ドアを開けたら...
〜迷走編〜

「俺のはじめての相手だよ。あの秘書の巻田緋紗子って女は...」
「うん...」
「知ってたのか?」
「それらしいこと秀やお兄さんが...それにあのヒト、そんな感じだった。」
「そっか...恋愛感情とかあんまりなかったんだ。そりゃ一時的に勘違いしてた時期もあったけどな...あの女は親父の愛人だ。だけどうちの親父ってのがお盛んでね、何人も女いるんだよ。それをまた競わせたりするしさ...当時は親父の愛人の中じゃ緋紗子が一番若かったのかな。親父はさ、結婚する気はないって最初から言ってたから、久我の家に入りたかったら息子でも誘惑してみろって言ったらしい。それで先にうちの兄貴を誘惑したらしいんだけど、それも反対に遊ばれてただけってわかって、その腹いせに俺に手出してきた。16の時だったし、やりたい盛りだし、映画撮る上でも女知っといたほうがいいなって思って、誘いに乗って...しばらくはまった。いろんな女と付き合ったけど、間空いたときとか誘ってくるんだよな。だから俺もつい...だけど信じて欲しいのは竜姫と付き合いだしてからは無視してた。無視したからこうなった...あいつはそういう女なんだ。プライドが高くって、自分が遊ばれてたり愛人にされてるのが嫌なんだ。だから俺が無視し始めたとたん調べて親父に色々告げ口したらしい。部屋の事だって、緋紗子が勝手にやったみたいなもんだ。親父は俺が会社に入らないのが気に食わないから好きにさせてるみたいだけどな。」
黙って聞いていた。
今更怒れないし...昔の話だし...でも続いてたんだよね、最近まで...
「竜姫?」
「...すごく嫌だった。広海の部屋で会ったときの、追い返されるようにされて、馬鹿にしたような目で見られて...」
「悪い...嫌な思いさせたな。確かに俺にセックスを教えたのは緋紗子だよ。けど、親父の愛人と寝ても平気でいるような俺だったから...その時はまだ竜姫を知らなかったし、出会ってからもおまえは親友だって思ってたからな。女なんて...いくら綺麗でも、金と自分の欲のために好きでもない男と寝れる、そんな打算的な女がいるって思い知らされたのも彼女だ。だから俺は正反対の女性に理想を追ってしまった。フィルムのなかの母親のように、可愛くてはかなげで清純な女の子を探した。」
そうだった...広海の理想のタイプ、清純派で可愛くって護ってやりたいタイプの可愛い女の子。でもそのタイプの女の子の大半は演技で、精神的にもたくましい女の子が多いのも事実。自分から言い寄っていく、またはそう仕向けるのがじょうずな子もいる。本当にそんなタイプの子は男の子から逃げ回ってるもの...
どっちにしろあたしはどちらのタイプでもなかったからひたすら彼の親友役に徹してたわけだ。
「俺の心を掴んで離さないやつはもっとずっと側にいたのにな...気がつかない俺も、言わないおまえも悪い。」
「ちょっと、なんであたしが悪いって言うのよ!あたしは、ずっと...広海だけを見てきたよ。あの秘書さんや可愛い彼女と一緒にいてもずっと...」
言ってて恥ずかしくなった。あいつがすごく優しい目で見てるんだ。ずっとあたしの顔を...
「おまえとさ、温泉行っただろ?」
「うん...」
「あれでばれたらしい。俺が女の子連れて泊まったっていうのがさ、緋紗子の耳に入った。俺は今まで彼女が出来ても旅行に行くほど続いたこともないし、撮影旅行に連れて行くぐらいだっただろう?緋紗子がそこまで俺に固執してるなんて思ってなかったしな。確かに誘われれば抱いたさ。俺も男だから、女がいない時なんてな...おかげでまあ女に対する自信だけはついたけど。けれども心がともなわないセックスは空しいってことに気がついた、竜姫を抱いてから...あんなにむちゃくちゃ、テクニックや何もかも関係なく本能で抱いたのはおまえがはじめてだった。あれ以来竜姫以外に欲情しなくなるし、おまえとやってると俺やめられなくなるほど夢中になる。温泉行った時の夜だって、一晩中おまえの体を抱いていたって飽きなかったんだぞ。今だって押さえてるんだ、いつだって竜姫を抱きたい...さっきだって、なぁ...」
目がマジになって近づいてくる。今度こそ抱くぞって顔...でもっ!話まだ終わってないよ!!
