2008クリスマス企画

クリスマスは特別

 

12月25日  〜朱音〜
 
『あ……んっ』
あれ?誰かいるの?
『やぁ、いい、欲しいのぉ』
なに?この声……くぐもって聞こえるけど
目が覚めて見回すとそこはまだリビングで、部屋に飾られたクリスマスツリーのイルミネーションでほんのりと明るかった。一糸纏わぬ姿のままで少々驚いたけれども、隣に感じていたぬくもりの存在がなかった。
身体を起こすとすぐ近くに彼はいて、なにやらテーブルを覗き込んでいて、そこから”例の声”がもれ聞こえてるようだった。
『やぁあん……だめぇ、壊れちゃう、やん、また……いっちゃう!』
これって……
「と、俊貴さん?」
声をかけると一瞬びくりと肩が揺れた気がした。
「あ、朱音、起きたのか?」
珍しく焦ってるような反応、まるで悪戯が見つかった子供のよう……
「それ、なにかしら?」
どうみてもAVのような声と雰囲気。まさか、そんなもの楽しんでたの?わたしがいるのに!
やだ、わたしがって、そんなつもりじゃないけど……やっぱりいい気はしないわよね?
「朱音も見るか?」
一瞬むっとしてしまった。せっかくのクリスマスに?信じられない!
「イヤです!そんなの見ません!」
「どうして?よく撮れてるのに?」
「そんなもの見ないで!わたしがいるでしょ!!……って、撮れてるって?」
「ほら、朱音が良く撮れてる」
小さな液晶の中にはうっすらと女性の影、それは……
「やっ、俊貴さん??何、それ!!」
驚いてムービーカメラを取り上げようと手を伸ばしたけれども、さっと持ち上げられてしまう。リーチの差で届かないけど、立ち上がれば取れるはずだ。だけど今素っ裸で、目の前の彼も同じ姿で……
「まちなさい、説明するから」
空いた手で腰を引き寄せられて、彼の胸の中にすんなりと収まってしまう。いつもの熱い素肌に触れて、無理やり落ち着かされてしまうけれども納得がいかない。
「そういうすねた顔もまた可愛いんだけどな?」
「ごまかさないでください」
わたしにしては珍しくふくれっつらのまま俊貴さんを睨みつけていた。すでにさっきの映像は止められている。
「朱音は俺の本音が知りたいって言っただろ?」
「ええ」
「俺も朱音の本音が知りたいんだ」
「はぁ?」
何を言い出すんだろう?このヒトは……
「だがな、本音なんてもの全部見せても綺麗なものばっかりじゃないって俺たちは知ってる。だから俺たちはきちんと理性を踏まえてお互いのテリトリーを分かち合いながら生活してるんだ。入っちゃいけない部分をお互いに認識しあってるからうまくいってる。けど、本音のぶつけ合いのひとつもなきゃうまくはいかない。それが夫婦だとしたら、その手段は喧嘩以外にもセックスがあるだろ?だから俺たちはちゃんと本音をぶつけ合えてると思うぞ。俺はいつも朱音が欲しくて無理させてるし、おまえにも俺を求めて欲しいからつい意地悪なことをいって欲しがらせたりする。これ、全部俺の本音だと思わないか?」
それは、たしかにそうだけど……それとあの映像とどういう関係があるっていうの??
「俺がコレだけ朱音を求めてるのに、そのことに気が付いてくれないって言うのは面白くないじゃないか」
面白くないって……だからといってあんなモノ撮ってどうするのよ??
「俺の本気と、朱音がどれほど俺を求めてくれてるのか、わからせてやろうと思ってな。だから昨日のセックス、撮ったんだよ」
「俊貴さん、ひどいわっ、そんな……」
「それじゃ俺の気持ちを疑うのは酷くないのか?」
「そ、それは、でも!」
「誰にも見せたりしない。朱音のいい声も、色っぽい顔も他の誰にも見せたりしない。けどな、おまえが俺を夢中にさせるんだ。俺は本音と本性を朱音にだけは見せてると思うぞ。よく俺は……冷静だとか、思慮深いとか周りから言われているが、実際は用意周到で狡賢いだけだと思う。ほら、朱音を手に入れるためにはいろんな手も使ったし、毎晩抱くためには何処でだって手を出すだろ?」
確かに……時間がなかったら台所でも、脱衣所でもお構いなしのときがある。どうしても隣に子供がいると、毎晩ベッドでってわけにもいかないし、疲れてると布団に入るとすぐ寝てしまうから……
「わかってる、わ……俊貴さんって、意外と情熱家っていうか、激しい部分があるって……時々怖いぐらい、その苛めるし?」
「ああ、朱音を鳴かせるのが大好きだからな?本当の意味では泣かせたくないが、セックスの最中の朱音は可愛すぎるんだ。やたら素直になるし、最近は自分から俺を誘ったり煽ったりしてるのわかってるか?子供生んでからは特に、俺に全てを晒してくれてるようで嬉しくてな、思わずもっと見たいと思ってしまうんだ。そんな朱音の本音というか本性を現してるとこ、一度見せてやろうと思ったんだ」
そうしてそのムービーカメラわたしに示した。
まさか、子供の成長を撮るために購入したソレを、こんなことのために使うなんて夢にも思わなかった……けど、少しだけ興味を持ってしまった。わたしは彼からどんな風に見られてるんだろうか?わたしを抱くときの彼は?
「観るか?朱音」
そうきかれて頷いてしまったのだ。
 
