〜キミの後ろ姿〜

 
 
 
「あれ?日本語話せるの??外人じゃないんだ〜」
何度か初対面の人にはそう言われたけど、英語話せません。高校教育程度で、母国語の日本語しか無理です。
 
だけどそう言われるのも、日本人離れした容姿も髪も目も全て祖父譲りのせいで仕方ないと言えば仕方ない。
生まれも育ちもメイドインジャパンなオレなのに……父親はちょっとだけ彫りが深い程度なんだよ?なんでオレだけこんなガイジンみたいな髪と目の色してんだろう?昔は随分親にも泣きついて、しばらくは黒く髪を染めて学校に通ったこともあった。だけど子供に毛染めはよくなくて、かぶれたから止めたし、目の色もカラコン入れればどうにかなっただろうけれども、子供にはそんなの無理で、出来る年頃になるとそこそこ諦めてそのままで居ることも多くなった。
 
日本人の黒髪黒目の中では随分と目立つオレ。そのおかげでずっと見た目の誤解も受けてきた。
 
 
「モテるでしょ?」
モテません。みんなオレをガイジンだと思ってるから。話しかけられた時点で既に誤解が生まれてますもん。
 
「口上手そうだよ? I Love You もすんなり口にしそう」
出来ません。そんな恥ずかしい台詞言ったことがありません。日本語で口に出したこともないのに……
 
「彼女絶対居るよね?遊んでそう」
遊んでなんかいません。いたって真面目な男子高校生です。そりゃ友人達とワルぶって煙草ふかしたり試験のあと街をぶらついたりしてますけど、連んでるのは男の子ばかりで、女の子とはあんまり出かけたことがないです。
何度かデートってものをしたことがあるけれども、それこそ何を話して良いのか分からなくて、結局『つまらない』といって振られてしまう。もっとも好きになったわけでもなくて、こう強引に押し切られた感じ?
 
小さい頃から無遠慮な視線に晒されてきたせいで、すっかり人見知りで無口な人間に育ってしまいました。
「もったいねぇ〜おまえのその顔使えばいくらでも女落とせるだろうけど、その性格じゃ絶対無理だな。」
「別に……彼女が欲しい訳じゃないし」
そう言ってオレをからかう友人は生粋の日本男児って感じで、黒髪に太い眉。元野球部で五分刈りが似合っていた。そしてなんだかんだ言って卒業するまでには彼女作ってしまった。
 
「顔はいいんだけどさ、あの性格何とかして欲しいわよね。しゃべらないし、なに考えてるのかわかんない」
笑顔で接してくれた女の子でも、裏でそんなこと言ってるのを聞かされるとわからなくなる。
見た目がよければ中身なんてどうでもイイの?
可愛い顔してても、笑顔ですり寄ってきても、甘ったるい声も、全部気持ちがニセモノな気がして嫌になった。
 
オレの中身なんてイラナイわけ?そのくせ話さなきゃ怒る癖に、理不尽すぎる。
憤りはだんだんと鬱積して、媚びてくる女の子には一段とキツい口調で答えることも多くなった。
寄ってくる女の子は減ったけれども、恋する相手もいないまま過ぎていく日々はムナシイだけ。
 
だけどオレも人の事いえない。
目に付くのは大人しそうな日本人形のような子が多かった。
自分の見た目に惹かれる子達に文句を言うくせに、なんて勝手な言い草かとも思う。だけど、いくら可愛くても、騒ぎ立てられるとすぐに引いてしまう。だから、最終的にいいなと思うのは自分に興味を示さない女の子ばかり。
けれどもそれは裏を返すとオレに興味のカケラもないって事で、結局話すこともなく通り過ぎてしまうだけだった。
 
