風花〜かざはな〜

43

自宅に戻っても、結局ベッドにも入らずに朝を迎えた。
ソファ、いや電話の前で夜を過ごした恭祐は重い身体を引きずるように社に出掛けた。社長である父玄蔵の姿はまだなかった。野本の彼女である秘書の水沼静恵からの連絡では、今日も社に戻る予定はないと言うことだった。秘書の誰一人として玄蔵の行き先を知らされていなかった。彼の手が付いているあの秘書にもだ。
「恭祐さん、表だった名義が臥せられている、調べ漏れのあった社長個人の物件も調べ尽くしましたが、それらしきものはないようですね。愛人に贈与したものも全てこちらからたぐりましたが、社長が訪れることはあまりなく、その方達が生活しているだけのようです。」
宿泊所系列もすでに興信所と新崎の力を借りて調べ尽くしていた。社の裏側から調べてもらったが、なんら結果は出てこなかった。
めぼしい報告もなく、恭祐は早々に社を出ようとしたとき、秘書室から電話があった。
「恭祐様、奥様から社長の不在を問い合わせる電話が秘書課にあったようなのですが...恭祐様にお繋ぎしましょうかとお聞きしても必要ないと仰られてすぐさまお切りになられたようなんです。えらく興奮されているご様子だったとか...」
「母が?」
あの母が自分に改めて電話でもないだろうが、父の所在を聞くとは珍しい。いつも無関心なのにと、恭祐は苦笑いをした。そう、母はいつも無関心だった。気性の荒い彼女が父と言い争ってるところは何度も見た。幼い頃からみるそれは、大抵がゆき乃に対する処遇が主だったが、考えてみれば母はゆき乃に対して過剰に反応していた。
(今の現状は、母にとっても喜ばしいことなのだろうな。だが...)
「又何かあったら電話してください。今日はもう帰ります。」
そう言って自宅に帰りかけたが、途中でその足を連絡のある清水慶子のアパートへと向かわせた。


「よお。」
部屋の主よりでかい態度の力也が部屋のど真ん中に居座っていた。
「何か連絡は?」
「まだ、何も。」
「そうか...」
慶子の答えに肩を落とした恭祐は深いため息をついた。その沈黙が部屋の中に重い空気を溜めてしまった。
「恭祐、顔色良くないぞ。どうせまともに喰ってないんだろう?慶子、コイツに何かあるか?」
「さっきキレイに平らげといてよく言うわね。まってすぐに消化のいいもの用意するから。」
そう言って台所に向かった清水慶子は手早く玉子で綴じた雑炊をつくって運んできた。
「前に風邪引いたときにゆき乃が作ってくれたの、美味しかったから作り方教わってたの。」
口にしたのは思わずも懐かしい味だった。
「ああ、うまいな...」
「こういうモノは元気になってって気持ちをこめて作るモノだって、ゆき乃が言ってたわ。」
熱を出した後必ず出てきた。滋養があるからと玉子の入った雑炊は、料理長ではなく妙の得意料理だった。恭祐やゆき乃が寝込むと妙が自ら調理場に入り作ってくれた。恭祐が寝込んだときはゆき乃が率先して庭に飼っていた鶏小屋から生み立ての玉子を取りに行ったと自慢げに言っていたのを思い出す。
「ゆき乃...」
自然とその名が口から出ていた。誰よりも身近にいて、血の繋がった両親よりも、滅多に会わない従兄弟達よりも家族同然だった。大切な、大切な存在だった少女が、今ではかけがえのない愛する女性となっていた。なのに、今その彼女を救うことも出来ずに苦しめている。
「大丈夫か、どうせまともに寝てないんだろう?だったら、部屋に帰って横になったらどうだ?何かあればすぐに連絡するし、迎えもやるよ。すぐに車出せるように事務所にも数人交代で居座らせてるんだ。」
