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社会人編

44
〜甲斐・9〜

週末、あのハガキを手に、オレは志奈子のいる街に来ていた。
8時頃に家を出て車で高速と地道を繋ぎ、午前中になんとか志奈子が住む街へ辿り着いた。思ったよりも遠く感じたのは、こっちに来てから自由に行動出来る様に新幹線などの公共交通機関を使わず車にしたからだろう。
車から見える町並みは都会の喧噪と違い、少しだけ開けた道路に大通りはそこそこにぎわって見えた。だけど脇道に入ってゆっくり周りを見渡せば田園風景が広がっている。不思議とそんな街並みの方が志奈子に似合っている様な気がしていた。今日は土曜日で学校に訪ねて行ってもいないだろうと思いながらも、とりあえず志奈子の赴任した公立中学校にナビをセットしてそこへ向かう。
実は……ここまで来たものの、オレは志奈子に逢う約束をしていなかった。連絡も取っていないし、今日来ることも知らせてはいない。すげなく断られたり電話越しに誰か他の男の存在を聞かされたりするのが怖かったから……なんてマジで情けない。そう、拒絶されることが怖くてしょうがないほど、オレは未だに志奈子に依存していた。
あの時オレたちはちゃんと終わらせたはずだった。お互いの道を進むことを願ってそれぞれの未来に向かって歩み出した。彼女はオレとやり直す気なんてない事は先刻承知の上だ。それなのに未練がましくこんなところまで追いかけて来ていては志奈子に迷惑をかけてしまうだろう。オレたちはもう学生じゃない、責任在る社会人だ。彼女は教師でオレは会社員……もう、セフレだとかそんな曖昧な関係は続けちゃいけないんだ。どうせなら真剣に付き合うことを考えなきゃいけないことも。その覚悟もお互い無いまま始める事は出来ない。遠距離もいいとこだし、志奈子は一生誰とも恋愛も結婚もしないと言っていたはずだから、その気を変えてくれるかどうかも確かめないと始まらないから。
今も志奈子は一人で居るだろうか?だけど、もし……恋愛する気がないと言っていた彼女の気を覆すほどの相手に出逢ってしまったら?あの、感じやすいカラダを慰めてくれる他の男を見つけてしまったら?
考えれば考えるほど最悪な場面を想像してしまう。志奈子はそんな女じゃないってことはオレが一番判っているはずなのに……
オレは校門から少し離れたところに車を停めて、ハンドルに身体を預けてぼーっと校門から出てくる学生達を見ていた。この学校で志奈子は教師として教壇に立ち夢を叶えているのだと思うと、それなりに感慨深いモノがあった。車のウインドウを少し開けていると学生達のおしゃべりが通りすがりに聞こえてくる。その中に志奈子の名前が出ないかどうか自然と聞き耳を立てていた。もし、少しでも志奈子の姿が見られたら……この車を見て、オレだと気付いて駆け寄ってくれたら、何も深く考えることはない。
今日の目的は彼女が今どうしているのかが判ればいいと思っていた。その後のことはその時考えればいいと……
お昼時で、午前の部活が終わった生徒だろうか?ちらほらと帰る姿が目立ってきた。教師は土日でも顧問する部活があると学校に出てこなくてはならなく、毎日が忙しいと聞く。出てこなかったら彼女の住んでいるアパートを目指せばいい。本当はすぐにでも顔を見たかった……だけどその瞬間気まずい顔でオレの存在を拒否されるのが怖いのだ。
その時、校門からスーツ姿の女性が姿を見せた。相変わらず地味だけど、姿勢良く歩いているその姿は間違いなく志奈子だった。午前中だけ仕事だったのか、それともお昼の買い出しか食事か。
――――ああ、キレイになったな……
あの日、最後に見た時よりもずっと。学生時代はほとんど化粧なんてしてなかった彼女が、教育実習に行きかけた辺りからするようになって……地味な顔立ちが幾分か華やかに、すこしだけ明るく自信をまとった彼女の微笑みがキレイになっているのにも気が付いていた。今はその時よりもっと自信ありげな先生らしい態度で、すれ違う生徒達に挨拶しながら校門から出てくる。
どうしよう……こっちに来る!ああ、なんて声をかけよう?それともウインドウを閉めて通り過ぎるのを待とうか?もしかしたらこの車を見て気付いてくれないだろうか?それとも、判っていて避けて立ち去るか……
考えを張り巡らせていた矢先に、彼女の側に黒のスポーツタイプの軽四が割り込んできた。
「あ、体育の日高っちだ!やったー、志奈子先生誘ってるよぉ!やっぱあの二人の噂本当だったんだ!」
近くを歩いていた生徒達が立ち止まって話す声が飛び込んできた。
