「傍観者〜ホストユウの場合」 |
「どう思います? ユウさん」 そう聞いてくるのは僕の勤めるホストクラブ<アンティーム>のオーナの息子だった。勤めているといっても実は本職じゃない。某国立大学の院生なんだ、これでも。こっちは副業っていうか……趣味? 女の子は大好きだし、気持ちいいコトも嫌いな男はいないでしょ? だけどそういう内情を知ってるこの子は、前からよく相談事を僕に持ってくる。以前は水嶋さんって先輩にしてたみたいだけど、その人は今就職してここにはたまに飲みに来る程度だから。いつでもいる僕は話しやすいのかもしれない。その前によく相談持ちかけられる質ではあるんだけど。 「どう思うって言われてもねぇ……答えなきゃいけない?」 「お願いしますよ。大抵側にいて見てるんでしょ?」 「まあね」 彼が聞いているのは、モデル仲間の朱理ちゃんと自分の父親のことだ。 「彼女を連れてくるのは瑠璃子さんだからね。彼女はいつも指名してくれるから、側にそばにいるのは大抵僕だけど……聞いてどうするの?」 「どうなるものでもないってわかってるけど、朱理が自分の父親とっていうのはちょっと……」 父親に似たくなくても似てしまったのか、簡単に女の子と寝てしまう彼が、唯一その気にならない友人として付き合ってるのが朱理ちゃんだ。互いに異性の目を惹く分、その気を持たない友人同士というのはそれなりに大事らしい。 「本気になった時はどうしようもないよ。どっちがブレーキかけても止まれないものさ。その人以外ダメになっちゃうから」 「へえ、ユウさんはそんな経験あるの?」 「僕はまだかなぁ。周りにそうなった奴らまのあたりに見ちゃったものだからね。どれだけモテて、どれだけ遊んでてても、その人だけって気がついたら他にいけなくなるらしいよ。その点僕はこの仕事してる限りはまだいないんだろうね」 「じゃあ、親父は……」 「やっぱり気になる?」 思わずクスクスと笑いがこみ上げてしまう。 「僕的にはもう堕ちてるとしかいいようがないかな? 女は金かセックスの対象でしかないオーナーが、ここに出入りするだけで目くじら立てるほど心配してる。同じ18歳でも、ホステスやってる子は平気で抱いちゃうくせに、それっておかしいでしょ」 「やっぱりそう思う?」 「お互い惹かれ合ってるくせに、妙な意地はってるから。朱理ちゃんなんて隠せないから丸見えだしね。口じゃ逆らうから喧嘩みたいになってるけど、あれはじゃれあってる以外のナニモノでもないでしょ?」 「やっぱりそっか……」 「朱理ちゃん綺麗だからね、お父さんに盗られるのは惜しい?」 「いや……あいつはそういうんじゃない。それに綺麗だとか、スタイルいいとか、そんなの……あんま関係ないって思うから」 「へえ、あれだけ綺麗どころと付き合ってきて?」 「あれは向こうから寄ってくるから……」 たしかにこの子はそれだけの容姿をしているし、あのオーナーの息子だから。中学の時から知ってるけど、妙に色気ある子だったし……客の中には『あの子と寝たことあるのよ。まだ子供だったけど、すごかったわ』って、怖いことをおっしゃるお客様もいた。もちろん、元々オーナーの上客さんだけど。 「たしかに、君に寄ってくる子はそこそこ自分に自信のある子だと思うよ」 その点僕はホストだから、当然お客様を容姿で選ぶことはない。その人のステータスが僕を続けて指名する事のできるバックボーンになっているから、お金を持ってる成功者という意味では限定になるけど。頑張ってる人の笑顔やうれしそうな姿は容姿と関係なく綺麗だと思うよ。気の強い社長さんがおもいっきり甘えてくれるトコとか、可愛いじゃない? ああ、そういう意味では僕のお客様たちも同じかな? 違う意味で自分に自信ある人ばかりだ。 「朱理ちゃんは自分に自信はあっても、自分からはいかない子だから。タカさんがその気にならない限り、どうこうはならないと思うよ」 それも時間の問題っぽいけどね。あの年頃の女の子はどんどんと成長する。あっという間にオトナの女に羽化してしまうだろう。その時にタカさんがどう出るかは誰にもわからない。 「だといいんだけどさ……」 「しばらくは君も朱理ちゃんも受験で大変だろう? その間はどうこうなることないから、安心していれば?」 「……わかった。あ、そうだ、勉強聞いていい? 数学なんだけど……」 「いいよ、僕でよかったら」 「ユウさんみたいな人が、こんな店でバイトしてるのって信じられないよな。すげえ、勉強できるのに」 「こんな店はないだろ? 君のお父さんがオーナーなんだから」 「こんなトコだよ……この店がなかったら」 そのまま黙りこんでしまう。 女性には随分構われて育ったらしいけど、家族とか両親には恵まれなかった子だ。僕なんか普通といえるほど平凡な家庭で育ったから。両親は仲よすぎるほどだったし、僕も愛情たっぷりで育てられたし。ただ、なんでも人よりできたから、できすぎる自分を隠したほうが身のためって思いだしてからは、達観しちゃったからなぁ……よく年より上に見られてしまうし、相談もされてしまう。 「君は? 気になる子でもできたの?」 さっき口にしてた関係ないって……そういう子が現れたんじゃないのかなって、直感的にそう思ったんだけど。 「…………別に」 「そう?」 身体だけ早くにオトナになって、心はまだ足らなかった愛情を求めている寂しい子だからなあ。父親のことは文句言いながらも最近は近寄りつつある。最近、タカさんも息子のことは気にかけてるみたいだから、その愛情を少しは感じているのだろう。素直にはなれないみたいだけど。 「まあ、なるようになるさ。ただ……」 「ただ?」 「いや、なんでもない。この問題だね? これはね」 本当に無くしたくないものは、本気で追っかけないと手に入らない。これは友人の話だけど……ね。 彼もそんな相手といつか巡り会えると思うけど、その時に選択を間違えないで欲しい。ここのオーナーは、彼の母親の時に大きな失敗したって、瑠璃子さんから聞いてたから。 親子揃って、不器用なとこあるから…… 「なに?」 「いや、早く解いちゃわないと、親父さん来ちゃうよ」 「いけね。ごめん、忙しいのに」 「いいよ、いつでもどうぞ」 誰にでも、他に譲れない唯一無二の存在が出来る時が来るのだろう。 だけど僕はまだまだかな? お客さんで来てくれる女の子たちは可愛いし、奥様たちも魅力的で僕はそこそこ満足している。 僕の場合は当分先みたいだから、もうしばらく見てるよ。君たちの想いの行方を……ね? |
楽しんでいただけたらうれしいです! Copyright(C)Kei Kuishi 2012 All rights reserved. |