力也にそう説得されて仕方なく立ち上がる。はっきり言って頭は動いていない。不安と焦燥が恭祐の思考回路を侵していた。寝不足もそれに輪をかけている。こんな状態じゃいざというときにゆき乃の所に駆けつけてやれないと恭祐は思い直した。どんな結果が待っていようとも、今度こそは自分が助けに行ってやりたいと切望していた。
「そうだな、一旦帰るよ。何かあったら部屋の方に連絡してもらえるか?」
「わかった。安心して寝てろ、たたき起こしてやるよ。」
力也にそう励まされて恭祐は慶子の部屋を出た。力也は後数カ所当たらせてる連絡がこちらにはいるからと数時間前からこの部屋で待っているらしい。事務所へも連絡が行くだろうが、力也も動けるときはこちらに来ているようだった。何よりこの部屋は気を使わずにすむ居心地の良さがあった。ゆき乃も友人達もココへ良く集まっていたというから、おそらく慶子の人柄もあるのだろうと思われる。力也も一人で居るよりはココが落ち着くのだろう。


部屋に帰っても、ゆき乃のいない空間はがらんとしていた。
「ゆき乃...」
ベッドに横たわりシーツをたぐり寄せて掻き抱く。まだゆき乃のの匂いがするようで離せなかった。枕に顔を埋めてしばしその香りに抱かれたまま、疲れのあまり軽く目を閉じるが浅い眠りすら得られなかった。
隣にゆき乃はいない。つい先日まで、このベッドの上でゆき乃の身体に触れて何度も快感を貪りあった。その時のゆき乃の声や表情だけが蘇って来ては覆い被さる自分の姿が父や折原にすり替わっては身体を震わせた。
何度もそんな感覚に襲われて、眠ろうとしても眠れなかった。そう、現れ消える悪夢に、気が狂ってしまいそうだった。
早く助け出したい。そう思う焦燥感にたえずせかされているようだった。
そうだ、今、この時、ゆき乃がどんな目に遭わされているのか...想像するだけでも恐ろしかった。社にも姿を現さない父、そのことが余計に不安を焦りに変えていた。
ベッドの上で眠れずのたうち回る恭祐の耳に電話の呼び出し音が聞こえ、飛び起きて駆け寄った。
「もしもし!力也か?」
『恭祐様、妙でございます。』
「ああ、妙か...すまない、大きな声を出して。なにか用なのか?」
先日まで床に伏していた妙にはゆき乃のことは告げてはいない。料理長らにはなにかあれば連絡するようにと告げてあるが、妙にはゆき乃は自分と一緒に帰ったことにしてもらっていた。
『恭祐様、折原のお嬢様とご婚約されたのですか?』
「もう妙の耳に入ったのか...」
落ち着いた妙の物言いはいつもと同じで、それが不思議と恭祐を安心させた。
『実は、今日折原の奥様がいらっしゃって、その報告をされたのです。けれどもその後の奥様の様子がおかしくて...』
「なんだって?」
『ご婚約のお話は聞いていらしたそうなんですが、昨夜はお嬢様と折原のご主人と3人でお祝いの食事に出かけたとかそんな話をされているときに、急に取り乱されて、どこかに電話をかけらて...」
秘書課にかかってきた電話の件を思い出した。
「それで?」
「お館様にも何か問いただされているようで、その言葉の中に”ゆき乃”と言っておられたので、少し心配になってお電話差し上げたのです。あの子は、たとえ叶わぬ思いとわかっていても恭祐様を慕っています。今回の婚約のこと、知れば辛い思いをしているのではないかと...もし、よかったらこちらに帰ってこないかと思いまして。」
母が父と連絡を取っていた?
まさか...父と母はそんな仲がいいわけではない。互いに無関心で、どちらが何をしようが全く知らぬ存ぜぬで...
「母から父に連絡を取ったのですか?」
『はい、お電話で...その後思い詰められたお顔をされて、今朝は早くから出掛けておられます。』
まさか...まさか!?
