たぶんそう思う...
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バレンタインだ。
今年は槇乃さんからのチョコさえ待ってればいいんだよな。

2月14日、もう高校は自由登校で学校でのバレンタイン騒動には巻き込まれずに済むはずだ。
毎年後輩やらクラスメイトから押しつけられるチョコの数。お袋がいないのにどうやって処分するんだよ?って心配してた。まあ、毎年紙袋一杯と告白付きで帰るころには心身ともに疲労困憊状態なんだぜ?女の方は一生懸命なんだろうけど、断らなきゃならないこっちの身にもなって欲しい。告白されるくらいならいっそ本気まじりの義理チョコの方がましだ。ほんと、辛いんだって...

昨夜から槇乃さん家からは立ち入り禁止だ。まあ、理由はわかってるけどね。槇乃さん家の台所から甘いチョコレイトの香りがしてくる。何作ってるのかな?まあ明日のお楽しみだね。チョコを槇乃さんごと食べるのさ。

自粛した翌朝は辛い。これで隣に槇乃さんがいようもんなら飛びかかってるよな?オレ。さて、槇乃さん家に行く準備ってわけで朝からさっぱりとシャワー浴びていた。
『ピンポーン』
あれ、槇乃さん待ちきれずに来たのかな?
俺は慌ててバスタオルを腰に巻いてバスルームを飛び出した。
がしがしと頭を乾かしながらドア穴から覗いて槇乃さんを確認しようとした。
(な、なんだ?あれは隣のクラスの??)
槇乃さんじゃない。隣のクラスの女子が数人かたまって人ん家の前でなにやら緊張した顔でこっちのドアの方をみていた。
(今年はこのパターンは無いと思ってたのに...)
『久美、大丈夫?しっかりね!』
そばで友人を励ます奴ら...おい、頼むから諦めて帰ってくれよ。
『ほら、部屋の中電気ついてるし、カレ一人暮らしでしょ?だから絶対にいるから!』
力説しないでくれ、頼むから...
俺は仕方なくジーンズとトレーナーを着て、濡れた髪のままドア越しに『誰?』と聞いた。
『あの!隣のクラスの太田久美です!あの、わ、渡したいものがあって!!』
うわずった声が必死さを伝えてくる。こういうタイプを断るのが一番辛いんだよな...
「悪いけどシャワー浴びたばっかりで外出られないから用件だけ言ってくれる?」
冷たいようだけど、期待持たせる方が後始末悪いからね。
『あの、バ、バレンタインのチョコレート、受け取って欲しいの!あたし、あの、広野くんのこと...』
「悪いけど、今年はカノジョからの分しか受け取らないことに決めてるんだ。悪いけど...」
『....』
しーんと静まるドアの向こうから小さな嗚咽が聞こえてくる。ああぁ、泣いちゃったか...けどここで仏心出すわけにも行かないからね。
『あのっ!あたし、久美の友達なんですけど...昨日久美一生懸命手作りしたんです!マフラーも必死で編んだんです!受けとるだけ受け取ってあげてくれませんか?!』
ああ、こういう場合、友人の方が熱くなってたちが悪い。常識で考えりゃカノジョがいるからと断ったら受け取れるはず無いだろ?その子の気持ちはそっちからすれば大事だろうけど、カノジョがいて受け取れないって言ってるのに、それは無理のごり押しだろ?受け取っても食べないし、使えないだろ?そのマフラー...ほんとに、この訳のわからない使命感に燃えてる友人の方がしつこかったりする。その子からしてもそこまで食い下がられたんじゃ迷惑だろ?その子にだってプライドはあるだろうに...
「あのさ、君らのカレシが自分以外の女の子から手作りのチョコもらっても許せる?それを食べてるとこみたい?」
『そ、それは...』
「悪いけど帰ってくれる?受け取る訳にいかないからそれ...」
ようやく友人の女の子も解ったみたいで、まだ鼻をすすりながら立ち去って行った。
こうなりゃ早めに槇乃さん家に避難しなきゃやばいかな??


