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社会人編

42
〜甲斐・7〜

「とにかく、あんたは許せない!」
朱理の目が据わっていた……かなりの酒の量で、こいつがここまで酔っぱらうのは見たことがなかった。一緒にいるのが身内みたいなもんだから気を許してるにしたって酷すぎる。おしぼりは飛んでこなくなったけれども、オレは胸ぐらを掴まれたまんまだ。
「水嶋さん……コレ、あんたの身内でしょ?何とかしてくださいよ」
「ん?お前が悪いんだろ。呼び出してもなかなか来ないからって、オレはしょっちゅう朱理姫のその愚痴聞かされてんの。それに……そのうちおまえも身内になるんでしょうが?」
「ちょっと待ってくださいよ……それって」
こいつが義理の母親ってことか?参ったな……それは勘弁して欲しい。というか、朱理の親とか認めないだろ?こっちだって、同い年の母親なんて止めて欲しい。
「史仁、聞いてるの?あの子はね……わたしに媚びたりしてこない、人に何か求めてる他の子たちとは全然違ったのよ!」
それは知ってる……オレが一番最初に志奈子の気に入った所だった。
「遠慮がちで、こっちが何かしてあげたくなるほど控えめな子だったのに……それがさ、オシャレもまともにしたこと無い子が泣きそうな顔してどうしたらいいか聞いて来た時はどのぐらい驚いたか判る?普段誰にも興味を見せず、自分のことは自分でしますって優等生の志奈子ちゃんが不安そうな顔して見上げてくるのよ?もう、堪んなかったんだからね!お店の中で押し倒してやろうかと思ったぐらい!」
オイ、おまえは女だろ?つまり、オレとおまえは好みが一緒だったってわけか?こいつが男だったら、間違いなく持って行かれてたかもしれない……危ない危ない。
「下着とかね、恥ずかしそうに選ぶんだよ?もう鼻血でるかと思ったわ……でもあの子の肌ってホントに綺麗なのよねぇ。ほっぺもぷにぷにだし、胸もふかふかで」
「なっ、見たのか?!朱理、どこで……」
「ランジェリーショップに決まってるでしょ!デートした時、志奈子ちゃんの下着姿堪能したんでしょ?」
「それは……」
普段一緒に住んでる分、志奈子の下着はどんなのを持ってるかほとんど知っていた。地味でシンプルな白かベージュ、模様もストライプかチェックぐらいだった。それが、あの時……ホテルの部屋に入ると早く繋がりたくて、夢中になって脱がしてしまったからゆっくり味わえなかったけれども、綺麗なレースのキャミソールに下着のセットがあの白い肌に映えて、すごく興奮したのを覚えている。いつも以上に下着を意識している志奈子に判る様、ゆっくりと下着に触れてずらしていった。全部脱がさず途中まで引き下ろした状態で愛撫してやるといつも以上に反応して……感じやすい志奈子が余計に乱れる様は確かに興奮したし堪能させてもらった。
「なによ……史仁、その顔」
「な、なんだよ」
呆れた様な朱理と水嶋さんがオレの顔を覗き込んでいる。
「やっらしい!今思い出してたんじゃないの?志奈子ちゃんのこと」
「史仁、おまえ今……すげえ、恥ずかしい顔してたぞ?」
水嶋さんまでそんなこと……いったいオレはどんな顔してたっていうんだ?
