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 室井 Side 2

室井 side2


<ごめんなさい、今夜は残業です>
渚からのメールだった。ちょうど退社前だったので会社を覗いたが、渚の部署は誰も居なかった。
おかしい...

「あ、オレ、美雪ちゃん側にいるんでしょ?替わって、渚のことなんだ。」
沢田の携帯に連絡した。どうせ側にいるだろうと思ったら案の定、美雪ちゃんは沢田の部屋にいた。
「あ、ごめん。今夜さ、渚と約束してたのに残業って...だけど会社には誰も居なかったんだ。美雪ちゃん何か聞いてない?」
『渚ですか?今日は調子わるそうだったんで真っ直ぐ帰ったはずですよ。お昼休み終わってからおかしくて...いえ、何も聞いてません、残業はありませんよ?』

やっぱり...

ありがとうとお礼を言って電話を切ろうとしたら横から沢田が『当分電話してくるな!』と怒鳴っていた。さてはあの純真無垢な美雪ちゃんによからぬ手を出そうとしていたな?さすがの沢田も美雪ちゃん相手ではなかなか思うように手が出せないらしく、鉄壁の門限と闘っているらしい。婚約してからは結婚式の準備と称して部屋に引きずり込み、お泊まりさせてるらしいが、翌日すんなりと家に帰せないようなコトを毎度しでかしてるらしい。と、これは渚情報。
その点、渚はオレとつきあう前から経験豊富で切り替えも早いし、実家云々なんて煩い話は出てこない。当分楽しい関係が続けられると思っていた。勿論最終的にはこの女だと決めてるし、そろそろ指輪の準備もしたいところだけれども、彼女も仕事が楽しそうだし、他の連れとの付き合いもしっかりと優先してるので、ずっと彼女に言い出せずにいるオレ。

今までマジで付き合ったことはないとは言わないが、本物の指輪まで買おうと思ったのはこいつが初めてだ。身体の相性も良いって言うのはあるけれども、あの身体を他の男には抱かせたくないと本気で思った。一緒にいて素になれるし、オレのセックスについてこれるどころか反撃してくる女も珍しい。オレは大人しく言うことを聞くだけの女には食指は動かない。思った通りに動かない渚のような女がいい。気の強い渚がオレに翻弄されて悔しそうな顔してる所なんて滅茶苦茶そそるんだぜ?
渚とならどこまでも共に走り抜けていける、そう思っていた...が、それはオレだけだったのか?

昼間の情事は格別だった。狭い資料室で、誰が来るともわからない状態でのセックスに二人で溺れた。ゴムをもう一個持ってたら間違いなくもう一戦交えていたさ。渚も普段持ってるだろうけど、さすがに資料室へ来るのに財布は持ってなかったんだろう。オレも財布は持ってなかったから、背広の内ポケットにたまたま入れていたのを思い出しての行為だ。

電話するべきか...

けれども、渚が嘘をついてまでオレに会わない理由は何だ?昼間のセックスが嫌だった?それはないな、すんげえ濡れてたし、喧嘩はしてない、結構ノリと勢いのオレたちだけど、意見が合わないときはお互いにちゃんと言い合って解決してる。
じゃあ、なぜ?



連絡なしに渚のマンションに来ていた。
賃貸らしいけれども、セキュリティのいいマンションだった。家賃も高そうだから、意外といいところの娘かもしれないが、詳しくは知らない。気にはなるが彼女の家と結婚するわけではないし、身体一つでオレの所へ来てもらってもおつりが来ると思っている。ここまで思える相手と出会うまでは、出世街道ひとっ飛びしてる先輩のように取引先や上司の娘でもいいかなんて思っていたけれども、それじゃ面白くない。親のいいなりに結婚するつもりで育った女なんてオレにとってはくそ面白くもない存在だ。

「渚、オレだけど...居るんだろ?」
入り口のインターホンで呼ぶけれども返事がない。
まさか...他の男と出かけたとか?
ありえるかも?渚はいい女だ。男は放っておかないだろう。それに、あのカラダ...男を誘い、夢中にさせる。
くそっ、信じろ、オレだってあれ以来彼女以外の女からの誘いは断ってるんだ。
抱くなら渚がいい。
そう心も身体も言っているから...

