14.
 
仕事も3年目、慣れてきたし余裕も出来た。いやなこともあるけど、幸せそうなカップルの笑顔をみることが出来るのがあたしの唯一の幸せ。後輩も出来て、うかうかしてたら仕事をとられてしまうので気を抜いてなんかいられない。あたしの仕事へのテンションはますます高くなる一方だった。
それでもたまに、あたしみたいなのに興味を持つ物好きな人もいるらしい。何度か誘ってくる人、申し込んでくる人...
おかしいなぁ、あたしは髪もひっつめて、眼鏡かけて、化粧だって極力薄めで、制服のスーツもスカートは付いてるけどパンツしか履かない。いつだって走り回っていて、中上さんに少しは落ち着きなさいってしかられるくらいで、魅力なんて全然ないのに?
 
「望月さん、今晩飲みに行きませんか?」
にこにこって言うよりも、ちょっと唇の端をあげてにやって笑いながら誘いをかけてくる長身の男。
ちょうど昼休憩で社員食堂で食事をしてる最中だった。この男はいつもあたしの休憩時間に上手く時間を合わせてくる。同僚の藤枝史郎、一つ下の後輩で同じくウエディング部門で仕事している。そこそこ仕事の出来る男。はっきり言って一番もててるはず...
「でも今夜は...」
「明日は仏滅の平日で休みですよね?小室さんも一緒に誘ったら外泊出来るじゃないですか?オレも鎌谷誘うしね。」
鎌谷くんは藤枝くんと同期で、同じフロア担当の小室さんともみんな仲がいい。特に鎌谷くんと小室さんはさっさと付き合えばいいのに、小室さんが鎌谷くんより3つ上なのをずいぶんと気にしてるみたい。この二人をくっつけねばと皆で画策してるのは知ってるけど、それを口実にするつもりなの?
それに、ただ飲みに行くだけならべつにいいんだけど、困るんだ、藤枝くんは...
だって彼は結構もてるから。何人か狙ってるって言ってる子がいるのも知ってる。きっとこのメンバーで行くと目立ってしまう。このパターンはもう嫌気がさすほど経験してるからね...
きっと、あたしが他の子みたいに喜んでついて行かないのがおもしろいだけなんだろうけど。
「あたしなんか誘ってないで、フロア係のまりちゃんやいずみちゃん誘ってあげなさいよ。週末ヒマだってぼやいてたから。」
可愛いので有名な二人も藤枝くん狙い。そう返すとむっとした顔でこちらをにらみ返してくる。
「オレが誘いたいのは望月さんだから、あの子達は関係ないだろ?望月さんさえいいなら小室さんも鎌谷も誘わないんだからね。」
はっきりと言ってくれる...
ここまで強気に出られるのも困る。きっと最初に御礼だと言われて食事に付き合ったのが悪かったんだろう。
 