 
『はぁああん、いいっ、俊貴さんのが……ああ、もうダメ、いっちゃう』
『朱音、俺も、もう……でる、だすぞ、朱音っ』
はっきりと全部が映ってるわけじゃない。影のように揺らめく女の身体が上下しているだけ。だけど時々クリスマスのイルミネーションの光が反射してその表情が映る。驚くほど切なげで艶っぽい、到底自分とは思えない妖艶な表情を浮かべた自分。そしてともに果てた後、伸びてくる彼の手で頬をなでられて、なんともいえないぐらい幸せそうに微笑むわたし。
「俺の目にはこういう風に見えるんだ。こんな顔、何度でも見たくなるだろ?だから、いつも求めてしまう。普段は満点といっていいほど完璧な奥さんでいようとするからな。こういうときのおまえは身体の力が完全に抜けて、無防備で、俺だけのモノって気がする。普段はサポートなんかいらないってくらいしっかりしてるからな、うちの奥さんは」
ソファに背を預けた彼の前に抱え込まれる形で抱きしめられながら、さっきとは違ってリビングの大きな液晶の画面に映し出された自分の姿を見せ付けられていた。
「朱音はあんまり気が付いてないだろうけどな、俺が言わないとおまえはすぐ目を閉じてしまうんだ。時々は目を開けて俺を見ろよ」
「だって……」
恥ずかしかったのもある。だけどそれ以上に、彼の顔を見てると自分がコントロールできなくなるほどおかしくなってしまうから怖いのだ。だけど時々目を開けさせられて、すごく色っぽい視線でわたしを求めてくれる俊貴さんの表情を見ながらされると、途中で変なこと口走って、自分で果ててしまうんだもの。そんなはしたないこと怖くって……
「わかってるさ、そうやると朱音はおかしくなるんだろ?自分で腰振って、俺の搾り取って、自分でイッてしまうんだ?ほら、あんなふうに」
目の前のわたしはカメラの方に向けられて、後ろから抱きかかえた彼に攻め上げられて、狂ったように自分で腰を振っている。
『ああ、いいっ!俊貴さん、俊貴さん、いいの、だめ、また、いっちゃう!やぁ、もういや、これ以上いったら、ダメなのぉ!』
『いいんだ、朱音!いくらでもイッていいんだ。もっと俺を求めてくれ!欲しいんだろ?俺が、全部やるから。朱音っ!』
『うん、ほしいの、あなたが……全部、わたしにして、わたしだけのモノなの、他のヒトなんか……』
そう、わたしは彼しか知らない。だから怖かった。今まで彼が関係してきた女(ヒト)前の奥さん、初めての女(ヒト)全部に嫉妬しても仕方ないけれど、比べられてないか心配だった。自分で満足してくれてるらしきことは、こうやってずっと求められているとわかるけど、比べるものがない自分はどのくらいのものなのかわからないことが不安だった。
『他?朱音にしかこうはならんぞ?おまえだけだ、俺をこんな風におかしくするのは……もっと俺を煽ってくれ、もっと俺を……いいよ、朱音のナカ、すごいぞ……ひくついて、絡んで……』
『ひっぃいい、いいっ、うぐぅぁ……はぁん、いいっ』
画面の中のわたしは幸せそうに気を失っていく。それを抱え込んでいる俊貴さんの表情……すごくやさしげで、わたしへの気持ちが切ないほどあふれていた。
気を失ったはずのわたしに、後ろから優しく手を添えて、何度も首筋や耳にキスして、それから……
「俊貴さん、まさか、このあと……」
「ああ、まだだったんだ。俺がイク前に意識飛ばしてたからな、おまえ」
『朱音、だすから、全部……また目が覚めたら、次は記憶があるうちに注いでやるからなっ!うっ……』
こんどはしっかりと映っていた。イク瞬間の俊貴さんの表情が……
 