噂……志奈子とあの男が噂?車の中にいる男の顔は見えなかった。相手は体育教師……志奈子は同僚と、付き合っているのだろうか?
何のためらいもなく、志奈子がその車に乗り込む様子をオレは見ていた。知り合いだから?それとも付き合っているのか?
オレの車を追い越していく瞬間……志奈子が助手席で笑っているのが見えた。
――――笑ってる……志奈子が。
一緒に暮らしていても数度、最後に見たのは泣き笑いの顔じゃなかっただろうか?それがあんなに穏やかな笑顔をしているなんて……
「やっぱり結婚するのかなぁ?」
「するんじゃない?日高っちマジみたいだし。結構モテるのにねぇ」
「志奈子先生も密かに人気あるじゃない?落ち着いてて意外と優しいし、こう……いいお母さんになりそうって感じするじゃん?」
「良妻賢母ってやつ?その言葉ぴったし!」
生徒達の声が徐々に遠くなっていく。
いい母親か……そう言ってもらえるほど、おまえは今いい先生やってるんだよな?
オレはドスンと運転座席の背もたれに身を沈めた。
――――なあ、志奈子……今、おまえは幸せなのか?
あんないい顔、オレはさせてやれなかった。あれほど一緒にいたのに、笑ってもらったのはほんの数回、数えるほどだったと思う。だったら、オレは……このまま諦めて帰った方がいいのか?
走り去った車をバックミラーでじっと見つめていた。けれども居ても立っても居られなくて、ウインカーを出すとUターンしてその後を追いかけていた。
車はさして多くない通りだ。程なく前を走っていたその車に追いつき、小洒落た喫茶店の駐車場に入っていくのを確認すると少し離れた路上に車を停めた。田舎は車の使用率が高いせいか当たり前様にどの店にも広めの駐車場が用意されている。それから小一時間ほど、二人が車に再び乗り込むのを確認して後尾を追い、再び学校へと戻っていくのをずっと見続けていた。
店から出てきた志奈子も、やはり先ほどの様に笑っている。『楽しそう』という表現がぴったりの二人だった。日高という教師は、志奈子より少しだけ背が高いだけだったが、女性が油断しそうな可愛いらしい顔立ちをしていた。
――――やっぱり幸せなのか?そいつといると……
合間にトイレや食料調達を済ませては車の位置を変え、志奈子が再び出てくるのを待っていた。出てきたら……とりあえず周りに人がいなくなったのを見計らって声をかけてみよう。そして、あの男との関係をさりげなく聞き出す。話はそれからだ。その為にオレは来たのだから……
しかし、再び志奈子を乗せた体育教師の車が校門を出て行くのを見つけてしまった。そしてオレはまたその車の後ろを、ってオレはストーカーか?知りたいけど知りたくない……その男はただの同僚なのか、それともカレシなのか?
志奈子があの時言ったことを違えたとしてもそれが何の罪になる?2年も有れば女は変わる。それが判っていて、志奈子ならそんなことはないとタカを括って2年もの間動かなかったのはこのオレだ。ただひたすら、志奈子が気を変えて連絡してくれないかと、携帯も変えずあの部屋でずっと待っていたその結果がコレだった。
二人の行き先はいったい何処なんだろう?男の部屋に向かったらどうしよう、志奈子の部屋に一緒に入っていったらどうしよう……そんなことばかり考えていた。
志奈子を乗せた車は少し街中に向かい、あまり大きくないスペースに駐車すると二人で居酒屋らしき店ののれんをくぐっていった。飲み会か、それとも二人で夕食代わりか……オレはバカみたいにその近くで二人が出てくるのを何時間も待っていた。数人の連れと出てきたところを見ると、同じ教師仲間の飲み会だった様だ。
そういえば……志奈子は学生時代合コンや飲み会もろくに行ってなかったことを思い出す。生活費のこともあっただろうけれど、彼女自身が酒の場を嫌ってた様にも思う。最後にスカイラウンジでカクテルを飲んだのが初めてのお酒だと言っていた。
動き出す車には数人が乗り込み、順次送り届けている様だった。だけど志奈子は最後で……そのことが何を意味しているか考えただけでもハンドルを持つ指先が震える様だった。
――――長い……
志奈子の住んでいるアパートらしき建物の前で止まった車はなかなか志奈子を降ろそうとしなかった。見ているだけではイラつく時間。いっそのことあのドアの所まで駆けていって、そこから志奈子を引きずり降ろしてやろうか?そんな権利、オレにはないというのに……
はっきりと時計を見ていなかったけれども、優に30分は経ったかも知れない。ようやく車から降りてきた志奈子はお辞儀をするとその車を見送った。オレは……飛び降りて志奈子に問いただしたい気持ちで一杯なのにそれが出来ない……