「ち、違う、オレは……」
オレの為に慣れないオシャレをしてくれたあの日の志奈子を思い出していただけで……確かに下着姿どころか、ワンピース姿も、普段していない化粧姿も、それに照れて恥じらう志奈子がいつもと違って凄く素直で可愛く見えた。オレはそんな彼女をずっと……抱いていたかった。側に置いておきたかった。
「そんな顔するぐらいなら……どうして行かせたのよ!」
「朱理……」
胸ぐら掴んだまま顔押しつけて泣くなよ……仮にもこの間まで現役のモデルやってたんだろ?今は私立高校の英語教師やってるらしいけど、それは期間限定だとか言っていた。それが終わったら、氷室コーポレーション系列の会社にはいるか、それともソレ相当の相手と結婚して跡を継ぐか……所詮オレの父親との恋愛もそう続けられるモノでもないと、オレが見たって判る。一番よく判ってるのはこの本人と親父だろうけど。
周りにだれも知った顔が無いだろうなと視線を配る。すぐ近くにコチラを見て何事か話している女性の集団はあったけど、オレと朱理の顔を雑誌で見知ってるからだろう。とにかくこいつと居たら目立つから嫌なんだ。
「このままでいいの?史仁!」
目が据わったままオレを睨み上げてくる。
「オレは……」
まだどうしていいか判らないままだった。
何度も、逃げる志奈子を追いかけて手に入れた。そして最後まで逃げられたんだ。
もしかしたら、彼女は……オレのことをずっと思ってくれていたんじゃないだろうかとか、あれだけ抱かれることに慣れて喜んでくれるなら、嫌がっても追いかけて手に入れなおせばいいと、根拠のない自信と勢いでやれたのは2度、いや3度までだ。自分の気持ちがカラダだけじゃないと気が付いた時にはもう遅くって、志奈子が選んだ未来には俺の姿は無く、教師になるのを止めろとも言えなくて、結局オレは何も言わずに彼女を送り出したのだから。


〜執着〜
二度目に逃げられたことに気が付いたのは、何度も志奈子を抱いて、これでまた手に入れたと安心しきった頃だった。
志奈子と逢う手段と言えば、駅で志奈子が出てくるのを待ったり、再度入手したメールや電話で部屋に呼び出すばかりだった。週末は講義とモデルのバイトで潰れるから、もっぱら平日の夕方ばかりで、翌日朝早くから講義のある志奈子はゆっくり出来なかっただろう。それに……あいつはオレに彼女がいると思っている。
志奈子を見つけた時は、確かに他の女と付き合っていた。だけどその女とは、志奈子を抱いてる時部屋に来たがったので、来るなと言った時点で切れられて別れた。その後は志奈子が捕まらなくてヒマを持て余していた時、頭数あわせに強引に参加させれた合コンで向こうから誘ってきた女と寝た後付き合ったぐらいだった。オレ的には付き合ってるつもりはまったくなかったけれども、どうやら彼女的には寝たらそうなるコトらしく、メールやケータイが煩かった。何度か、志奈子とヤッてる最中にかかってきて、その度に彼女がびくりとカラダを反応させるのがおもしろくて、一度繋がったままケータイに出たことがあった。その時の志奈子はすごくって……必死で声を抑えて、オレの動きにあわせて声や音を立てない様、感じない様必死で……その分オレをぎゅうぎゅうに締め付けてきたんだ。
相変わらず志奈子とのセックスは堪らなくよかった……
場所も時間も、昔の様に制限はなくなったので、嫌そうにする志奈子の顔がなかなか見れなくなったのが残念だけれども、玄関先や台所など変わった場所で繋がるとやたらオレも興奮したが、彼女の反応もすごかった。相変わらず壁際に追いつめられるのが好きだし?イキまくった後はもうぐったりで、そんな彼女を手に入れたことが嬉しくてたまらなかった。
相変わらず遠慮がちな彼女……他の女は1日目でも、もっと図々しいぞ?だけど、絶対にオレの部屋に泊まろうとしない志奈子の態度で気が付けば良かった。オレの部屋のモノには一切手を付けようとしないし、食事だって一緒に取ろうともしない。夜遅くまで攻め立てた日なんかは泊まっていけばいいのに夜中でも帰ろうとする。それは全部オレに彼女がいるからと気遣っていたと判ったのはずっと後のことだ。そんなことも知らず、オレは志奈子相手に加減が出来なくて、平日でも構わずに明け方近くまで突き上げ続けたこともある。志奈子もイキすぎたせいかカラダが震えて力が入らない為に酷く辛そうだ。なのに……そんなカラダで夜中に帰るのはヤバいだろうと、その度にタクシーに乗せて帰したけれど、相変わらず家まで送らせてくれなかった。きっと自分の住んでるアパートを見られるのが嫌なんだろうと、強く聞くことは遠慮したが。予想は付いたさ、相変わらずな部屋に住んでいるんだろうなって……だからこの部屋でオレを待てばいいと、合い鍵を渡そうともしたが、受け取ってはくれなかった。あの時は、ぐったりとしているところに女が部屋に来ると言い出すから、そのまま休ませてやろうと思ったのに……仕方なくオレはタクシー代だけ渡して一緒に部屋を出たけれども、一人で帰すのが不安なほど、気怠げな志奈子は抱きしめて離したくないぐらい頼りなげで、艶っぽかったんだ。
