4.
 
さすがに受験が近づくとおつきあいどころじゃないのが事実。
母親なんかは休みの日に出かけるのもよく言わない。だから映画とか誘われても断ってしまう。こんなんじゃって思って、やぱり岡本くんに断ろうって思っていた。
トモダチとしてつきあい始めて2ヶ月の11月の半ば、放課後岡本くんにちゃんとおうとした。
「ごめん、誘ってもらってもどこにも行けないし、こんなんじゃ付き合ってるうちに入らないと思うんだ。やっぱり受験が大事だし、だから、もう...」
「いいよそれでも。オレは椎奈が今そんな気になれないのわかってるよ。真面目だからなぁ、椎奈は。今は勉強しなきゃいけないって思ってるんだろ?だったら椎奈がその気になるまで待つから。」
「でも、待ってもらっても、受験が終わるまでまだあるよ?」
「かまわないよ、今まで待ったんだから。それとも他に好きな奴いる?オレのこと一緒にいるのが嫌なほど嫌い?」
「好きな奴なんて...いないよ。それに岡本はいいやつだとおもうし、一緒にいて嫌じゃない。」
そのころにはかなり話するようになってたし、仲良くもなってたと思う。
トモダチとしての岡本に文句はなかった。話しもおもしろいし、何よりも女の子扱いしてもらえるのは嬉しかった。時々手を繋ごうなんて言われると焦ったけど...
「でも、このままじゃ悪いよ。あたし答えの出し方がわからないんだ。だから待ってもらっても受験が終わっても答え出せないかもしれないよ?その、トモダチでいたらだめかな?あたし、そんなに器用じゃないから、今はやっぱり考えられない。今は岡本はトモダチだと思う。だから...」
「それでもいいよ、オレは。だってね、今椎奈と別れてその間に他の男が近づくのが嫌なんだ。それだったらこのまま待つから、トモダチの中でもオレを一番椎奈に近いところに置いていて欲しい。それほど好きなんだ。いつの間にか、椎奈といればいるほど好きになってる。誰にも渡したくない。だから、他に好きな奴が出来たとか、オレのことが嫌いになったっていうならわかるけど、それ以外の理由でオレを拒絶しないで欲しい。」
「あたし、そんなに思ってもらえるほどの女じゃないよ...」
「椎奈は気がついてないだけだよ。オレは椎奈が見かけとは違ってすごく可愛いところを見つけてしまった。ちょっと触れただけで真っ赤になったり、手を繋いだだけで緊張してあたふたしたり。すごく気が強いと思ってたのに、意外に気弱なとこあるしさ、もう今は椎奈以外目に入らないんだよ。もし今オレ振られたら受験勉強なんて手につかなくなってしまうよ。お願いだから、椎奈...」
そんな風に思われてたの?あたしみたいな可愛くない子を?
そう言われて、そう扱われるだけで自分が少しだけ可愛くなれたような気がしてしまう。ちょっとだけ自信を持ってもいいんだろうか?でも、いつになったらあたしはその気持ちに答えることが出来るんだろう?そう考えるとわからなくなってしまう。最近は手を繋ぐぐらいは何とか平気になった。だけど、ちょっと気を許すとキスとかしてこようとする時があったりするんだもん。真剣な目で見つめられるコトもあるし...あたしの中ではまだ彼はトモダチだったから。ちょっと怖かったりするんだ。
なのにこんな風にいわれてしまうと、いくら理由を並べても断れなくなってしまう。トモダチだから余計にどうしていいか判らないよ...
もしかして、あたしって、工藤以上に優柔不断?あいつに説教できないじゃないのよ...
「椎奈?」
どうしていいかわからなくって、返事できないままうつむいてしまった。
「お願いだから、今まで通りトモダチでいいよ。カレシに一番近いトモダチでね。それでお互い受験頑張って、ちゃんと合格したら、それからはちゃんと付き合って欲しい。今度の付き合うは、ちゃんとカレシカノジョでスタートしよう。それまではオレも我慢するし、頑張るから勉強。」
受験が終わって、それでちゃんと付き合えるんだろうか?
あたしはまた返事できないまま下を向いていたら、さっとキスされて抱きしめられていた。
「ちょ、お、岡本くん!」
腕を突っ張って見たけど結構力強くって、怖かった...
一瞬のコトだったけど、唇に触れるか触れないかの感触が残っている。
「今まで我慢してたんだからね。予約分だよ。もう手出さないから、受験が終わるまで、今だけだから...」
ちょっとパニックで、わけわかんなかった。
岡本くんの腕から出してもらうまでに、今まで通り話やメールくらいはさせてって約束させられた。
真っ赤な顔してるあたしを見て、また可愛いって言って髪にキスしてきた。
これってもう完全にカレシカノジョ状態じゃないの?あたしはこの急展開に全然ついていけなかった。
 
