3周年記念企画フリー小説の続編を「月夜のホタル」 の朝美音柊花さんに戴いてしまいました!!
二人に名前はまだないですが(笑)題名は私が付けさせて戴きました〜素敵な作品をありがとうございますw
こちらはフリーではありません。著作権は柊花さん、所有権はkeiにあります。
Private Night

間接照明の淡い光の中に彼女のすべらかで白い肌が浮かび上がる。

雪に咲いた紅い花のように所々に散らされた痕はオレが一時(いっとき)前につけた独占欲の証だ。
枕に突っ伏してまるで死んだように眠る彼女を見つめ、頬に掛かる髪をそっと払ってやる。
ピクリとも動かない深い眠りの中にいる彼女の姿に、いつも凛として皆を(まと)める社長としての張り詰めた姿を思い出す。

疲れているのだろう。

昨夜はこの半年間彼女がかかりきりだった大きなプロジェクトの成功を祝して、スタッフ全員が揃った打ち上げがあった。
女性スタッフが殆どの会社だし、大人しいフリをしているオレは必然的にターゲットにされ、やたらと酒を飲まされる事になった。どうやら酔い潰そうという計画らしい。
もちろんホストをやっていたくらいだから、普通のヤツよりはずっと酒には強いし、酔いにくい酒の飲み方って言うのも心得ている。
オレを潰そうと次々と注がれる酒を片っ端から飲み干し、平然としているオレに対して返杯を受けている酒豪女性スタッフたちはかなり苦戦していたようだ。

結局…。
どの位飲んだかは分からないが、オレを潰して楽しもうという女性スタッフたちの思惑ははずれ、グデグデに酔いつぶれたのはモチロン彼女たちのほうだった。

オレに敵うハズねぇだろ?バーカ!

大人しい男の仮面をつけた下でチロリと舌を出してせせら笑う。わざとひ弱なフリをしているがいつもこの『僕』でいると正直肩が凝るんだよな。
その位ならたまにはアッと言わせてやるのも良いだろう。
ずっと残業続きで午前様が多かったオレにとっても、久しぶりの強酒(ごうしゅ)はかなり気分が良かった。
この後、彼女を誘う為に予約したホテルまで歩くかタクシーにするか…などと、結構ノホホンと考えて浮かれたりしていたくらいだ。


だが、その後の流れがまずかった。


2次会と称して彼女たちの話題に上ったのはオレが以前務めていたホストクラブだった。
ホストをしていたときと比べたら、わざとドン臭く見せているこの格好じゃ、ちょっとしたヤツには分からないだろう。
だが、鋭いヤツと言うのは何処にでもいる。オレと一緒に働いていたヤツならピンと来るだろう。
あいつらだったらまだいい。問題は客の中にオレを指名していた女どもがいるかもしれないって事だ。
万が一バレたら色々と言い訳が面倒くさい事もあって、オレはとっとと彼女を連れて1次会でフケる事にした。

それなのにあいつらはスポンサーとして社長を連れて行きたかったんだろう。
しつこく一緒に行こうと誘いやがった。

冗談じゃない。オレが付いて行けない(ところ)へ彼女を一人で行かせるなんて…。

いつもなら『みんなで楽しんで来て』と、言う彼女だが、今日はいつもの社長の顔より、ずっと明るく気さくな姿をスタッフの前で見せていた事が気になっていた。
そして案の定乗り気の様子を見せ始めやがった。

…マジかよ?このオレがいるのにホストクラブへ行こうって言うのか?

彼女はこのプロジェクトに懸けていたのは知っている。ずっと傍で見つめてきたんだから、彼女の気持ちは分かるつもりだ。
必死に頑張った分、それまでの張り詰めた気持ちがどこか緩んだのかもしれない。

でも、だからって何でホストなんだよ。
なんだかすげぇ不快だった。
それまでオレだけが知っていた素の表情(かお)を人前で曝した事に、無性に腹が立った。
スタッフに乗せられたとは言え、ホストクラブへ行く事に乗り気になり始めている彼女に胸の奥に沸き起こった不可解な感情。
顔にこそ出さず冷静を装っていたが腹の中はジリジリと焼かれるようにムカついていた。

「社長はダメです。明日の早朝会議に差し支えますのでお送りします。」

無表情にそう言うと、彼女の腕を掴み誰にも分からないようにぎゅっと握った力で『行かせない』と伝える。
オレの想いが伝わったのかビクリと身体が震えたのを指先に感じた。

「じゃあ、僕は社長を送って行くから皆さんは2次会を楽しんで下さい。」

秘書としての仕事をこなすような顔をしてそう言うと彼女を無理矢理スタッフから引き剥がし、すぐにタクシーに飛び乗ると予約したシティホテルに滑り込んだ。

イライラと不快な感情が独占欲を煽る。

この感情を治めるには彼女を抱くしかないと思った。

オレの下で嬌声をあげ乱れる様を見て、誰も知らない彼女を独占していると安堵したい。

……そう思った。



「嫉妬…って奴か。」

ポツリと擦れる様に漏れた自分の声。我ながらおかしな話だ。

昔からもてたオレは女に不自由なんてした事がなかった。
気が向いたときに気に入った女を誘えば、断る奴なんていなかったし、むしろそれが当たり前だと思っていた。
ホストなんて職業についた時には更にその状態に拍車が掛かって…。
望めば何だって女が買い与えてくれる。望めばその全てを捧げて来る。女は金づるだとそのくらいに考えていたはずだった。
女なんて捨てるほどいたし、何があっても自分を見失う事なんて無かった。