結局、その日を境に志奈子の姿は全く見かけなくなった。幾ら駅で待っていても彼女が現れることはなく、ケータイもメールも繋がらないのは前回と同じだった……
またかと思いながらも、仕方なく適当に女を呼び出したり、付き合ってる女のところに行ったりもしたが、もう他の女では満足出来なかった。抱きたいのは他の女じゃない……志奈子だから抱きたいんだと。
オレは志奈子に飢えていた。今までは、志奈子が捕まらない時は適当に他の女で処理していたけれども、全く志奈子が捕まらないとなるとそう言うわけにはいかなかった。
どういうコトだ?また……逃げられたのか?あんなに、抱かれておきながら……狂うほど感じて、イキすぎて乱れて、今度こそオレ無しではいられなくなったと思ったのに?どうすれば毎日、好きなだけ抱けるだろうかと、考えていた矢先のことだった。

大学名と学部は判っていた。前に志奈子が眠ってる間に蹴飛ばした彼女のカバンから学生証が出てきたのを見ていたし、取ってる講義の時間もだいたい把握していた。住んでるのも、オレのアパートから微妙に近いことも。
前は男としてのプライドが邪魔をして、探し出してまで志奈子との関係を戻す事が出来なかった。こっちは切られた身だったし、それにあの頃はまだ余裕があった。他に自分を満足させてくれる女が居ると信じていたから。だけど今は……もう、志奈子以外考えられなくなっていた。どうにかして、あのカラダを手に入れなければ気が済まなかった。
オレは志奈子が通う大学の学部があるキャンパスを張り続けた。正門と裏門を交互に待ち伏せて、裏門から出てきた彼女の後をそっと付けて、住んでるアパートの部屋を確認する。
やっぱり……予想以上にぼろいというか、ヤバくないか?ここ……前のアパートも相当だったけど、こんなところに住んでるのを彼女の両親は何とも言わないのだろうか?
住んでる場所もおおよその講義のコマ割も手に入れた。あとは……今までに無い手を使うしかない。

「ねえ、ユウさん。なかなか落とせない女を落とす時ってさ、どうするの?」
こういう時の相談の持って行き所は、親父の店、アンティウムのナンバーワンホストのユウさんだった。ソフトで貴公子然とした彼に落とせない女は居ないと言われている。男をしらない処女からへそ曲がりの女経営者まで、その心の襞を優しく開いて中に入り込む技は親父に言わせても天性のホストだと言わしめている。親父はどちらかというとオレ様、キングタイプだったから、真似しようにも出来ないらしいけど。
ちょこちょこバイトで入っていたオレを、入店当初から可愛がってくれる優しいアニキみたいな人だった。頭も良くて、某国立T大を出たという噂で……それがどうしてこんな仕事をしてるのか、オレにはよく判らないけれども。
「優しくしてあげるのが一番いいんだけれどもね。相手の望む自分になってあげることかな?たとえそれが彼女を叱ったりする事でもね。でも、その為にはまず相手を知らなくちゃいけないよ」
相手を知ると言っても、いつだって無表情、感情を顔に出すのは抱いてる時だけの志奈子。口数少なくあまり自分の事を話したがらない。何が欲しくて、何を求めているかなんて聞いても答えないだろう。オレも自分のことはあまり言いたくない方だから、余計に聞こうとしないし……それに、どうやれば相手の望む自分になれるって言うんだ?志奈子は誰にも、何も望んでいないというのに。知っているのは将来の夢と、一生恋愛も結婚もしないと言うことだけだ。
「けど……あいつ、あんまり笑わないし、自分のこともしゃべらないんだ……もっと効果的なのない?」
「その子は笑わないんじゃなくて笑えないのかな?それがどうしてなのか、知らなきゃ始まらないんじゃない?」
「それは……」
たしかに、笑わないと言うより……そうかもしれない。志奈子の無表情さ、誰にも何も期待しないと言うか求めてこない態度。その全てになにか理由があるのだろうか?
