雪うさぎ番外編
** うさぎ **
いつも夢に見る光景がある。
目を開いている事が痛いくらい眩しく輝く雪景色。
その中に吸い込まれていく天使のような小さな女の子。
俺が『うさぎ』と呼んだ初恋の少女。
彼女の心には今もあの日の『雪うさぎ』は寄り添っているのだろうか。

春日雅は隣りに住んでいた幼馴染だった。
長い黒髪を揺らし薄い茶色の大きな瞳で、その表情をめまぐるしく変え、コロコロと笑ったり、怒ったりしながら、俺を『ゆうちゃん』と呼び、いつも後を追ってくるおてんばな娘だった。
あの頃の俺は、ひとつ年下のくせに俺と余り変わらない雅の身長を気にしたり、内藤勇気を上手く発音できず、『なっとーゆーきくん』と舌足らずに呼ばれる事を不快に思ったりして、雅を邪険にする事も多かった。
それでも雅はいつも俺の後を必死について来た。
どんなに意地悪を言っても、どんなに冷たくしても『だってゆうちゃん好きだもん。』と言う雅に、最後はいつも俺が根負けして苦笑しながら手を差し伸べていた。
嬉しそうに駆け寄ってきて差し伸べた手をギュッと握り締める小さな温もり。
その手の温もりは今も忘れられない。
明るくて負けん気が強くてしっかり者の雅
誰もが彼女をそう思っていた。
だけど…俺は知ってしまった。
彼女はそんなに強い娘じゃないって事を。

飼っていた小鳥が死んだとき、庭の隅で小さくうずくまって一人で肩を震わせ、声を殺して泣いていたのを俺は見てしまった。
誰にも見つからないように、誰にも聞かれないように、静かに声を殺して泣いていた。
たった4歳の女の子が声を出さずに泣いていた事に俺は衝撃を受けた。
ちょうどその頃幼稚園でうさぎの飼育係をしていた俺は先生から『うさぎは“寂しがりや”だからちゃんと構ってあげないと、寂しくて死んでしまうのよ。』と言われたことがあった。
その言葉が小さな後姿に重なって、雅が声を出せない小さなうさぎに見えた。
あの日から俺の中で雅は護るべき存在へと変わり、俺は雅を『うさぎ』と呼ぶようになった。

「どうしてうさぎはそんなに強いふりをしているんだよ。」
いつだったかそう聞いた事がある。
その質問の答えは余りにも切ないものだった。
「私が『イイコ』にしていたら、パパとおじいちゃまが仲直りしてくれるんだって。」
あの頃は詳しい事情はわからなかったが、俺の母親の話だと彼女の父親は駆け落ちをしてうさぎの母親と一緒になったらしい。
おじさんは俺でも知っている有名な財閥の息子だったそうだ。
絶縁状態だったおじさんが実家と和解できたのは、孫の雅を祖父がことのほか気に入ったかららしい。
だから彼女はいつだって『イイコ』であろうとしていた。
自分が『イイコ』でいることでみんなが幸せになれる。そう信じていたようだった。
幼かった俺にはそんな難しい事情は理解できなかったが、彼女がとても寂しげで儚く見えて、『うさぎには笑顔でいて欲しい。』と強く思った。
幼いながらもうさぎの笑顔を護りたかった俺は何かの形でそれを伝えたかったのだと思う。
うさぎが俺の家に預けられた雪の夜、おぼろげな街灯の下で2つの寄り添う雪うさぎを作って彼女に約束をした。
『絶対に、うさぎの事護るから。泣くのは俺のそばだけにして』
潤んだ瞳で俺に応え『約束する』と言ったうさぎ。
この雪うさぎのようにずっと一緒にいる…それが当たり前だと思っていた。
ずっと傍にいて、きっと彼女を護る…そう心に誓っていたのに……。

