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社会人編

40
〜甲斐・5〜

「よっ!史仁、久しぶりだな」
「寛也……おまえちょっと見ない間に成長した?」
「悪かったな、幸せ太りってやつさ。なんせ、春菜の作る飯が旨いんだよ。今まで遊び歩いてると三食きっちり家で食べたりしてなかっただろ?それに晩酌付きだからな」
「はいはい、幸せそうでおめでとさんだな」
お盆の連休中に同窓会は行われた。オレはほんの少しだけ期待と希望を持って同窓会に出席していた。
「きゃー甲斐くん久しぶり!」
もう名前も顔も覚えていない同級生がわらわらと寄ってくる。オレは適当に愛想しながら周りを眺め回した。
もしかしたら……志奈子が姿を見せないだろうかと思って。
「甲斐くん、元気だった?」
「ああ、春菜……そっちこそ、幸せそうだな」
随分と綺麗になったと思う。若尾春菜、今は香川だったな。内側から輝く明るい笑顔を携えていた。彼女が現在どれだけ幸せなのか、一目で分かるほどに。
「久しぶりに外に出たーって感じなんだけどね。でも、子供って預けちゃうとそれはそれで心配なんだよね」
「ふーん、そんなもんなんだ?」
「そうよ、見る?うちの子カワイイわよぉ。お嫁に欲しくならない?」
そう言ってケータイの画面に映る写真をオレに見せてくる。確かに可愛いけれども、オレからすれば普通にテレビで見る赤ちゃんとさして変わりはない様に思う。だが親からすれば可愛いくてしょうがない存在なんだろうな。オレの父や母はそんな気持ちを少しでもオレに抱いてくれたのだろうか?だったら、オレを人に預けたりしなかったよな……子供は親を選べないけれども、こいつらを親に持てたこの子は幸せなんだろうな……だからこんなにもいい笑顔でいられるんだ。
「あと20年オレに独身で居ろっていうのか?枯れちまうよ」
「それもそうね。そんなおじさんじゃうちの子が可哀想だね。でもほんとに可愛いでしょ!面倒臭い時もしんどい時もあるけど……何でも頑張れちゃうって感じ?こうやって離れた時には特に感じちゃうんだよね。わたしって母親なんだなって……」
オレから見てもドキリとするほど柔らかい聖母マリアのような微笑み。寛志のヤツ、果報者過ぎるぞ?けれども、こうやって一人の女を穏やかに微笑ませているのはあいつなんだ。高校入学当時から春菜一筋だったからな、寛也は。
女が誰でもこんな風になれるとは限らない……
「ねえ、甲斐くん……船橋さんなんだけど」
「な、何?」
いきなり出てきた名前に驚いて、手にしていた春菜のケータイをもう少しで落とすところだった。
「これ、返事……あの後、実家の住所調べて転送してくれる様にハガキ出し直したんだ。それで返ってきたのがこれ」
差し出されたのは往復はがきの返信用にあいつらしい、綺麗な文字で住所と名前が書き連ねてあった。仕事でそちらに帰れそうにないと書き加えて。
「あのさ……卒業式の日、わたしみちゃったんだ。甲斐くんが船橋さんと居るところ」
「え?」
「わたし、あの日だめもとでもいいから甲斐くんに告白しようと思って後付けてたんだよ。すっきり失恋しとかないと次ぎ行けないし、もしかしたら……ほんの少しだけでも付き合ってもらえるかなぁなんて思って」
「春菜……」
「だから驚いたよ、まさかあの船橋さんとなんてね。甲斐くん、同じ学校の中ではカノジョ作らないって言ってたのに、なんで?って。だけど、甲斐くんすごく必死な顔して船橋さんを引き寄せて……その時の甲斐くんの表情見たら、もういいやって思っちゃった。あんな、愛おしげな顔して彼女を抱きしめてるの見たら、もう無理だなって思うじゃない?あのまま、いい加減に女の子と付き合ってる甲斐くんだったら、卒業してももしかしたらって、無駄な期待しそうで怖かった。可愛い子や綺麗な子じゃないと付き合ってもらえないと思って諦めてたけど、ちゃんと見かけとかじゃない子を見つけたのかなって。大事な人を見つけたんだなって思ったら、すっぱり諦められちゃった。わたしにはわたしが一番だって言ってくれる寛也がいたしね」
あの時、今の自分の気持ちに気が付いていたら……今時分志奈子に春菜と同じ様に幸せそうな顔をさせてやれただろうか?