「ユウさん、予約の荒田様がいらっしゃいました」
「今行きます。史仁くん、急がば回れだよ。オーナー……タカさんと同じコトしてちゃだめだからね」
「なっ……」
オレは親父と同じつもりはなかった。だけど……優雅な立ち振る舞いで控え室を出て行く彼の後ろ姿を見送りながら、ユウさんが言うのなら図星なのだろうと反論するのを止めてソファに身体を沈めた。
「史仁くん、イイモノあげよっか」
「泉さん?」
それは最近入ってきたホストだった。オレがオーナーの息子だと判るとやたら話しかけてくる、ちょっとうざいヤツだけど。
「アソコに塗り込んでとろとろにして、少し飲ませちゃえば素直になるよ?大丈夫、安全なやつだから」
「いいよ、そんなの……」
「ユウさんの言ってること実践してたら時間かかるでしょ?だったらさ、使いなよ。オレもこの間試したけど、すごかったよ?普段恥ずかしがって何も言わない大人しい子がすげえおねだりしまくってさ。一旦さらけ出すと女ってもう逃げられないだろ?その後もずっと仲良くしてるんだよ。だから、ちょっとだけ試してみなよ」
そう言って手の中にその小瓶を押し込んできた。こんなもので?けれどもし、志奈子がオレとのセックスをやめると言ったら……その時これを使えば、もしかしたら彼女の本音が聞けて、その後も続けられるかもしれない。
オレはソレをポケットに押し込んで店の裏口から出た。
これを使ったら……オレは密かに期待して駆けだした。後で思えば、ユウさんの言ってることの方が正しくて、遠いようで近道だったというのに。

「な、なんで?」
大学の正門前で待ち伏せたオレを見て、志奈子は怯えた表情を隠さなかった。
「学生証みて大学はわかってたからな。俺から逃げられるとでも思ってたのか?」
周りの視線を気にしてか、志奈子はそれ以上反論もしなかった。そのままオレの方を一切見ずに俯いたままさっさと歩き出してしまった。
たしかに……ちょっと目立ちすぎたかも知れない。ひそひそと女子大生達の囁き声が聞こえる。また……志奈子が気にしてる言葉の羅列が始まっている。
だけど逃げることはないだろ?いきなり駅にも姿を見せないし、メールも携帯も拒否されたら、避けられてる理由を聞くことすらできない。
その腕を掴むと、離してとあからさまに拒否の態度……再び周りの視線が一気に集まった。
「逃げても無駄だ」
ざわつく周囲を無視して、オレはイラつく気持ちを無理矢理笑顔にして耳元で小さく脅す様にそう告げた。こんな言い方するつもりはなかったのに、志奈子の逃げ腰な態度を見ていたら腹が立ってしょうがなかった。
「志奈子の部屋に行こうか?」
肩を抱き、いかにも喧嘩していた恋人同士の様に振る舞いながら、彼女のカラダを逃げられない様がっちりと拘束して歩き始めた。
この苛立ちは何だろう?怯える様な表情で志奈子がオレを見ている。オレは今笑いかけるどころか軽口を叩く余裕すらなくしていた。
そんなに、迷惑なのか?オレの事。
ポケットには例の小瓶が入っていた。これを使うことなく、素直に抱かせてくれれば……オレを欲しいと言ってくれればそれでいいんだ。どうしても……どんな手を使ってでも、志奈子を自由に出来る様になりたかった。オレのことを拒否できない様、なんとしても……

ドアの前で躊躇する彼女の手から鍵を奪って部屋の中に入る。何もない……飾り気すらない空間。それが彼女の生き方の様にみえた。恋愛も、オシャレも、生きることすら楽しもうとしない志奈子。いったい何が楽しくて生きてるんだ?まさか、勉強だけが全てだって、いうんじゃないだろう?