「妙さん、ちづは?」
『館におります。』
「西田さんの車で出たのですか?それとも...」
『ハイヤーをお呼びになられました。西田様もお館様のお供は当分いいと言われてるようですから、車を出すと申し出たのですが、奥様はお断りになられたのです。』
再度ゆき乃を心配する妙に「今は大学に行っている」と嘘をつき、その電話を切った。

母が、父の居場所を知っている。母名義の物件も調べはしたが、どこも人の出入りはなかった。だが、母は知っているのだ。
「もしもし、力也か?」
慶子の部屋に電話するとすぐに力也にかわった。
「母が父の居所を知っていた。今朝出掛けたそうだが、母方の宗方家所有の物件を調べてくれないか?大至急だ!新崎の方にも僕から頼んでおく、両方から、頼むよ。目安がついたら僕もすぐに向かう。」
『わかった!じゃあ、切るぞ?』
力也の声も焦りを含んでいた。
母方の宗方家は財力は昔ほどでなくとも、そこそこの名家であった。しかし、成長と共に恭祐も足を向けることもなく、あの家がどれほどの別荘やら持ち家があるのかなど知りもしなかった。
父サイドでばかり調べていた。母の実家まではつい失念していたことを悔やんだ。



すぐにでも出掛けられるようにと準備をしていると、今度は呼び鈴が鳴った。
「恭祐様、お邪魔してもよろしいかしら?」
ドアを開けると、そこには折原鈴音の姿があった。
婉然と笑うその女は断られることなどないと思っているのだろう。こちらの返事も聞かないまま、鈴音は恭祐の肩を掠めて部屋の中に入り込んできた。
実際、すぐさまドアを閉めて追い返したかったが、今の自分にそれは出来ない。しかし、折原の社長がゆき乃の居場所を知っているなら、いっそのことこの娘を使って聞き出そうかとも思った。昔、鈴音がゆき乃を数人の男子生徒に襲わせたように、同じ目に遭わすと、そう脅してでも...だが、それが出来ない自分が居た。
けれども、今現在、ゆき乃の身に起こっている出来事を、この娘は本当にわかっているのだろうか?前回あれだけキツく言われても、こんなに平気な顔で再び現れる事が出来るのかと。
とにかく、今はこの女を一刻も早くこの部屋から追い出すしかない。いつ連絡があるかわからないのだから、恭祐は焦る心を抑えて、必死で笑顔を貼り付けて居間に通した。取りあえず座らせて座お茶でも入れようと立ち上がったが、彼女に拒否された。今はやり過ごさないと、ゆき乃の元へ行くことを知られたら、先に連絡を入れられてしまう可能性があった。
「お茶などいりませんわ。本当に誰も置いてらっしゃらないのね。本当にここに、ゆき乃と二人だけでいらしたのね。ねえ、お聞きしましたわ。ゆき乃は、おじさまの実の娘だそうね?あなたの異母妹だって言うじゃありませんか。まさか血の繋がった妹と過ちなど犯されてませんでしょうね?」
恭祐は黙っていた。事実を肯定しても否定しても無駄だろうし、おしゃべりなこの女はこちらが黙っていればいくらでも話すだろうと。うまくいけば何か聞き出せるかも知れなと考えていた。
「恭祐様っ!?」
苛立った口調に諦めてため息をつく。今更...言い繕う気もない。
「それがどうかしましたか?」
「どうかって...おかしいじゃありませんか?血が繋がってるのなら、そんな...」
「そんな?」