あたしの、ファーストキス...持ってかれちゃったし...
これが本当に好きな人なら、夢のシュチエーションだったかも知れない。だけど、パニック起こしてるあたしは何も判断できない。だけどどちらかっていうとキスは嫌だった。どうしていいかわからないまま、あたしは自転車を飛ばしてうちに帰り着いて、それから顔を洗った。何度も...
消せない、だけど、自分が蒔いた種なんだ。ちゃんといえなかった自分が悪い。
キスされてわかった。岡本くんとキスしたいって思えない。
そうなんだ、トモダチとキスしたいなんて思わないもんね。あたしがキスしたいのは...そう考えると余計悲しくなった。
だって工藤の顔しか出てこなかったんだから...
 
 
「あんたね...好きでもないのに付き合ってたの?」
とうとう京香に相談したんだけど...
「でも最初はトモダチからって、それにトモダチとしては嫌いじゃないって思ってた。」
「でも好きじゃないんだよね?その気持ちが変わらないんだったら、さっさと断れば?」
「でも...今はなんか断りにくいんだよ。メールとかで、受験もあたしがいるからがんばれるとか言ってこられると...」
「椎奈、あんた優し過ぎ!っていうか優柔不断だよ。別れた後もオトモダチでいたいなんて思ってないでしょうね?岡本はあんたのこと本気でしょう?だったら今すぐ断るべきだよ。言いにくかったらあたしが言ってあげるよ。」
「うん、でも...自分でちゃんというよ。」
「そう?椎奈はすぐ全部自分でやろうとするから...たまにはこうやって頼りなさいよね。未来も心配してたよ?工藤なんか少しぐらいは相談してもらえるって思ってたみたいだよ。いっつもじぶんが頼ってるからって。」
「そうなんだ...」
でも、相談したくなかったから。無理やり話題振ってきても流してた。
「あ、でも工藤も当分余裕ないかもね。例の女子大生のカノジョ、バイト先で新しい男が出来たんだって、工藤今すっごく荒れてるから、椎奈も近付かない方がいいよ。」
「そ、そうなの??」
そっか、別れたんだ...あんなにも彼女に夢中だったのに。
「あ、だったら今断らない方がいいかもだね。」
「え?なんで...」
「岡本、工藤のことかなり気にしてたから。工藤に椎奈のことかなりけん制してたみたいだよ。だから工藤も心配してたんだよ。あんたはトモダチだって言ってるけど向こうはそんな気全然ないんでしょ?嫉妬心丸出しの男だったから、ってさ。椎奈はなんにも知らないぶん傷つくんじゃないかって、工藤も土屋も気にしてたよ。今断ったら工藤とのこと疑いまくるだろうから、ちょっと様子見てからの方がいいとはおもうけど、その時はちゃんと相談しておいでよ。」
「うん、わかった...」
京香の言葉が遠くに聞こえていた。
工藤があの女子大生と別れた。本気だったのに、あいつ大丈夫だろうか?
そんなことばかり心配になっていた。
 