約束の日から2週間後、俺は父親の海外赴任によりうさぎと離れる事となってしまった。
あれから、何度も引越しをして、いつしか彼女の両親との連絡も途絶えていった。

気がついたら10年もの年月が過ぎていて、日本に帰っても彼女がそこに住んでいるかどうかすらわからなくなっていた。
それでもうさぎを想う気持ちは色あせる事無く…。
むしろ成長と共に募る想いは大きくなっていく。
まるで何かに導かれるように、彼女の元へ帰らなければいけないと本能が騒ぎ立てる。
彼女の涙を吸い取るのは俺の胸だけなのだと心が強く確信をしている。
だから…16才の誕生日を迎えると、転勤を繰り返す両親に頼み込んで彼女の住む町へと一人で帰って来た。
うさぎはまだ、俺との約束を覚えているだろうか…
いや、それ以前に俺を覚えているだろうか…
不安を抱えながら帰国したその日、その足ですぐに俺の家のあった場所へと向かった。
冬の冷たい風の吹く早朝。まだ薄暗く朝靄がかかる中、朱から金へと太陽が色を変えるのをぼんやりと眺めながらうさぎとの思い出の詰まった懐かしい道程を辿った。
彼女がもしも、この町にいなくても、ここに住んでいれば何時か必ず逢えるはずだと心の何処かで確信をしている自分が不思議だった。
まるで何かに導かれているような感覚に包まれながら、昨夜降り積もった新雪を踏みしめて歩く。
かつて俺が住んでいた懐かしい家は既に別の人が住んでいたけれど、俺の心が求める唯一人(ただひとり)の少女は今もその隣りに住んでいた。
まるで俺の帰りを待っていてくれたように感じられて…胸が詰まるような切なさと、愛しさで心が満たされていく。
彼女は約束を覚えているだろうか。
あの夜の雪うさぎを覚えているだろうか。
今も声を上げずに泣いているのだろうか
再会を望んで会いに来た俺を彼女は受け入れてくれるだろうか。

いつの間にか空はすっかり明るくなり、見事な青空が広がっている。
雪を踏みしめてゆっくりと見覚えのある風景を見渡してみると、別れたあの日と同じ、眩しく輝く金色の太陽が昨夜降り積もった新雪に反射して世界を黄金の羽で覆っていた。

別れの日、ふたりで作った雪うさぎが形すら留めていなかった切ない思い出が胸をよぎる。
うさぎの為に約束の証しの雪うさぎをあの日と同じこの光景の中に作りたいと思った。
もう一度あの頃のように心を寄り添えるように願いを込めて作った2つの雪うさぎ。

これを見たらうさぎはどう思うだろうか。
俺が作ったと気付いてくれるだろうか。

「いってきまぁす。」

鈴を転がすような耳に心地良い声が胸を騒がせる。
開いたドアの前で立ち尽くし驚きに見開かれる茶色の瞳。
信じられないといった表情(かお)をした長い黒髪の少女にあの日の面影を見る。
その視線は…寄り添う二つの雪うさぎに注がれていた。
彼女の表情で確信する
うさぎも俺と同じ気持ちでずっと待っていてくれたことを…
高鳴る胸の鼓動を必死に宥めながら、雪を踏みしめゆっくりとうさぎへと歩み寄る
フワリと抱き寄せた肩は細くて、俺と変わらなかった背丈は随分と小さくなっていた。
腕の中の温もりは余りにも小さく儚くて…生まれたての子うさぎを腕に抱くようだった。