とりあえず他の男の気配がないことには安心した。彼女のカラダを他の男が……と想像するだけでも腹立たしい。それなら今のまま洒落っ気も何もなくていい。誰の目にもとまらず、オレだけの志奈子で居てくれればいいのだから……
オレはいつもの様にすぐに彼女を押し倒したりせず、必死で平常心と冷静さを装って部屋の中を見回していた。どうせ……泊まるつもりだった。そのことを口にすると、さぞや迷惑と言った顔で拒否してくる。
なんだよ、ダメなのか?だけどオレはもう決めていた。だから志奈子の嫌がる態度を無視して冷蔵庫を覗いた。
あった……唯一彼女の生活の中できちんと揃って居るもの。
そこには作り置きの総菜や、食事の材料などが綺麗に小分けされていた。冷凍室も材料とおぼしきものが使いやすそうに仕切られている。台所も小さいながらも調理道具が揃い、少ない食器がちょこんと棚に並んでいる。部屋の片隅に置いてあるシングルベッドもシーツや布団がきちんと整えてあった。
きちんと食事して、ちゃんと睡眠を取って、しっかり勉強する。彼女の生活は至極シンプルなだけなんだ。そこにオレが入っていいものか……いや、絶対に入り込んでやる。居ないと寂しいと思うほど、オレの存在を無視できなくなる様にしてみせるつもりだった。
彼女が作った煮物らしき総菜を二人で食べて早めの夕食にした。高校時代から一人暮らしをしているだけでなく、もっと幼い頃から料理をしていたらしく、作り置きのおかず以外にも何種類かとみそ汁も手早く作ってくれた。オレはまるで母親が食事の用意をするのを待っている子供のように、大人しくテーブルについて料理する彼女の後ろ姿を見ていた。いつものオレだったらその後ろ姿に欲情して抱きついていただろう。だけど、今日の手順を考えてソレを押しとどめていた。
信じられないほど満足な食事の後、オレはコーヒーを入れてやると言ってインスタント珈琲をカップに注ぎ、彼女の分にそっとその例の小瓶の液体を少量たらした。
今度こそ……食後の片付けのために流しに立った志奈子のカラダを後ろから抱きしめた。その体温が上がり始めているのがわかる。彼女のカラダにゆっくりと触れると、いつも以上にビクビクと反応しているように思えた。
もう、効いてきたのか?早いな……
その効果に少し驚きながらも不安がよぎる。大丈夫だよな?そんなに効きすぎる変な薬じゃないよな?泉さんに聞いた半分の量しかコーヒーに入れてないはずなんだ。
「志奈子、早いな。もう感じて濡らしてるんだろ?」
「ち、がう……」
カラダの反応とは別に、志奈子は相変わらず言葉の上ではオレを拒否する。そっちはいつだってすぐに反応するくせに……オレはいつもの様に志奈子を貶める言葉を使う。
「真面目そうな顔してても、この身体は喜んで俺を受け入れるんだよな?今度こそ……俺なしじゃいられないようにしてやるよ、志奈子」
そうすれば彼女の抵抗はすぐに止む。諦めた様に快感をカラダで感じながら必死で抗いつつもオレを受け入れてくれる……
だけど、もっと……もっと乱れさせて、欲しい欲しいと泣きわめかせてみたい。もう二度とオレを拒否できない位、彼女の持っている壁もプライドも全てたたき壊してしまいたかった。
「コレ、何かわかるか?」
そういって志奈子の濡れた下肢を愛撫しながら小瓶を見せた。今よりももっと乱れさせる為に、オレはその液体を既に濡れた蜜壺に塗り込めた。
「なっ、何……やっ」
抵抗しながらもソコをヒクヒクと締め付ける志奈子にのし掛かり『もう少し飲んどく?』そう言って残った液体を口移しで志奈子に流し込んだ。