『ピンポーン』
ドアののぞき穴から確認する。
またか...
俺いつになったら槇乃さんとこに行けるんだろう?
「槇乃さん、俺...槇乃さん家行きたいのに家からでれないよ。」
隣にいるのに電話越しだなんて辛いなぁ...
『どうしたの?』
「そっちのドアからうちの前ちょっと覗いてみて?」
しばらくぱたぱたとい聞こえた後...
『ほんとだ...女の子が粘ってる...どうする?もう今日は止めておく?』
止めるだって?そんなこと出来るか!
「俺、ベランダから行く!槇乃さん、そっち側も開けておいて!」
俺は意を決して靴を履き、ジャンパーを着てベランダに向かった。念のため鍵はもって...
たしかはしごあったよな?
まるで間男みたいだけど、うちのベランダから槇乃さん家のベランダにはしごを渡す。
「まーくん、大丈夫なの??」
慌てて出てきた槇乃さん。もうすっかりお化粧も済んで待ってたんだろうな、オレのこと。
「うん、今そっち行くから、そこ押さえてて。」
向こう側だけ押さえてもらってそろそろと這っていく。な、なんか情けねえ...
「槇乃さん!」
俺は寒い北風の吹くベランダを、ジュリエットの元へ急ぐロミオのようにはしごをよじ渡り、彼女をその腕で抱きしめた。
「ま、まーくん??」
「はぁ、やっとこれた...いっそのことここでしようか?」
「な、何言ってるのよ!!馬鹿っ!」
腰を引き寄せたまま軽くキスしてそういったらあっさり却下された。


「はい、バレンタイン。」
そういって手渡されたのは手作りチョコのラッピング。
「それと、これ、見つけたんだけど。まーくん似合いそうだなって...」
差し出された大きな紙袋の中味はセーターだった。忙しい槇乃さんが編めるはずもなく(その前に彼女はそこまで器用ではない。)買ってきたものだろうけど、オレの好きな茶系のするっとしたセーターだ。
ちょっと着てみる。うわぁ、肌触りがすごくいい。あれ、これもしかして!?
「こ、これって、カシミヤ?ま、槇乃さん...」
「あ、気にしないで。毎日おいしいご飯作ってもらってる御礼も込めてただから。」
その御礼は毎晩身体でいただいてますが?
「それにね、それ着てるまーくんにこうするのはわたしでしょう?」
そういって槇乃さんが身体を寄せてくる。
だめだ、昨日も今朝もしてないから...
「槇乃さんっ!」
お約束で押し倒すと槇乃さんのスカートがまくり上がる。オレはごくりと喉で唾を飲み込むと膝から太ももの外側をすっっとなで下ろした。
「ま、まーくん、あの外に女の子達いるから...」
「関係ないよ。今年は槇乃さんのしか受け取らないし、チョコなんかより槇乃さん食べたい...」
そういった瞬間、槇乃さんがキッっとこっちを睨み付けた気がした。
「チョコなんか、ですって?」
「へっ?」
「あ、あたしが、明け方までかかって、必死になって作ったチョコを、チョコなんかですって??」
「ま、槇乃さん、お、落ち着いて...」
やべえ、槇乃さん目が据わってる...もしかしてオレ逆鱗に触れた??
「何度やっても上手く形にならなくって、必死に作ったのに!これだけ作るのに、すっごく時間もかかったし、いっぱい材料使ったんだからね!」
「ご、ごめんなさい!槇乃さん、俺、食べるから、ね?」
俺はさっと身を起こしてチョコの箱を手にしようとした瞬間、それを槇乃さんに奪われた。
「ま、槇乃さん?」
「全部食べるまでさせてあげない。」
「えっ?」
そういって反対に俺を床に押し倒すと馬乗りになってきた。
「はい、食べて?」
口の中にやたらでっかいトリュフのようなものをつっこんでくる。うわっ、これめちゃくちゃ洋酒が効いてないか?
「ま、まひのはん...うっ」
無くなりかけて口を開こうとするとまた...次々と放り込まれてくる。
「ううっ...」
あ、甘い...それにもう、酔いそうだよ...
さすがに酒は飲んだこと無いとは言わないけどビール程度だ。こんな訳のわからない洋酒...うわぁくらくらする!
「ね?おいしい?」
「槇乃さん、味見してないの?」
「え?だって匂いだけでおなか一杯になっちゃったから。」
「じゃあ、食べようよ、一緒に。」
最後の一個を箱から取り出すと口の中にほおりこんで槇乃さんの顔を引き寄せる。
「え、まー...んんっ」
いきなり舌先で槇乃さんの中にチョコを押し込む。後はチョコごと食べ尽くすような甘く激しいキス...
「んんっ、はぁん...」
潤んだ瞳がオレを見下ろしている。俺の下半身はもうしっかりその気で...
「槇乃さん...」
槇乃さんが俺の上で着ていたセーターを思いっきりよく脱いだ。それからキャミソールも。ブラにかけた手をそっとどけて俺の手で後ろのホックをはずす。こぼれる槇乃さんの胸を下から持ち上げる。すでに堅くなった胸の先がオレを誘っている。うう、けれども今は唇は届かない。指でそっとつまんだりして刺激してやるとすぐに身体をゆらして身悶える槇乃さん。
すっげえ綺麗なんだよね。こうやって見上げる槇乃さんは妖艶で、俺を虜にする。
スカートだから頭から抜くと槇乃さんはすでに下着一枚の姿だ。部屋の中は暖かくしてるけど、それ以上に身体が熱く火照り始めているみたいだ。
「綺麗...槇乃さん。俺のことどうする気?」
艶のある微笑みを俺に返すと、彼女はセーターをまくり上げ俺の胸を何でも手のひらで撫でた。それから視線を落として行くとジーンズのボタンに手をかけてゆっくりと降ろすと、俺のものに手をかけた。
「この間の仕返し...」
そういって俺の股間に顔を埋めてしまった。やべえよ、抜いてないんだから...
「あっ、ま、槇乃さん...ううっ」
これじゃまた勝負状態じゃないか?
「まーくんだけ、ね?」
「うわぁ、槇乃さんっっ!!」