藤枝くんが就職してすぐにフロア係に配属された時、酔った客様が暴れてその方が持っていた飲み物が派手に自分に掛かったのを、通りかかった藤枝くんに理不尽に怒鳴り散らして絡んできたことがあった。最初に謝ったものの謝り方が悪いとか難癖つけられて、向こう気の強い彼はついカッとなったところにあたしが気が付いて、代わりにあたしが頭を下げたのだ。酔った男の人はあたしだって苦手だし、時々身体に触れてくる不届きな客もいたりして、あたしは特にそれを嫌うから、つい大げさに謝ってクリーニング代を忍ばせて事なきを得た。その時にあたしが口汚く罵られたのに彼が責任を感じたらしいんだけど、実際の藤枝くんはすぐさまそんなことが割り切れる人で、一度誘いたかったとか、また一緒にとか口上手く言ってくるのでそれ以降は遠慮させてもらってる。なのに懲りずに、何度も誘ってきて...
ほんとに放っておいて欲しかった。なぜなら、藤枝くんが誰かに似てるって思ってしまったから...
気の強そうな切れ長の目、自信たっぷりに笑う顔、時々皮肉っぽく片方だけあげられる唇の端。
工藤とよく似ていた。一番にてるのは声。顔は雰囲気だけだけど、背格好も、全体的に似てる気がする。並んでみれば全く別人なのは間違いない。
その似てる工藤は丁度去年一年間東京支社に出向していて、ほとんど会ってなかった。たまに本社に帰ってきたときや、盆暮れに顔会わす程度。このままの方が忘れられていいと思ってたのに、相変わらずしょっちゅうメール送って、電話してくる。あたしはまだ工藤が忘れられないんだろうか?彼女のいる親友のことが...今年はこっちに戻ってきてるけど忙しそうでまだ会ってはいない。
「あたし今日は学生時代の友人と飲む約束してるのよ。」
ふいにそれを思いだして口から出任せをいう。あたしの休みが決まったらゆっくり飲もうなんて言われてたけど...
「嘘でしょ、それ?オレと飲みたくないからってそんな嘘までつくんですか?」
「そ、そんなはず無いでしょ!嘘だと思ったら確かめればいいじゃない!いくらなんでもそんな嘘つかないわよ!」
つい頭に来てそう啖呵切ってしまった。
「じゃあそうさせてもらおうかな?」
「はい??」
にこにこ笑いながら『就業後に』っていいながら持ち場に戻っていった。
「え、ちょっと、藤枝くん...」
似てるって思ってたけど性格は全然違うかも...工藤がこんなに熱心に女口説いてるとこは想像できない。
「望月さん、えらく懐かれてるわね。」
「中上さん、でも...」
彼女にだけは男性恐怖症の話をしてある。そうでなければもし、仕事に支障をきたしてはいけないし、彼女にも迷惑が掛かってしまうから。もちろん、中上さんを信じているのもある。
「彼は、だめなの?」
「だめって言うよりも、このフロア一番人気ですよ?あたしは背中の視線が怖いです。」
「ほんとね、いい顔してるし、口は上手いものね。仕事もよくやってるからいい営業になるんだけど。でもね、あの調子でほかの子の誘い煙に巻いてるみたいよ。彼、悪くないと思うけど?」
そうは言われても、あたしは藤枝くんを見るたびに工藤と比べてしまうのだ。彼には悪いけど、それはちょっと辛い...
 
工藤は東京に行く前にあの大学生の可愛い子とは別れてしまった。遠距離は出来ないからっていうのが工藤の答えだった。でもあれだけマメに電話してくるんならやれたんじゃないかと思う。まあ、とんでもない時間もあったりだけど。
向こうで何人か付き合ったとか言ってたけど、結局今年またこっちに戻って来るときにまた別れてきたみたいだった。今はフリーなのか誰かいるのかまだ聞いてない。忙しいようだからまだ飲みに行ってないんだ。
けど、だめだ、このままだったら...藤枝くん、本気で付いてくる気なんだろうか?
あたしは速攻でメールを打つ、京香と三宅と工藤。未来と清孝にも打つ、<お願いだから今晩一緒に飲んでください!!理由は来ればわかるから、一生のお願い!>って念を入れて...
 
<おまえ平日の夜に言うか?まあ、デートもないから許す。行ってやるよ  圭司>
<いいわよ、で、泊まるの?明日じゃなくてよかったわ、明日はデートだったよ  京香>
<くそ〜〜オレが仕事忙しいの知ってて言ってるだろ?いきゃ〜いいんだろ?おまえには借りがあるからな。 智勝>
三宅は3ヶ月前、あたしがこの子ならと紹介したこと無事つきあい始めてるらしい。まあ、もたもたしながらだけど、ちょうどそんな素朴な女の子だったからね。
<悪い、納期が押してるんだ、パス  清孝>
慈悲も情けもない従兄弟だ。
<ごめんね〜今夜は10時まで仕事なの...ゆるしてちょ!  未来>
結局いつものメンバー。でもよかったぁ、その日に言ってOKなんて普通あり得ないもんね。みんなに感謝感謝!
 