それからの志奈子は凄かった。どんな風に触れてもビクビクで、触れなくても息も荒く、太股を捩ってオレを誘う。オレ自身も口にしたことでやたら興奮していた。先走りがボクサーパンツを濡らしていたし、今すぐにでも突っ込んで果てたい気分だったが、まだ目的を達していないのでひたすら我慢した。
愛撫を加えない方が辛いらしく、微かに胸の先を摘んだり、腰の辺りを撫で回すだけで彼女はカラダを震わせていた。
「はぁ……んっ、やだ……こんな、の……っん」
自分でもコントロールできないんだろう。さっさと繋がってイカせてやればソレで終わる。だけど今回はそれだけで終わらせる訳にはいかない。だから……オレは何度も囁く。『オレが欲しいと言え』と『もう逃げない』と……
「欲しいと、言えよ……ココに、何が欲しいか、誰のがイイのか……言えよっ!そしたら……もう二度と逃がさないから」
敏感な突起を刺激し始めると志奈子は泣きそうな顔でその快感に耐える。小さなその芽が信じられないほど充血して立ちあがっている。そこだけじゃない胸の先も全ての突起が敏感になり、中は熱くぬかるんで蠢いている。
普段も反応し始めるとそこそこ凄いから、何処からが媚薬の効果かどうかなんて判らないけれども……
「言えよっ!」
オレは耐えきれずに突起を押しつぶし、中をかき混ぜた。
「ひゃぁ……あん、やっ、いちゃう、あ……」
イキそうになったその瞬間、オレは指を止めてそこから抜いた。志奈子は切なげな視線をオレに向けてその目で訴えてくる。だけど言葉にしないともらえないと彼女は知っていた。
「やだ、おねがい……欲しいの、甲斐くんが欲しいの!」
やっと言った……オレは志奈子の脚を持ち上げると痛いほど勃起した己自身を志奈子の中に埋める。合間を見て避妊具は付けていた。以前の様な失敗は出来ないし、今回は俺自身もかなり敏感になっているから、持たせる為には必須のアイテムだった。とにかく今から志奈子をこの上ないほど壊して落とすのだ。二度とオレから逃げられない様に……

長い交わりは続いた。男が飲むと早いと言うよりも興奮が続く。突き上げた途端昇り詰めた志奈子はそれからイキっぱなしで、震えて呼吸を荒し、ひたすらその快感から逃げようとカラダを捩ってはオレに囚われ、奥まで貫かれてまた痙攣を起こす。何度も……絶頂を迎えてはオレのモノをビクビクと締め付ける快感を味わった。それでも数回我慢できず、ゴム越しに大量に吐精しては避妊具を付け直して志奈子の中をえぐった。
最後に果てた時、涙と涎でぐしゃぐしゃになった志奈子が微かに笑った様な気がした……
「どうした?」
その問いに『動けない』と答えた彼女は確かにいつも以上にカラダを麻痺させていた。オレは後処理もそこそこに抱き寄せ、いつもの様にそのカラダをさすって落ち着けてやる。次第に呼吸を戻した志奈子は、子供の様に安心した寝顔をオレに見せてそのまま深い眠りについた様だった。

ヤバいよな……コレ。
翌日、起きあがれない志奈子をベッドに寝かしたまま、オレは煙草に火を付けた。とりあえず落ち着いた後、何か食べるものをと探したが、和食党の彼女の部屋にはパンやインスタントがあるわけもなく、調理しないと食べられない材料はオレの腹を満たしてくれそうにない。作り置きらしかったおかずは昨夜オレが全部平らげたし?仕方なくオレは外に出てコンビニを探しおにぎりやサンドイッチを買い込んだ。ドリップの珈琲を見つけてそれもいっしょに。彼女の部屋にはインスタントしか無かったけれども、珈琲ぐらいは飲むだろう。オレの家は親父が珈琲好きなのもあって、インスタントはあまり好きじゃ無かったから。
