HOMETOPNEXTBACK

番外編

朱理&隆仁 その1
朱理その1

「お嬢ちゃん、もう少しおとなになって俺の相手ができるようになってから出直してきな」
「なっ……」
 その男は、すっごい上から目線でわたしに命令した。
 なによ、わたしに指図するなんて……許せない、こいつ!
 黒に光沢のストライプの入った細めのブランドのスーツにシルクの開襟シャツ。首元と手首にはじゃらじゃらと太い金鎖に指にも大きな指輪がいくつも並んでいる。足元は先のとがった黒いエナメルの靴で、趣味悪いの一歩手前だけどそれが彼の個性を引き立てているのだろうか? でも間違いなくお金のかかった典型的なホストスタイルだ。
 ヤツの正体はわたしのモデル仲間甲斐史仁の父親で、ホストクラブのオーナーでもある甲斐隆仁。この店はわたしが所属するモデルクラブの社長でもあり、伯母でもある須山瑠璃子の行きつけの店だった。今日は連れてきてもらう予定だったのに、いきなり伯母様に仕事が入ってキャンセルになりかけた。だけどわたしは、彼女が止めるのも聞かずひとりでこの店に来たら……この扱いってわけ。
 そりゃね、まだ17歳になったばかりよ? でもねモデルやってるだけあって、このわたしを子供扱いする男なんて滅多にいないのよ? 大人っぽい容姿のおかげでモデルとしては成功してるんだから。まあ、そのおかげで同級生たちには遠巻きにされるし、同い年扱いされたことがないのはちょっと悲しかったけど。
 別にここには遊びに来たつもりはない。まだ未成年だし、肌に悪い酒やたばこも好きじゃない。ちやほやしてくれる人や、綺麗な男は周りにはいくらでもいる。そんなものには興味はなく、ただこの男――――甲斐の父親っていうのがどんな男なのか、見てみたいという興味だけでここに来たのだ。
 同じモデルクラブ所属の史仁とは意外と気が合う。だけど、どこか性格がいびつだった……そこそこ人に合わせて愛想ふりまいてるけど、人を信じてなくて自分のテリトリーに踏み込ませない壁みたいなものを彼から感じていた。彼とは一緒にいると楽だし、変なのが寄って来なかった。だからよく一緒につるんでいたんだけど……異性として好きかどうかと聞かれたら微妙だった。好きなのかなと思いもしたけど、キスしたいとかそういうんじゃなかった。それは自分がまだ成熟してないからそうなのかなとも思う。そのうちそうしたいって思うようになるのだろうか? 史仁も目立たない程度だけど女の子とは遊んでる。まだ顔が売れてないから、業界の子より普通にナンパした子とかが多いみたいだけど。
 ここに来れば史仁の唯一の肉親である彼に会えると思っていた。『女癖が悪く、傲慢で最低の男』と酷く口でけなしておきながらも、一番意識してかまって欲しいというか認めてもらいたがってる父親、甲斐隆仁。彼とは伯母も付き合いが長いらしく、何度も話の端々にも出てきた。一体どんな奴なんだろう? 大好きな伯母を弄んでるんじゃないかと思ったら、意外にも身体の関係はないというのだ。
『じゃあどうして付き合ってるの?』と聞いたら、『寝なくってもね、彼のそばにいると自分が女だってビンビンに感じるからよ』って。意味がわからないんだけど??
 とにかくわたしは自分の目で甲斐隆仁がどんな男なのかを確かめたくなったのだ。