「だって、恋人同士のように心配なさることないじゃありませんか?ゆき乃だって、ただのメイドじゃなくお金持ちの妾になれるのよ?うまくいけば後添えになれるかも知れない。裕福に、好きなものを食べて、いい服を着て過ごせるのよ?それも父親の命令ならしょうがないじゃありませんか?」
「それが幸せだと?」
「ええ、誰かに仕えて、一生メイドとして過ごすより幸せなはずよ。」
「...本当にそう思うのですか?父に売られ、望まぬまま好きでもない、自分の同級生の父親に娼婦のように抱かれ、どこか出掛ける自由も与えられず、手枷足枷をされたような生活を幸せだと?」
「そ、それは、本人が受け入れて望めば、贅沢が出来るでしょう?どこの愛人だって、皆好き放題に遊んでいるわよ。」
堂々と言ってのける、目の前の女に憤りを感じた。この女には、ゆき乃やメイドなど、人に使われる人間など、なんの尊厳も持ち合わせてない存在として映っているのだろう。金さえもらえば何でもする、そんな認識なのだろうか?彼女には、彼らにも感情があり、プライドもあれば意地もあることを知らないのだろうか?表情を変えずに黙ったままの恭祐を肯定したと受け取ったのか、それとも、そんなことお構いなしになのか、立ち上がると恭祐の側まで歩み寄ってきた。
「ねえ、それよりも、私今夜ここに泊まるつもりできましたのよ。」
隣に座り、しなだれかかるように恭祐に身体を預けてくる。やることはそこらの娼婦とも変わらない、媚びを売った態度が鼻を突く。
「何を言ってるのですか?」
「恭祐様、あたしもう待てませんの。あの女の影に脅かされるのはイヤなんです。もう、婚約するのですから、早くその証が欲しいのですわ。ですから、どうぞ、私を恭祐様のモノにしてください。」
そう言って首に抱きついてくる彼女を引き離し椅子から立ち上がろうとしたが、案外力がありなかなか離れてはくれなかった。
「何を、鈴音さん、離れてくださいっ!」
「イヤです!抱いてください。そして、約束してください本当に私と結婚すると!」
「何を言ってるんですか?」
「言うことを聞いてくださらないと、私父に言いますわよ?すげなくされたと...そうすれば、ゆき乃がひどい目に遭うのでしたわね?」
「鈴音さんっ!」
押しつけてくる身体、恭祐の首に回された手は意外にも力強く、動けない恭祐の唇に鈴音のものが押しつけられた。
「愛してますの、私、恭祐様をずっっと...だから、抱いてください。」
恭祐を解き放したその手は自らの衣服を身体から滑らせた。
「やめてください、そんなことをして何になると言うのです?」
「男性は女性がお好きなんでしょう?抱いてもいい女がいればお抱きになる。最初は情などなくとも、抱いていれば愛着も湧いてきますでしょう?ですから、恭祐様、鈴音を抱いてください。好きになさって構いませんのよ?ゆき乃とはどうせ愛し合えなかったのでしょう?彼女は処女だったっていうじゃありませんか?父が喜んでおりましたわ。私もまだ男性を知りませんのよ?恭祐様に差し上げたくて大事にして参りましたの。ですから、どうぞ...ね」
全て知っていてそう言い切れるのか?ゆき乃がまだ男を知らぬ身体だということも、自分の父がゆき乃を抱くことも、それを知っていて、言えるのか?自分はその犠牲の上で好きな男に抱かれようとする。なんて傲慢なのだろう。
恭祐の心は言い切れぬ焦燥で一杯になっていた。自分の父がやろうとしていることを口に出しても平気なこの女。
傷つけてやりたかった。ゆき乃が味わった分だけ、いや、それ以上に...