「ね、委員長と付き合ってたの?」
「いや……あの当時は、まだ」
「ってことは、あの後付き合ってたの?」
「……ああ、オレはそのつもりだったけど」
何度も追いかけて、何度も抱いて……一緒に暮らした。だけど向こうは全くその気がなかったって訳だ。
「じゃあ、この住所渡すけど……頑張って!」
今だからこうやって笑って言えるんだよと告げる春菜の中にも、確かにオレを想ってくれた年月があったのだろう。そして寛也にも、オレにも……人を思う、好きという気持ち、大事にしたい存在。なのに、そんなことに全く気付かず、最初に志奈子を手放したあの日……後悔してももう遅い。あの後何度もオレは同じ過ちを繰り返したのだから。



ラブホなんて慣れない様子の委員長……いや、船橋だな。本当は志奈子って呼びたいけれども、馴れ馴れしすぎるって言われそうでそれは止めた。けれども心の中で呼ぶぐらいは構わないだろう。
志奈子は、慣れてはいないが別段焦るわけでもなく、いつも通り普通に落ち着いた顔をしていた。可愛くねえと言うより、いったいどういうつもりなのかが読めない。今までのいきさつを考えても、オレとのことは続けたくない風だった。だけど、今日はどうやらヤル気はあるみたいだ。確かに彼女は言ってることとカラダとは全く別みたいで……言動が素直じゃない分カラダが素直に答えているんだろうか?
志奈子もどうすればいいのか判らないらしく、オレから離れたソファにかけたままだった。誘ってくるわけでもないし、まったく……判らない。彼女相手だと勝手が違ってしまう。
「こっち、来いよ」
そう声をかけるとようやく腰を上げてこちらに歩いてくる。いったいやるのかやらないのかどっちなんだ?それともわざと焦らしてるのか?まさかな、そんな器用なことは出来ない不器用な女だってことは判っている。だけど、こっちはいい加減焦れてるんだ……ずっと、抱きたくて抱きたくて仕方がなかった。あの柔らかく吸い付く肌をむしゃぶりつくしたい。冷めた顔を火照らせて、喘がせて、その締まりのイイ秘肉の中に奥まで突っ込んで擦り上げて果てたい。なのにむこうはそんな熱のひとつも持ち合わせてない様なすました顔して近付いてきた。
「きゃっ!」
なんの言葉もかけずに、ベッドに引きずり込んで組み伏せると、ようやくその表情が変化する。そうだ……この顔が見たかったんだ。そう思いながら、彼女の眼鏡を外し、三つ編みを解く。そうしたからといって彼女が変身して凄い美人になるわけでもないが、この後真面目な委員長が女に変わっていく様を見るのが好きだった。眼鏡がない方が彼女の表情がキツくみえないし、無表情でなくなる。髪をほどくことによって解放されるのか、その長い髪を振り乱して喘ぐ委員長の肢体は色っぽくって、女そのものだったから。
そして衣服の全部を、早く脱がして……彼女の素肌を見たかった。
一度も、全部脱がしてはいない。資料室にいる時だって、半脱ぎまではさせたけど、何時誰が入ってくるか判らない空間で、無防備に全裸にはなれなかった。オレも、いつだってズボンを降ろすぐらいだったはずだ。
少々嫌がる彼女から全て剥ぎ取ると、思っていたよりもなめらかで女らしい肢体が現れた。程よい肉付き……ガリガリに痩せてもいないし、不摂生で無駄な肉が付いた感もない。柔らかな肌触りに張りのある肌、胸は何度も見ているけれども、その大きさに相応しい腰つき。男心を十分にそそってくれる。この先もいつも通りのはずだった。一方的にオレが求めて悔しくて、欲しがるとこがみたくて焦らして、責めて……感じて耐える彼女を見てようやく安心するんだ。
「ずるいよ、わたしだけ……」
彼女がそう言ってオレのシャツに手をかけてくる。そっか、オレも脱げばいいんだ……素肌で全身で志奈子を感じられる、そう思うと下半身に熱が集まっていく。オレは自ら上に着ていたシャツを脱いだ。そうすると、彼女がカラダを起こして近付いてきて、オレの胸に吸い付いてきた。
「うっ、あぁ……」
思わず声が上がってしまった。そりゃ女に責められたこともあったけれども、まさか志奈子がしてくるとは思わなかった。彼女は『かわいい』といいながらオレの胸からしばらく離れなかった。いつもやられてるのをやり返してるつもりなのか?そんなことすれば後で10倍にして返されるって判ってるのだろうか。だけど、慣れない仕草のまま、志奈子はオレのジーンズのボタンに手をかける。オレは腰を浮かして脱ぐのを手伝ったけれども、信じられない気持ちの方が強かった。何を聞いても彼女は答えない……最後だからか?大胆にもボクサーパンツの上からさわさわと撫でてくる。その慣れてない動きがかえって焦れったくて興奮した。それに胸もまだしつこく触ってきて……オレは10倍にして返してやると言ってそのまま志奈子をシーツに縫いつけた。しっかりと興奮させてくれちゃって、後悔してもしらないぞ?