あの男は何?
恋愛はしないんじゃなかったのか?
もうオレのことは……忘れたのか?

聞けないよな、そんなこと。1年半ぶりに目の前に現れて、いきなり今付き合ってる男の事を問いただすなんて事……それも今朝からストーカーまがいの事をして後を付けて知った事実だ。
何よりも、こんな苛立った気持ちのまま逢いには行けない。せめて、笑って……怖がらせずに再会できるように。オレはもう二度と志奈子を困らせたくないんだ。出来れば……笑ってオレを見て欲しい。それが、今出て行って、オレの気持ちを押しつけるよりももっと大事なことだと思えた。それが、オレが出来る唯一……志奈子を幸せにする方法だと。
オレは目立たない場所に車を止めたまま……その晩を車の中で空かした。明日は日曜、さすがの学校も休みの日だ。オレは、志奈子の部屋のドアを叩きたい衝動と一晩中戦い続けていた。

だけど翌朝、再びあの教師の車が迎えに来た。約束していたらしく、志奈子は車が停まるとすぐに部屋から出てきて乗り込んだ。昨日とは違う少しラフな、でも女らしい服装は一緒に住んでいる間も見たことがないものだった。二人は映画館へ行き、食事をして、夕方志奈子の部屋に送り届けるまでずっと一緒にいた。
普通のデートコース、それをバカみたいに遠目でずっと見続けていた。他の女とそんなデートなら腐るほどした。ただこんな早い時間に送り届けたりせず、遅くまでホテルかどちらかの部屋にしけ込むだけだ。志奈子には、こんな真面目なデートが似合っている。相手は……ちゃんと彼女を大事にしてくれる優しくて真面目な男なのだろう。オレみたいにいきなり押し倒したりして関係を迫ったりしない。出逢ったその日に寝たりしない……
あんなに長い間一緒に居ても、オレは志奈子と出かけたいとかあまり考えなかった。ちょっとした買い物に付き合うと言っても断られるし、彼女もそういうのは好きじゃ無いと思っていた。オレは部屋で志奈子とまったりしているのが好きだった。食事も元々外食が多かったし、幾ら美味しいと言ってもフレンチやイタリアンより志奈子の作った和食の方がよっぽど食べたかったから。家でご飯を食べて、映画も部屋でくつろぎながら一緒にDVDを観るだけでよかったんだ……手を伸ばせばすぐに届く距離、抱きたくなったらベッドに誘うと受け入れてくれる。不安になればなるほど抱けば答えが出る様な気がしていた……志奈子はオレを嫌っていないってこと、一番雄弁に語ってくれていたから。一緒に住んでいたから外でわざわざ逢う必要もなく、同じ部屋でカラダを重ねて、一緒に暮らし、全てを共有していると思っていたあの頃。
だけど……幾ら言い訳しても、オレは志奈子に何一つ思い出らしいモノは残してやれなかった。残ったのはセックスの快楽と苦痛だけ……最後までセフレだと思わせたまま別れたのだから。
だけど、あいつの車から降りてくる時の志奈子は、いつだって笑顔を向けていた。
それが全ての様な気がしていた。

日曜の深夜、志奈子の部屋の灯りが消えるのを確認して車をだした。結局……丸二日の間、オレは一言も声をかけられなかった。なんの為に何時間もかけてあの場所に行ったんだろう……以前とは全く違う、先生らしい穏やかな明るい志奈子の笑顔を見る為?けれどもあれは全部……あの男がさせたものなのか?恋愛しないと言っていた志奈子が信用できる男なのだろう……教師としてやっていくこれからを支えてくれる人なんだろう。
だけど……期待していた。志奈子が今でも誰とも付き合わず、独りで頑張っていることを。
もし、志奈子が誰も受け入れずに一生を過ごすならオレは耐えることが出来た。告白して、それでも受け入れてもらえなければきっぱりと諦めて元の生活に戻り、オレも志奈子を思って一生過ごしてみてもいい。何度か、彼女がOKしてくれるまで通い続けてもいい。
「なあ、オレともう一度やり直せないのか??」
最初から、セフレからじゃなく、告白してデートするところからはじめる普通の恋愛だったらどうなんだ?オレじゃやっぱりダメなのか?
「なんだよ、男作りやがって……」
帰りの車の中で一人愚痴る。あれは嘘だったんだ?もう誰ともと言ったあの言葉は……
「くそっ……」
他に女は幾らでも居る。帰ったら女呼び出して、速攻でハメて……
「もう……無理……志奈子じゃないと……」
わかっていた。オレにとって、志奈子の代わりなんて居ないこと。何度も気付かされた……
「どうすれば、いいんだよ……」
部屋に戻りソレまで耐えていた込み上げてくる息苦しさに胸を掻きむしった。
「おまえしか欲しくないのに……どうすればいいんだ?」
幾ら振り払っても、あの男に抱かれながら艶っぽく喘ぐ志奈子の顔、艶めかしく動く下肢、仰け反る姿が鮮明に浮かび上がってくる。
オレを見るんだ……さっき見た笑顔のままで。そのカラダを見せつけるんだ……他の男の上で淫靡に腰を振るう志奈子、オレを包んだ様に他の男を呑み込んでナカを締め上げるその姿を。
「くそっ……くそっ……」
幾ら扱きあげても、志奈子のナカを想像しても快感は込み上げてこない。他の女を想像したら吐き気すら込み上げてくる始末。オレ自身を扱き上げながら、必死になって断ち切ろうとしていた。だけど……
「志奈子が……オレ以外の……オレだけだと……言ったのに!」
1年以上待ってようやくたどり着けてコレだ……もっと早く志奈子の所へ押しかけて、無理矢理にでもそのカラダを抱けば良かったのか?
違う……それならまた同じ事の繰り返しだ。オレはもう迷わない、間違わないと決めたのに!
だけど、志奈子が他の男と……手に入らないもの、それがどんなものか今まで嫌と言うほど知らされてきた。
幼い頃から可愛いと構われて育ったけど、その女達も結局は父を選びその父とすらも長続きしなかった。与えられる度、それは継続しないモノだと何度も思い知らされた。欲しいと手を伸ばしても、最後まで手に入らないことも。今まで本当に自分で所有出来たモノなんて何一つ無かった。だから諦めてずっと、手元にある温もりを手にして満足してきた。
何度抱いても、結局志奈子も手に入らなかった。彼女が望んだから……だから手放した。誰のモノにもならない。そう言ったから離れたんだ!なのに!!誰かのモノになるのなら、話は違う。
「あれは……オレのだ。オレだけの……」
そう思っていたのはオレだけで、志奈子が選んだのは……あの男。
「なら……だったら……オレも、約束破っても……いいよな?」
最後に……誰よりも惨めに壊れる必要があった。そうしないとオレは……何度も志奈子を求めて狂ってしまう。