「恥ずかしいもんだな、やっぱり」
「……当たり前でしょ」
だけどしっかりと後ろから硬くなったものを押し付けてるのはやめて欲しいんだけど?
「あんまりマジで見るもんじゃないのはわかってる。だがおまえはこうやって意識飛ばすし、時々ああいうこと言って俺を困らせるんだぞ?おまえだから、ああなるんだ。朱音相手じゃなきゃこんなもん撮ろうとも思わんさ。これで、わかったか?俺たちの本音、いや、本性だな」
「……うん、それは……」
自分も、彼も、どれほど互いをいとおしく思ってるか。イヤってほど自覚させられた。
「で、もう一回本性さらけ出したいんだけど、いいか?」
首筋に舌が這い始める。ソレがイヤじゃなくて、身体はもう受け入れ始めているから。
「朱音も、十分その気だよな?」
「あっん」
じゅぶりと濡れたそこに指が沈められ、わたしは身体を震わせてそれに応える。
「まだ夜が明けるまで少しある……その前に繋がろう」
その言葉にわたしはうなずいて、素直に身体を開いた。
 
 
激しい行為じゃなく、お互いをじっと見つめあいながらの行為だった。
目をそらさず、身体を離さず、ゆっくりと求め合い、互いの気持ちを素直に告げあった。
「愛してる、朱音……ずっとこうしていたいほどだ」
「わたしも……でも、」
「わかってる、けど、今は俺以外のことを考えてくれるな」
話してるとき以外はずっとキスし続けてたように思う。
最後に一緒に昇りつめた瞬間も、快感と喜びが同時にこみ上げてきて、涙が止まらなかった。
あんなものを見せられるなんて思ってもいなかったけれども、おかげで気づけたこともあった。互いにこれ以上ないほど求め合っていることと、互いの本音、本性……
 
 
 
「ふぇーん、んまぁんまぁー」
あ、聖貴が起きた?まったりと彼の腕の中でまどろんでいたけれども、俊貴さんが先に起き上がった。
「俺が連れてこよう。その間に、服、着れるか?」
「ええ、ミルク用意しておくわ」
そういいながら、さっさと部屋着のズボンだけ履いて聖貴の所へ行ってしまった。
「いいわね、男のヒトはすぐに動けて……」
急に動けるはずがない。アレだけ何度も睦みあって、起き上がると身体の中から愛された痕跡が流れ出る。
「もう……」
恥ずかしいけれども嬉しかったりする。ゆっくり起き上がろうとして足首に違和感を感じた。
「なに、これ……」
首輪?ちがう……皮だけど、細工が入っていて、ベルト式じゃなくてスナップ式で取り外せるようになっているようだった。色も皮独特のキャメルカラー、わたしの好きな色だった。皮を縁取る金属の模様がすごく複雑で、一目で気にってしまったけど……なぜブレスレットでなくアンクレット??
 