志奈子の部屋に戻り腹を満たし、自分でドリップ式のそれを入れて飲んだ後、彼女の分もいつでも入れられる様に用意しておいた。どうしても目覚めなかったらメモでも残して帰ろうかと思案した。コイツのことだから起こせば大学に行こうとするだろう。だけど、媚薬を使ったのもあって体力消耗しまくってる感じだ。オレだって、いつも以上の高ぶりに予想以上の体力を消耗していた。
あんまり使わない方がいいだろうな……ただでさえ感じやすい志奈子が狂った様に腰を動かしてオレを求めた昨夜の凶荒。無意識にオレの名を何度も何度も呼んでは、その身体を擦りつけて甘える。あの時、オレの中に沸いたあの感情は何だったのだろう?予想以上に思い通りになって嬉しかったのは確かだ。だけど、それだけじゃない……こう、愛しいみたいな堪らない感情。オレもアレを口にしてしまったが為の効果なのか?
昨夜思う存分彼女を支配出来たと思った。動けないほど感じてイキまくった志奈子はオレの腕の中で無防備に眠りについていたし、目覚めた時も彼女は安心しきった寝顔をオレに預けていた。こんな夜をこれからも何度も迎えたい、いや迎えられるものだと思っていた。
――――なのに、これはなんだ?
メモの代わりになる物を探す為にあちこちの引き出しを開けてみた。その時にふと見つけた薬袋。
<○○産婦人科>
その病院名に一瞬目を疑った。そして、中の薬に書かれた記号をケータイのメールに打ち込んで薬関係に詳しい知り合いに送って聞いた。
<それピルだよ。経口避妊薬。生理不順とかでも使うけど、女が飲んでたら避妊しなくてもイイから。ラッキーじゃん?>
志奈子が、ピル?誰の為に……よく耳にするのは不特定多数の男と関係を持つ女は自主的にそういうのを飲んでるってことだった。もちろん治療的な意味で使ってる場合もあるだろうけれども、志奈子がどうなのかは判らない。ただ気になるのは他に男がいるのかどうか?そいつの為に、そいつに生でさせる為に飲んでるのか?オレには一言も教えず、避妊させてるくせに……
苛つきを押さえる様に、何度も煙草に火を付けては消す。
生理不順も考えられるはずだ……だから、一概にも男が居るとは限らない。だけど、心の中に落ちた影は何度打ち消してもその姿を見せる。
志奈子が目覚めたら、聞きただしてやる。それに……もう避妊しなくてもいいんだよな?ピル飲んでるんだったら、いつでも、何処でも、準備してなくてもヤリ放題?昨日だって、あの快感に身を任せて志奈子の中に何度だって放てたんだ。
誰だってゴムは嫌いだ。何度か味わった志奈子のナカ。直接感じるあの襞のうごめき、締め付け、擦りあげる内壁のざらつき。今以上に楽しめると判ればオレは再び凶悪な欲望を持ち上げていた。

目が覚めた志奈子は、昨夜オレが攻め過ぎたせいか、起きあがるのも辛そうだった。すぐにでも問いただしたい気持ちを必死で押さえて、出来るだけに優しく扱ってやった。
「それと、これも飲まなきゃいけないんじゃないの?」
買ってきたサンドイッチと一緒にピルの入った薬袋を見せた途端、志奈子は表情を強張らせてその全身でオレを拒否したかの様に見えた。
なんだよ……そんなに見られたらヤバかったのか?やっぱり、居るのか?
「他に男……生でさせるような男いたのかって聞いてるんだよ!」
オレから逃げ出したのもその男のせいなのか?答えろ!いや、頼むから違うと否定してくれ。
「わたしの……勝手でしょう?甲斐くんには……関係ない」
関係ない……へえ、そうなんだ?ピルを飲もうが他に男が居てもオレには関係ないんだ?