 
次の日、工藤のことが気になって彼を捜していた。休み時間も話しかけられる雰囲気じゃないほどすごく暗い顔。ううん、どっちかって言うとイライラと怒ってる感じだった。
あたしは放課後を待って工藤と話するつもりだった。親友として...
色々と探したけど、工藤はどこにもいなかった。あたしは諦めて教室に戻った。
「工藤先輩、カノジョと別れたって聞いたんですけど、よかったらあたしと付き合いませんか?」
誰もいないと思ってた教室に工藤と、告白している2年の女子がいた。
ああ、居たんだ、ここに。でもまたこんなシーン見なきゃなんないんだね。
「悪いけど今はそんな気になれない...」
え?聞き間違いじゃないよね?はじめて工藤が女の子の告白を、カノジョがいないのに断ってる??信じられなかった。
「前のカノジョ忘れられなかったらそれでもいいんです。あたし待ってたんです、先輩がカノジョと別れるの。そしたら告白しようって。ね、とにかつきあってみませんか?あたし忘れさせる事出来ると思うんですよ、前のカノジョのこと、ね?」
ゆっくりと工藤に近づくその子は、上目遣いで手を工藤の胸の上に置いた。
その子を見ている工藤の冷たい視線。知らない、あんな目をした工藤は...
「何されても文句言わない?オレ今普通じゃないかもだけど...」
「いいですよぉ、先輩にならなにされたって...」
すごく色っぽい表情で笑う彼女。まるで誘うように...
「あん」
工藤はその子に覆い被さり、激しくキスをはじめた。そのまま手が制服の中に潜り込んでいく...
うそ、やだ、ここでやる気??見たくない、こんなの見たくないよ!帰ろう、さっさと帰ろう!あぁ、でもあたしの鞄教室の中にあるままだった!どうしよう、帰れないよ...
「あぁん、先輩...はぁっ...」
甘い声を上げ始める2年の女の子。きっとはじめてじゃないんだろうな、余裕すら感じる。でも一番余裕なのは当の工藤本人だろう。工藤の手は彼女の胸を激しく触っていた。なのに冷めた目のまま...まるで工藤じゃないみたいだった。
逃げ出したいのに逃げ出せなくって、あたしは耳をふさいで座り込んでしまった。
「くそっ!」
甘くしだれかかるその子を工藤は引きはがした。
「あぁん、先輩?どうしたんですか、このままここでしてもいいですよ、あたし...」
「悪い...送るよ。バス?」
「はい。」
「じゃあ、自転車取ってくるから校門のとこで待ってて。」
「じゃあ、校門のところで、先輩。」
乱れた衣服を戻して工藤をもう一度見つめて微笑むと彼女は誇らしげな顔して教室を出て行った。あたしはとっさに身を隠したんだけれども...
「椎奈、そこに居るんだろ...もう入ってきていいぜ。」
気づかれてた?そうだよね、机の上にあたしの鞄が置き去りだもんね。
「ごめん...」
見ちゃったからごめんだ。あんな工藤見たことなかったから、少し怖くてそっと教室の中を覗いて、あたしの机とずいぶん離れたとこにいる彼を確認して教室に入った。
顔も上げられないよ、こっちが恥ずかしがるようなことして...今までああやって女子大生の彼女とか抱いていたんだろうか?あの子だって感じてたみたいだった。すごく嬉しそうで...
「なあ、椎奈、女ってそんなに簡単にえっちできるのか?」
「えっ?」
いったい何を聞いてくるんだ?
「好きじゃなくなっても出来るんだろうか...千里のやつ、別れようって言い出す前にいつもどおりオレに抱かれて、平気な顔してるんだ。女ってわかんねえよな...さっきの子だって、オレは好きだとも付き合うとも答えてないのにすぐにその気になって...なぁ、おまえもそうなのかよっ!」
「く、工藤、何言ってるの?」
「岡本がわざわざ報告に来たよ。受験でおまえとしばらく離れるけど悪い虫が付かないように協力してくださいねって。椎奈はもう自分のものだからって...おまえまだあいつとはトモダチだって言ってたじゃないか、なぁ、構わないのか、トモダチでも、別れる男でも、答えろよ、椎奈っ!」
いつの間にか近づいてきていた工藤に肩を掴まれる。
「やっ、なに...?」
びくりとふるえて顔を上げるとそこにはさっきよりも辛そうな顔をした工藤がいた。
「平気なのか、たとえばオレがここで今おまえを抱いたとしても...」
工藤の顔が近づいてくる。今までこんなに近くでなんか見たことない、あの岡本にキスされたときにこのくらいの近さになって、それがすごく怖くて...
「く、工藤、何言ってるの...?」
まさか、工藤がそんなことをしようとするなんて思えないから、あたしは怖くなる気持を押さえて聞いた。
「カレシが他にいても、オレとキスしたり、さっきみたいなコトできるのか?」
その目の真剣さにあたしは後ずさりして、机にぶつかった。工藤の指があたしの肩に食い込んで痛かった。
「椎奈、教えてくれよ、なあっ!」
工藤なら、その言葉が頭をかすめた。けど、工藤が欲しいのはそんな答えじゃない。あたしには岡本ってカレシが居るって思ってるんだ。それに、工藤はあたしのこと女だなんて思ってないんだから...工藤は今でも千里ってあの女子大生が好きなんだ。それなのにこんなことをしようとしてるの?あたしは、さっきの子と同じ扱いされてるの?
そんなの嫌だった。あたしは力一杯工藤を跳ね退けていた。
「出来るはずないじゃない!女だって好きな人じゃなきゃやだよ!それに、他の女を好きだって言ってる男になんか抱かれたくないわよ!」
机を倒して床に座り込んでいた工藤は脱力したように力を抜いていた。
「そうだよな、椎奈、ごめん。オレどうかしてたよ。千里がああだからって、他の女がみなそうだとは限らないよな。」
「そうだよ、そんなに簡単に誰ともそういうコトするわけないよ。」
「ごめん、岡本が居るのに悪いことしたな。おまえはそんな奴じゃないのに...」
そういって立ち上がるとあたしをぎゅって抱きしめた。
「く、工藤っ!?」
目眩がした、一瞬抱きしめられて、岡本くんにそうされたときとの違いがはっきりわかってしまった。喜んでるんだ、驚いてもいるけど、工藤にそうされて嫌じゃない自分がいるんだ。やっぱり、あたしは工藤が好きなんだ。こいつが誰を好きでもあたしは...工藤の学生服の匂いがあたしを包んでいた。
「あ、悪い、椎奈、つい...」
自分のしてることに驚いた工藤はあたしを引き離した。あと10秒遅かったら、あたしの手は工藤の背中に回されてたかもしれない。
解き放たれてもあたしには彼の香りがまだ鼻腔に残っている気がした。あたしは今間違いなく工藤に抱きしめられたんだ...
「今のは親友に対するやつな。おまえみたいに信用できる女が居るの思い出させてくれてありがとうよ。オレ何ばかなことやってんだろな。」
工藤は自分の鞄を持つとあたしの頭をぽんと軽くたたいた。
「じゃあ、あの子待たせてっから行くけど、椎奈帰りは...岡本が居るから大丈夫だよな?」
 
