「もしも政弥がプールを作るなら〜雄弥視点」 |
「プール?」 「ああ、子どもや茉悠子を安心して泳がしてやりたいんだけど、ホテルのプールはひと目があるだろ?」 弟政弥の妻に対する独占欲は計り知れない。もう子供だって5人もいるのに、ちっとも子持ちに見えない茉悠子さんは街を歩いていてもやたらいろんな人に声をかけられるらしい。一緒に街へ出ていた妻が言うのだから間違いない。若い男だけではなく、募金であったり、年配の女性や男性、子供もいたりするらしい。それは彼女が話しかけやすい雰囲気をしているからなのだと思うが、そんなことは政弥にとってはどうでもいいことで、他の男が話しかけてくること事態がいやなのだろう。もっとも話しかけられるのは、僕の妻澄華が離れているときに限るらしい。彼女は反対に並の男が声をかけにくいタイプだろう。美しさは年々妖艶さを備え、最近では以前のように女王然とするすべを思い出したらしい。まさか毎夜僕に鳴かされて悶え狂っているようにはみえないだろうけど。 「そんなに見られたくないのか……」 「悪いか? 兄貴もそうだろ?」 いや、どちらかというと『見られているよ』と言って虐めたほうが楽しい僕からすれば、ホテルのプールはとても刺激的な場所なんだけれどもね。政弥の場合はそんな楽しみ方はしないのかな? 「プールを作りたいって言うのはわかるが、そんな土地実家にあったか?」 「いや、ないよ」 「おい……」 場所がなかったら作れないだろうが、そんなことを言うために口にしたのではないだろう? この弟、意外と無駄なことはしない合理主義者だ。おまけに突拍子もない事を考えつくアイデアマンでもある。 「なあ、兄貴。ここに造らせてくれよ」 「ここって藤澤本家のこの敷地内ってことか?」 そうだよと、しれっとした顔で奴は言う。 「子供はプールにやたらと行きたがるだろ? だけど、その度にホテルに行かせるのもなんだし、放っておけば茉悠子は市民プールに行きかねないんだ。そんなとこに行かせてたまるかってんだ。自分の娘や妻の水着姿なんぞ他の男に見せたくないだろ、藤澤家の男としては」 「それは……ね」 そこはちょっと違うんだよな。他人に見られてると思い込ませるようなプレイは楽しい。でもたしかにやってるところを本当に見られるのはやっぱり嫌だな。澄華の美しい顔が快楽と羞恥で紅く染まり、歓喜の声を上げて絶頂する姿は僕だけのモノだ。 「だったら、この裏の土地に造らないか? 富美香さんもしょっちゅうプールに行ってるだろ? 伯父貴だって家にプールがあれば安心だと思うんだ。最近他の男寄せ付けたがらないし」 それをお前が言うかな? 昔散々関係を持っていたことは周知の事実だ。まあ、今はどう見てもそれぞれの伴侶を大事にしているからいいとするか。 「いっそのことココに作っちまえば3家族で楽しめるだろ? 兄貴も今は離れには住んでないんだろ? だったらプール使うときはうちがそこを借りたいんだ」 「おまえは、プール付きの別荘とか考えないんだな」 「俺達に避暑地に出掛けてゆっくりしてる時間なんかあったっけ? 妻や子供はここで遊ばせておいて、時間が来たら会社に戻って仕事だろ? で、ここに帰ってくるのがベストさ」 「なるほど」 温水にしておけば年中使えるし、地下にトレーニングルームを作ってもいい。秘密の調教部屋なんていうのも作ってもいいが、そこまで本格的に妻を甚振るのはちょっとかわいそうかな? 今はすっかり自分のものになった妻を時々少々虐める程度でいい。 「じゃあ、賛成なんだな?」 「ああ、僕は構わないよ」 「伯父貴からはもうOK取ってるんだ。設計図はこれ」 用意のいい弟は設計図を取り出してテーブルに広げてみせる。手回し良すぎだぞ、政弥。 「天井の半分は開け閉めできるようにして、テラスも締め切る事ができる。空調設備も整えて年中使える設計だ。浄化方式はエコのろ過装置を使おうと思う。