風花〜かざはな〜

27

「あっ……んんっ、はぅ……」
枕元の灯りに照らされて、シーツの上で男が女の身体を愛撫している。
わたしの身体は今、恭祐様のモノだった。全身を指と舌で愛撫され、その喜びに身体を震わせていた。
胸の先端を口に含まれ、吸われ、舐められ、歯を立てられた瞬間身体が跳ね上がる。押し開かれた脚の付け根は既に泥濘んで、恭祐様の愛撫を待っていた。恭祐様の熱い舌が這い、敏感な部分を甘咬みしてはわたしを快感の絶頂へと昇らせる。
昇り詰めたあと、息の整わないわたしの中に、恭祐様はそっと指を浅く泳がせる。
「きついね……ここは、相変わらず……」
「恭祐さまぁ……あっ、はあ……」
「もう一度イッて……」
「ヤです……恭祐様も……どうか……」
だって、知っているから……
どうやって男性を喜ばせるか、何度も見せられた。させられたコトもある……
手をそっと伸ばして、下着を押し上げて主張している恭祐様の情熱に指を這わせる。
「ゆき乃?あ……くっ、やめなさい……」
「ゆき乃にさせて下さい……最後まで出来ないなら、せめて……」
「いいんだ、おまえにそんなコトさせたくない!」
わたしの腕をとって払いのけようとなさる。淑女がするようなマネではないと判ってはいる。
でも、わたしが居た世界は、奉仕するのが当たり前で、チヅさんも貴恵さんも、その手と、口と、胸や身体を使ってお館様の身体を喜ばせておられた。繋がることが出来ないなら、せめて、恭祐様を喜ばせてあげたいと願ってしまう。
「でもっ、わたしに出来ることをしたいんです……恭祐様が喜ばれるなら、わたし……やり方は知っています」
あれ以来、直接お館様の御前に呼ばれたことはなくても、何度かチヅさんとの情交の後かたづけにだけ呼ばれた。早い時間に呼ばれて、チヅさんとの交わりや、女の奉仕を見せられ、聞かされた。お館様との血の繋がりをしらないチヅさんが、わたしを自分と同じ扱いの女だと、おもしろがってわたしにいろいろ教えてきた。
いずれ、どこかに嫁がされたときに、男を喜ばせられるようにと言うことだったのかも知れない。
「ダメだ……ゆき乃……」
恭祐様の声が切なく掠れる。
「身体を繋ぐことが出来ないなら、せめて……上手くは出来ないかも知れませんが……恭祐様のでしたら、わたし……」
震える手で恭祐様の下着を降ろす。一瞬目を背けてしまいそうになるけれども、コレはお館様のではない、愛しい恭祐様のモノなのだと言い聞かせてそっと手を這わせた。
「くっ……」
恭祐様の何かを我慢する声が漏れる。やはり、わたしが触れることで喜ばれているなら……
「ああ……ゆき乃が僕を……本当にいいのか?」
「軽蔑されますか?こんなことをしようとする女を……」
「まさか!ゆき乃は、僕が辛いと思って、その……しようとしてくれているんだろう?」
「気持ち……よくないですか?」
さすがに恭祐様が避けられているのに、それ以上出来なくて、ただ、触れれば触れるほど硬く張りつめる恭祐様自身に指で触れ続けていた。