オレは、再びあの街に向かう準備をした。本格的に……



〜引っ越し〜
「なあ、おまえ引っ越さないか?」
数日空けて志奈子の部屋に行くと、既に隣には違う表札がかかっていた。
もう次のヤツが入ったんだ……聞けばガタイのいい男だという。ダメだ、もうココには置いておきたくない。志奈子だって抱かれるのを避けているというか怖がっている。たぶん声を聞かれるのを恐れているんだろう。だったら今からオレの部屋に来るかと誘ったけれどもソレも嫌だと首を振る。
じゃあ何処でなら抱いていいんだ?今更……ホテルか?いや、そこにだってコイツは一緒に行こうとはしないだろう。
思わず金は全部俺が出すから引っ越せと言っていた。だけどいくら言っても『放っておいて』の一点張りだ。
前から気になってたんだ……志奈子って自分の事ちゃんとするから、イイトコのお嬢さんだと思いこんでたけれども、部屋はいつだってオンボロで、オレが親だったら絶対に女の子一人住まわせたりしない場所だ。
「志奈子、おまえ……親とうまくいってないのか?」
その問いかけに思わずムッとした顔を見せる。珍しい……志奈子にしては随分と感情的な表情だ。
どうでもいいという志奈子から聞き出したのは、意外な事実だった。
一人暮らしをしているのは、母親が再婚したからで、こんなオンボロアパーに住んでいても心配ひとつしないのだという。それどころか、昔はもっと酷いところに住んでいたらしい。
育児放棄……コイツもオレと同じで、親の愛情を受けてこなかったという。男好きな母親に似たくなかったと言う。
「おまえは、似てないだろ?オレが無理言わなかったら男なんて相手してない。ちゃんと身の回りのことも、食事も自分でやってるじゃないか」
何処が似てるんだ?志奈子は凄くちゃんとしている。オレがちょっかい出さなければ男になんて振り向きもしないはずの女だった。
「……本当に?そう思う?」
「ああ」
オレが大きく頷いた時、志奈子が笑った……とても嬉しそうに、笑ったんだ。
思わずその顔に見とれてしまい、オレはしばらくの間ぼーっとしていた。
そっか、志奈子も母親に似ることを恐れてたんだ……だから、親父の事を見た時も、親は親だと言ってくれたんだ。時々『淫乱』とか『いやらしいカラダ』とか、そう言う言葉で煽ってるつもりが、その言葉で抵抗を止めてしまうのはそのせいだったんだ……
母親みたいになりたくない、同じだったんだ……親父みたいになりたくないオレと。
引っ越しの事、お金を出してもらっている義理の父親に言い出しにくいのは判った。だけどこんな所に志奈子を一日でも置いておけなかった。