それなのに、今オレはたった一人の女性に溺れて、嫉妬までしている。
一体どう言う事なんだろうと不思議に思うことがある。

「やっぱり…アナタはオレにとってずっと特別な女性(ひと)だったんだよな。」

まだ中坊の頃、柄の悪い連中に絡まれている所を彼女に助けられた事があった。
彼女は覚えていないけど、オレはあの日の事を忘れられない。
見事な啖呵を切って助けてくれた彼女のギュッと握り締めていた指が僅かに震えていたのをオレははっきりと覚えている。

怖くなかったはずが無い。

それでも凛とした姿勢で相手に対峙しオレを助けてくれた彼女の姿はオレの胸に憧れの女性として焼きついていた。

それから会うことも無かった彼女と偶然再会したのがオレの働いていたホストクラブだった。

正直言って驚いた。
彼女はああいった店に来るタイプだとは思っていなかったからだ。
かなり酒量を飲んでいた彼女はフラフラで、意識もハッキリしていなかった。
酒の勢いを借りて泣き出した彼女を抱きしめた時どうしてもそのまま帰したくなくて、ホテルに誘うと一晩中彼女を愛した。
あの夜の満足感と言ったら…これまで抱いたどんな女よりも彼女の反応はオレをそそった。
抱いても抱いても足りないと、彼女を何度も求めて…。
このまま終わりにするつもりなんてなかった。

「あの時はよくもまあ、オレを置いて逃げてくれたよね。」

薔薇色の頬に指を滑らせてそっとキスを落とす。
彼女が自分の傍らで眠っている事が夢では無いと感じる時ようやく心が凪いできた。
目覚めて彼女がいなかった朝、怒りなのか失望なのか分からない感情がオレを包んでいた。
彼女をどうしてももう一度抱きたい。
彼女の涙をもう一度見たい。
そう思ってこの会社に潜り込んだ。

全ては彼女を手に入れるため…。

年齢差もさることながら、立場の違いもあるためオレとの事は絶対に公にはしたくない彼女の気持ちは分からないでもない。
だからこそ、彼女を手に入れた今、完璧なポーカーフェイスで秘書として片時も離れずに、僅かな隙を縫ってその身体に『オレ』を教え込む。

それは、不意打ちのキスであったり、突然の抱擁であったり、時には真昼のオフィスでの情事だったりするわけだが…

「早く『オレ』がいないと生きていけない位僕を好きだって認めて下さいね。もう充分その身体には刻んだ筈なんですけどねぇ…。アナタ本当に意地っ張りなんだから。」

ポツリと呟くと、長い睫毛が僅かに震えた。
眠りが僅かに浅くなってきたようだ。


……そろそろ、起きてもらいましょうかね?
さっきは嫉妬に煽られてかなり荒々しく抱いてしまったから、お詫びもかねて今度は優しくたっぷりと愛してあげますよ。

先ほどまでの自分を客観的に見つめて思わず苦笑せずにいられない。

さっきのオレときたら…自分でも信じられないくらいだ。
オレはいつだって女を翻弄して楽しんできた筈だったのに、今夜に限っては彼女を責めるように激しくまるでサカリのついたティーネイジャーのように自分を突きたてて、余裕も何もなく乱暴に抱いてしまった。

正直あんな事は初めてだ。

「アナタだけですよ?オレをこんな風に変えてしまうのは…。ちゃんと責任を取ってもらいますからね。」

そう言うと彼女を起こすべくキスの雨を降らせていく。
やさしく…甘く…眠りの奥深くから彼女の意識をオレの元へ手繰り寄せるように

「…ん…ぁ…ん」

寝ぼけながらも少しづつ反応を見せ始める肢体に指を滑らせ、意識より先に身体を目覚めさせるように愛撫を与えていくと、オレの指の感覚を覚えた肌はすぐに反応を見せてくる。
独占欲とか征服欲とか男が本能的に持っている欲望を駆り立て刺激される瞬間だ。

「ん…やあぁ…寝かせて…。」

「ダメ…起きて…。たった一度で、しかもあんな抱かれ方で満足するつもりじゃないでしょうね?」

白い首筋に紅い花を散らしながら徐々に胸の果実へと移動しながら問いかける。

「眠い…。」

「ふう…ん。オレと愛し合うより睡眠欲が勝ってるって事か。そんな事許されると思ってんのかよ?」

オレの口調が変わると、途端にピクンと身体を震わせる。
いつもは『僕』に強気な態度をとる彼女だが、『オレ』には弱いらしい。
同じ人間なのに彼女の中では何かスイッチが切り替わるんだろうか?

