16.
 
「え?」
工藤があたしの腕をきつく掴んでる。
「誰でもいいんだな...だったら」
 
「オレがやってやるよ」
 
オレがって聞こえた。オレって...工藤?
嘘...工藤の代わりを工藤がするの?そんな...笑っちゃうわ、よ...
「オレにしとけ、そんな訳のわからない奴にさせるんだったら、オレでいいだろ?」
「なっ...」
思考がうまく働かないよ...でもそれだけはあり得ないのに?
「ま、出来るかどうかはやって見なきゃわかんないだろうけどな。けど、それで椎奈が次にいけるんなら...相手探しに行くまでもない。オレなら無料だぞ?おまけに慣れてるし、後腐れないようにしてやるから。訳のわからん相手にわざわざ金払ってまでさせてやることはない。」
「工藤、本気?」
「ああ、おまえが本気でバージン捨てに行くって言うんならな。けど、おまえ、本当は藤枝がよかったんだろ...?」
そう、思ってるんだ...けどそう思ってもらってる方がいいかも知れない。
でも何でこんなこと言い出すんだろう...いくら親友でも。そっか、工藤にとってその行為はそんなにたいしたことじゃないんだ。食事ぐらいの感覚なのかな?割り切れるんだったら親友でも構わないんだ。
「でも、工藤いつも言ってたじゃない、親友とは絶対男と女の関係にはならないって、あたしにはそういう気にならないんじゃなかったの?」
「まあな...だからこれは治療だ。ちょっと強引だけど、藤枝の代わりにはならないだろうけど、変な男にやられるくらいならオレがやってやる。その代わりオレの条件も飲めるか?」
「条件?」
「ああ、オレは...親友の椎奈を失いたくない。だから、そうなっても俺たちはトモダチだ、それはかわらない、一生な。」
「うん...」
一番難しいかも知れないけど...だって、そんな関係になったとしても、あたしは一生工藤を見てないといけないんだよね?親友として、工藤が彼女作って結婚して父親になって...それ全部見てないとだめなんだよね?
「わかった、じゃあ、治療開始だ。今までの男たちみたいに、やめてくれと言ってもオレはやめないぞ覚悟はいいか?」
「ちょっと、本気...っ?」
「まかせろ、ちゃんと感じて、次に男に抱かれるときちゃんと身体が反応するぐらいまでにはしてやるよ。」
「ええっ?」
「今日一回でっていうのはちょっときついかも知れないけどな。」
ニヤって片方の口角をあげて笑う。うそ、マジ?
「でで、でも、その気になんかならないでしょ?あ、あたしなんか相手だったら、ねっ?」
「大丈夫だ、ほどよく酔いが回っておまえが女に見えるよ...」
「きゃっ」
あたしの腕を引いて立ち上がらせるとそのまま後ろのベッドに押し倒される。乱れたままのシーツからかすかに工藤の香りがした。
でも...どうしよう?さっきのバージンを捨てに行くは、半分冗談で半分本気だった。
だってどう考えてもあたしは工藤がいいらしい。だったらこんな申し出ありがたく受ければいいんだけれども。でも、それは愛情じゃないんだもの。ただの友情?ううん、同情だよ。誰ともエッチできないかわいそうな親友に同情して、一回だけ相手してやろうって言ってるんだ。それとも工藤はあたしの気持ちに気がついてるの?もしそうだとしても、工藤がそうしてくれるなら構わない...。後の気持ちなんてもうどうでもいい。この後友情も全部失っても構わない。8年間手に入れられなかったものが、見せかけでも手にはいるんだったら...
あたしはカタツムリじゃなくなる。本当は気持ちのすべてをさらけ出したい。伝えてしまいたい。この思いを全部。だけどそうすると工藤を傷つけてしまう。だったら、このまま...
「こんなつもりじゃなかったから...かなり飲んじまったけどな。」
工藤がネクタイをゆるめてするっと抜くとベッドの下に落とした。Yシャツのボタンをはずすとその隙間から工藤の裸の胸が見える。意外と厚い胸板、鍛えてるんだろうか?