まさか、具合が悪そうと言っていたから病院に行ったとか?昼間はあんなに血色がよかったぞ?体調が悪かったらアソコまで感じて濡れていかないだろう。それともその後か?オレが先にでた後、誰かに見られたとか?
あの後、午後一で資料まとめて提出じゃなければあのまま二人で居られたんだが...早々に出てきてしまったことが悔やまれる。気怠げな渚を、誰かが見てそのままなんてこと、ないだろうな??
携帯を鳴らしたが、留守番電話サービスに繋がる。
メールを送る。<大丈夫か?今下に来てる。心配だ>と...
そして、もう一度インターホンを押した。けれども返事がない。
「渚、居るんだろ?具合そんなにわるいのか?だったら、なんで残業なんて嘘ついたんだ、渚!!」
オレは携帯の留守番サービスに何度もメッセージを入れた。


何時間経っただろう?
何人か帰宅した人とすれ違って胡散臭そうに見られたけれども、商社マンらしく頭を下げてお愛想笑いをしておいた。
これでもNo.2のセールスだぜ?二枚目じゃなくても、人なつっこさは天下一品だ。
けれども12時を回って、終電がなくなった今、どうするべきか考えていた。
どうせ明日は休みだし、歩いて帰るか?
その前に、最後の挑戦とばかりにインターホンを鳴らした。

「渚?」
『っ、まだ居たの?もう終電ないでしょう??』
おい、それってオレが居たこと気がついてたってコトか?
「居るんなら早く開けろよ、ッたく、心配させやがって!」
『...ごめん、でも、今日は...』
「具合悪いんだろ?だったら何もしないから、部屋に入れてくれ...おまえの元気な顔見ないと帰れないよ。」
『...』
入り口のドアが開けられて、おれは渚の部屋まで駆けていった。


「おい、大丈夫か?なんか喰うか?これそこのコンビニで買ってきたんだけど...」
手にしたビニール袋にはおかゆとゼリーとポカリ。何がいいか判らなかったから、適当に買って持っていた。
「...ありがとう。どうぞ」

渚の部屋は働くOLの部屋の見本みたいに、リビングにはローテーブル、机の上にはファッション雑誌、壁にはずらっと服がかけてあった。ワンルームでなく、ベッドルームだけ別になっている1LDKだ。その代わりダイニングとキッチンが一つになってリビングとくっついているが。
オレはどさりとクッションの上に座り込んだ。
この部屋に来たのは3回目か?酔った彼女を送って来てそのまま泊まったり、金曜の夜にお持ち帰りして土曜日一日抱き潰して、着替えがないという彼女の要望で日曜の朝にここまで送ってきて、そのまま夜まで居着いたり。
そう言えば、オレたちって飯食ったり飲みには行くけど、それ以外どこにも行ったことないか?ホテルを使うこともあるが、セックスはじめると際限ないオレたちはどちらかの部屋の方が落ち着けた。
「どうなんだ、身体の調子は。美雪ちゃんに聞いたら、おまえ午後から調子悪そうにしてたって。」
「別に、今はもう大丈夫よ。」
顔を伏せたままこちらを見ようとしない。何も言い出さないなんて、渚らしくない。
「だったら、そういえよ!残業だなんて嘘ついたって、同じ会社なんだからわかるだろ?」
「...」
「渚?」
どうも様子がおかしかった。
「どうした?具合悪いんなら横になるか?」
何を言っても返事すらしない。
「渚、言いたいことあったら言えよ?そんなにオレは頼りないか?それとも信じられないか?」
「そうね、信じられない...」
「え?」
低い彼女の声に思わず聞き間違いかと思ったほどだった。
「どういう、ことだ?」
「ねえ、わたしのカラダってそんなにいい?」
「渚?」
「セックスの相手としては申し分ないんでしょう?でも、それだけ...いつだって男はわたしのカラダだけで、心なんて無視するのよ...」
「何を言ってる?」
「お手軽でしょ?会社でも抱けて、休日もやり放題、でもそれだけの相手なんて...もう嫌なの。だから、別れて...」
なんて事を言い出すんだ?泣きそうな顔して言うなよ...渚ともあろう女が、いつも言ってる癖に。女の泣き落としほど嫌いなものはないって。何度も男に別れを切り出された理由、相手の女が泣くからって言ってなかったか?
自分は泣けないんだと...
「馬鹿なこと言うな、オレはそれだけの相手だなんて思ってないぞ!」
「でも、何だか凄く惨めで...今日だって、終わった後さっさと出て行くし、わたしは足腰立たなくて動けなかったのよ!なのに...なんかヤルだけやって出て行ったじゃない?」
「それは、午後一で資料添えて提出する書類があったからで、その後得意先にでたから、オレは昼飯も食わずに仕事してたんだぞ!残業無しにして、おまえと美味いもん喰って、昼間のじゃお互い満足出来なかっただろうから、週末のベッドはまったりとすごそうって、それだけを楽しみに帰ってきたのに、おまえ居ないし...」
「でも、言ったじゃない!セックスの相手としては最高だって...所詮わたしはセックスだけの相手なんでしょう?」
「はぁ??だれがそんな...セックスの相手としても、って言ったんだ!一生側にいて、愛し合えて、お互いに気を張らずに居れて、仕事も励まし合える。そのうえセックスの相性まで最高によかったらオレたち無敵のパートナーって訳だろ?40歳、50歳になっても、オレはおまえに盛れる自信あるぜ?ずっとおまえを抱くのはオレだけで居たいって、何度も言っただろ?」
なんだって今さらそんなこと言い出すんだ?俺の気持ちは十分通じてると思っていたのに??
「そ、そんなのベッドの上でのトークじゃないの?」
「な...おまえな、いくら何でも怒るぞっ!オレはおまえに本気だって、ずっと言ってるだろ?」
「言った?」
「言ってる!」
考え込むな、コラッ!
「しょうがないな、今夜はおまえのカラダにじゃなくて、徹底的に心に言い聞かせなくちゃならんようだな。」
オレは渚を抱え上げてベッドルームに向かった。