「親父、頼みがあるんだけど」
オレは恥を忍んで親父に保証人と敷金礼金の前借りを申し込んだ。
「今の部屋はどうするつもりだ?」
「もうしばらくはそこも借りていたい。荷物をその部屋に移すつもりはないんだ。落ち着いたら家に荷物戻そうと思ってる」
「なんだ、それ?一緒に住んでくれない女の為に部屋を借りるのか?おまえ……馬鹿か?」
「くっ……しょうがないだろ?そいつは……色々あって、そういうの絶対に受け入れられないんだ。だけど今の所にも置いておけないし……そのうち、そっちの部屋に越すつもりだけど、時々は家に帰ると思う」
「……それでその借金の返済方法は?」
「バイトするよ……親父がイイって言うなら店で働かせて欲しい。そこから月々差し引いてくれ」
「それは……ホストとしてか?それとも今までみたいな手伝いか?」
「親父はどっちがいいんだよ?」
「おまえは、店にも出てないのに常連から人気があるからな……雑誌モデルが店に居たら、こっちは宣伝になる。出来ればホストとして働いてもらいたい。もちろんきっちり報酬は払う、その代わりいい加減なコトは出来ないぞ?」
「わかってる、だけど学業は優先させてもらうからな」
「こっちも、身内と言うだけで甘い顔は出来ないから、キツイシフト組むけどいいな?」
「ああ、わかった……」
週末はべったり店に入ることになりそうだった。撮影のバイトは今のところ無いけれども、また復活したら平日に詰めることになるだろう。そうすると、思ったよりも志奈子の部屋に通えなくなるからこのまま辞められるものならモデルの方は辞めておこうと考えた。
早速、オレは目を付けておいた部屋の契約を取り付けた。場所的には今の部屋とは大学を挟んで反対側にある住宅地になる。防音完備の部屋で、音大生とかが多く住む部屋だという。
オレは親父に車を借りて志奈子をその部屋に連れて行った。
まるで新婚さんのように室内を見回し、家賃高そうだという割にはこの部屋は気にいったようだ。
「じゃあここで決まりだな」
無理だと言う志奈子に、オレも住んで家賃を払うからと言った途端顔色が変わった。どうしたんだ?今までもオレはしょっちゅう出入りしてたんだから、前とちっとも変わらないぞ?オレは全然構わないというのに。
「わたしが構うわよっ!」
凄い形相で志奈子がオレを怒鳴りつけた。だけどオレだってもう後には引けない。親父に金も借りて、保証人になってもらって、この部屋の契約はもう済んでいるのだから。契約書を見せて、家賃はオレが払うから今まで通り通わせて欲しいと……この部屋はあくまでも志奈子の部屋で、オレは前の部屋をそのままにして平日しか来ないからと約束した。どうせ店に出始めたら週末なんて丸々取られてしまうだろうから。
ほぼ無理矢理だったけど、今まで通りという言葉と、志奈子の勉強を優先すると言うことで話しは付いた。
だけど、志奈子の実家に引っ越しの許可と挨拶しに行こうと言った途端、志奈子は子供の様に駄々を捏ねた。
「いや……いやよ、行かない!」
狂った様に頭を振り、車に行こうと手を引くオレを振り払った。無理と……男と住むんだったら代わりに抱かせて養ってもらえと言う母親……だから、志奈子は自立にこだわったのか?恋愛もしないと、自分一人で生きていくのだと……
「行かない、あの女とは会いたくない!もう何年も会ってないもの!向こうだって会いたくないはずよ、今まで構われたこともない……気にされたこともなかった、だから、」
志奈子の悲鳴の様な言葉だった。自分は愛されていないと、そう思わざるを得ない育ち方をしてきた彼女は、母親に会うことを怖がっていた。逢いたくないんじゃない、逢ってまた拒絶されるのが怖いんだ。
オレにはその気持ちがよく判った。拒絶されるのが怖いから執着しない。他にもあるのだと思いこんで、すぐに手放してきた……オレと同じだったから。
「志奈子、わかったから、行かないから!落ち着けよ!」
目一杯抱きしめて必死でそう叫んでいた。それほど母親と会いたくないなんて……彼女の今までの苦悩が見える様だった。子供をあやす様にその背中を必死でさすり上げると、最初は抵抗していたものの徐々に落ち着きを取り戻していった。
落ち着いた志奈子はそんな自分を恥じた。たしかに志奈子らしくなかった……だけど、この恐がりな女の子が本当の彼女なんじゃないだろうか?オレは腕の中で泣きじゃくる志奈子を愛しいと感じていた。
その後彼女はこの部屋に越してくることを了承してくれて、オレが家賃を払う代わりに彼女が食費を出す事に決めた。どうせ志奈子が料理するのだからそれでいい。
ようやく、手元に置ける……そんな気がしていた。男として、自分が働いた金で家賃を払って一緒に住むっていうのは、安心する居場所が出来た様な気がしていた。