「椎奈...」
工藤の顔がゆっくりと近づいてあたしに覆い被さってくる。お酒臭い息がかかる。
「く、工藤...」
「できるだけ優しくしてやるから...力抜けよ。おまえはオレにとって誰よりも大切な親友だからな。」
工藤がそっとあたしの額にまぶたに頬に、キスをする。親友の言葉だけが突き刺さる。嘘でも好きだと言われたら...あたしは...
「ここは本当に好きな奴にとっとけよな?」
そう言って唇を避けて、耳、うなじ、そしてブラウスのボタンを開いた肩先へとキスは降りていく。くらくらと眩暈を起こしているような感覚だった。優しいキスにあたしは酔う。
そっか...本当の恋人同士じゃないから唇はだめなんだ...そうだよね、でないと彼女にも悪い...きっとこんな関係は彼女には内緒なんだから。
「あっ...」
キスが降りていくたび身体は敏感になる。工藤の指があたしの胸に優しく触れる度に身体が震えるように跳ねた。
「ふうっ、んっ」
「なんだ...結構敏感じゃないか。不感症ってわけじゃないんだな?」
からかうようにそう言って胸に顔を埋めた。
今、あたしの身体に工藤が触れてる...あたしは、相手が工藤だって言うだけで、身体が求めはじめてることに気がついていた。
あっという間に身体から衣服がはぎ取られていく。工藤はあたしの上で着ていたYシャツを脱ぐと床に放り投げた。
「目を閉じて好きな奴を思い浮かべててもいいぜ、大丈夫、ちゃんと気持ちよくしてやるから...」
酔って少々のふらつきがあるものの、工藤は念入りにあたしの身体を慣らし、開いていった。
「やっ、ん...あぁん...はぁはぁ...」
息が荒くなっていく。こんなとこが弱いなんて...自分でも知らなかった部分が目覚めていく。隅々まで丹念になで上げ、舌を這わされる。酔いと重なってどんどん意識が飛ばされていく。
「く、工藤...あっ、もう...おかしいよ...身体が変になるっ...工藤ぉ...」
「圭司って呼べよ、今だけでも、な?椎奈...」
「やぁ...け、圭司...」
何度そう呼びたいと思った名前だろう。名字で呼ぶことで友達の地位を守っていたようにも思う。形だけのことだけど、いつも名前で呼ぶのは彼女の特権だったから。苑子が『工藤くん』から『圭司』に変わったのがそのあたりだったし...きっと今日を逃したらもう一生そう呼ぶことなんかないんだろうな。
「はぁはぁ...圭司、圭司っ...」
酔いも合わさって意識が白濁していく。もう怖いとか、どうしようとかいった迷いも感じないほどだ。
「圭司っ、どこ...?」
両手を伸ばしてカレを捜す。あたしは今どこにいるんだろ?カレのいる場所すらわからない。ただあちこちにカレが触れておかしくされてるだけ...
「ん?椎奈、ここだ...おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫じゃないっ...ふうんっっ」
こんなことまでするんだろうか...足の指までなめあげられて、あたしはすっかり身体から力が抜けきっていた。
「椎奈って...こんな顔するんだな...」
「えっ?」
「可愛いな...」
そんなこと言われたの初めてだよ...嬉しい。それが今だけでも、今この瞬間、可愛いと言って抱かれてるんなら、もうそれでいい。
嬉しくって、思わず涙が出そうになったその瞬間、カレの手によって膝が開かれた。晒されたその付け根に、湿った温もりを感じた。圭司の舌にがゆっくりとそこを舐めはじめる。
「ふぇ...何...やだぁ、そんな...っ!!」
翻弄されながらも、そこに与えられる快感にだけ揺れていた。
決して指を入れようとしなかった。あたしが怖がってることを知ってるから?
「心配するな、オレに任せればいい。」
その舌先が一番敏感な蕾をかすめた。
「やぁうっ...くぅ...」
こんなの知らない...身体が沸騰していく。神経がむき出しになっていく...
こんな、甘い...刺激
「一度、イケばいい。そうすると、少しは楽になるし、痛みもましになるだろうからな。」
何度も往復されながら最後に敏感な部分をきつく吸い上げられた。
「ひゃぁっんっ!!」
もう、だめ...背中を大きく反らして、あたしは身体をはじけさせてしまった。
「あっ、あっ...」
初めての感覚に震える身体...