「自分だけ大事にしておいて、人の思いは無理矢理踏みにじる...それがあなたのやり方か?ならこちらもそうさせてもらおう。」
「え?」
恭祐らしくない、低い声だった。鈴音もその声を聴いて一瞬怯んだかのように見えた。
「貴女を抱く気はないと以前にいましたよね?ええ、抱く気になれないんですよ。一番愛するゆき乃とも結ばれる事が出来なかった。それなら、いっそ異母妹だと知る前に契っておけばよかったと今は思っているよ。今はそれを一番悔やんでいるさ。」
「恭祐様...」
「無理矢理男に乱暴されて、汚されそうになったゆき乃の気持ちがわかるか?大切に側に置いていた女の子が嘆く姿を見る僕の気持ちも...自分が僕に抱かれたいから?代わりが出来るんですか、貴女に、ゆき乃の。自分のどこにそれほどの魅力があると言うんです?着飾っただけで、何一つ自分で出来ない、傲慢なだけの貴女に、ゆき乃の代わりどころか、彼女が僕に与えてくれた、安らぎも、人を思うことを教えてくれた愛しさも、何一つ貴女からは感じはしない。」
「そ、そんなこと言ってよろしいの?私が父にいえば...」
「ほう、そうやって、今度は自分の父親にゆき乃を犯させるのか?そんなにまでして僕に抱かれたい?宮之原の妻になりたいのか?それならいっそのこと僕でなく僕の父に強請ればどうです?あの男は貴女の父親と同じで若い娘が好きなんですよ。自分の娘の身体すら狙っている。なら、貴女がその身体を差し出せば喜んで抱きますよ?」
「何を...そんなのイヤよっ!!私、は恭祐様がいいんです!」
「そう、イヤでしょう?好きでもない、自分の父親ほどの男に抱かれるのは...今、同じ気もちを今ゆき乃は味わっているんだ!」
「ひっ...」
鈴音の腕をキツく掴み引き上げると、強く鈴音が引きつるように息を吸い込むのがわかった。自分の身に振ってきて初めてわかればいい...その痛みと共に。
「嫌な男に抱かれて、嬉しいはずがないだろう?それはどんな女でも同じだ!訳あってそうすることしかできない女だって、誰でもそうだ!男だって、女なら誰でも言い訳がない!好きな、心底愛している女がいいんだ。たとえ抱けなくても、幸せにしてやりたいと思うんだよ!なあ、贅沢な暮らしも、キレイな服も、ゆき乃は一度だって欲しがったりしなかったんだ!ただ、僕の側でお世話が出来ればそれだけでいいと...僕だって、それだけでイイとすら思ったんだ。それを、おまえらは...無理矢理連れ去り、監禁して、無茶苦茶にしてもいいと?鈴音さん、貴女がそうされて嬉しいですか?」
「あっ...い、痛い...」
掴んだ鈴音の腕の先はだんだんと色が変わってきているようだったか構わず続けた。
「だけど、側にいれば欲しくなるんだ。ゆき乃が愛おしくて、欲しくて、誰にも渡したくなくて...それを目の前から奪っておいて代わりに?僕が愛するのはゆき乃だけだ、ゆき乃しか抱きたくない...そんなに抱かれたいのなら、一生ゆき乃の代わりにしてあげましょうか?」
「ゆき乃の代わり...?」
「ええ、貴女じゃ勃ちませんから、ゆき乃じゃないと優しくも出来ない。ただ途中でそうじゃないとわかるときっと萎えるでしょうね。」
「そ、そんな...」
「試してみましょうか?『ゆき乃、愛してる...』さあ、ゆき乃のふりしてくださいよ。」
「恭祐様...んっ」
鈴音をゆき乃に見立ててキスをした。そのまま床に投げつけ覆い被さる。
「ああ、『ゆき乃、ゆき乃、愛してるのはおまえだけだよ...たとえ血が繋がっていても、もう僕はおまえしか愛せない。ゆき乃...』」
「ああ...」
言葉の優しさとは裏腹な、蔑んだ視線で見下ろしながら胸をキツく握りつぶす。
「『たとえおまえが誰に抱かれても、その腕は僕の腕だ。ゆき乃を撫でる手も僕の腕だ...僕が抱くのもゆき乃だ、ゆき乃のあのキレイな身体なんだ...』」
「や、めて...」
スカートをまくり上げ、強引に脚を押し開き、指を這わせる。初めてでは濡れることもないだろうそこを愛撫するのではなく、無理矢理指を下着の上から突き立てた。
「いやっ、痛いっ、や、やさしく...して」