「えっ、ちょっと、やだ!」
ベッドに横たえて抱きかかえた。軽くこめかみにキスして、そして耳元で囁く。
「渚、愛してる」
「え?」
「好きだ、渚の全部が...気の強いとこも、本当は自信のない女の子なトコも、脆いとこも。結構友達思いだったり、人の悪口いわないとこも、さっぱりしたとこも、隠れて頑張るとこも。」
「修造、さん...」
渚の目が潤んでるのがわかるから、もっと後を続ける。
「それと勿論、この感じやすいカラダも、セックスの好きなとこも、オレの上で色っぽく腰振るとこも、オレに鳴かされてエロイ言葉言っちゃうトコも、イク時オレのきゅうって締めるとこも、セックスしてるときは素直で、カラダ全部でオレのこと好きっていってるトコも、全部愛おしいよ。」
ほら、とろんとした目になって。このまま手を出さずに居て、我慢出来なくなるのはどっちだろう?オレも自分で言いながら渚の中の気持ちよさを思い出して勃っちまった。
「愛おしい、なんて、そんなこと...初めて言われたわ。」
「十年後も二十年後も言い続ける自信あるんだけど、試してみない?」
ちゅって、渚の左手、薬指の辺りにキスをする。
「いいの、ほんとに、わたしで...」
「渚じゃないとヤバイな。毎日毎晩オレのセックスに付き合えるのっておまえしか居ないし、おまえだってオレとじゃなきゃ満足出来ないカラダになってるはずだぜ?それとも他の男に抱かれたい?」
ぷるぷると首を振る。へえ、結構可愛い女の子みたいな返事の仕方するじゃないか?よく見ると唇引き結んで、泣きそうなのを耐えてるみたいだった。
「オレもおまえ以外、やだな。だから、結婚しよっか?明日、ここの指輪買いに行こう。こっそり買いに行くつもりだったけど、美雪ちゃんに相談したら『渚は趣味が煩いから一緒に選んだ方がいい』ってさ。」
「もう、美雪ったら...当たってるけど。好みじゃないリングだったら突き返してるわ。」
「それって、その時はオレとは結婚しないってコト?」
わざと拗ねた顔をしてみせた。
「買い直しに決まってるでしょ!2個も3個も買わせたいの?あたしはそれでもいいけどね。」
それは予算的に困る...っていうか、すでにいつもの渚だ。

「じゃあ、あしたに備えて早寝するか?それとも...」
「眠れるんだったら、ね。修造さんお風呂はいるでしょ?その間に何か作っておくから食べて。」
「食べたら?寝るの?」
「まさか?」
妖艶な笑みを浮かべて渚の手がオレの股間に伸びる。すっかり熱を持って勃ち上がったそれをゆっくりと扱く。
「寝かせないわよ。」
ほう、挑戦的な口をきいて勝てた試しはないと思うがな?
「じゃあ、しっかり起きててやるよ。朝まで寝かせて貰えなくて、指輪買いに行くときにふらふらでも文句言うなよ?」
オレがにやりと笑ったのを見て、渚は『しまった』と目元を歪め、それからこぼれるほどの笑顔をオレに見せてくれた。
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素材:FINON