「いったみたいだな...初めて、だろうな...こんなに震えて。椎奈...」
優しく身体を抱き留められる。あたしはいつの間にか泣いてしまってたみたいで、その涙もキスでぬぐわれて、指先まで震える敏感な感覚を、もてあましながらカレの腕の中で少しだけ安堵感を覚えた。
「あ、あたし...イッたの?」
「ああ、おまえのイクとこって、すごく可愛いな...なんか子供に悪い遊び教えたような気分になるよ。」
「なん、で...?」
「おまえほんとになんにも知らない身体だったんだな。誰にも最後まで許せなかったぶん、すごく綺麗なまんまだったんだって思ってさ。ほんとにオレでいいか?」
「圭司さえよければ...このまま、して...」
「わかった。おい、椎奈、寝るなよ、これからなんだからな。」
カレに身体を預けて、その直に伝わってくる温かさに心地よく目を閉じかけていた。
「え...?」
「オレも結構辛い...」
「なんで?」
「おまえ、反応よすぎだ。」
どさっと再び背中からベッドに落とされて圭司が覆い被さってくる。開かれた膝の間に身体を滑り込ませて、カレのモノがゆっくりとこすりつけられてるのを感じた。
やだ、怖いよ...どうしよう?
今まで力の抜けていた身体に力が入る。
「目つぶっててもいいぞ。それが怖かったらオレを見てろ。痛かったらオレにかみついてもいいから、とにかく息を吐くんだ。おまえは息を吸うなよ?いいな。」
発作のことを考えてるんだろう。でもどうやって吐いてばかりいるのよ。
「椎奈、力抜いて...」
「や、やだ...怖いよ、工藤、怖いよ...」
「やめて欲しいか?」
カレの声は静かだった。けど肩で息してる。もしかして、圭司も苦しいの?
「怖い...けど...」
やめてとは言えなかった。それがあたしの望んだことだから...
「悪いけどオレももうやめられない。怖くないから、オレを信じろ、いいな?」
「...うん」
圭司の腕が膝裏に回されて蛙のように下肢をひろげられる。ゆっくりと何かが侵入しようとしている。
「あああぁっ..ぎゃっ、痛っ、ぐっううっ...痛っ、あがぁっ...」
めりめりと音がした気がするほどの衝撃を身体に受けた。引き裂かれるような痛み...これ以上ない奥まで入り込まれて、動けない。圭司もしばらくはじっと動かないで居てくれたけど...痛いよぉ...
「あぁ、け、けいじっ...ひっ!」
少し離れたとこに見えるカレの表情は苦しげに動いていた。あたしはすごく苦しいまま、受け入れたカレ自身を感じていた。
「あっあっ...ひっ」
「う、動くな...し、椎奈...くっ」
「圭司...っひっ...」
身体がまた固まり始めていた。呼吸が一方方向に乱れて、身体がひくひくと硬直、し始めてる?
「椎奈、だめだ、息を吸うな、吐けよ!うっ、そんなに、締めるなっ!おいっ...くうっっ」
「ひっ、ひっ、やっ...ひっ、もっ...ひっ」
体中の筋肉が縮こまっていく。過呼吸?身体が...動かない。
「だめだっ、椎奈っ抜けない、くっ!!くそっ」
「んんっっ!!」
圭司の顔が覆い被さってくる。いつかのあの時のように唇を塞がれて圭司の呼気が流れ込んでくる。あたしは無意識にその唇を受け入れてそれに答えていた。
「ふうんっ...んっ」
「うっ、あぁっ!」
圭司はあたしから唇を離して身体を反らせるとぞくっとするほど色っぽい声を漏らすと一瞬苦しげに身体を麻痺させて、そのあとばさりとあたしの上に落ちてきた。
身体の奥に熱い温もりが注ぎ込まれた。
「ご、めん...」
ま、さか...だけどあたしはまともな思考能力を失いつつあった。
「まさか、イカされてしまうなんて...初めてでろくに濡れてないのに、ゴムはかわいそうだと思ったんだ、けど...だから吸うなって、いった、だろ...っ」
苦しげにそう伝えると、また唇を重ねて息を吹き込まれる。いつかの人工呼吸が何度も繰り返されてようやくからだから力が抜けていき、強ばりが緩んで元に戻っていく。それと同時に唐突な睡魔に襲われて、あたしはそのまま眠ってしまった。
 
 