なんだ、そういうことか。だったら……もういいよな?このカラダ好きにしても。恋愛する気も無いと言っていた。なのに他に男がいるとしたら、やっぱりこのカラダが欲しがったんだろ?男を。誰でもいいんだろ?セフレなら、誰でも……だったらオレでもいいはずだし、ピルを飲んでるのなら幾らでもナカに出しても構わないってわけだ。
こんな好都合なセフレは他にないよな?カラダの相性は最高だし、他に居ないんだからな、オレが満足できるカラダを持った女なんて!
「やっ、なにするの?」
怒りにも似た荒々しい感情が濁流のように押し寄せてオレから理性を押し流していく。オレは志奈子のカラダを乱暴に引き倒し、テーブルにうつぶせに押しつけた。彼女が身につけているTシャツをまくり上げ、下着も引きずり降ろした。ソコは昨夜の余韻でまだ濡れそぼっていた。掻き回すたびに愛液が腿を伝ってこぼれ落ちて行く。愛撫の必要もない、熟れきったその中に避妊具を使わず入り込む。
「たっぷりと注いでやるよ、他の男が入る隙間もないほどになっ!」
他の男に抱かれる余裕もないくらい抱き潰してやる。ナカに何度も注いで、オレの臭い以外しなくさせてやる!
ピルを飲んでる女に相応しいセックス……妊娠のリスクの無い、快楽を得る為だけの行為。
オレは愛撫も何もせずにいきなり後ろから突き上げた。十分なぬめりを持ったソコはあっけなくオレをくわえ込む。そして、狂った様に責め立てて問いただしていた。
「なあ、どうなんだ……いるのか……他に男が!」
「そんなの……いない」
何度もいないと答える志奈子。オレしか知らないと、何度も……
オレはその答えに満足して、無防備な志奈子のナカに思う存分注いだ。吐き出す脈動にあわせて彼女のナカが蠢き絞り取る様な動きを見せる。
やっぱりいい……志奈子のカラダが一番いい。おまけに避妊しなくていいなら、これ以上のカラダはない。昨日あれだけ吐き出したはずなのに、オレが抜け出すと途端にそこから溢れてくる光景が酷く淫猥だった。
その光景が堪らなくて、まるで誘ってる様で……萎えないオレはバスルームに志奈子を連れ込んで、洗ってやるのを口実にそこでもまた志奈子を責め立てた。狭いバスルームに響く淫靡な水音と志奈子の喘ぎ声に興奮して、もう一度彼女の深いところに注いだ。

ギリギリの時間までそうしていた為に、講義の時間が迫り急ぐ彼女は結局アパートの部屋にオレを残して出掛けてしまった。あれだけの行為の後、そのふらつくカラダを引きずる様にして大学へ。おそらく、勉強大好きな彼女にとって講義をさぼるなんてことは考えられないのだろう。行為が終わった後もその気怠げなカラダを必死で動かして出掛ける準備をしようとする彼女。そんな彼女に無理強いをしてしまったことを今更ながらに後悔していた。
志奈子の望みはたったひとつ……勉強して教師になることだ。オシャレも、無駄遣いや遊ぶこともろくにせず、趣味も無く友人もまともに居ない彼女のたったひとつの目標。その為には恋愛も必要ないと言うのだから。オレは……その邪魔だけはしてはいけない。幾ら志奈子が欲しくても、他に満足できる女が見つかるまでだとしても、それだけはこれからも二度としてはいけないことなのだと、自分に言い聞かせた。
だけど、手元に残されたスペアキーを手にして、オレはこの先もあのカラダを独り占めできることを思うと嬉しくて堪らなかった。コピーしてから鍵は返しておいたものの、いつだってこの部屋に入れる権利をもらった様なものだから……
そう、志奈子の将来の夢を邪魔しないかぎり、あのカラダを……思い出しただけで当分一人で楽しめるほどの快感の記憶がオレを支配していた。
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