ここはホテルなんだ。いつもの資料室なんかと違ってどんな格好になっても、どんな声をだしても大丈夫な場所だ。今から自分がどう扱われるか判っているのだろうか?
「声を聞かせろ……可愛い声だから」
オレがそう言うと不思議そうな顔をした。こいつは、可愛いとか言われ慣れてないから、たまにそう言うと思いっきり固まるというか、信じられないといった表情になる。だけど実際、志奈子の喘ぐ声は可愛らしいと思う。思わず出てる感じで、白々しく喘ぐ女よりよっぽど……
そう、今日の目的は思いっきり志奈子の中に突っ込む事じゃない。それは後の楽しみに置いておいて、ひたすら感じさせて、喘がせて、イカせまくって……欲しいと言わせることだった。強請らせて、もっとオレに抱かれたいと思わせること。今日限りで終わらせるなんてもったいない……こんなにも満足できるセックスの相手は滅多にいるもんじゃない。それに彼女は賢いから馬鹿みたいに何かを強請っても来ないし、まとわりついたりもしない、理想的なセックスの相手だと思っていた。
オレはひたすら指と舌で志奈子の中をかき回し、突起を吸い、ひっかいては噛んだ。その度にひいひいと悲鳴の様な喘ぎを漏らし、腰の辺りのシーツは彼女がまき散らした愛液でべたべたに濡れているほどだった。
「……も、やだ……」
何度嫌だと言っても強制的に快感を送り込む。イク寸前に刺激を止めたりの繰り返し。いい加減おかしくなりかけてる志奈子は息も絶え絶えだ。
「もっと、だ。もっと、欲しがって……」
「欲しいの、ね、イカセて……許して……」
あまりにも懇願するから中と外を同時に刺激して昇らせる。絶頂を伝える高く甘い声が部屋中に響く。だけど、いくらイッても刺激は止めない。そうすると、昇ったきり降りて来れない志奈子の声はだんだんと悲鳴に近い叫び声になっていく。
「だ、だめ……ね、イッタの、イッタんだから、もう……許して、お願い、やめてぇ……やぁあ!!」
半狂乱になって叫ぶ彼女を見て、オレの下半身は限界まで勃ち上がっている。先からは我慢した分だけ濡れて黒いブリーフにシミを作っているほどだった。
「欲しい?欲しくてしょうがないんだろ?なあ、言えよ、欲しがれよ!」
下着から取り出したソレを志奈子に擦りつける。それだけで自分自身もイキそうになっている。限界が来て喉をひゅーひゅーと鳴らす彼女に水を飲ませて、ついでに自分も喉を潤す。ようやく彼女が『欲しい』と言うのを待って、その後、自分で信じられないくらい無責任な事を言っていた。
「今日もつけないぞ、それでよかったら、自分で入れろよ」
これだけ先走りが出ていたら妊娠してもおかしくない。判っていてオレは……彼女の精神が何処まで壊れているのか試したかったのかも知れない。もしもの時は……それでも構わないと、その時は思っていた。
「んっくぅ……」
信じられないことに、彼女は自らオレの上にまたがると、剛直を宛い一気に腰を下ろしてきた。こっちが興奮する……慣れない動きでオレの上で腰を振る。あの真面目でクールな委員長が、気持ちよさそうにオレのを締め付けながら、自分のいいところを探して淫らな動きをしている……それほど、オレが欲しかった?このままオレが放てば、奥深くに精を注いでしまうかも知れないのに?欲しい欲しいとカラダで訴える様に。ヤバいけど……嬉しくなってしまう。今までのも一方的な行為じゃなかったんだ……最初がイレギュラーで、そのまま普通の行為を知ってる女でも戸惑う様な状況でのセックスばかり強いてきた。初めて誰の目にも触れずに、遠慮せずに声の出せる状況で普通に抱くとこんなにも……正直でどん欲で、可愛い。
「志奈子の中、いいな、すごく」
持って行かれそうなのを必死で堪えていた。今なら素直に色々答えてくれそうだった。
「志奈子、ヤラしい腰つき、誰に教わったの?」
『甲斐くん』と、オレの名を口にする。
「きゅうきゅうヤラシイとこ締めて、誰の締めてんの?」
またオレの名を口にする。オレしか知らない……オレだけのカラダ。
「出そうなんだけど、生で出していい??」
「だ、め……」
さすがにこれはマズいよな?