「はぁ……さっき済ませたはずなのに。こんなに……ゆき乃に触れられるだけで我慢できなくなるなんて……うぁっ、気持ちいいよ、ゆき乃。すごく、イイ……もっと触れて?ゆき乃で気持ちよくさせておくれ」
恭祐様の空いた手がわたしの頬にそっと触れ、親指が軽く唇を撫でた。
『ぺろぺろなめてやって、その後口に含んで扱いてやれば男は喜ぶんだよ。不味くても飲んでやればなおのこと喜ぶしね。可愛いものよ、こっちのやりかた次第で感じてるのを見てるとさ。』
わたしがお館様のモノを処理させられた後、しばらくしてチヅさんがそう教えてきた。その時はおぞましく、汚らわしい行為に思えた。こんなこと好きな人のモノでもなければ絶対に無理だと思ってしまう。でも、それじゃ……もしかして、チヅさんも本当はお館様のことを?
だって、わたしは、愛する恭祐様以外には出来ない、したくない……
「ああ、ゆき乃……」
そっと舌を這わせて、何度も舐めあげる。恭祐様もわたしの、あんなトコロを一生懸命こうやって舌で可愛がってくださったのだから、わたしも、と必死にやってみた。たどたどしかったと思う。いくら好きな人のモノでも、どうしていいか判らなくて、涙が出そうになる。
「ゆき乃、もどかしすぎて、かえってキツイよ。苦しいんだ……」
「あの、じゃあ、どうすれば……」
恭祐様が耳元で消え入りそうなほど小さな声で『ゆき乃の口の中に……』と、そう言われた。
「んぐっ……」
言われたとおり、口に含もうとしたけれども、大きくて簡単に含みきれなくて……精一杯含んだところで、戸惑いながらそっと恭祐様のほうを見上げた。
「ゆき乃、ごめん……」
わたしを見て、今までに見たこともないほど艶っぽく眉を寄せた恭祐様が切なく呻かれた後、わたしの口中でソレがゆっくり出し入れされはじめた。
「あっ……くうっ」
わたしの肩に置かれた手がきつく掴まれて痛みすら覚えた。わたしはどうしてイイか判らなくて、苦しくて涙が溢れてきてしまった。
「うぐっ、ううっ……」
「ゆき乃っ!」
急に恭祐様はご自身を引き抜かれて背を向けられた。
「あっ、くぅ……」
「あの、恭祐様……?」
「こんな所見るなよ……恥ずかしいだろう?」
恭祐様はわたしの口の中でなく、ご自分の手の中で果てられていたのだった。
「す、すみません……でも、よろしかったんですか?わたしは……」
「今はまだいいって言ってるだろう?ゆき乃も無理しなくていい」
真っ赤に照れた恭祐様がわたしにすっと、キスすると、そのまま横を向かせて見えないようにご自分の処理をされていた。
「すごく気持ちよかったんだけど……焦ったよ。ゆき乃がこんなこと言い出すなんて思わなかったから」
わたしまで思い出すと恥ずかしくて、下を向いて黙り込んでしまった。
「一緒にシャワー浴びてくれる?」
そう言ってのぞき込む恭祐様に抱きかかえられてそのままバスルームに連れ込まれてしまった。