狂おしいほどの愛しさが込み上げてくる。
ようやく長い間待ち望んだ何より大切なものを手に入れた。

腕の中で細く震えて泣きじゃくる雅が愛しくて…

二度と離さないと想いを込めて抱きしめると、そっと唇を重ねた。


遅くなってごめん

これからはずっと傍でおまえを護るからな…


―― ただいま、雅 ――


+++ Fin +++
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Keiさま3周年おめでとうございます。
3周年記念&相互リンク記念(便乗(笑))として、Keiさまがお好きだと仰って下さった『雪うさぎ』より、ラストシーンの勇気SideStoryを書き下ろしてみました。
駄文ではございますがお気に召して頂けると嬉しいです。
4周年目も素敵な作品の数々を期待しています。あ、何気にプレッシャーをかけてますね(笑)
これからも応援しておりますので益々素敵な作品の創作に頑張って下さいね。
朝美音柊花
2006/04/17
【ホタルの住む森】50000Hits&【月夜のホタル】30000Hits MemorialFreeNovel
** Little Kiss Magic **
いつもの道。いつもの角を曲がると、いつもの通り君がそこにいる。
友達と楽しそうに笑いながら歩いている君。
その姿を見つけるとほっとして、それから頬が緩んでくる。
そんな僕を見つけて、君はいつもの通り声をかけてくる。
「あ、浅井君おはよう。今日の英語の宿題やってきた?後で見せて欲しいんだけど。」
……やっぱりね。今日も彼女は宿題をしていないらしい。
毎朝、必ず聞かれる事。そして毎朝彼女は僕の宿題を写している。
これってやっぱりいい様に使われているんだろうな。

でも…

でもやっぱり僕には彼女が眩しくて、こんな事でもないと話すきっかけさえも浮ばない。
れだけ勉強が出来たって、女の子と気軽に楽しい会話を出来るタイプではない僕は、モチロン女の子と付き合ったことなんて皆無だ。
だから、クラスでもかわいいと人気のある 秋山香織(あきやまかおり)にこうして声をかけられるだけでもドキドキする。
彼女はクラスでも一番人気だからね。
ホントなら僕なんて相手にされるはず無いんだ。
彼女が僕に声をかけるのは、単に宿題を写したり勉強を教えて欲しいからなんだってわかっている

だけど…それでもいい。

僕は彼女が、香織が好きなんだ。
この気持ちに気付いてから、いや多分気付く前からいつの間にか彼女を目で追っていた。
いつだっていつの間にか僕の視界に香織が入っている。
いつも笑顔の彼女だけどその笑顔に幾つか嘘の顔がある。
そう、僕は彼女の笑顔が本当に笑っていない事に気付いた。
何故・・・。何故無理して笑うんだろう。

香織…君は何を心に閉じ込めてその笑顔で隠しているんだろう。

+++++     +++++     +++++

浅井 廉(あさいれん)。クラスでは目立つ存在ではないけれど成績は一番の彼。
クラスでは存在感の無い彼だけど、本当は頭が良いだけじゃなくてスポーツだって結構できるし、男子同士だと結構冗談なんかも言ったりするのをあたしは知っている。
…もっと注目されてもいいはずの存在なのに…。
顔だって本当は悪くないのよ。髪型に気を使ってあのハリーポッターみたいな形の瓶底眼鏡さえ止めたら絶対女の子がほっとかないと思う。
毎朝彼と挨拶をするたびドキドキするの。
宿題を教えてなんて本当は口実。彼と話したいからわざと忘れてきているの。
同じクラスになって最初に隣りの席になった彼。出席番号が2人とも1番で、日直とか男女ペアで組む事があると必ず彼と一緒になる。
最初は見た目はパッとしないけど優しくて頭のいい男の子って感じだったんだけど…。気付いたらいつでも彼を目で追っている自分がいた。
友達は趣味が悪いって言うの。ひどいよね。彼の事見かけだけで何も知ろうとしないくせに。
まあ、あの眼鏡にボサボサの髪型じゃね…誤解されても仕方ないのかもしれないけど。
あの厚い眼鏡にガードされている彼の本来の顔を知る人は少ないと思う。
彼は…凄く綺麗な瞳をしているの。とても優しくてとても純粋な瞳を…。
偶然眼鏡を外した彼の瞳を見たとき全身を雷が駆け抜けるような衝撃があって鳥肌が立った。時間が止まったかのように彼しか見えなくて周りの風景も音も、彼以外のもの全てが動きを止めていたのを覚えている。
眼鏡を外したら超美形って話は漫画でよくある話だけど、彼は美形と言うよりハッとする魅力があるって言うのが正しい言い方のような気がする。
凄く人を惹きつける綺麗な瞳。
それから彼の瞳が忘れられなくて…
彼の瞳を覗き込んで勉強を教えてもらう朝の僅かの時間が大好きになって…。
目を細めて笑うふとした表情も、ボサボサの髪に益々くしゃくしゃにするように髪をかき回す癖も、時々視線が絡んだ時に見せるドキッとするような色っぽい表情も…。
気付いたらいつの間にか大好きになっていた。
浅井…廉。廉くん…廉……あなたが大好き。
思いを伝える勇気も無いあたしだけど…あなたが勉強を教えてくれる僅かな朝の時間だけはずっとずっと大切にしていたいの。
この想い…いつか伝える事が出来るのかな。
そのとき廉君はあたしを受け入れてくれるのかな。