あっけなくイカされてしまいました。どこにって聞くなよなぁ、くそぉ!
なのにおれの節操なしの息子は...
「槇乃さん、だめだ、すぐにしたいよ...」
だめ、ほんと治まらない。
「うん、あたしも...欲しいから。」
俺の準備を済ませて槇乃さんが俺に覆い被さる。
ゆっくりと槇乃さんは気持ちよさそうに俺を飲み込んでいく。
「んっ、ん...はぁ...まーくん....」
「お願いだよ、槇乃さん、う、動いて!」
「やぁ、動けないのぉ...はうん...」
たまらないほど色っぽい顔の槇乃さん。気持ちいいけど地獄だよ...
「くそっ、槇乃っ!」
ぐいっと腰を突き上げた。
「ひゃあん、ま、まーくん、やだっ!」
そのまま突き上げ続ける。槇乃さんもそう欲しくてたまらなかったみたいだ。
「やあ、またおかしくなっちゃう!」
「槇乃っ!」
「ま、将志っ!」

ばさりと槇乃さんが俺の上に倒れ込んできた。



さすがにもう夕方、ドアの隙間から覗いてももう誰もいなかった。
「よかった...」
「良くないわよ...」
「え?」
俺が着てきたトレーナーを着てる槇乃さん。う、きわどい丈がそそってくれるぜ。
「この後かたづけ、それから晩ご飯の材料、これしかないもん。」
失敗し尽くされた台所の惨状。そして失敗した時用にと買いだめされたチョコの数々。
そして失敗したチョコの山。
「これはもう、みたくないよな?」
頷く槇乃さんをみてからその失敗作の山をゴミ箱に捨てた。
「取りあえず片づけて、何か食べるもの作るよ。あのさ、あっさりしたものでいい?」
「うん、ごめんね。」
そうして二人仲良く並んで後かたづけを始めた。
明日は日曜、このままここに泊まるから、ゆっくりやるこことに決めた。
「槇乃さん、バレンタイン、おいしかったよ♪」
洗い物を終えた手で引き寄せたら真っ赤になって『チョコがでしょう?』と強がった。
ホワイトデイは何がいいか、今から考えるのが楽しみだ。

         

この二人もバレンタイン初だなと思って書いてみました。相変わらずの常春で、チョコも溶けそうです。(笑)あの事件?のあとも相変わらずの二人でした。ちゃんちゃん♪