「じゃあ、どこにだして欲しい?」
「そ、そと、」
「ゆっくり?それとも、激しくして欲しい?」
「して、激しく……」
すげえ、素直……滅茶苦茶可愛くないか?今の志奈子。
「激しくしたら、中に出ちゃうぞ?」
「やぁ……」
もう我慢の限界!オレはカラダを入れ替えて志奈子を組み敷くとゆっくりとその中の感触を楽しんだ後、未練たらたらのまま引き抜いて避妊具を手に取るとそれを素早く装着した。そして一気に志奈子のナカへ……
そこからはちょっと余裕を戻して責めまくった。下腹を押さえると泣きそうな顔をするけれども、そうしながらも志奈子のいいところを何度も何度も責め立てた。突起も一緒に刺激してやるとイク。その締め付けでこっちも最大の終わりを迎える。伸びてきた彼女の手を無意識に握りしめて、もう一度突起を擦る。
「志奈子っ、ああ、もう、おれも……うあぁ!」
「ひんっ、いく、いっちゃう、もう!!」
「ああ、出る、搾り取って、志奈子が、オレの……」
オレは締め付けられて腰から下が痺れるほどの快感に襲われ、情けない声を漏らしながら果てていた。搾り取られる……そんな感じで志奈子の中が激しく収縮している。いつも以上に震えて、痙攣を起こしたかの様に膣内が蠢き、オレは完全に持って行かれた。
「あああああ……」
止まらなかった……射精しながら腰を振って、終わっても萎えなくて、そのままひたすら志奈子の中を擦り続けていた。
こんなの……離せるか!これっきりなんて、絶対に嫌だ。
その後も狂った様に抱き続けた。いつも以上に震えるその身体をさすってやる余裕もないほどひたすら貫き続け、意識が朦朧として声も上げられなくなった彼女の上でまだ腰を振っていた。ゴムなんかとうに付けていなかった。ホテルにあるゴムや持ってたゴムを使い果たしていたけれども、オレは避妊もせず、ひたすら志奈子の中を侵し続けた。最後に果てた時、もうほとんど何も出ないほど……オレは志奈子のナカに全ての精を放ち尽くした。
さすがに、悪いと思った……途中までしか避妊しなかった。多少なりともオレのモノが志奈子の中に残っている。それは男としては嬉しいことだけれども、相手に了承を得ずにやってはいけないことだった。
オレは彼女をバスルームに連れて行き、膣内を洗浄した。こんなのではどうにもならないかも知れないけれども、とりあえずだ。もしもの時は男らしく責任を取るのもいいかもしれないと思った。それで一生、彼女が手にはいるなら……
――――え?それって?
一瞬でも思い描いた彼女とのあり得ない未来に、思わず自分で呆れて苦笑した。

「志奈子……生きてる?」
ぐったりとした彼女に声をかけるとなんとか返事が返ってきた。
「良かった、本当に壊したかと思った」
「壊れたわよ……」
そのまま壊れていればオレが飼ってやるのに……そう言うと怪訝そうな顔を寄越してくる。志奈子は?同じじゃなかった?
「手放せない……こんな、いいの、オレ知らない。志奈子の身体、声も反応も、肌も、あそこの具合も、全部」
「最後って……いったじゃない」
最後……最後だから?やっぱりここまでなのか?
「なあ、これからも、身体だけでも、だめか?オレたち……」
結婚する気はないとか言っていたのは判ってる。だったらせめてカラダだけでも……そうすればいつか、ずっとオレといたくなったりしないだろうか?