「そ、それで、広海はどうするの、これから...」
「まず緋紗子と話をつける。それから親父ともちゃんと話はするさ。けど会社には入らない。どんな小さなとこでもいいから映像と携わっていたいんだ。だってさ、俺って物心ついたときからそれしかなかったんだからな。前にも言ったことあっただろ?」
「うん...」
聞いていた。広海が映画や映像にこだわるわけ....小さい頃広海のお母さんがなくなって、残されたのは写真と8ミリフィルムに残った儚げだけど優しい微笑み。それが広海に残されたお母さんの思い出。胸の温かさだけは覚えてるって言ってた。お兄さんは跡取りとして英才教育受けていて、幼い広海の遊び相手はいなかった。誰にも懐かない彼は、その守をTVにまかされた。見ていたら大人しかったらしい。それからは最新式の設備を入れてもらって飽きるほど映画やドラマ、情報番組を見ていたららしい。
「俺は映像から得られる擬似感情に癒されるようになった。俺の思う形をいつか本物に出来ればいいと思った。おまえと出遭って、新しい世界も知ったし、女でも信用できるやつがいるってわかった。映画でもまた全然違う見方してて新鮮だった。」
あたしも、寂しい時とかTVみて育ったから...商売やってるうちは両親も忙しくて休みでも一人だったから...朝から晩までテレビ見てた。それで最初からすごく気があったんだ。
「俺には竜姫だけだ、これからはずっと...他の女のことは忘れてくれ。俺にはもう竜姫しか見えてない、竜姫だけが欲しい。竜姫...」
下向いてたらそのままベッドに押し倒される。
「えっ、ひ、広海?...やっぱりするの?」
すでにあたしの首筋に広海の唇が触れ始める。
「竜姫が足りない...何日あってなかった?それともさっきの話聞いて嫌になったか?」
頭を横に振る。だけど引っかかってるのはたしか...でもいくら口で説明してもらってもたぶんダメだと思う。出来れば身体でわからせて欲しいって思うけど...
「じゃあ、覚悟しろよ。けどな、さっき秀に言われたんだけど、ここって壁が薄いから気をつけろって。」
「え?」
「秀が部屋を借りたわけ...そういうことだよ。俺の部屋みたいに防音効果ないから、この部屋。しっかり声を抑えていろよな?」
「そ、そんな...あっ...んっ」
『竜姫、好きだよ...』
耳元で甘い声があたしを落とす。それだけで体の力を抜いてしまうあたし...
「あ、でも...お風呂、まだ...はぁっん、ひ、広海ぃっ...」
いつもよりも性急に取り払われていくあたしの服。汚しちゃいけないのでスーツはもう脱いでいて、いつものブラウスシャツとジーンズだったけどすでに体の上にはなく、残されたのは最後の1枚だけだった。
「竜姫、もし俺たち別れさせられたら...俺が他の女と結婚させられたら、いつか竜姫は他の男のモノになってこんなこと他の男にさせるんだろうなって、そう考えたら気が狂いそうだった...竜姫に触れるのも、竜姫の隣にいるのも、いつでもそれは俺でいたい...」
「あっ、あたしだって嫌だよ、広海が他の女の人に触れるのは...いや...」
「竜姫、俺だけの...」
「あぁっ!ひ、ひろ、み...あんっ!」
最後の一枚ももうない。あたしの脚の付け根に顔を埋めて舌を這わせる。敏感な部分を舐め上げられて甘い声を上げてしまう。だめ...声、殺さなきゃ...