「あっ……やぁ……甲斐くん、こんなとこで……」
食事が終わった後、後片付けする志奈子に手を出すと最初は嫌がる。だけど最後にはオレを受け入れてくれる。
引っ越してから、そんな日々が続いていた。居間に置いたクッションに座ってテレビやDVDを見ている時でも、そのまま押し倒してしまう。平日しか居られないから、翌朝の事も考えて何度も求める訳にはいかないけれども。たまにと言いながらも、オレは平日のほとんどその部屋に帰っていった。前のアパートの荷物も翌月には休みの日の午前中に店の連中に手伝ってもらって実家に運んでおいた。そのアパートも次の借り手があるまでは表札を外さないという約束を大家としてあるが、志奈子が自分の意志であの部屋を訪ねてくることはまず無いだろうから、もう必要のない部屋ってわけだ。そして少しづつ荷物を志奈子の部屋に運び込む。もう今までの様な通いでなく、毎晩志奈子の居る部屋に戻り、彼女の作ったご飯を食べて、夜には志奈子を抱く。そんな日々が始まった……オレは、時間と場所を選ばず、抱ける時に抱けるだけ抱いて、彼女のカラダを腕の中に抱え込んで眠る毎日だった。
前のアパートみたいに声が気になることもない。さすがに玄関や窓際は向こう側に聞こえそうだけど、そのことを口にして抱いたらやたらと恥ずかしがって締め付けてくるのがたまらなかった。
まるで一緒に住んでいる恋人同士の様に、オレたちは抱き合いセックスした。これのどこがセフレなんだ?生活も共用して衣食を共にする、オレ的には同棲だと思っていた。だけど戸惑う志奈子は時々的はずれなことを口にして、オレに二人の関係はセフレだと強調しているようだった。
主賓室は主に志奈子が使い、オレは防音室を使うことにした。家具は持ち込まなかった代わりに、客用の布団を一組だけ実家から持ち込んでいた。その布団を使うことはほとんど無く、志奈子の狭いシングルベッドで眠ることが多かった。ベッドの上もいいけれども、せっかくいい部屋に越してきたんだからと、広い居間や台所でヤルのも気持ちよかった。志奈子は何処でも『イヤ』と恥じらいながらもオレを受け入れてくれる。口では素直じゃない彼女だから、それが答えの全てだと思っていた。

「先月分、半分だったけど結構あるよ」
引っ越す前から店に出だしたオレは、顔なじみもあって一気に指名が増えた。今まではフリーでサポートに入ってただけだから、指名できると判ってからは土日も目一杯……週末はとてもじゃないけれども志奈子のいる部屋には帰れなかった。ユウさんや他のホスト仲間に色々教わって、仕事用とは別にケータイを購入して、こまめに顧客にメールしたり、たまには電話したりして営業しなければ客は続かないと教わった。
「疑似恋愛だからね。寝なくても、キスしなくても、恋愛してる様なドキドキ感を女性に味あわせてあげなきゃね」
ユウさんの言う様にスマートには出来なかったけれども、志奈子と二人暮らしていく為にはそこそこの収入が欲しかった。しばらくはモデルの収入が期待出来ない分、こっちで頑張るしかなかった。だから、平日に志奈子と一緒にいてもメールはすぐに返さないといけなかったし、たまにかかってくる電話にも出なくてはならなかった。生憎志奈子はそんなことを気にする方じゃないので、女友達とまた話してるといった風情でまったくの無関心。ちょっとぐらいは妬いて欲しくて、わざと目の前で甘い声で話してみたりもするのだけれど、全く反応無かった。
実際、今は他の誰とも付き合っていなかった。週末は店に出ていたし、平日はここに帰る。撮影のバイトもどうしても断れないものにたまに出掛けるだけ。いくら仕事の一環だからと言っても、メールや携帯のチェックするだけで目一杯、時々我が儘な客から夜中に迎えに来てと呼び出されれば、たとえ平日でも行くしかなかった事もあった。改めて親父やユウさんがやってた仕事の大変さを実感していた。楽な仕事なんて無いんだ。結果を出そうと思えば努力するしかない。
だけど、夜中に出て行こうが、週末帰らなくても、客の女と電話で話していても、志奈子は何も言わなかった。まるで何事も無かった様な顔をして側にいた。
セフレだから?オレが誰と寝ようと平気なのか?そんなにオレに興味持ってないのだろうか?
考え始めると怖くて、オレはどうすればもっと志奈子を手に入れられるのかを必死で考えていた。