+++++     +++++     +++++


長い睫毛をやや伏せ気味にして「ん〜〜?」と問題とにらめっこしている香織。
カワイイよなぁ…。
パッチリとした二重の大きな目に長い睫毛、化粧をしている訳でもないのに、透き通るような綺麗な肌にほんのりとバラ色の頬。ぷっくらと形の良い唇を突き出してふてくされた様に僕を見つめてくる。
そんな顔しないで欲しいんだけどね。
君への想いが顔に出てしまうと困るだろう?心臓がバクバクと鳴って五月蝿いのを君に聞かれやしないかと心配だよ。
「何、わからないの?」
そう言って彼女のノートを覗き込む僕。距離が一気に縮まってふわっと彼女の甘い香りが漂ってくる。
うわ…いい香り…。何だろうコロンかな、シャンプーの香りだろうか?
どっちにしても僕にはいっぱいいっぱいで…もうこれ以上教えられそうにも無かった。
これ以上彼女といるのが辛くて…。
これ以上彼女といると、もっと好きになってしまいそうで、自分の気持ちの暴走を止められなくなる。
もう…ムリだ。これ以上は限界だよ。
想いを伝えたくなってしまう。
君に迷惑をかけてしまう。
君には不釣合いなこんな僕が君に告白したら君はどんな顔をするんだろう。
困るんだろうか。…いや、『冗談でしょう?』って笑うかもしれない。
そんなことになったら…きっと立ち直れそうに無いよな。

もう…こんな事はやめたほうがいいのかもしれない。
僕が君に期待してしまう前に…

「ごめん…秋山さん。僕、もう君に教えてあげられないよ。」
「え…。浅井君…?」
「こうして教えるの…今日で最後にしたいんだけど。」
彼女は何ていうだろう…。あっそ!何て冷たく言われたらかなり凹みそうだな。
そんなことを考えながら彼女の様子を伺いつつ返事を待つ。

……次の瞬間、僕は信じられないものを見た。

彼女の瞳に大粒の涙が溢れ始めた。
驚いて確認するようにまじまじと彼女を見つめる。

「ど…どうしたの?そんなに問題難しかった?」
何をとんちんかんな事を言ってるんだろう僕は。でも、彼女の涙の理由がわからない。
何故?まさか、彼女は俺の言葉で傷ついた?
まさか……。
自分の言葉が彼女を傷つけるなんて思いもしなかった。彼女はもてるし、僕の存在なんて宿題を教えてくれるクラスメイトくらいだろうから。
でも、彼女の唇から出てきたのは信じられない言葉だった。

「ごめん…なさっ…。あたし、浅井君の迷惑も考えないで毎朝教えてもらって…浅井君に迷惑かけてしまって…。本当にごめんなさい。」
彼女の瞳からポロポロと大粒の涙が流れ出して止まらなかった。
何で泣くんだ?これじゃ僕が彼女を泣かしているみたいじゃないか。いったいどうしたらいいんだ。
「あたし毎朝浅井君と勉強できて嬉しかったの。廉くんの気持ちも考えないでひとりで楽しみにしていたりして…ごめんなさい。」
どうしていいかわからずにオロオロしている僕に香織は信じられない言葉を残して教室を出て行ってしまった。

楽しかった…僕と毎朝過ごすのが嬉しかった…?楽しみにしていただって。

あれ…?彼女は何て言った…『廉くんの気持ちも考えないで』って…僕の事『廉』って呼んでたよな。 …どう言う事だ?
まさかとは思うけど、香織にとって僕は単なる『都合のいいクラスメイト』なんかじゃなかったって事?