「まあまあ、タカさん。瑠璃子様の姪御さんですから、そんな失礼なことはできませんよ。僕も連絡貰ってますし……少しぐらいいいじゃないですか」
 傲慢な態度を取り続けるヤツに唯一意見し、その優しい口調で間に入ってきたのは、おそらく今現在伯母様の一番のお気に入りのホストで、この店でもナンバーワンのユウって人だろう。優しい物腰、上品な言葉遣い、そしてなによりも女を夢中にさせる整った細面の顔にそのフェロモン垂れ流しの艶めいた笑顔。この一昔前のナンバーワンだったギラギラした俺様ホストと並ぶと、酷く対照的だった。
「だめだ。いくら瑠璃子の頼みでも、この子はまだ未成年だ。うちの史仁と同い年だぞ?」
「……え? うそ!」「まじで?」
 周りを取り囲んで様子を見ていたホスト達が口々に呟く。
 そりゃ見えないと思うわ。シフォン素材の膝上ワンピースに、編み上げたヒールの高いサンダル。巻いた髪にサングラス。全部ブランド物だけれども、それに負けないほどわたし自身がブランドでもある。
 氷室朱理、氷室コーポレーションの一人娘だもの。ハーフである母譲りの長い手足に彫りの深い顔立ち。お稽古習い事は一通りこなして礼儀作法も万全。
 だけど、モデルとしては有利なこの外見も、ひとりの女の子として日常に紛れ込むには無理がありすぎた。幼いころから遠巻きに見られ、私立の学園でちやほやされはしたけれども『何でもできてあたりまえ』のわたし。女の子は並ぶと比べられて嫌だと言って近づいてこない。近づいてくるのはおこぼれを得ようとする下心満載の欲深い人たちだけだった。誰とも打ち解けられず、見た目の華やかさとは反対に孤独な学生時代を過ごしてきた日々。そんな中でも媚びたり、人に興味を持たない史仁は貴重な存在だった。『もしかしてこれが恋?』と思うこともあったけど、どうも違うみたいだと思えてならない。
 それなら……伯母が見せてくれた甲斐の父親の写真にドキッとしたのはなんだったの?? それを確かめる為に、彼を見に来ただけだというのに……なによ、これ! しょっぱなから客に、それもお得意様の身内にする態度じゃないでしょ?
「というわけで、お帰り願おうか。車を待たせてないなら俺が送ってやるが……どうする?」
「子供扱いしないでくれる? 車がなくてもひとりで帰れます! タクシー拾えばいいんでしょ?」
「おい待て!」
 後ろから呼び止める声がするけど……なによ! あんな男!! わたしは店を飛び出すと通りに向かった。
『他の女とは寝るのに、わたしとだけは決して寝なかったのよ、この男。その理由は今じゃよく分かるわ。だってそのおかげで、未だにこうやってオトモダチしていられるんだもの』
 わたしも史仁とそんな関係になれるのだろうか? だけど周りは二人のことをお似合いだとかなんだとか言って囃し立てるし、わたしが誰とも付き合わないのは、彼のことが好きだから、なんて言われる始末。史仁は適当に遊んでるけど、わたしはあまりそっちのほうには興味が無いというか、言い寄ってくる男達がうざいだけだ。まだ他に……そう、友達と遊びに行くとか、可愛い雑貨を一緒に見たり、遊園地に行ったりするほうがよっぽどやってみたい。一流レストランでの食事やブランドショップでのお買い物なんてさんざん親と行ってるもの。
 だから興味を持って、はじめて直に見たけど……とてもじゃないけど伯母様の言うことが信じられなかった。
 あんな、誰とでもやっちゃいそうな種馬男なのに、どうして? 実際わたしのモデル仲間の女の子達と誘われればやってるはずだった。『オーナーのタカさんと寝た』とか、『彼と3Pや4Pした』……なんて話まで聞くもの。なのに伯母とは本当に何にもないの? 瑠璃子伯母様は母の姉で元モデル。仕事もできる美人でわたしの自慢なのだ。何度か結婚しては別れてる恋多き女だけれど、そんな彼女とずっと友達でいられる人がいるって言うことはわたしにとっても希望のように思えてならなかった。史仁に対するわたしの感情が友情なのか恋なのか。それがわからないと次に進めない気がしていたから……このまま友達でいてもいいならそのほうが嬉しいもの。だけど、写真を見て感じた違和感……それを確かめに来たというのに!
「もう、子供扱いして……」
 こんなに子供扱いされたことはない。なのに何よ、あの態度! 思いっきり小娘って馬鹿にされてるのがよくわかったわ。