 
「本気で付いてくる気?」
「望月さんが言ったんだよ?確かめればいいって。しょっちゅう断られてるんだから、理由ぐらい確かめさせてもらってもいいじゃないか?」
「はぁ...もう好きにして...その代わり確かめたら帰ってよね?」
「なんで、いいじゃないですか、きれいなお姉さん方と飲みたいじゃない?」
お姉様方って、京香しかいないわよ?あれ、女だって思いこんでない?まぁいいか。
「とにかく確認したら帰ってね。」
あたしはため息をつきながらなじみの居酒屋のドアを開ける。
「椎奈、遅いぞ!けど京香遅れるってさ、三宅もまだだぞ。」
「え...」
テーブルには工藤だけ。あ、それはあんまり嬉しいようで嬉しくない。
「ふうん、男の人なんだ。望月さんて男の人避けてるって思ってたのに違うの?」
「高校からの腐れ縁よ。そのうち他のメンバーも集まってくるから!」
あたしはそう言って工藤のいる座敷に向かう。
「ほう、あれが今日の飲み会の理由?」
「後輩なんだけど、しつこいから...あたしが今日は約束あるって断ったら確かめるってついて来て...」
いちおう来るメンバーには理由はメール済みだ。
「誘ってやらないのか?」
「まさか、ココまでっていう約束よ。」
「まあ、そう言わずに。二人しか揃ってないんだから...おい、椎奈の後輩とやら、こっちに来いよ一緒に飲もうぜ?」
「工藤!?」
「じゃあ、ちょっとだけお邪魔します。」
にやにや笑いの工藤の元へ、またまたにやにや笑いの藤枝くんが近づく。
「初めまして、望月さんとは仲良くさせてもらってます、同じ会社の後輩で藤枝史郎と申します。」
藤枝くんが社会人らしく名詞をだして挨拶する。
「こちらこそ、椎奈の高校時代からの友人で工藤圭司です。どうぞ」
工藤も名刺を返してる。あたしはそれを横目にチューハイと焼き鳥セットとサラダ盛りを頼んだ。
「藤枝くんも生ビール?」
「ああ、それでいいです。」
彼の分も注文する。工藤はすでに生ビールのジョッキを半分空けている。
「で、お二人の関係は?」
あたしが迷うことなく工藤の隣に座ったのがまずかったらしい。
「目の前にそう並んで座られちゃね、聞きたくもなるでしょ?」
そう続けられた言葉には少し険を含む。
工藤はしれっとしたまま「親友だけど、なにか?」と答えた。
「椎奈はオレが一番大事な親友だ。だからこいつにしょうもない男が近づくんだったらオレが邪魔するぞ。」
にやりと不敵に笑う。そうだ、敵意を見せられたらそれで返す。冷めてるけど、攻撃的な工藤...
「工藤さんから見たらオレは望月さんに相応しくないですか?」
「今日あったぐらいでそんなのわかるかよ。けどこいつのどこがいいんだ?確かにいい奴だよ、信用できる奴だし、いい奴だけど...あんまり女っぽくないだろ?色気なんててんでなしだし...」
喧嘩うってるのか?あたしはじろっと工藤を睨み付ける。
「工藤さんにならわかるんじゃないですか?媚びてくる女はもうまっぴらなんです。色気や可愛さ振り回してる女は中身がないじゃないですか?オレはそんな女よりも、仕事も一生懸命でいつだって笑ってる彼女がいいんです。」
「ふうん...ま、媚びてくる女も可愛いけどなぁ。」
「僕はそんな女はもういいです。工藤さんはそんな女の方がいいんですか、へぇ...」
だめだ、あたしより藤枝の方に火がついたみたいだ。笑い方にしても工藤を煽ってるよ...
「言うじゃないか。そりゃね、椎奈に目をつけるなんてたいしたもんだよ。けどなかなか落ちないぞ、こいつはな。それ覚悟できるんなら頑張ってみれば?」
「ちょっと、工藤?」