手始めに購入したのはダブルベッドだった。
いいかげん志奈子のシングルはキツかったし、彼女が生理の間はセックスできない上に一緒に寝るのを拒否されるから。その間オレは窓のない防音部屋に敷いた客用布団に丸まって寝るしかないのだ。前の部屋を解約していないことにしていたので、ベッドや家具は一切運んで来れなかったから、オレの使っていたベッドは実家にある。あっちの方がまだマシだったけれども、志奈子の安物のベッドは以前から酷く軋み、その音がやたら気になっていた。独りで眠るには何の問題も無いはずのベッドでも、二人で寝るには狭すぎるし、激しいセックスには耐えられそうになかった。だからどうしても思いっきりやりたい時はリビングの床の上で盛っていた。けれども、いくらクッションを使っても床は堅いし、朝までそのままで眠ってしまい何度風邪をひきかけたことか。
オレは手にした給料を手に、平日の午後講義をさぼってインテリアショップに出向いた。ちょっとばかり高くても丈夫で、マットレスのしっかりしたダブルベッドを注文した。これをあの防音の部屋に入れれば……いつでも志奈子と思う存分出来ると考えた。
オレが居る午前中に届けられたソレをみて、志奈子は随分と驚いている様だった。本気でオレがこの部屋に越して来ることを考えてないんだろう。もしくはそれを拒否しているのだろうか?
オレはベッドを購入してからはどんな手を使ってでも志奈子を部屋に引きずり込み、ベッドの上で思う存分志奈子を可愛がった後、朝まで抱いて眠った。こうしてる間だけは志奈子が自分のモノになった様な気がして安心できた。
出来れば毎晩そうしたかった。だけど、週末は親父との約束通り店の手伝いじゃなくて仕事があったから。帰りは遅くなるし、酒や女の香水の臭いをさせたままで戻って、これ以上志奈子に嫌われたくなかった。だから店の帰りは実家に戻ってシャワーを浴びたり、店でそのまま泊まったりを繰り返していた。

「カイ、今日のソレどうすんの?」
「ああ、これね……」
カイというのはそのままオレの源氏名になった。そして今日はオレの誕生日ということで、平日なのに無理して店に出る羽目になっていた。イベントはやらなかったけれども、結構集まったプレゼントの山に驚いた。ユウさんや売れっ子ホストになるとイベントも盛大に行われるし、プレゼントの量も質も半端じゃない。コレがクリスマスやバレンタインになるともっと凄いらしい。前後はパーティ&イベントで客寄せをやるし、夜通しなんてザラになってしまう。オレにとって誕生日とかクリスマスはどうでもいい日だし、志奈子もイベントなんて気にしない女だからいいけれども。女にとって大事な日が全て店で他の女と一緒に居るなんて、いくら仕事だからといっても、彼女がいてホストやるのって無理があるよな?
「マサさんは……カノジョいるのにイベント一緒にいなくて平気なの?」
一緒に住んでいるカノジョがいると聞いているマサさんに聞いてみた。
「まあね、居てやりたいけど仕方ないでしょ?あいつも、オレがこうやって食わしてるの判ってるから文句は言わないよ。一緒に暮らしてるからその分で補うしかないなぁ。こっちが営業用だって知ってるしね」
「そうなんだ……」
「なに?カイは本命のカノジョ居るの?」
「……一緒に住んでる女が一人」
「へえ、それタカさん知ってるの?」
「知ってる」
驚きつつも彼はオレの頭をポンポンと叩くと一言『大事にしてやれよな』と。
大事にする……家賃出して、一緒に住んで、毎日セックスして、これ以上どう大事にすればいいんだ?志奈子は嫌な顔ひとつせず、家事の全部を引き受けてくれている。あいつの作る料理は上手いから外で食べて帰りたくないほどだ。だけど、毎日帰ってくると思ってないらしく、ちょっと時間が過ぎれば一緒に食べることもない。敢えて連絡したりもしないし……
これって同棲だよな?セフレとは違うよな?そう思いたいのに、志奈子の態度は相変わらずだった。甘えてこない、頼ってこない……ただ長く一緒に居るだけ。誰に遠慮することなくセックス出来るだけ。
デートだってした事がないんじゃないだろうか?一緒に住んでいて今更だったし、イベントは店に出るから一緒にいたこともない。年末年始だってカウントダウンだとかなんだとかでオールで店のパーティだし……祝えるのは志奈子の誕生日ぐらい?だけど、ちゃんとした日付も聞いてなかった。1年以上暮らしていて今更聞けなくて……

大学4年になると、そろそろ店の仕事を減らさないと身体が持たなくなってきた。就職活動もやりながらだったから、時間が取れない分短時間で済むモデルの仕事だけをやるようにしていた。家賃もこのまま無理しなければ働かなくてもしばらくの分は溜められたと思う。店の仕事を頑張った分だけ給料が出たので、思わず前から欲しかった自分の車を購入した。今までは親父が客からもらった派手な車を借りて乗っていたけれども、あれはあんまり派手すぎて好きじゃない。よく走るから気持ちいいけれども、志奈子がああいった派手な車を嫌うだろうから……小さくて中古だったけれども自分の車を手に入れた。あんまりにもオンボロで、客で来る様な女は何もかもブランドで判別するから、オレがこんな車に乗ってると知ったら驚くかそれとも親父の客達のように『買ってあげる』といって差し出して来そうだけど。もちろんその代価がなんだか判っているからもらったりはしない。ただ、志奈子なら、何も言わずこの車に乗ってくれそうな気がしてた。
だけど、この車でのドライブに誘ったところでどうなる?恋愛をする気のない志奈子にそれは重荷にしかならないんじゃないかと考えると誘えなかった。それに、土日は相変わらず潰れてるし、今年は志奈子も教育実習とか教員試験とかで忙しいと言っていた。オレ自身も就職活動頑張らないとヤバかったし。
せっかく買った車だけれども、普段乗ることはあまり無くて、客との営業に使う時はしっかり親父の車借りていた。