 悔しい……たしかにヤツからすれば小娘だけど、男の人からはいやらしい目で見られることの方が多いぐらい大人扱いされてきた。それはすっごく嫌なんだけど、もう慣れた。それなのに子供扱いされたのは、久しぶりだった……
「ねえねえ、よかったらオレ達が送ってあげよっか?」
「え?」
 タクシーを拾おうと手を挙げたのに、止まったのは黒のスポーツセダンで中には男がふたり。むさくるしいほど気崩した流行のシャツに品のないアクセサリーの数々。こうしてみると質がわかる。あの店の中には質の悪い男はいなかった。髪形一つ、スーツのしわにしても品格や気遣いが見られた。
「結構よ、タクシー拾うから」
「そう言わずに、さぁ」
 いきなり助手席から男が降りてくると、わたしの腕を掴むと車の中に引きずり込もうとした。
「ちょっと、離してっ!!」
 メリッと男の指が皮膚にめり込むほど強く握られて、あまりの痛さに顔が歪む。
「おい、おまえら何してる! 警察呼ぶぞ!」
 ケータイかまえたヤツ、甲斐隆仁がそこにいた。
「車のナンバーも控えたぞ。盗難車じゃなければすぐに身元が割れちまうぞ」
 ピカっと光って、ヤツがケータイで写真を撮っているのがわかった。
「くそっ、あのケータイを……」
 そう言って、運転席側から降りてきた男が飛びかかろうとして、ハッとした目で周りを見回す。いつの間にか周りを取り囲むように集まっていたのは、店にいたホスト達だった。
「なっ、なんだ??おまえら……」
「さっさとどっかいけよ!」
「いつまでも駐禁してんじゃねえ」
 ホストたちは口々に凄んでは包囲を縮ばめた。
「今度このあたりで悪いことしたら、いまとったシャメ警察にまわすからな」
 最後に甲斐さんが落ち着いた声で凄むと男たちは尻込みして後退る。
「く、くそ……」
 包囲を解いた一角から抜き出ると、急いでふたりは車に乗り込にマフラーを外したむき出しのエンジン音をあげて立ち去っていった。その空いた場所に、すーっと黒のマセラティが停まり、そこからホストのひとりらしき男が降りてきてキーを甲斐に手渡した。
「このあたりはタクシーよりナンパ目当ての車が先に停まるんだ。お嬢さんがひとりでうろうろしたら、さっきみたいな目にまた遭うぞ? わかったなら、さっさと送られろ」
 そう言ってその車の助手席にわたしを押し込む。
「ちょっと、何すんのよっ!」
「お子様は自分のことがちゃんと責任取れるようになるまでおとなしくお家で遊んでろ」
「なんであんたにそんなこと言われなきゃならないのよ!」
「助けてもらった相手にそれか? あのな、あんたは……瑠璃子の可愛がってる姪っ子で、俺の息子の友人でもある。そうだろ? 俺にとっては保護対象になるんだよ。夜遊びは大人になってからにするんだな」
「オトナっていくつよ?」
「二十歳と言いたいトコだけど、うちの店は遊びに来るだけなら18歳からOKだ。もっとも酒も出さない。今日は瑠璃子の顔立てて入れてやったが、保護者がいないときはダメに決まってるだろ?」
「へえ、じゃあ18歳になったら店に通ってもいいのよね?」
「通うだけならな。他の店にも行くなよ? おまえみたいな女落とすのは赤子の手をひねるより簡単だからな。バージン娘が遊びに来るところじゃねえって言ってるんだ」
「なっ、なによっ!!」
 なんで処女だってわかるの?? 確かに……まだ経験ないわよ。向こうから言ってきて付き合いはしても本気で好きになれるような男は今までいなかった。だから付き合ってもキスまでで……他の子みたいに好きでもない人とエッチするような真似できない。だからって、ソレが悪いの? さっさと済ませちゃえばいいってわけよね!
「その気になれば相手してくれる男なんていくらでもいるんだから……」
「だから! 簡単な女になるな。瑠璃子みたいにそこらの男が気後れして気軽に手が出せないぐらいイイ女になってみろってことだ。誰も相手してくれないようだったら、そん時は俺が相手をしてやってもいいぜ」
 それは店でという意味だとわかっているけど、わたしにとって『挑戦』にしか聞こえなかった。
「わかったわ……そのうち、そっちがお願いしてくるほどのいい女になって、あなたを跪かせてみせるわ」
 今までは寄ってくる男を嫌って避けているだけだった。だけど……これからはコントロールしてみせる。相手の行動も、わたしの感情も。
 こうなったら意地でもこの男に認めさせてやりたくなった。わたしという女を……