「なんか凄い自信ですね、工藤さん。まるで望月さんは絶対に落ちないみたいな言い方だ。」
藤枝くんの視線がきつくなってる。何ムキになってるのよ、もうっ!工藤は上部しらっとした顔でジョッキのビールをぐいっと飲むと、すかさずおかわりを注文してる。
「オレだって馬鹿じゃないですよ、好かれてないと思ったらココまでしつこくしません。少なくとも僕は嫌われてはいない。そうですよね、望月さん?」
あ、あたしに話し振らないでよ!だけど藤枝くんの視線がはずせなくて...答えなきゃいけない?
「藤枝くんは仕事も出来ていい後輩よ。仲良く仕事していきたいと思ってる。だから他の女の子と揉めたくない。それが一番よ。それとあたしは今の仕事を一生やっていきたいって思ってるから、邪魔されたくないの。」
「なんで邪魔だなんて...あの職場にいて結婚しないつもりですか?女の子はみんな自分の時はこうしたいなんてよく言ってますよ。ドレスもこっそり試着したりして...あれ、望月さんがしてるとこ見たことなかった?」
「ええ、着たことないわ。あたしはお世話がしたいだけ。自分でするつもりは、ないの。たぶん一生結婚には縁がないって思ってる。でも遊びでつきあえるほどさばけてもないし、忙しいもの。だから時間の無駄だから、もう構わないで。」
あたしはぴしゃりといってでる。出来れば工藤の前ではこんなこと言いたくなかったけど...思った通り工藤が少し驚いた顔してる。
「オレ申し込む前に、試しもなしで彼氏もいない女に断られるなんて納得いきませんよ。どんな条件だったら付き合ってもらえるんですか?」
あたしはため息をつく。
「おい、藤枝とか、おまえ椎奈と手繋げるか?」
「はい?繋いだことはないですけど...」
「繋いでみろよ。」
「工藤?なに...」
「まあ、任せろって。ほれ」
あたしの手はテーブルに出される。その時に工藤の手に触れてしまう。そしてすぐさま藤枝と握手っていうか手を取られる。あたしは真っ赤になりながらもその手をひくけどやたらと真剣な顔をした藤枝くんは手を離さない。かえって引き寄せて自分の方に近づけようとする。
「や、だっ...」
あたしは半べそになってたかもしれない。工藤の前で手を繋ぐのも、泣くのもどちらもイヤだったけど、取りあえず同僚である藤枝くんに手を掴まれる位は平気でも、それでも...
「はいおしまい。藤枝失格な。」
「え?」
工藤の手が藤枝くんの手を広げてあたしから離れさせてくれた。発作はこのぐらいじゃ出なくなったけどあたしは肩で息をしていた。
「わるいな、こいつ強引な男だめなんだ。せめて椎奈の表情見て手を引っ込めてくれたら譲歩しようかと思ったんだけどな。」
そう言い終わるとあたしの方を覗き込んで大丈夫かってきいた。
なんて荒療治するのよ...そりゃ工藤はあたしの嫌悪感がどの程度かなんてはっきりとはわかってない。前に少しはましになったかってきくから、顔見知りは手ぐらいは触れても平気だって答えてたけど...
「聞いてたら、すぐに離しましたよ...ずるいじゃないですか、そんなの聞かなくっちゃわからない。オレは諦めませんよ。」
「けどこうやっても嫌がらないくらいにならないと付き合うのは許さないからな。」
「きゃっ!」
いきなり引き寄せられて工藤の胸の中に納められる。
え、そんな...一瞬思考が止まってたと思う。次の瞬間、
「なにやってんのよ、工藤...」
京香と三宅が側まで来ていた。
「ん?椎奈の実験。」
あたしは目で京香に助けを求めた。けれども京香の興味はテーブルの向側の人物に向かっていた。
「誰、この子?」
 