自惚れかもしれない。

彼女の事が好きだから、勝手に自分の都合の良いように思い込もうとしているのかもしれない。

だけど…もしも香織も同じ気持ちでいてくれるとしたら?


万が一、香織が僕の事を少しでも好きだと思っていてくれたら?
ごちゃごちゃ考えている場合じゃない。そう気付いた僕は彼女を追って駆け出していた。

彼女に謝らなくちゃいけない。

僕の気持ちを伝えなくちゃいけない。

後悔したくないよ。君を泣かせたまま友達にさえなれなくて終わるなんてイヤだ。

たとえ勘違いでもいい。

僕の事をなんとも思ってないと言われてもいい。

君の涙の訳を知りたい。


+++++     +++++     +++++



涙が溢れて止まらなかった。
廉くんは困っていたと思う。あたしが急に泣き出して戸惑った顔をしていた。
そりゃそうだよね。誰だって、好きでもない女の子に毎朝宿題を写させてあげて、さらに勉強を教えて自分の大切な時間を割いてたら迷惑に決まっているよね。
ごめんね。廉君…。
何が起こったのかわからないという顔をしている廉君に『ごめんなさい…。』と言うのがやっとで、そのまま顔を見ているのが辛くて教室から駆け出してしまった。
涙をこれ以上彼に見られないように…。

どうしよう…絶対におかしいと思われているよね。
あんな事でポロポロ泣き出して…絶対に迷惑かけちゃったよね。

でも…あのままだと、きっと言葉にしてしまっていた。
「あなたが好きです」って…。

校舎の北側のあまり人の来ない場所まで来て座り込む。
この場所で初めて見たんだ。廉くんが眼鏡を外しているところ。
ちょうど木陰になる桜の木の下で眠っている彼を見つけたのは桜が花の季節を終え緑の美しい葉桜になった頃だった。
それまで、クラスでも目立たなかった彼なのに眼鏡を外した廉くんは何処か普段と違って見えて、何だか胸が切なくなるくらいに締め付けられてドキドキした。
普段の彼はもしかしたら本当の彼じゃなくて、もっと色んな顔を持っているのかもしれない。
そんな風に思えて、どんどん廉くんへの興味が膨らんでいく。
ボサボサの癖のある髪はそのままなのに、「もしかして人違い?」そう思ってしまうくらい彼の寝顔は本当に無防備で、幸せそうにうっすらと笑みを浮かべる彼の薄い唇に触れてみたくて…。

一瞬だけ掠めるようにキスをした。

一番驚いたのはあたし自身だった。
何故そんな行動に出たのか自分でもわからなかったから。

その時、彼がいきなり目覚めて目がパッチリ合ってしまった。
その瞳が凄く綺麗で、思わず引き込まれるように見つめてしまった。
きっと心を囚われるってこう言うことをいうんだと思う。
それまで以上に胸がきゅんって痛くなって、それから耳元に心臓があるようにドキドキと五月蝿く鳴り始める。本当に病気なんじゃないかと心配になるくらい苦しくて…
頬なんて熱があるんじゃないかと思うくらい熱くて、きっと真っ赤になっていたと思う。
そんな顔を見られたくなくて、何よりキスしたことを気付かれたくなくて、彼が眼鏡を手探りで探している間にあたしは慌てて逃げ出してしまった。
廉くんは眼鏡がないと世界がぼやけて見えるって言っていたから、あの時あそこにいたのはあたしだって今でも気付いていないみたい。

気付かれなくて良かった。

あのときのあたしの顔を見られていたら、この気持ちを知られてしまっていたかもしれない。
あの瞳を見た瞬間から…ううん、彼の寝顔を見た時からあたしは恋に落ちていたんだと思う。

