ずっと、離れない...

〜芳恵〜
さっきまで...そのやってた、ってことだよね?
ぷりぷりと怒りながら目の前の席に着く親友の紗弓。色白で、部活で焼けてるけど、あたしよりもかなり白いのは間違いない。昨日今日みたいなワンピースなんて着てると、焼けてない肌が妙に白い。それに綺麗な肌...それを...うわっ!あたし何考えてるの?そ、それに昨日はあたしだってちゃんとシタわけだし、でもそれ以上のことをされちゃってるのって妄想が!今まではなんとなくしかわかってなくて、誰に聞くでもなかったから、やってみて初めて、どういうことをするのか実感しちゃったよ。授業で聞いたりしたのとはぜんぜん違う感じがしたもん。あたしの周りはソフト部のやつらが多いから、経験組なんてほとんどいないし、紗弓には...今まで聞けなかったもんなぁ。
「どうしたの?芳恵ちゃん?」
こくんと小首をかしげるしぐさがまた可愛い!あれ?首筋と、胸の服の際に赤い...キスマークだ!すごい、なんか想像させるような位置だよ?それもなんだかいくつも??
「紗弓、これとこれと、ジュースはオレンジ?アップル?」
来栖が甲斐甲斐しくトレーを運んでくる。もう、すっごい大事にされてるって感じ。後から遅れてここに入って来る時も、なんか支えられてるような雰囲気だったし。
「そのオレンジ生絞り?それがいい!」
うれしそうに返事した後、またむっとした表情に戻って、ぷいと来栖から目をそらす。ケンカしてるのかな?
「紗弓、もういい加減に機嫌直せよ...」
「し、知らない!遼哉の馬鹿!」
そう言い放つとパクパクとトレーの上の朝食を食べ始める。洋食バイキングのメニューはどれもおいしくて、あたしもいっぱい食べちゃったけど、紗弓も凄い勢いで平らげていく。もともとあたしたちは運動してるからそこそこ食べるほうだけど、紗弓、その量凄いよ?
「ね、そんなに食べて大丈夫?」
「だって、おなかぺこぺこなのよ?なのにもう、遼哉ったら...」
自分の分を取りに行った来栖のほうをチラッと見ては顔を赤くしている。
その様子を見ていた竜次くんまでもが真っ赤になってる。
「紗弓の好きなフルーツもあったぞ。ほら、桃とかみかんとかの缶詰のやつ、ヨーグルトと一緒に食べるか?」
「う...食べる...。」
戻ってきた来栖がすっごく優しい顔で紗弓に微笑みかけてる。もう可愛くてしょうがないって感じの微笑みだよ?こんな顔するんだぁ...来栖って綺麗な顔してるけど、こんな風になるのは紗弓といる時だけなんだよなぁ。あたしですらドキッとするほど優しい顔。そういえば、さっきからこのホールの中にいる女性たちもちらちら見てたよね?紗弓ったらそんな来栖に傅かれるみたいな態度で...でも彼女も可愛いもんね。怒った顔が真っ赤になっちゃって、いつものあたしなら、ぎゅってしちゃってる。
「はあ、当てられちゃうね。」
そう言って隣にいる竜次くんの顔を見た。あれ?ずっとこっち見てたの?目線がこっち...あたしを見てたの?は、恥ずかしいじゃない!!あたしの顔なんか見たって可愛くないわよ?
「まあね、でもあいつらはあいつらで、俺たちは俺たちだからね。」
すっごく優しい目で微笑んでくれた。あ、あたしは、竜次くんの笑った顔のほうが好きだな。来栖よりもかっこよく見えちゃうよ?これまたあたしに負けないほど真っ黒に焼けてる顔で、白い歯がきらっと光りそうなほど。さすがに紗弓と比べると真っ黒なあたしでも、竜次くんと比べるとずいぶん白く感じちゃうよね?思わず昨日の夜、重ねられた肌のコントラストを思い出して、顔が熱くなる。やだ、今思い出しちゃだめだよ...
そのとき竜次くんの手がそっと伸びてきて、テーブルの下であたしと手を繋いだ。一瞬びっくりしたけど、そっと見上げた竜次くんの笑顔をみて、その手をゆっくりと握り返した。
「うん、そだね。」
わたしもにっこりと微笑んだ。
テ-ブルの向こう側では、まだ紗弓が怒っていて、それを来栖が愛しそうな目で見ていた。
〜紗弓〜
もう、もう遼哉ったら、こ、こんなにキスマークつけて!!
あたしたちは朝食を終えていったん部屋に帰った。それぞれ荷物のあるほうの部屋。要するに芳恵ちゃんたちが泊まった方の部屋。でも今時分今村くんがあたしたちのいたほうの部屋に入ってるんだよね、なんだか恥ずかしいよ...
「紗弓、化粧するの?」
「そだね、少しだけ、しよっか?」
まだ二人ともそんなに上手じゃないので、ああだこうだといいながら塗っちゃうのだ。それもまた楽しいの。