「うっ、ぐっう...あ、はあっ...ん」
手の甲で口元を覆い必死で声を押さえる。けれども身体はもう暴走し始めてる、それほどまでに彼の愛撫に慣らされた自分の体...止まらなくなる、体がぴくぴくと震え始める。差し込まれた指がかき回す快感に体が泳ぐ。でも...足りない。
「やあっ、もう、お願い...広海ぃ...」
逢えなかった間、不安に押しつぶされそうになったとき、欲しかったのは彼の腕の強さ、胸のぬくもり、そして...
「竜姫、...泣くなよ...」
いつの間にか流れ出ていた涙を唇で吸い取ってくれる。
彼は全部捨ててあたしと夢を取ると言った。何も持ってなくていい、広海だけが欲しい。
「竜姫、受け取れよ、これが今の俺の全部だから...」
準備の終えてゆっくりとあたしの中に入ってくる。体が震えるほど喜んでしまう。
もう、離れられない...
ゆっくりと、次第に激しく動き出す彼に自ら絡みつかせて離すまいとする。
「ああっ、う、んんっ...ふっうん、あうっ...んっ!」
声が甘く高くなっていく。思わず大きな声が出そうになる前に彼の唇で塞がれる。そのため動きはゆっくりになって、じれったさが下肢を支配していく。
こんなの...だめ、おかしくなっちゃう...
広海の顔を押しのけて嫌々をする。わかってくれたみたいでゆっくりと身体を離すとあたしをひっくり返した。
「竜姫、枕で声殺せよな...おれ、もう止まらないから...」
あたしの腰を抱え上げて後ろからぐぐっと入ってくる。
「あぁあぁっ...」
声が上がって震える。さっきとはまた違った角度で擦られ始めて、あたしは枕に顔を埋めてひたすら声を殺した。広海の動きは益々激しくなり、奥に奥にとあたしを求めてくる。いつだって激しいけど、今夜は特にすごかった。
「た、竜姫っ、あぁ、愛してる、竜姫っ、絶対に別れない、絶対に離さないっ!!」
壊れそうなほど叩かれ、彼の掠れた甘い声に何度も意識が飛びそうになる。快感はMAX状態から下に下がらない。枕の中に悲鳴のような声が漏れ続ける。
「いけよ、何度だって...竜姫、うっ、く、もう...だ、めだっ!」
どくんと、中で彼のものが大きく弾けた。あたしは身体を震わせてそれを受け止めながら大波にさらわれてとうとう意識を手放した。


目を覚ませば広海の腕の中で眠っていた。重い瞼をゆっくりと開けて彼を見つめた。あたしを腕の中に閉じ込めたままじっと天井を睨みつけていた。その横顔をそのままじっと見ていた。
「ん、竜姫、目が覚めたのか?」
もそっと動いたのに気がついたのかゆっくりと目線をあたしに移してくる。
「声、我慢させたの、辛かったか?今日の竜姫すごかったな...あんな積極的に感じてくれたのはじめてだろ。」
にやっと意地悪く笑ってみせる。あたしはいつもみたいに悪態をつかずに彼の首に腕を回して抱きついた。
「大丈夫だよ...」
なにがなんだろう...あたしが、ううん、広海のこと?
不安だろうね、やっぱり。あたしだって家から追い出されたら困ってしまう。
何もかもゼロからはじめられるんだろうか?
「広海、あたしも家出る。アパート借りて一緒に住もうよ。就職も探す...広海が夢追いかけられるようにあたしが働くから...」
「馬鹿...」
優しい手があたしの髪をくしゃっと撫でた。
「おまえが家出れないのはわかってる。無理するな。おまえに養ってもらわなくても何とかするさ。今は自分の力でどこまで出来るかやってみたいんだ。そのかわり...こうやって、時々でもいいから俺を受け止めて欲しい。」
「ん、わかったよ...」
もう一度ぎゅっと抱きつく。
「竜姫...」
もう一度覆いかぶさってきながら小さく『時々じゃもたねえかも...』と小さく笑いながら囁いた...

         

広海の初体験の相手が判明!親子どんぶりどころか兄弟が兄弟に(笑)えらい女です、巻田さん。自らそれを告白してしまう広海。竜姫も今のとこ大丈夫そうだけど、これからどうするつもりなのか??