「ん...」
暖かいモノに包まれて目が覚めた。
それは工藤の腕だった。あたしはカレの腕の中で眠ってしまったらしい。
やだ...まるで恋人同士みたいな...いつか章則とベッドで過ごしたときのような温もりだった。
「目、覚めたか?」
「工藤...」
圭司って、もう呼べなかった。あれはあの時だけの夢だから。とっくに目を覚ましてたカレはあたしの顔をじっとのぞき込んでる。少し怒ったような、照れたような、ちょっと幼い工藤の表情だった。
「おまえ、あれはないだろ?」
「な、なによっ?」
「あんな時に痙攣起こすなよ...いくらオレでもあの締め付けに持たなかっただろ?ただでさえ...」
「?」
「いや、だから、その、おまえの中にだな...くそっ、ごめん!」
こんな失敗したことないと工藤は子供のような顔で愚痴た。
あたしがくすくすと笑うと、ベッドから降りてあたしを横抱きに抱え上げた。
「な、なに??」
「風呂、もう遅いかもしれないけど、洗っとかないとな。オレも寝ちまってたみたいだからそのままだし...」
バスルームに入っていくと、いつの間にか張られたお湯の中にそっと降ろされる。
「ごめんな...椎奈、おまえ予定日は大丈夫か?体温は高かったけど...」
一瞬何のことかわからなかった。そうだ、避妊、してなかったんだ。さっきからそれを謝ってたんだ。そうだよね、もしものことがあったら困るよね。
「生理もうすぐくるから。」
「そっか」
工藤はほっと息をついた。
「オレは軽くシャワー浴びて出るからおまえ、ちゃんと、できるか?」
あたしは頷いた。恥ずかしくて顔が上げれないのもある。だって工藤の裸なんてまともに見たことなかったもの。すごく綺麗に筋肉がついて、思ったよりもがっちりしてた。
工藤がシャワー浴びてる間あたしはどうしていいかわからず湯船の中で縮こまっていた。
「オイ、大丈夫か?なんならオレが洗ってやろうか?」
「い、いいよ、そんなはずかしいよっ!」
なんてこと言うのよ??工藤はにやにや笑いながら出て行ったけど、えっちのあとってそんなことまでするの??
 
工藤が出て行った後、立ち上がって身体を洗おうとして何かが身体の中からでていくのがわかった。赤い血に混じった工藤のモノ...
あたし、しちゃったんだ...それも工藤と。ちゃんとじゃないかもだけど、出来たんだ。嬉しいような悲しいような...だって、愛されてしたわけじゃない。
その現実との落差にあたしは一気にからだから熱を引かせていった。
酔ってたとはいえあたしすごいことしちゃった?工藤は平気...だよね。女の人一杯知ってるし、あたしなんてそのうちの一人にも数えられないくらいなんだしね。
だけど、あたしこの後も親友の振りしていられる、かな...?カレの温もりや、最中の切なげな表情とか、声とか、全部知ってしまったのに、平気で居られるかな。
でも、平気でいなくっちゃ、ね。だけど...
あたしはこみ上げてくる嗚咽を隠しきれなかった。だって、結局はあたしの片思いは変わってないんだから...ちゃんと切り替えなきゃ。工藤が優しいのは親友としてなんだから...
だけど、あのとき、工藤以外の男だったら、あたしが発作起こしてるのに気がつかなかっただろう。だから...これでいいんだ。
あたしは用意されていたバスタオルで身体を拭くと、着るモノがないことに気がついて、そのままタオルを巻いて部屋に戻った。
「大丈夫か?」
ベッドのとなりをあけてここに座れという。俯きがちなあたしの髪を優しくかき上げてすごく優しいトーンで囁いてくる。
何でこの男はいつもより優しいんだろう?そっか、女性にはみなこうやって優しいんだ。あたしはこんな扱いされたことがないだけで。
「なあ、椎奈。オレとしちゃすごく不本意なんだけど...こんな結果。」
「なにが?」
そんなに後悔してるの?あたしにしたこと。やっぱりやめておいた方がよかったってこと?