「なぜ?優しく出来るの?貴女は僕からゆき乃を奪って自分の父親に捧げようとしてるんですよ?そんな貴女に優しく?一生出来ませんね。『僕が愛してるのは、ゆき乃だけだよ。他の誰も愛さない。誰も好きになんてなれない。』」
「やめて...その名前を呼びながら...私を抱かないでっ!」
「貴女が連絡すれば、ゆき乃は僕の名を呼びながらおまえの父親に抱かれるんだろう?だったら僕がゆき乃の名を呼びながら抱いて何が悪い?」
「恭祐様はお優しい方よ、そんなこと...しないわ...」
「優しい?ああ、ゆき乃のためならいくらでも優しくなれますよ?『ゆき乃を思うだけでこんなにも身体は弾けそうになるのに...』貴女の顔を見たら萎えそうだ。勃ちもしない。どうします?このままじゃ抱けませんよ?なんなら口でしますか?よく遊びで拾ってきた女は、僕がやる気にならなかったらそうしてきましたよ。やりたかったら自分の口で扱いて無理矢理にでもその気にさせてやるんですね。そうしてまで僕が欲しいんだろう?ならヤレよ。」
冷たい言葉に、鈴音はゆっくりと身体を起こし、震える手でゆっくりと恭祐のズボンに手をかけた。
「ああ、でもそうされてもその気にならなかったらどうしましょう?その時は後継者を作るため、宮之原の血筋を絶やさないために父の子でも産めばどうですか?」
さすがにファスナーを降ろしたまではよかったが、それ以上は出来ずにその手を止めて、鈴音は悔し涙を流していた。
「うう...酷い、お父さまに言って、ゆき乃をひどい目に遭わせてもらうんだから...」
「じゃあ、一生抱きませんよ?抱いても抱かなくても、ゆき乃がひどい目に遭わせられるんだったら、僕は一生貴女を抱かない。結婚したければ籍でもなんでも勝手に入れるといい。人前でも、寝室でも、どこでも僕は一生ゆき乃を僕から奪った女として貴女を無視し続ける。貴女には愛も囁かない、優しい言葉もかけない。笑いかけることもないし話しかけもしない。ずっとゆき乃を愛し続けるんだ。僕の手に戻したら見せてあげるよ、僕がどれほどゆき乃を愛してるかどうか、目の前で...」
「やめてっ!それだったら、結婚の意味がないじゃないですか!あたしは、恭祐様のお嫁さんになって...愛されたいんです!恭祐様じゃなければいやなんです!!」
「奇遇ですね、僕もゆき乃じゃないといやなんです。僕らは両思いなんですけれどもね、残念ながら貴女のは一生片思いだ。」
「うう、そんな...血が繋がってるのに、汚らわしい...」
「ええ、汚らわしいですよ、そんな男を、実の妹を愛してしまった汚れた男を貴女は望んでるんでしょう?もし、他の形で僕の身体を手に入れたとしても、心だけは、決して貴女のモノになることはありません。それでも、望むと貴女は仰るのか?」
泣き崩れる鈴音を冷たく見下ろしていた。此処まで言うつもりはなかった。だが、何もかも知って望む彼女が許せなかった。このあと、鈴音が連絡すればすぐさまゆき乃に何をされるかわかったものではない。しかし、今現在折原は自宅に居るだろうし、鈴音が父に即連絡を付けられるとは考えられない。
それならば...間に合うかも知れない。
「あたしは恭祐様に愛されたかった...それだけなのに...」
小さく呻くようにその言葉を口にした彼女に服を着せてやる。
「だからといって何をしてもいいわけじゃない。」
鈴音は震えていた。これでわかってもらったつもりはないが、何もかもが望んだ通り手にはいるという幻想は、もう彼女の中に存在しないことだけはわかった。

電話の高い呼び出し音が部屋に鳴り響いた。
「もしもし!?」
『恭祐、場所がわかったぞ!!そっちに人を回した、すぐに合流してくれ!』
力也の声が受話器の中で反響していた。
「わかった!」
はやくもドアの外で車が急停車する音がした。力也が回してくれた車だろう。
「貴女にも来て頂きます。今騒がれると困りますからね。」
驚愕したまま、焦点なくこちらをみている鈴音に、昔の恭祐の微笑みでそう伝えた。

      

すみません、こんどは恭祐です...
酷いですよね?どっちもですが、優しくない恭祐です。
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