 
「あ...」
工藤が教室から出て行ったあと、あたしは今更ながらに足が震えて、そのまま地べたに座り込んでしまった。
胸が、苦しい。のどの奥があつくって、何かがこみ上げてくる...さっきの一瞬の出来事に心も体も全部のタガがはずれたように溢れてくるあいつへの想い。
「ううっ、ぐうっ、うう...」
涙が溢れて、あたしはそのまま顔を押さえて声を殺して泣いていた。
違うんだ、やっぱり、気持ちは隠せないんだ...
心が、体が、工藤の方がいいって言ってる。
あたしは工藤じゃなきゃだめなんだ...
だけど...工藤からすればあたしは親友。その位置はたぶん彼の中では絶対に変わらない。彼の中には今はまだ別れた彼女が居る。もしかしたらその位置は他の女の子が取って代わる日も遠くはないかもしれない。それがさっきの子になるかもしれない。でも、その位置にあたしが来ることはない。絶対ないんだ...
 
あたしは涙が止まるまでそこにそうし続けていた。あたりが真っ暗になってからそっと学校をでた。自転車を飛ばして一気に帰った。泣きはらした顔は誰にも見られたくない。
そうだ、帰ったらお風呂に入って、それからゆっくり紅茶でも飲もう。
お気に入りの音楽かけて、それで落ち着いたら、ゆっくり休むんだ。
また明日からいつも通りの椎奈で学校に行かなきゃいけないんだから。
工藤にこの想いは気付かれちゃいけない。工藤は親友としてあたしを信頼してくれてるんだから、あたしが想いを溢れさせたら、あいつが困るだけ。岡本にいくら気持をぶつけられても困ってしまうように、きっと工藤も親友だと思ってるあたしにそんな風にされたら困るはずだ。いまのあたしにはよくわかる...
だから、さっきの想いは全部、あの闇の中に置いてきた。
あたしは工藤の親友なんだから。
 