「撮影はいります〜スタンバって」
「甲斐くん、そこね。朱理と綾乃の間で。そう、その位置ね」
今日は久々にモデルの仕事だった。
「シャンパン甲斐くんに持たせて、綾乃ちゃん引き寄せて……そう、朱理ちゃんはその横で背中合わせてそっぽ向く感じね……OK」
今日は雑誌のクリスマス特集かなんかで、オレはタキシードを着崩したポーズ、朱理ともう一人のモデルも華やかなキャミソールドレスを身に付けている。
こんな服……志奈子に着せたらどうだろう?
朱理が着ていたのはカラダのラインがフィットしたもので、余程スタイルが良くなかったら着られないだろう。だけどこの綾乃が着てるワンピースなら……
「甲斐くん、終わったよ?」
「えっ?あっ、ごめん!」
綾乃が、意味ありげにカラダを寄せてきたので思わず身を引いた瞬間、持っていたシャンパングラスを揺らしてしまった。
「やだっ、こぼしちゃったの?」
急ぎスタイリストのサトさんが飛んできた。
「大丈夫?ワインじゃなくて良かったけど……これは買い取り決定ね」
「えー!わたしが?」
綾乃がムッとした顔でオレの方を見てきた。
「いや……オレが買い取るよ」
「ほんと?やったー!」
なんで綾乃が喜ぶんだ?
「サトさん、それってもう少しぽっちゃりした子でも着れる?サトさんぐらいの体型の子なんだけど」
「ええ、フリーサイズだし、バストが少々ある子でも着れるかな?」
「わたしにくれるんじゃないの?」
誰がそんなこと言った?これだから何でも自分がしてもらえると思ってる図々しい女は嫌いなんだ。さっきも服見てただけなのに、自分に気があるとか思ってんだろ、この女は。
「あら綾乃、あなたが買い取るの?」
反対側に居た朱理が綾乃に皮肉っぽく話しかけていた。
「いらないわよ、こんな子供っぽいの!」
ケバい顔した綾乃にはちょっと似合ってないなと思っていた。こういうのはちょっとぽっちゃりして色白で……スタイリストのサトさんとか志奈子みたいな子がよく似合うはずなんだ。
「あげる相手がいるみたいね、史仁」
「聞いてるんだろ、どうせ」
「あの人から相談持ちかけられるのって、あなたの話題ぐらいだからね」
「ちっ……」
オレは舌打ちする。この同い年の女がますますキレイになって落ち着いてきたのはオレの親父と……うまくいってるからなのは間違いないだろうが、少々複雑だ。女としてでなく、朱理はダチとして気に入ってたんだ。
「サトさんみたいなタイプなの?まあ、彼女も相手は有名人だったりするからね、ああいうタイプってやっぱり安らぐものね」
そういう彼女はスタイリストのサトさんがお気に入りで、一緒の仕事の時はべったりしてる。オフでも時々一緒に買い物したりしてるらしい。その彼女の彼氏が某有名アイドルグループのリーダーだって知ったのはずいぶん後だけど。
「じゃあ、これクリーニングしてから渡そうか?」
「お願いします」

数日後、サトさんから手渡されたソレはちゃんとショップの袋に入っていた。彼女が気遣ってくれたらしい。
「カノジョにでもあげるんでしょ?だからね」
にっこり微笑まれてちょっといたたまれなくなった。
志奈子に……身につける様なものプレゼントするのは初めてだった。誕生日でもクリスマスでもない。何でもないのに渡すには気が引けて、オレは仏頂面のまんま、袋を押しつける様にして志奈子に手渡すしかなかった。
気に入らなかったんだろうかと考えた。渡した時も嬉しそうにはしなかった……迷惑だったのか?それとも撮影で使った服だと正直に言ったからか?それなら代わりに何か探した方がいいのだろうか?志奈子が欲しがりそうなもの……なんだ、それは??今までの女は、プレゼントなんて何が欲しいかなんて聞かなくても強請ってくる女ばかりだった。だけど志奈子は『何かいるものあるか?』と聞くと『洗剤が切れてたわ』とか言うし……あいつに物欲なんかあるのかって位だ。オシャレな服も着ないし、下着だって……色気の無いのばっかり。それでも飽きないのは何でだろう?まあ、身体が良ければ着てるものなんて関係ないけどな。すぐに脱がすし……
一度ぐらいその服を着てるところが見たかった。
だけど、そのワンピースを志奈子が着ることは別れる最後の日まで無かった……
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