「おまえにイカされてこれで終わりって言うのはな...それに結局おまえ発作おこしちまったしな。」
「はぁ?」
「おまえさ、次に発作起こさずに、えっちする自信あるか?」
「そ、それは...ない、と思う...」
「だろ?まだ気持ちよさとかわかってないだろ、やっぱり...」
「な、にいってるの、工藤...?」
「おまえ、今日は休みだっていってたよな?」
時計は朝の8時を示している。仕事なら急がないと間に合わない。あたしは頷く。今日は久々の休み、仏滅の土曜日。
「だったら時間はたっぷりあるな。」
工藤が不意にあたしの腕を引いてまたベッドに組み敷く。
「ちょ、ちょっと、まって!」
何ナノこの体勢?
「またない。」
もうお酒も抜けてるし、さっきまでお風呂の中で泣きはらしてたのだ、あたしは。ちゃんと切り替えたんだから、もう、だから、そんなつもりは...
「んっ」
今度は最初からキスされた。しないんじゃなかったの?なんで?
「椎奈...」
合わさって、角度を変えていくキス。苦しくて開けられた隙間から忍び込んだ舌先が歯列を割り、上顎を舐められ、そしてようやく答え始めたあたしの舌先に何度も絡められる。これって、工藤と初めてのキス?今までのは全部人工呼吸だもん。でも何で今更こんなキス...
「ううっん...」
今度は探るような仕草でなく、すでにもうわかってしまったあたしの身体の感じやすいポイントを的確に攻めてくる。
「やぁ...んっ」
身体は覚えてるんだ...痛かったけど、確かに喜びもあった。好きな男と一つになれた喜び。たとえ一方的な想いでも...
「椎奈、ほんと感じやすい?そう言えばおまえってやたらくすぐったがりだったっけ?」
ふざけてくすぐられたこともあったっけ?
首筋に埋められたまま囁かれて、それだけで身体がびくんって跳ねてしまいそうになる。
「ココも弱い?」
反らされた背中、腰のライン。這わされていく指先。
「やぁ、だめっ...もう、十分だから...く、工藤...」
「圭司って呼べよ...でないとほんとに親友とヤッてる気分になる...」
「もう、いいよ、あたし...これ以上は...」
「オレの気が済まないの。イカされたまんまじゃかっこわるいだろ?それに、痛いだけじゃなくて、もっと気持ちいいって教えてやるよ。」
「嘘っ、やだ、初めてだったのに...そんなの無理だよっ!」
「大丈夫、おまえ感度いいから次からすごくよくなるって。」
「いやぁ...あっ!」
バスタオルを抜き取られて、一糸まとわぬ姿に戻された。工藤の視線が遠慮なく降りかかってくる。
「なに...見ないでよ、あたし綺麗じゃないから...」
「いや、綺麗だよ...この筋肉の付き方とかな。なぁ、高校の時に比べると筋肉落ちたか?凄く女らしい体型になってるな。」
「見ないで、ほんとに...工藤の知ってる女の人たちみたいに綺麗じゃない...あたしなんか...」
「何言ってるんだ?椎奈はすごく綺麗だぞ。」
「嘘っ!」
「嘘じゃない。おまえにお世辞言ってどうするんだ?こんな綺麗な身体、先にいただいちゃっておまえの未来の彼氏に申し訳ないくらいだよ。」
嫌だ、そんな言い方...今だけでも彼女扱いして欲しいなんて、贅沢なの?
胸に唇が降りてくる。そのまままた工藤の愛撫が始まっていく。
「ああぁっ!やぁっ、圭司っ!!」
それから何度もイカされて、二度目に繋がった時は最初に比べると優しくゆっくりとしたその行為に、知らず知らず甘い声を漏らしてしまっていた。
 
昼過ぎに解放されるまであたしは何度も工藤と交わっていた。信じられないほどの体力を使ってあたしはもうくたくただった。工藤の体力ってすごいよ...