隆仁その1

 あーもう、めんどくせぇ……
 いつからだろう? 女抱くのも仕事絡みでも面倒だと思い始めたのは。
 これって初老? いやいやまだ30代後半だぞ、俺は。そりゃあいつまでも現役でいられるとは思ってはいないが、せめて息子が大学卒業して就職するまでは現役でいたいと思っていた。今まで親らしいこと何一つしてやれたことはないが、それがせめてもの責任かなと思う。
 俺には早くから親はいなかった。引き取ってくれた親戚はいたが、厄介者扱いされてるだけで問題児の俺は早くにそこを飛び出してこの世界に入った。そのあとは、幼馴染の女のところに転がり込んで利用して……ホストで稼げるようになったらいつか自分の店を持つんだって、密かに野望を抱いていたわけだ。
 だけど、気がつかなかった……俺がその女を本気で好きになっていたことも、そいつが俺の子を孕んでいたことも。
 気がついた頃には堕ろせなくなっていて、家に寄りつかずに逃げていたらそのうち産気づいて月を満たさずして俺の子を産んだ。
 それでもまだ気がつかなかった……自分の気持ちに。家族を幸せにしようと必死になりかけてたことに。
 家族を持たなかった俺に、守るべき2つの存在ができた。女は好みのタイプじゃなかったけど、昔からそばにいて楽だった。そいつは俺を絶対に裏切らないと思い込んでいた。それが愛だってことに気づきもせずに……
 だけど、女はいつの間にかおかしくなっていった。俺の客からの嫌がらせや子育てと大学の両立。なによりも親に黙って子供を産んでしまったことも酷くストレスになっていたんだろう。唯一支えてやらないといけない存在である俺は、独り立ちするために必死で女の股の間を渡り歩き、虚偽の笑顔と優しさを振りまくだけだった。他の女に愛想振りまいてセックスして稼いだ金を渡していい気になっていた。自分が養っているんだと。 そのことが彼女を酷く傷つけていたことにも気づかず。もしかして嫌われてるのか?子供まで産んでくれたのは俺のことを愛してるからじゃないのか? 嫌がらせのあったことなど一言も俺には言わず、自分を現実から引き離して己の世界に閉じこもってしまうことで自分を守ろうとしてしまった。そう、最後には俺のことも子供を産んだことも忘れてしまうほど、苦しみ抜いていたんだ。
 それが、彼女にとって自分を保つための精一杯の防御だったのかもしれない。結局彼女は親元に帰っていった。俺も産んだ息子すらも置き去りにして新しい記憶でやり直し始めたらしい。
 俺と関わらなければこんなことにならなかったのに……無くしてから気づいたのは俺のアイツへの想い。あんななんの変哲もない女に惚れていたなんて、自分で認めたくなかった。だけど、その想いは確実に俺の胸の中にあった。
 それ以来、子育てしながら店を持てるようになるまで必死で頑張った。あいつの……子供の母親が占めていた部分を埋めるように。自宅に女を引き込んで子供の世話もさせたりしたが、アイツみたいな女はいなかった。どの女も俺を独占したがり、自分だけとのセックスを強要してきた。史仁が大きくなってきて、女の手を必要としなくなってからはできるだけ女を入れないようにしていたのに、いつの間にか女たちは史仁をオモチャにしていた。たしかに俺に似て子供の頃から可愛く、不思議と女を惹きつけていた。小学生のあいつが女とヤッてるのを見たときはどうしようかと思ったぞ?さすがに俺でも初体験は中学の時だったのに。まあ、どっちも女の先生だったけどな。
 その史仁も、はや高校生だ。14の時にプロダクションをやっている昔からの上客の瑠璃子から頼まれてモデルを始めたみたいだが、ホストよりも向いてるようだった。昔から人に見慣れられてる奴だったし、よく店に来る女カメラマンのモデルとかをやってからな。その関係で見てくれも派手になって、結構遊びまわっていたのも知っている。男だから少々遊んでも知れていると放っていた。少し冷めた奴になっていたが、女には不自由してないみたいだし、たまにモデル以外にも臨時で店でホストのバイトも引き受けてくれてたから、口は出さなかった。
 瑠璃子の姪っ子と仲がいいっていう話は彼女や周りからも聞いていた。
 史仁に、『彼女なのか?』と聞いてみたが『違う』と冷たく答えた。
『寝てないのか?綺麗な子なんだろ?』
『アイツとはたぶん寝ない……そういうんじゃないんだ。アイツは……なんか似てる』
 めったに心を許す友人を作ったりしないのに、どうやらその子は大事にしているらしい。俺にとっての瑠璃子のような存在なのだろうか?
「氷室朱理だけど、瑠璃子伯母様の名前で予約が入ってるはずよ?」
 凛とした声で店に客として現れたのはその彼女だった。朱理は伯母である瑠璃子によく似ていた。外見はハーフと見紛うばかりの整った容姿は母親に似たのだろう。気が強く、男に媚びないところは瑠璃子そっくりだった。
 俺も瑠璃子とは珍しく男女の関係にならないからこそ長く続いている。互いに気が強く、反発し合いながらも認め合っていた。一時的な感情でその気になって終わってしまうのがもったいないと思えるほどいい女……いや、良い奴だった。そう認めてしまったからには、簡単に男と女の関係になりたくなっかった。そんな風に思えた客は滅多にない。その客たちが俺の店を大事にしてくれたから、大切に扱う人には余計に手を出さなくなった。
 息子にも同じように思わせる瑠璃子の姪に興味はもっていたが、まさかうちの店に来るなんて思わなかった。
 史仁に聞いたのか、それとも伯母様に聞いたのか……どうやら俺に興味を持ったらしい。瑠璃子が連れてくると約束していたそうだが、当の本人は急に仕事でキャンセル。一人で行くがよろしくとうちのNo.1のユウに連絡あったらしいが……まだ17歳だぞ? 俺の息子と同い年だから高校2年生のはずだ。未成年を店で遊ばせるわけにも行かず、追い返そうとキツめに声をかけたらおもいっきり逆毛を立てられた。店から飛び出してナンパな車に引きずり込まれようとするしで、最悪だ。