 
一時間後5人ですっかり和んで飲んでいた。正確には4人、あたしは複雑な心境で飲んでいた。いつもより静かだったかもしれない。工藤も三宅も彼女持ちで、あたしに誰もいないと知ると藤枝くんは喜んでいた。
「椎奈、あんまり飲んでないみたいだけど、今日は調子悪いのか?」
トイレに立ったとき追いかけてきた工藤に呼び止められる。
「飲む気にならないだけよ。」
「まあ、そう怒るなって。こうしとけば個人的に誘われることも少ないし、そのときはオレらと一緒にすればいい。それで慣らして椎奈さえその気になったらいいんじゃないか?意外とまっすぐな男じゃないか。まあちょっと自信家で自惚れも強そうだけどな。」
あたしはもう誰ともつきあう気ないって言うのに?そんなにくっつけたいの?なんだか工藤の笑い顔がしゃくに障る。どうせ、また彼女が出来たんだろう。最近メールと電話が減ったし、今日はデートがないって返事だったし...
「よけいなお節介よ。藤枝くんすっかりその気みたいで...またこの飲み会に誘ってくれって言ってるじゃない!」
「いいじゃないか、そうやって慣れていけば。藤枝ももうちょっと成長しないと椎奈の相手にはならないだろうけどな、せめてオレぐらいはね?そうしたらちょっとは範囲広まるだろ?この中にいたら無茶はさせないし、そうでもしなきゃおまえぜんぜん相手探そうともしないし...」
「もう、やめてよ...そう言うの。あたし、誰ともつきあいたくない。もう、あんな思いしたくないから、お願いだから放って置いて、構わないで!!」
「何いってんだ?おまえそんなんじゃ一生彼氏もできないぞ?まさかあの結婚もしないって言うのも本気じゃないだろ?だからオレが親友として、椎奈に相応しい男を責任もって捜してやるって...でないとオレが安心できないだろ。」
「どうして工藤が安心しなきゃならないのよ?」
「章則に頼まれたんだ。男同士の約束だ。あの時の話は椎奈には言えないけど、あの時点で章則はおまえのことをまだ凄く大事に思ってたんだ。だから、今度はオレに頼むって、椎奈が幸せになるようオレにちゃんと側にいて守ってやって欲しいって、頼まれたんだ。だからだな...」
「人に頼まれたから...だからやたらメールしてきたり電話してきたり?で、彼女が出来たら邪魔だからさっさと彼氏を当てがってやろうかってこと?馬鹿にしないで、今回は連れてくる羽目になったけど、申し込まれたのは彼だけじゃないわ。だけど、断ってるだけなの!あたし誰とも付き合いたくない...」
「ちがう、椎奈、そんなつもりじゃない...けどおまえあぶなかしすぎるんだ。オレはずっと側にいてやれる訳じゃない。そりゃ、どうしようもない時は呼んでくれたら飛んでいくさ。けど、オレの知らないところでまたおまえが泣いていそうで、不安なんだ。あいつなら同じ職場で側にいてもらえるだろ?おれはおまえが心配で...」
心配だけど、あたしの側にはいられないってことでしょう?そうよね、彼女がいたらね、無理だよね。でも、だからといってこんなのひどい。まるであたしを彼に押しつけようとしてるみたいじゃない。
「それにさ、あいつ、多分かなり経験ある...本気みたいだし、おまえもそろそろ前向けよ。」
それは章則と比べて?ちょっとまってよ、あたしの意志は?あたしは憤りを感じて肩を震わせた。なんて答えていいのか頭の中でぐるぐる回ってる。今口に出す言葉はぜんぶ工藤を傷つけてしまうだろう。そしてあたしをダメにする言葉ばかり...友達に戻れなくなる二文字の言葉。
「それを決めるのは椎奈でしょ?工藤、あんたじゃないわ。さっきから見てたらなにを煽ってんのよ。そうかと思ったらお互い挑戦的な目で見てるし。あの藤枝って子、あんたに似てるけどあんたじゃないのよ。中身はあんたよりよっぽど真面目だわね。」
「なんだよ、京香、それどういう意味だ?」
なかなか戻ってこないあたしを心配して京香が様子を見に来たんだ。あたしの表情をみて顔をしかめる。そしてきつめの表情で工藤に向き直る。
「女の子をちゃんと見てるってこと。可愛いとか、綺麗だとか、付き合いやすいとか、楽だとか、そんな基準で選んでない。あんたよりよっぽど女をちゃんと見てるわよ。」
「何言ってんだよ、オレがいつ...」
「そういうならあんたが今まで付き合ってきた女の中で、人間性で選んだ子なんていた?本気になれる子がいたの?一生付き合っていけるような、そんな女が...」
「うるせえな、京香、おまえに言われなくってもわかってるさ。けど、どうせいつか離れていくんだ。男と女なんて、子供がいたって、他に好きな相手が出来たら簡単に別れてしまえるんだよ。そんなもんにこだわってどうするんだ?オレは...帰る。」
「工藤、あんたまだ両親のこと...?」
あたしも聞いたことある。工藤の両親はお互いの浮気が原因で別れたって。そして幼い工藤を父方の実家に残して祖父母に育てられた彼。父親もすでに再婚して町から出て行ったらしい。それ以来女性に対して信用はあまりないって話していた。滅多に工藤も口には出さないからあたしもその事には触れないけど。
「じゃあ、工藤は椎奈と藤枝をくっつけたいんだね?でもさ、藤枝のあの調子じゃ独占欲強そうだから椎奈を自分のモノにしたら離さないんじゃないの?親友って言っても三宅も工藤ももう逢わせてもらえないかもね。あんたそう言うの考えたことある?」
「...そんなの関係ないだろ?明日は仕事あるからオレはもう帰るからな。」
急に怒り出した工藤はそう言い捨てて帰ってしまった。
こんな工藤は初めてだった。あからさまに怒り出すなんて...
すこし変だっていうことにあたしは気が付かなかった。
 
 
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〜あとがき〜
新キャラ出てきましたが、さてこれからも出てくるんでしょうか??(笑)
けれどもしっかり波紋を投げかけてくれたはず。工藤も藤枝に自分に似たものを感じてよけいにもどかしさを感じています。
さて次回は...ふっふっふ、そろそろ急展開かな
 

 

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