「あのさ、紗弓、それかなり目立つよ、大丈夫?」
「大丈夫じゃない...」
胸元の赤いしるしを指されてあたしはちょっと声を尖らせる。
「聞いてくれる?遼哉ったらね、こんどソフト部の3年で気晴らしにプールに行くって言ったの聞いてて、こんなことするんだよ?怒ったら、行かなきゃいいじゃんって、ひどいよ、あたしだってみんなと行きたいのに!」
「紗弓、それって、やきもち焼かれてるの?」
「そうだとは思うけど、これじゃ胸元の開いた服も、水着も着れないよぉ!」
「そ、そんなにたくさんつけられたの?」
芳恵ちゃんが心配そうに覗き込んでくるので思いっきり頷いてしまった。だって、ビキニはともかく、ワンピースだって着れないわよ〜こんなとこまでつけられたら!
「芳恵ちゃんはなんともない?」
「えっ?そ、それは...すこしだけつけられちゃったけど...水着ぐらいなら着れるかな?」
真っ赤になってうろたえながら答える芳恵ちゃん。か、可愛いわ!ふだんのしっかりものの芳恵ちゃんとのギャップがすごくて...
「や、やっぱり痛かった?」
「す、すごく...だけど幸せな痛みもあるんだね。」
頬を赤らめながらも幸せそうな顔した目の前の親友の顔をみて実感する。わかるよ、芳恵ちゃん!そうなんだよね...初めの時って、不安で、ドキドキして、でも繋がれただけで幸せで、相手の体温がうれしくって、妙に安心できちゃうんだよね。なのに昨日なんて、もういやって言ってるのにずっと...だし、朝なんて足腰立たなくなるまでやるし!どうしてこんな風になっちゃったのかな?嫌じゃないけど、今まででも我慢してる風だったから、今回は好きにしていいって言っちゃったのはしょうがないけど...ん?でも最初っから遼哉は今のまんまだったよね?じゃあ、あたしが変わったのかな?あたしの身体が変わっちゃったのかな?
「紗弓?大丈夫?」
「ううっ、とにかくこれじゃ帰りに海にもいけないよ!」
「あ、あたしも海、無理っぽいかな?」
そ、そうだった、芳恵ちゃんは初めてだったし、あたしと同じで結構出血多かったみたいだし...(少ないひともあるらしいから〜)
「帰りはあたし遼哉とは口きかないからね!」
あたしの宣言を芳恵ちゃんはため息付いて聞いていた。
「それっていつまで続くか...」
ぼそっと芳恵ちゃんが言った後ドアがノックされて、彼女が出てくれた。
「おい、まだ怒ってるのか?」
振り向くとそこにはもう芳恵ちゃんの姿はなく、遼哉が困った顔して立っていた。
「なんで、遼哉が?あ...」
あたし口きかないって言ってたのに...
「もう怒るなよ。キスマークは謝るから...でもな、誰にも見せたくないんだ。昨日だって朝まで抱いてたってこの気持ちは治まらないんだ。紗弓を俺のもんだけにしておきたいんだ。」
「遼哉...」
「それほど好きなんだ。ほんとはこの腕の中から出したくないほど...」
そっと腰を引き寄せられて、顔を見つめあいながら抱きしめられる。
「帰りはもう怒らないでくれよな?別行動しようって竜次に頼んできたから。」
仲直りっていうか、あたしの機嫌を直すため?
「ん、わかった、許してあげる。そのかわり...」
なに?と片方の眉を寄せてぐいっと間近くまで覗き込んでくる。
「いっぱい好きって言って。」
「そのくらいいくらでも言ってやるよ!」
ぎゅって抱きしめられて、耳元で何度も囁かれた。『好きだよ』って。
そのあとちょっと危なかったけど、舌打ちしながらあたしから身体を離した遼哉と、仲良くロビーまで行った。まじまじとキスマークの付いた身体を見て改めてごめんといって、ノースリーブのワンピースの上から遼哉のシャツをかけられた。これで少しは目立たないだろうって。
チェックアウトして4人はそこで解散。それぞれのルートで帰宅となった。
「あたしたちは海周りで帰るよ。」
芳恵ちゃんたちは海をもう一度見てから帰ることにしたらしい。
「俺のバイト先に用があるからちょっとそっちに寄って、飯食って帰るわ。」
今日は遼哉のバイト先にはじめて連れて行ってもらえることになったの。バイト代をもらいに行くらしいんだけどね。
「そっか、俺たちはそこまで遅くなれないから、夕方までにこいつを送ってくるよ。」
今村くんはまじめにそう言った。
「じゃあな、気つけて!」
後半日だけ、この旅行は続く。こんどは二人っきりで...

         

翌朝の風景ですが、相変わらずの遼哉にぷっつんだったみたいですが、それも愛あってのこと。結局はらぶらぶです〜〜見捨てずに、旅行後半です!!