オレは……ずっと志奈子といたい。欲しい……これほどまでに女に執着したことはない。このまま一緒に暮らしても、籍入れて離れられなくしてしまってもいいと思うほど欲しいと思った。
「無理だよ……これ以上続けられないよ」
「じゃあ、本当に最後なんだな?」
無理だという彼女の身体が震えている様で、思わず手が伸びてさすってやった。
愛しい……このカラダの全てが……愛しくて、もっと抱きたくて、傍に置きたくて……
だけどこれ以上は何も言えなかった。

そのまま怠い身体を寄り添わせて朝まで眠った。誰かと朝まで眠るなんて久しぶりだったけど、目が覚めた後の志奈子はいつもの委員長の顔をしていた。昨夜のあの乱れた艶っぽさも、表情の欠片もどこにも見えない。
ホテルから出たあと朝飯に誘った。いつもなら断られるのに、初めて……志奈子が頷いた。
ファーストフードで朝のメニュー、食べ過ぎてもしょうがないので軽くすませた。そこで交わす会話はまるで普通の同級生同士の様にたわいのないものだった。少しでも彼女の気を引きたくて、必死で言葉を紡ぐ。話す気の無い時の彼女は一切自分の事も何も話さないから。なのに……後ろの女どもがごちゃごちゃと言い始めた。容姿のことを気にしているらしい志奈子は、勝手な女どもの言葉に傷つき押し黙ってしまった。
クソっ、ああいう女が一番嫌いだ。そして一番オレに言い寄ってくる。断れば面倒なほど自信過剰でうざったくしつこい。中身かすかすの見かけだけの女のくせに。
「出ようか?」
そう口にする志奈子が泣きそうに見えて、ここが店の中じゃなかったら思いっきり抱きしめてやりたかった。それに足取りも妙にふらついてる。そうさせたのはオレだけど今は少し休ませてやらないとあまりに可哀想だ。オレは送ると言って、ふらつきながら帰ろうとする彼女に付き添っていた。それに……このまま住んでるところがわかれば、また少し時間を空けて訪ねてみれば、この関係がまた続くかも知れないと考えていた。
「ここよ、ここの二階」
彼女が示したのは見ただけで壁が薄いのが判るような古いアパートだった。女の子ならもう少しマシなとこに住まないか?親は何やってるんだよ!心配じゃないのか?年頃の娘をこんな所に住まわせて……そこまで金がないとか?だったら、オレと一緒に住めば……そこから大学に通えば随分と楽になると思うぞ?
オレは、そこまで志奈子と一緒にいたいと思い始めていた。
「上がっていい?」
「……なんで?」
「なんでって……」
何処の部屋か見たいだけなのに……コイツには普通にお願いしてもダメなのかも知れないな。頑固だし、融通効かないしな。
「ごめん、もうすぐ人が来るの。送ってくれてありがとうね……さよなら」
人ってだれだ?女友達か?それとも両親か?それ以上聞けなくて、オレは部屋に上がることを諦めて帰る振りをして、彼女が入っていく部屋を確かめた。
明日にでも訪ねてみよう。そう決心して……


だけど、彼女はいなかった。
部屋には何一つ残されておらず、志奈子は引っ越した後だった。
オレは、昨日まで彼女が住んでいたという部屋を見回した。
狭い、ぼろい、4畳半の部屋。
こんなところに住んでいたんだと思うと、なんだか彼女が惨めに思えた。だから部屋に入れなかったのか?
すでに携帯も、メールも繋がらない。
オレは……切り捨てられた?
そう思い知らされた途端怒りが湧いてきた。
「くそおっ!!!」
持っていた携帯はまっぷたつに割れた。
「そんなにオレのこと……」
嫌いだったのか?あんなにもカラダは抱かれることを喜んでいたのに?
――――もういい!別に他に女なんて幾らでもいる。逃げる女を追いかけなくても、ちょっと視線を飛ばせば女なんて幾らでも手にはいるんだ!
だから、忘れる!あんな、女……
美人でもスタイルがいい訳でもない。
特別……抱き心地が良かっただけだ。
顔やスタイルにこだわらなくてもイイカラダした女はいくらでもいるはずだ。これからの大学生活の中、探せばいい。
志奈子の代わりを……
だから、もう追いかけない。固執しない、あんな女……忘れてやるんだ!

それ以来オレは手当たり次第女と付き合う様になった。
付き合う?いや、ヤリ捨てだと言われるが構わない。どこかにいるはずなんだ。見た目とは関係なくオレを満たしてくれるカラダの持ち主がいるはずだ。
きっとどこかに……
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