「椎奈...腹空かないか?」
「ん...もう、動けない...」
工藤は電話で宅配ピザを注文してくれたみたいだ。20分以内に届けられたそれは床に並べられた。二人でそれを平らげた後コーヒーを入れるために台所に立った。
着るモノのなかったあたしは工藤のYシャツを借りていた。昨日カレが脱いだシャツ。工藤の香りがしていて、あたしはそれが嬉しかった。
だけどそろそろ終わりの時が近づいている。いつまでもこうしていられない。あたしは愛され方を教わっただけなのだから。工藤にそんな気持ちはかけらもないはず。あるのは友情だけだ。今日だけそれに目をつぶってくれたんだ。それに彼女さんに悪いよね?こんなことしてる親友なんていないもの。
 
台所は意外と整理されていた。そんなに使い込んでることはないけど、ちらっと見える香辛料に女性の手を感じる。
「えっと、何がどこにあるのかな?砂糖とミルクは?」
「おまえブラック飲めないもんな。」
工藤に笑われる。
「飲めるけど、美味しくないから。」
あたしは昨日のんだブラックの苦さを思い出していた。どっちが幸せだったんだろう。形だけ工藤に抱かれるのと、あのまま藤枝に想われて抱かれるのと...
「あたしカフェオレにするわ。鍋は?工藤。」
牛乳しかないと冷蔵庫から取りだされたパックを見てあたしは、側にあったかわいらしいミルクパンで暖める。
後ろにずっと工藤が立ってる。やだな、緊張するよ...
「きゃっ」
いきなり工藤が後ろから抱きついてきた。その手が火を止める。
「やだ、なにするの?」
「椎奈の教育」
うそ...まだするの?もういい、これ以上やったら忘れられなくなっちゃう...
「も、もういい...もう十分だってばっ!やっ、これじゃ、あたし、おかしくなっちゃう...工藤...」
「名前で呼べよ...今だけなんだから、椎奈...」
「...圭司...」
立ったまま身体をほぐされ、工藤の指があたしの中に滑り込んでくる。
「あっ...」
前のように怖くはない。ただ...
「ああぁ...っ」
感じてしまうだけ。それが工藤の手だ、指だと思うだけであたしの身体は敏感になる。今日を忘れないように、全部覚えておこうとどん欲になる。
「もう、大丈夫だな、椎奈...」
耳元でカレの声が掠れる。もう大丈夫...もう終わり。だよね?
「...っ」
あたしはまた、こみ上げてくる涙と戦う。さっき切り替えたのに...またこんなことするから...心とは裏腹に身体は工藤に向かっていってしまう。好きな人にされるのと、そうでないのはここまで違うモノなのか?あたしはもう一生工藤だけでいい。ほかの男なんていらない。今日この瞬間までの思い出だけでいい。あたしは大きく息を吸い込んで涙を堪えた。笑わなきゃ...
「椎奈?」
「ごめ...ん、もう大丈夫だよ...あたしは、もう、怖くないよ。男の人も、セックスも、全部...圭司にいっぱい勇気と優しさもらったから...」
あたしはまた抱きしめられた。これで忘れなきゃ。
「次はほんとに好きな奴と、出来るか?」
「...うん、出来るよ...」
でもしない...あたしはあなただけでいい。
「そっか...な、椎奈?」
「ん?」
「もう一回、もう一度だけ、抱かせてくれ...それで親友同士に戻ろう。」
そう言われて嬉しかった。あたしは笑って頷いた。
またベッドに連れて行かれて、何度も身体を重ねたそのシーツの上で再び交わり合う。
「やぁっ、ああっ..んっ、圭司...圭司っ!」
「こんな、いいなんて...椎奈っ」
何度もカレの名を呼んだ。もう最後だから、これが最後だから。
カレもあたしの身体を褒めてくれた。すごくいいと褒めてくれた。
「椎奈、椎奈っ!」
激しく揺さぶられ突き上げられる。苦しそうにしていると唇を重ねられる。
「あっ、ふっう...け、いじ...」
泣いていた。絶頂の喜びと、愛のない、でも一方的な愛ならあるそんなセックスに寂しさを抱えながら、あたしはカレの首っ丈に捕まってキスをねだる。
「あぐうっ...」
薄い膜越しにカレのモノが放たれたのがわかった。
あたしは、目を閉じて眠った振りをした。
工藤が深く眠りにつくまで...
 
 
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〜あとがき〜
とうとうです。すごい展開になってしまいました。う〜〜ん、濃い??
お許しくださいませ。これよりまたとんでもない方向に話が行ってしまうかもです...
 

 

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