「どうしたんですか? タカさんともあろう人が……ああいった子は上手に大人扱いしてやれば少し遊んで満足して帰るはずですよ。むちゃなことをしたりハメを外したりしない……意外と真面目な子だと思うんですけど?」
「わかってるさ」
 ユウにそう忠告されるまでもない。見た目とは随分違う中身、男を知らないくせにやけに強気で……俺の苦手なタイプだった。大事な友人でもある瑠璃子が自分の娘のように大事にしている姪っ子を、ひとりで遊ばせるわけにはいかないだろう? いくらユウに任せるからといっても、こいつがフェミニストであろうと男には間違いない。あんな危なっかしいのほっとけるか?? 中身は丸まるお嬢様というか初なバージンだからな。男を知らない小娘独特の壁を持ちながらも、それを上手に自信と魅力で覆い隠している。それでも俺からすれば見てらんねぇというか、放っておけなかった。これって、父性? 娘持つとこんな感じなのか? いや、ちょっと違うな。あの娘は――――俺を見て、反応してた……俺に欲情する女はすぐに分かる。だけど、まさか……あんな娘が?
 男を知らないくせに、男が運転する助手席に乗るのは慣れている風情だった。だが、会話の端々でやたら突っかかってくるから、なかなか飽きない時間だった。子供扱いしてプンスカ怒る彼女を無理やり家の玄関に放り込んできたが、アレ以上一緒にいたらヤバかったな。意識しすぎる横顔が俺を煽って、余計なしがらみがなければ、カーシート倒してそのままヤっちまってた。未成年には手を出さないってのが信条なんだけど、わかっててその気になるなんて……俺もどうかしてる。枯れかけてたと思っていたのに。
 恋愛感情が湧かないどころか、なんだこのガキの頃みたいにこみ上げてくる渇望感は?? 史仁がその気にならない相手だと言っていたから色気がないのかと思っていたが、それは大いなる勘違いだった。うまく育てば瑠璃子以上の上等な女になる娘だ。いい男に傅かれ、ちやほやされるのでなく、認めさせ大事にされ大輪の華となって咲く女だ。
『あいつは意外と固いよ』
 史仁もそう言っていた。だから……はやくこんな危ないところから追い返したかったんだ。なのにこの俺と堂々と口論するわ、店の外に飛び出すわ……まったくじゃじゃ馬にも程がある。こんな御し難い女は初めてだった。だが、手に入りにくく扱いにくい女ほどその気にさせるのが楽しい。
 いかんいかん。むくむくとそんな気持ちがこみ上げてくるのを必死で押さえつけた。間違っても手は出せない……相手は氷室コーポレーションの一人娘で、上客で友人でもある女の姪っ子だ。おまけに息子と同い年で友人で……19歳下のまだ子供だ。
 わかっているのになんで気になる? 俺はロリコンにでもなったのか?? 俺の好みは成熟して艶のある遊べるご婦人方だ。たくさんのお金を店に落としていってくれる上客のはずだ。なのに……最近は金が絡んでないとベッド・インしてないんじゃないか?
 きっとここのとこ忙しくてヤッてないからだ……
 その日の夜、昔なじみの女を呼び出して朝までヤリまくって、なんとか自分の自信を取り戻した。
 だけどもし、俺があの子を抱いたら……女とヤッてる最中に思わず浮かんだそんな妄想。まだ何も知らない、気が強いだけの彼女を征服して快感で支配すればどうなるのか。考えただけで興奮してしまうなんて、子供相手にその気になった馬鹿な自分を思わず笑った。
 俺って……いくつになっても、サイテーだよな。
BACK   HOME   TOP   NEXT

気に入ったら押してやってください。投票していただけると励みになります。

 
ネット小説ランキング>【年齢制限】部門>せ・ふ・れに投票

 

Photo material By