 
「ああ、彼の中身は丸々日本人だからね」
そう言ってくれた女の子がいた。
幼馴染みって訳でもない。だけど同じ校区で小学校の時から一緒の学校で、高校も同じだっただけ。名前は知ってても同じクラスになったことは一度もない。長い黒髪を後ろで一つに括って、真面目だってイメージしかなかった。
今までオレの人生に一度も交差してこなかったのに、その時はじめてオレのことを口にしてくれた。
「昔はもっと普通に話してたよ。みんなきゃーきゃー言い過ぎ。髪も目の色もたぶん気にしてるよ」
「え〜イイジャン、あの色。ハーフとかガイジンぽくって、ねぇ?」
「そう言われるのが嫌いだと思う。だれよりも日本人になりたいんじゃない?」
 
そっか、キミは学校が一緒だったから、オレが一時期髪を染めて登校してたのも知ってるんだ。
そう、わざと金髪にしてるヤツらが許せねえぐらいだから。もったいないよ、みんなそのまま黒い方がカッコイイのに。
オレは、ずっと普通の日本人になりたかったんだから……
 
それを知ってくれてるキミが居てくれるだけで嬉しくなった。何も話したことなくても、わかってくれる人がいるって言うのは感動に近くて、興味を持ってくれてるのとは違うけれど、当たり前のように自分の存在を受け入れて貰えてたことがオレの気分を高揚させていた。
 
けれどもこっちだって知っている。
 
誰かは知らないけれども、キミには好きな人がいるとか付き合ってる人がいるとかって噂。
相手は随分大人だとかそんな噂もあるけれど、それすら否定しない。だけど肯定もしない。
同世代の女の子達の騒ぐのもうざったそうに呆れて見ているタイプで、話しの輪に入ってるのも珍しい。たいがい一人で教室の自分の席に座って本を読んでるだけ。付き合いが悪いとか、色々言われてるみたいだけど全然気にしてないみたいだった。
凛と張った背筋が全てを遮断して、吹っ切ってる様にも見えてカッコよかった。
 
あれほど回りの言うことが無視出来たらいいよな。
我知らず、どこ吹く風で、でも話しかけられたらちゃんと答えてる。
 
なのに、話しかける勇気も持たないオレ。
どうせ何を言っても、オレなんか相手にもされないだろうし、カレシ持ちらしい彼女には迷惑なだけだろうって思いこむことで逃げていた。当たり前に受け止めて貰えた自分の存在を否定されるのが怖くて……
 
臆病なオレ。
だけど、見て貰えるままのオレで居たかった。
側にいて無視されるより遠目で見てるのがちょうど良い。
 
時々キミを目で追っていたこと、知ってるだろうか?
図書室に向かう真っ直ぐな横顔や、昇降口を出て行くキミの後ろ姿はすぐに見つけられた。
他の女の子みたいに制服の改造もしてないし、何より背筋が伸びていてしゃんと歩くのだから。
その姿を見るたびに、オレも背中を伸ばした。
キミのその姿に勇気と自信を貰えた気がした。
自分の容姿を気にしないように、人に言われても拘らないように勤めた。
人の話はちゃんと聞いて、理不尽な質問には答えない。
キミの潔さをオレは見習ったよ。
 
教室では無遠慮な視線は送れないから、窓から見下ろした渡り廊下を歩くキミを見つめるのがスキだった。
時々声に出して言いたい言葉を飲み込む。
今言ってしまえば、終わってしまう。
短い高校生活の中でだけ味わえる至福の時だから……
最後に言おう。
感謝の言葉だけでも伝えようって。
でもきっと、「なんのこと?」と呆れられるのが怖かった。
 
そのままずっと、オレからは声一つかけられないまま卒業を迎えた。
 
 
 
 
 
「どう、仕事は?」
「ん、まあまあ、かな?」
あれから、何一つ話しかけることなく卒業して、なんとか希望の分野に就職出来た。
「でも今をときめく仕事だろ、システムエンジニアってさ」
「そうだな、需要は多いけど」
「まあ、おまえは営業とかよりそっちが向いてるよな」
「この頭で営業は出来ないしね」
大学に行って私服になって、自分が思ったほど目立たないってことに気が付いた。回りは茶髪や金髪の子も多かったし、普通の恰好してればそれなりに見られた。無理して付き合わなくてもいい人間が減った分、わかってくれる友人に囲まれて、手に職付けてSEの仕事について、ちゃんと一人前の仕事が出来るようになってからは自分に自信もついた。
だけど仕事柄出会いはあんまりないし、合コンとか女の子の居る飲み会も相変わらず不参加。
未だに騒がしい女の子は苦手だ。
かといって、新たな恋に落ちる相手にも恵まれなかった。
いや……未だにキミが心の中にいるから、誰も入ってこれなかったんだ
 