 
「ちょっと、工藤の噂ひどすぎないか?」
「うん...」
それからしばらく、工藤は女の子をとっかえひっかえ遊び回っていた。ちまたの噂じゃヤッテは捨てらしい。さすがのあんまりな行動にあたしは驚いていた。だってあの時はちゃんとわかったって言ってたのに...
「工藤、あんた、何考えてるの?」
「んあ?今はなんも考えてねえ...」
放課後、帰ろうとする彼を生徒会室に引っ張っていった。その様子をみた後輩達はそっと部屋を出て行ったみたいだった。
「あの時言ってたことと、やってることが全然違うじゃない!あんたが今やってることは最低なことだよ?」
「向こうもそれでイイっていってんだよ!あの時だって...オレはおまえみたいにちゃんと信用できる女が居るって思ったから、彼女に謝ろうと思って送っていったんだよ。そしたら誘うんだぜ?続きやろうってさ。その子とヤッタあとなんて言ったと思う?『先輩って、予想してたとおりえっちが上手かったんですね。前のカノジョさんが女子大生ってきいてたから、期待してたんです。』だってさ、なんかえっちがしたくって振られたオレに近づいたみたいで、めちゃくちゃ腹が立って、その子のトモダチ誘ったらそいつも平気でオレと寝るんだぜ?せっかく信じたのに、オレも甘かったってわけだ。オレに寄ってくる女なんてそんなのばっかりだったら、もっと気楽にやろうって決めたんだよ。」
「それでも、ひどすぎるよ、今のあんた。受験する気ないの?」
「もういいって感じだね。ほんとはさ、あいつの行ってた大学目指してたんだよ。ちょっとレベル高かったけど、判定じゃBまで上がってた。でももういいんだ。行きたくねえ大学になっちまったからな。」
なによ、それ...口じゃもう前の彼女は忘れたって言い張っても、まだ未練たらしく思ってる訳じゃない?なによ、それ...じゃあ、あたしがしてきた想いはなんだったわけ?
猛烈に腹が立ってきた。拗ねた目の工藤をこれ以上見ていたくない。
「ふうん、負け犬みたい。」
あのとき、あたしはどんな思いで泣いたのか...それをこの男は...
「なんだと?」
「女に振られて、大学あきらめるの?小さいこと言ってんじゃないわよ!そんな惨めな自分選ぶの?今の工藤は女に逃げてるだけじゃないの!」
「椎奈っ!」
工藤があたしの襟首を掴んですごい形相していた。怖かった、男の子を本気で怒らせて、無事じゃ済まないかも知れなかった。でも言わずにいられなかった...
「女こましてそれだけじゃないの!心のないセックスはそんなに楽しい?そんな女ばっかりだって思われると迷惑なのよ!」
あたしは、違う...こんな工藤でも、気持は変わらない。ただ、親友で居るために押し殺したこの気持を伝えるわけにはいかないけど、だけど、このままじゃ工藤はだめになっちゃうじゃない?
「ちゃんと居るはずだよ、工藤のこと本気で好きな子、でも今の工藤じゃ一生気がつかないよ!女のことそんな色眼鏡で見てちゃ気がつかないよっ!!」
「うるさい、おまえに何がわかる?くそっ...」
すごい力で締め上げられて視界がかすむ。
「やめろ、工藤!」
生徒会室に飛び込んできた土屋が、工藤を後ろから羽交い締めした。
「大丈夫、椎奈っ?」
一緒に来た未来がさっとあたしをかばうようにして抱き留める。後輩達が呼びに行ったらしかった。
「げほっ、げほっ」
思わず苦しくて咳き込んでしまう。
「工藤、いくら何でも、何やってるんだよ!椎奈は女の子だよ?それを、いったい何考えてるんだ?」
土屋がばちんと工藤の頭をはたいた。
「椎奈、ごめんな。それぼくらが言うべきことだったよな。なあ、工藤、もう逃げるなよ、そんな女ばっかりじゃないって、椎奈たち見てたらわかるだろう?彼女たちは絶対におまえの言うようなことする女じゃないだろう?もうちょっとまわりをよく見ろよ、おまえがそんなんだから、そういう女が寄ってくるだけだよ。」
下を向いていた工藤が顔を上げずにそのままじっと、何も言わずに長い間そうしていた。みんな黙ってその様子を見ていた。
「椎奈、ごめん...」
小さな声でそういった工藤の頭をあたしはぽんぽんと軽く叩いた。
その日から工藤は以前のように受験勉強を再開した。
 
 
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〜あとがき〜
ああ、ほんとに鈍行...椎奈優柔不断です。
口に出して言えない想いを飲み込んでしまったつらさに椎奈は耐えられるのでしょうか?
次回、もっと痛い出来事が...苦手な方はお避けいただいた方がたぶん、いいです...ほんとうにすみません!!と先に謝っておきます(涙)
 

 

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