あと、屋敷と繋ぐ通路もこの際作って……」 こいつ、自分ちで改装し尽くしたからこっちにまで手を伸ばしてくるのか? だったら他に家を……いや、それはないか。政弥も親父も茉悠子さんも、皆があの家を愛してるからな……もちろん、僕だって母の愛したあの家を大切に思っている。今でも門を入った時から母に出迎えてもらっている気がするほど雰囲気は変わらない。中は5人の子供部屋や建て増しした主寝室、防犯機能など手を抜いてる場所は何一つないが。 「それじゃ、早めに着工して夏に間に合わせるな」 そう言って設計図を畳む奴の顔はプレゼントを前にした子供のようだった。いや、心のなかではすでにプールで色々ヤッてるのだろう。 「それじゃ、たのしみにな、兄貴」 「ああ、待ってるよ」 楽しみにしている弟家族よりも、すぐ側に住んでいる僕の家族のほうが使用率高いと思うんだけど? そうしたら、そのプールでどうやって妻を可愛がってあげようか……と、思いを馳せて思わず口元が緩んでしまいそうになる。 「兄貴でもそんな顔するんだな」 「えっ?」 「あんまり義姉さんを疲れさせないようにな。特にうちのと一緒に出かける前の日は。茉悠子が心配するからさ」 「それは……お互い様だろう?」 どう取り繕っても藤澤の男だから、僕たちは。 「やった! プールだ!!」 出来上がったプールびらきのパーティの日、一番はしゃいでいたのはやはり政弥のとこの2,3番目の甥っ子たちだった。 「ああ、もう、あいつらったら。すみません、雄弥伯父さん」 長男の賢人は元々落ち着いていて、時々自分に似すぎてて驚くこともある。まさかの疑いがないことは証明されていても、たまに疑われるほどだ。政弥と義父の例もあるから、間違いはないんだけど。 「構わないよ。そのためのプールだからね。ああ、政弥が手を焼いてるな?」 「あのふたりは父担当だからいいんですよ」 こうやって集まりの時も僕の側に寄ってくることが多い。そこに政弥のとこの末の娘茉亜沙が、駆け寄ってきた。 「おにいちゃん! 茉亜沙も一緒にプール入りたい」 長い髪を今日は綺麗に編みこんでもらってずいぶんと可愛らしい。この子はあいかわらずお兄ちゃん子なんだな。 「ああ、いいよ」 賢人がそのは手を取ってプールの方に連れて行く。 茉悠子さんや澄華達はパラソルの下だ。小さいが十分楽しめる設備になっている。このぶんだと夜もしっかり楽しめそうだ。ライティングとかやたら凝ってたからな、政弥のやつ…… 「ねえ、パパも泳ご?」 可愛い我が娘のお出ましだ。ビキニのセパレーツも子供が着てると可愛いだけだな。 「賢人と一緒に泳がなくてもいいのか?」 「もう、いじわる!」 茉亜沙に先を越されて誘いそこねたのだろう。娘はどうやらの賢人ことが好きらしいが、今はまだ『子供の好き』の状態だ。だけどいつしかそれが本当の好きに変化を遂げていく可能性があることを僕たちは知っている…… 「行っておいで。賢人はいじわるしたりしないよ?」 「うん!」 元気にかけ出す後ろ姿。娘なんて……10年後を想像すると男親としてはちょっと寂しい。 「兄貴、今夜はうちがプール使うけどいいか?」 うちがって、大人限定だろう? 「ん? ああいいよ。僕たちはいつでも使えるからね」 「じゃあ、遠慮なく」 ニヤつく弟に少し呆れる。少しぐらいは遠慮するとか隠すとかしろよ? その目はすでに今夜の獲物に注がれている。しかたないか、この間まで出張続きだったしな。今夜は政弥の子供たちを母屋で預かってやろう。 たまに娘を預かってもらって楽しませてもらってるからな。こっちは……5人一度というのはなかなか大変で難しいけど。 「壊すなよ?」 そういうと違う言葉で返ってきた。 「ああ、汚さないように努力するよ」 もう、好きにしてくれ…… 僕はため息をついて立ち上がる。どうせならヤツの近辺の家を買収してそこにプールでもなんでも造らせればよかった。後悔はあとにたたないけどね。 |
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