ビジネスモードからプライベートモードへ…。

社長から女へ…。

秘書から恋人へ…。


この切り替わる時の表情がまたなんとも言えず可愛い。
普段の凛とした張り詰めた雰囲気が払拭され、どこか頼りなく儚い雰囲気になる。
強がりとか、虚勢とか、柵を取り払った彼女はこんなにも素直で可愛いのに…。

「だってぇ…さっきのが激しすぎて…――っ…」

まだ半分寝ぼけている彼女が珍しく甘えるように鼻に掛かった声で反論するが、その言葉はキスで閉じ込めて、そのまま指を敏感な花芽へと伸ばした。
キスの合間から漏れる彼女の声が欲望に火を付ける。

オレは彼女の髪から足の指先まで丁寧に愛撫し尽くして、何度も高みへと導いてやった。

意地っ張りで危ういアナタ…

優しくて脆いアナタ…。

本当に愛しくて、とても放って置けないよ。

オレに縋りつき、切なげに眉を寄せる彼女の頬を流れた一筋の涙に胸が切なくなる。
こんな切ない想いはアナタに逢うまで知らなかった。


アナタが欲しい。

心ごと、身体ごと…その全てが欲しい。

だから止められなくなる。

アナタを抱く事も

愛する事も

壊してしまいそうなほど求めてしまう事も。


これ以上無いくらい繋がりたくて深く激しく突き立てる。

余韻を楽しむように愛しんで浅く焦らすように誘ってみる。

アナタの全てを奪い尽くして何もかもを手に入れたい。


荒っぽくしたお詫びなんて名目はとっくにドッカにぶっ飛んで、何度も何度も彼女を突き上げる。


この想いも衝動も止める術なんてオレは知らない。


オレの全ての想いを捧げるように何度も二人で高みへと登りつめた。


ようやく深い眠りから覚めた彼女が再び意識を失うまで…。



ゴメン…本当にアナタの前でだけは理性なんて言葉はぶっ飛んでしまうらしいね。




間接照明の淡い光の中に彼女のすべらかで白い肌が浮かび上がる。

雪に咲いた紅い花のように所々に散らされた痕は一時前より更に鮮やかに浮き上がっている。
先ほど、愛しさのあまり欲望の上塗りするように咲かせた独占欲の証だ。
やっぱり…彼女に関してはどうしても激しくなってしまうのは否めないようだな…。

余りにも激しく彼女に想いをぶつけて愛してしまったせいだろうか。
再び死んだように眠り込む彼女の髪をかきあげて、ピクリともせずに深い眠りの中にいる寝顔を覗き込んで思う。

鳥のように自由に飛びまわるアナタの、羽を休める場所がここ(オレ)だと忘れないで欲しいと。

こんな風に受身の自分なんて想像もした事が無かったけれど、アナタのためなら自分が変わっていく事も嫌だとは思わないから不思議だよ。
どんな辛い事でもアナタと一つになれる意識がぶっ飛びそうな最高の瞬間(とき)がある限りすぐに忘れてしまう事ができる。

だから…激しくなる事も、回数が多い事も少しくらい我慢してくれよな。

『冗談じゃないわよ。一晩に何回も…体力持たないわ。仕事に支障が出るじゃない!』

明日の朝、お怒りモードで社長の顔に戻ったアナタを想像してフッと笑みを漏らす。
絶対にこれは言うだろうな。

『今度休日以外にこんなに何度も…ってなったら、クビですからねっ!』

きっとこれも言われるんだろうな。

そんなにオレに主導権を握られて乱れた事を認めるのが悔しいんだろうか。
自分もあんなに感じたくせに…
プンと怒ってスタスタと先に部屋を出て行ってしまうだろう彼女の後姿を想像して笑いが込み上げてくる。

素直じゃないアナタ。
意地っ張りなアナタ。
強がりばかりのアナタ。


脆くて儚い本当のアナタを知ってしまったオレにとってはどんな姿も可愛い強がりにしか見えないよ。


だからアナタが何を言おうとも



それでもアナタを欲しいと想う衝動は止められない。



アナタが悪いんですよ?





このオレを夢中になんかさせるから…ねぇ?








+++ Fin +++


Copyright(C) 2006 Shooka Asamine All Right Reserved.


Keiさま
えぇぇぇっとぉぉぉぉ…こんな感じで続きができましたがっ…
うわあぁぁぁぁ…キャラが変わっているよぉ。
彼はこんな口調でよかったかしら?彼女はこんな話し方だと甘すぎる?こんなんでもよかったでしょうか?
迷い迷いしながらも、一旦暴走を始めたヤツ(と勝手に呼ばせてもらう)を止める事ができなかったアタシ…。
最後はもうどうにでもなれ〜〜〜って感じで終わりました(…ってコラ!そんないい加減な…)
こんな駄作しかできなくてごめんなさい〜(泣)

朝美音柊花

2006/04/21