身体を繋げなくても愛し合う行為があるとしたらこういうコトなのだろうか?
これでももちろん恭祐様はお辛いだろう。シャワーを浴びて、じゃれ合いながら、心も体もぴったりと恭祐様に寄り添う気がした。すべてを許して、一番恥ずかしい部分まで見せあい、ふれてキスを贈った。快感に身を任せて狂ってしまうところを見られて、もう隠すモノなどない近い存在。
「んっ……」
シャワーの雨の中でまたキスが始まり、身体を寄せてまた求め合いそうになって、さすがにわたしがもうもちそうになくて、ぐったりしかけてるのを見て、恭祐様はすまなそうに微笑まれて、そのまま寝室に戻った。
シーツにくるまって素肌を寄せ合って、二人ベッドに潜り込む。お互い充足感に覆われて、抱き合いながらとりとめのない話しをしながら眠りについた。


もう、戻れない。お互いの身体に触れあうことを覚えてしまった。
異母兄妹の存在にはなれない。
今は身体を繋げないだけの一線で踏みとどまっているだけのこと。
もう既にこの身体も心も恭祐様のモノ以外ではない。

離れられない……

同じ部屋で過ごす時間、求め合い、身体を重ねて愛撫をしあう。
幸せな時間、幸せな場所。

「恭祐様?あの、食事の用意が……」
「ん?いいよ……先にゆき乃が食べたい」
台所で、そのまま愛されることも少なくなかった。
「こんなに自分が抑制きかなくなるなんて思わなかったよ」
それでも少しはわたしのことを考えて加減して下さってるのは判っていた。
だからわたしも……
「恭祐様……このまま……んんっ」
「ゆ、きの……あっ、そんな……くっ!!」
恭祐様はいいとおっしゃられたけれども、わたしは恭祐様の思いを口で受け止めて差し上げたかった。何度かお願いしてそうさせて頂いた。この身体で受け取れないなら、せめてそうしたかった。
だからどうすればお気持ちよくなられるか、いろいろ考えて……それ以上に恭祐様が愛しくて、自分の中からその思いが溢れてしまいそうだった。
罪悪感がないと言えば嘘になる。罪も、世間の目も、お館様の目も怖かった。
二人で逃げ出せばいいけれども、今はできない。逃げても何の解決にもならないから……血の繋がりが切れるわけではない。すぐさま連れ戻されるだけだろう。
だから、平素ではそんな素振りも見せずにただの遠縁の娘の振りを続けた。
友人達には『最近綺麗になったね』と、いわれた。けれども、それが嬉しくて、怖かった。こんなにも身体ごと愛されて、幸せでしょうがないのに、どこか不安で綱渡りのような生活。
それは恭祐様も同じで、何かに追いつめられるように、わたしを求め、離さない日もあった。
何度も狂わされて、おかしくされて、何度も愛していると囁かれ、愛していると答えた。
仕事の面でも恭祐様は色んな手を使って模索されていたようだ。どうすればお館様の手を退けられるか。力也くんと組んで、あらゆる手段を使って。
それでも相手は宮之原の本体だ。少々揺さぶってもわずかに忙しくさせる程度で、手向かえないことを知らされるばかりだとおっしゃられた。
恭祐様は自ら宮之原の中に入られることを決められた。中からさぐりを入れて、動いてみると……
そうなれば益々忙しくなり、父親に近づくことによって余計に危険度が増すのは判っている。実の息子が内側からの転覆を狙っているなど気がつかれてはならないのだから……
「それでも決心できたのはゆき乃が居るからだ。ゆき乃を手に入れるために、誰にも嫁がせないようにするためにだよ。たとえ、一生このままでも、ゆき乃を誰にも渡したくない。僕だって形だけでもゆき乃以外の誰かを妻と呼びたくはない。そのためには僕達が自立しなきゃいけない。宮之原に倒されないほど、強く……」
「ゆき乃は、どこまでもついていきます。何も残されなくても、その先が地獄でも、恭祐様さえいらっしゃるなら……でもやっぱり、恭祐様に無茶はさせたくありません。だから、もしもの時はゆき乃を捨てて下さい。恭祐様のためなら、ゆき乃はこの身体ぐらいどうなってもかまわないんです。そう思えるほど、たくさん愛して頂きましたから」
恭祐様の胸の中でそう哀願する。
「だめだ!僕が、嫌なんだ。ゆき乃を誰かに渡すくらいならいっそ……いや、それは僕の我が儘だ。もし、ゆき乃が望むなら、その時は僕もゆき乃を解放してあげたいと思うよ。あの館からも、この罪からも……だけど、もう離れられないだろう?ゆき乃も、僕も、もうこの罪を受け入れてしまったから……」
この罪を、苦痛を、自分だけで受け止めれるなら、そのほうがよかった。だけど、この罪だけは二人の罪だから……逃げられない罪だから。

そんな中でささやかな願い。
いつか、恭祐様のすべてをこの身体で受け止める日が来ることを……その日が来ればもう思い残すコトはない。
お館様の手が恭祐様に伸び、二人引き離され、どこかに嫁がされてしまう前に。
その前に……

      

とうとうですが、越えてません?!でも、もう止まらない〜〜