが剥き出しの神経のように、どこに触れられても狂ってしまうほど感じやすくなってるあたしの身体。
「いい加減に信じてよ僕の気持。ほんとにあなたが好きなんだ...10も離れてれば、相手にされないほど頼りないだろうけど、でもずっと見てたんだ。あなたの事を...」
すごく優しい目で見つめる彼。近すぎる距離。誤魔化しきれない自分の感情。
私なんか...私なんか、そんな魅力あるはずないわよ!胸のうちのコンプレックスが固まりになって溢れてくる。
「ちがう、わ...そんなの気の迷いよ。わ、私だって自分を判ってるわよ。32にもなって、仕事一筋で、女捨ててるみたいに言われて、男にも見放されちゃって...あたしなんか、あたしなんか...いいの、あたしは仕事に生きるの!だからもうあたしの事はほっといてよ!」
堰をきった涙がぼろぼる流れる。きっと顔はもうぐちゃぐちゃだろう。
「ふうっ、あなたは全然わかってないんですね。自分がどんな風に見られてるかを...」
三谷くんはため息を一つつくと、私の手を引き立てて壁の姿見の前に私を座らせる。
「ほら見て、涙でぐちゃぐちゃのあなたの顔、子供みたいですごく可愛い。これで年上だなんて思えないですよね?結構みんなも先輩の年わかんないっていってますよ。仕事上ならともかく、普段は僕には年の差は感じられないですね。」
そう言って後ろから頬に口付けて、わたしの涙を吸い取った。
「仕事中の気を張ってて隙のない横顔も綺麗だけど、時々見せる気の抜けた顔が僕は好きなんだ。疲れた顔でため息つくときも、笑顔でほっとしてる時も、好きなもの見つけてふにゃってしてるときなんかすごく可愛い。気付いてるの俺だけかと思ったら、峰岸までが『深沢先輩って結構色っぽくってっそそる』なんて言ってるんですよ?もう少しで殴ってるとこでした。」
悔しそうな顔して、首筋にキスを繰り返しながら、指が敏感になった体のラインをゆっくりとなぞりだす。過敏に反応するからだが震える。
「綺麗な身体ですよ。普段は隙のない体が、僕が触れるたびにびくって震えて溶けていくんだ。あの日、初めてあなたを抱いた日から、この身体を僕だけのものにしたくって...だからいもしない不倫の相手に嫉妬して、他の男の腕の中にいるあなたを想像して一人焦れて、一緒に営業に出てる峰岸にすら嫉妬してる。あなたが奴に隙を見せないかもう心配で心配で...」
「あん、やっ...あぁぁぁ!」
身体をまさぐるその手は私の両の胸を優しく愛撫している。その中心を弾かれて背中が仰け反るほど感じて、ひくつくあたしの身体を三谷くんが優しく抱きとめた。
すでに頭はぼうっとしている。鏡に映ったあたしはすごくえっちで、目はとろんと潤んで、唇もだらしなく開いてまるで彼を誘ってるようだ。あたしに絡みつく彼の表情は切なげに歪んでいる。
やりたいなら、いくらでも出来るはずなのに、きっとすごく我慢してるんだ。
「心ごとあなたが欲しいんだ。言って、僕が欲しいって。」
「あ、あたしは...」
あたしは、誰が好き?誰が欲しいの?先に身体が出した答えに心が応答する。
「奈津美?」
「三谷くんが、欲しい...」
答えは早くに出てたのに、あたし一人意地張ってたんだ。三谷くんは年は下だけど、もしかしたらあたしなんかよりずっと大人なんじゃないのかな?
もう片意地張らなくてもいいのかな?
判ってくれる誰かの存在が暖かい。
「それは、身体だけ?心は?」
「それは......」
どうやって言えばいいんだろう?両方なんだけど...
「ったく、強情っぱりですね。言わせあげますよ、その先の台詞もね。時間は一杯あるんですから。」
彼はいたずらっぽく笑うと、あたしを抱き上げて寝室まで連れて行く。
「ね、今日気がついたんだけど、俺って結構我慢強いみたいだから。」
「えっ?」
「奈津美を一杯鳴かしそうだ。今夜は覚悟してね。」
いままでの我慢の分、一杯鳴かされて、一杯言わされました。
本当の気持ちも、恥ずかしいことも全部。
ほとんど一晩中、彼はあたしを離してくれなかった。ほんとは一晩では済まなかったのだけど...。
まどろむ間も彼の腕の中で、そのぬくもりに包まっていた。心も身体も裸の私。
金曜の夜から日曜の夕方まで、ずっと彼の腕の中で、あたしの心の鎧全部脱がされて、ようやく月曜には本物の三谷浩輔の恋人になっていた。
おばちゃんに電話で報告した。
『よかったね』って何度も言ってくれた。
気付いてたみたいだった。二人の事。でも三谷くんはいい子みたいだから黙ってたって。
今では彼が担当で、月1で回ってる。一度休みの日においでって言われてるので来週あたり行こうねって話してる。
だから、もうため息はつかない。あんな寂しいため息は...
Fin
おまけ
「はぁ...」
「奈津美なんだよそれ?」
「浩輔って若かったんだ...」
「なんだよ、今更?」
「まさかここに居座って毎日するとは思わなかったの!」
「なんだ、そんなことか。しょうがないでしょ?若いんだから。」
「はぁ...」
「だからそのため息は?」
「もう降参、あたしの身体がもちません...。」
このため息だけはしばらく続いた。
第二作目完結いたしました。
キャラが生まれるとどんどん妄想生活に入ってしまうわたしです。恋愛小説に、何歳じゃなきゃいけないという制限はないと思いますのでので、色々と作ってしまいました。昨今のバリキャリウーマンは30越えてると、わたしは認識しています。(ほんとか?)そしてラスト、またまた肝心な部分が抜けてるって?はいそうです(笑)
じつはこのお話、一作目の遼哉とあつみ(紗弓とも奈津美とも違いますが)の名前で下書きしてました。それもえっちシーンのみで。(おいおい!)じつはそれが、はじめて書いた現代物で、男性の目からの一人称でした。書き直して、UPしようと思ってますが、ちょっとえろえろすぎるので、迷ってますが...結局浩輔サイドでアップしちゃいました(笑)
2003.04.18(4.19加筆)