着替え終わった頃に彼が聖貴を連れてくる。
「オムツ、替えておいたが、かなり腹が空いてるみたいだな。昨日寝たの早かったからだな」
『そのおかげでたっぷり出来たんだがな?』
ミルクをやってる最中にそんなこと言われても困ってしまう。
「んぁーまんま」
おなかが一杯になってご機嫌の聖貴は、部屋の中を歩き回りはじめる。
「そろそろ聖貴にクリスマスプレゼント渡してやらないとな」
すっかり忘れてた……というか、予定してたことが出来てない状態だ。聖貴が起きる前にプレゼントを枕元においてあげようと思っていたのに……
「取って来るよ。聖貴はまだ良くわかってないから、来年枕元においてやればいい」
言わなくてもわかってたみたいでうれしかった。どっちも親なんだよね。もっとも、置きにいけなかったのは……今は思い出さないほうがいいだろうと。
「あ、わたしも……」
わたしから俊貴さんに用意したプレゼントを急いで台所の棚から取り出す。ここが一番わからないだろうからって、置いておいたのだ。本当は日付が変わったときに差し出すつもりだったのだけど。
「ほら、聖貴、クリスマスプレゼントだ」
「だぁー?」
「メリークリスマス、それと誕生日おめでとう、聖貴」
「メリークリスマス、ハッピーバースディ!パパとママからよ」
「あうー」
受け取っても何かわからなくてその箱だけを見つめている。一応二人でえらんだのはクッション素材の積み木。開けてやると喜んで振り回したり叩いたり舐め回したり……
「洗濯が大変そうだな、これ」
「しょうがないわ。まだプラスチックのは早いもの」
聖貴がニコニコ笑って遊んでる姿を二人で見ることが出来る、これも幸せな時間。一体これからどのくらい幸せな時間が増えていくのだろうか?
 
「あの、俊貴さん、これ……」
そっと部屋着のズボンの裾をめくってソレを見せた。
「ありがとう、これクリスマスプレゼントよね?」
「そうだ、クリスマスプレゼント&結婚記念日のお祝いだ。意味はわかるか?」
「わたしは……あなたのもの?」
「ああ、首や手首じゃ聖貴といるのに不便だからな。これなら目立たないが俺のものだってしるしだ。お風呂に入るとき以外は絶対に外すなよ?」
つけられた足首に甘い束縛の快感が生まれたような気がした。そう、このひとに囚われて離れられなくなってるのも事実。あんなもの見せられて、それでも嫌いになってなれない。むしろもっと……
わたしも少しおかしくなりかけてるかもしれない。束縛され、辱められるようなことがイヤじゃないなんてね。でもコレは夫婦の甘い秘密だから、一生の……
「……わかったわ。じゃあ、これはわたしから、意味合いは似てるかもしれないわね?」
差し出した箱を開けて、その中から青い鬢を取り出す。それはオーダーメードで作ってもらったオーデコロンだった。
「香水?」
「そう、毎日それをつけて会社に行ってね。」
「名前はあるの?この香水に」
「それはね”AKANE”よ。意味はわたしをわすれないで……会社にいっててもわたしのこと、忘れないでねって。オーダーメイドで作ってもらったの。いい香りでしょう?」
しゅっと自分に吹きかける彼。マリン系をベースに少しだけムスクを加えて男性っぽく仕上げてあるコロンは彼の理知的なイメージにあってると思った。そして、わたしのすごく好きな香り……
「ありがとう、毎日つけるよ。いい香りだ……朱音に包まれて仕事か、それもいいな。だが途中で欲情したらどうするんだ?朱音会社まで来てくれるのか?」
「もう!そんな意地悪言わないで!」
「ぶーっ!ぱー、まー、うーっ」
覆いかぶさってくる俊貴さんを避けようともがいていたら、わたしが苛められてると勘違いしたのか聖貴が寄ってきて彼にすがり付いてきた。
「大丈夫だ、パパがママにひどいことするはずがないだろ?クリスマスは特別なんだ、パパとママが仲良くしすぎてもいい日なんだぞ?」
「う?」
「それと聖貴の誕生日だから、思いっきりパパとママに甘えてもいい日ってわけだ」
「だーっ」
何かわからずに喜んでいる聖貴をかわるがわるに抱きしめる。
「こうやって家族が笑顔でクリスマスを過ごせるのはいいね」
そういったからどうかはわからないけれども、彼は来年から毎年25日に有休を取ると、その後会社で宣言したらしい。
これからのクリスマスが少しだけ怖くなったことは内緒にしておこう。だって本当は怖くて楽しみなんだから……
 
  

−END−

 
2008.12.25
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クリスマス四日目〜〜〜なんとこういうオチでしたw
今日もまたぎりぎり??やばいくらい追い込みましたよ〜〜自分を!
最後だけヒトの手かりました!Rさんありがとう〜プレゼントのチョイスに思ったよりも悩んでしまいましたので……
こんなクリスマスですが、夫婦にはこれもある意味いいスパイスになることでしょうってことで(笑)課長、鬼畜っス!!
ではみなさまもよいクリスマスを過ごせましたでしょうか?うちは今からですよ(笑)