だけど、今日の同窓会だけは頑張って出席した。
もしかしたらキミに逢えるかもって思えたから……
 
 
だけどキミは欠席だった。
 
 
結婚したのか?それとも仕事が忙しくて?
ううん、同窓会なんかに興味を持つようなタイプじゃなかったよな。
なのにオレはキミに会えるかも、なんて未練たらしく参加してしまったオレ。
 
「なあ、ちょっと学校へ行ってみようぜ。許可は取ってあるからさ」
教師になった同級生が、母校に許可を取ってくれていたらしい。
みなでぞろぞろと誰も居ない休日の校舎に入り込む。
 
「懐かしいなぁ」
教室のあちこちに、制服を脱ぎ捨てて少しだけ大人の顔をしたクラスメイト達の顔が散らばっていた。
化粧した女の子、ううん、女の人の顔になっている。それから明るい髪の色になった友人達。真面目な髪型になったヤツ、色々……
 
───彼女は……今でもあの黒い髪を後ろに一つにくくっているんだろうか?
それとも誰かの前でその髪を何度も解いたのだろうか?
 
教室の隅の、彼女の席に目がいく。ソコは既に誰かの席で、もうあの子の席じゃないけれど……
 
いつもしていたように、教室の窓から渡り廊下を見降ろした。
え?
ふと人影が見えたような気がして、オレは思わず走り出していた。
「どうした?」
「ちょっと忘れ物!」
不意に横切ったあの、凛とした横顔、しゃんとした背筋で歩く彼女が見えたような気がして、オレは渡り廊下に向かっていた。
学生の頃はこんなに必死で階段を駆け下りたりしたことがあっただろうか?
 
 
 
休日の図書室が開いてるはずもなく、誰か他の女生徒と見間違えただけだったんだろうか?
未だに心には、こんなにも鮮明にキミの姿が残っているのに。
声もかけれなかった臆病な自分だけれど、彼女の存在は大きかった。
堂々としている彼女の様になりたくて、大学時代はしゃんと背筋を伸ばして過ごした。
彼女のように、そう接していくと、本当の友人達が集まってきた。
オレの見かけなんかに拘らない、日本人なオレと対等に付き合ってくれる人たちが……
 
「ありがとう……」
きっとそう伝えても何もしてないけどって答えるだけだろうけど
 
今でも、きっと……こんなにも心に残っているのだから。
思い出すだけで胸が苦しくて、その姿が見れないことがこんなにも寂しいと、気付くのが遅すぎたけれど。
恋と呼ぶにはもっと大切な、大切な思いだったから……
だから、この場で伝えよう。
 
───キミガスキ
 
そっと風に乗るほど小さな声で、生まれて初めて言葉にした。
ずっと伝えられなかった、オレの思い……
消えてもイイから、あの頃のキミに届けばいい
 
 

 

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あとがき
 
書けました………
ようやく回ってきた、と言うよりももう来たのか?って言うほど早かったです。
ちょうど出張ラッシュの週で、週末まで執筆の時間が取れませんでしたが、ようやくです。
って言っても、なんと書き直しましたから(笑)
最初のはオレ様すぎて……あはは
やっぱり片想いはヘタレで♪
このような形のお話は今まで書いたことがなかったので、楽しんで貰えるかどうかすごく不安ですが、いかがでしたでしょうか?自分だけではあり得ない体験をさせてもらえました。
このような企画を起こして頂いて、企画発案者の風花さん&輪樹さん、本当にありがとうございました!!
 
次は大好きないくみさんです〜書きにくかったらごめんなさいと先に謝っておきます。
 

 

WRITER   久石ケイ  2008.07.26

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