胸が締め付けられるような痛みを抱えて、あの日廉くんが眠っていた場所に座ってみる。

もう何ヶ月も前のことなのにこの木の下で眠っていた廉君の伏せられた睫毛の長さも、静かな寝息も、薄く口元に浮かべた微笑も、昨日のことのように鮮やかに思い出すことが出来る。
あれから、彼と話したくて宿題を教えてもらうのを口実に毎日のように朝から彼に勉強を教えてもらっていた。
彼の迷惑も考えずに…。
あたし自分のことばかりでいつの間にか廉くんに迷惑かけてしまっていた。

「ごめんね…廉くん。」

小さな声で呟いてみる。胸が熱くなってやっと止まりかけた涙がまた、溢れ出してくる。

「失恋…しちゃった。あたし…。」

…廉くん…好きだったよ。


+++++     +++++     +++++


「失恋…しちゃった。あたし…。」
小さな声だけど確かに耳に飛び込んできた、信じられない香織の呟き。

失恋…。香織が…誰に?
このシチュエーションで考えられるのは一人しかいないような気がするが、それって僕の自意識過剰ってヤツだろうか。
自惚れかもしれないと思っていたけど、本当に自惚れてもいいんだろうか。

こんな悲しい顔で涙を流している時でさえ、必死に笑顔を作ろうと努力している香織。
どうしてそこまでするんだろう。
どうして彼女はいつも笑おうとするんだろう。
君の笑顔は大好きだけど無理して作る苦しげな笑顔は辛いよ。

ねぇ、君の本当の笑顔が見たいんだ。

だから、ほんの少し勇気を出してみるよ。

君の顔を見るのは恥ずかしいから眼鏡を外してぼやけた君に声をかける。


「香織…君のその涙の訳を教えてくれないか。」


はっと息を飲み彼女が振り返るのが伝わってくる。
僕には彼女の顔なんて見えなくて、ぼんやりと輪郭だけが桜の木の下に香織が座り込んでいる事を教えてくれている。

そのぼやけた輪郭に、春の日の記憶が蘇る。
心地良い午後の日差しにうとうとした時、誰かが僕を見つめているのを感じた。
眠りの世界から僕を引き戻した一瞬唇に掠めるように触れた柔らかいもの。
誰かがとても優しい笑顔で僕を見つめているのを視線で感じる。
この香り…この雰囲気…もしかして同じクラスで隣りに座っている秋山香織ではないかと感じてうっすらと目を開けた。

彼女は慌てて身を引いてしまったので顔はやはりぼやけたまま確認する事は出来なくて、すぐに眼鏡をかけて彼女の姿を捜してみたけれど、もう彼女はいなかった。

あれがただの夢だったのか、それとも現実だったのかずっとわからなかった。

ずっと気になっていたんだ。もしかしてあれは夢なんかじゃなく本当に香織だったんじゃないかって。

この場所に座り込んでいる彼女を見て確信する。
あれは…やはり香織だったんだ。

あの日、瞳を閉じでいても注がれる視線で感じるほど、彼女が凄く優しく微笑んでいるのがわかった。
彼女の笑顔が見たい。
彼女の本当の心からの笑顔が見たい
あの日の微笑を感じるだけじゃなく、この目で確認できる距離で見てみたい。

「ゴメン。僕が君を傷つけたんだね?僕は…君のそばにいるとドキドキして冷静でいられなくなる。君に勉強を教えてあげると言いながら、本当は君の笑顔を見たくてそればかり考えてるんだ。勉強を教えてあげるふりをして、君を盗み見ているなんて…サイテーだよね。」
ああ、これで嫌われてしまったかな。
でも、後悔しない。
ちゃんと僕の気持ちを伝えるんだから。
「君が好きだよ香織。迷惑だって思われるかもしれないけど、僕はもう君への思いを抑え切れなくて…。ごめん。自分の気持ちを振り切りたくてあんな事いったんだ。君が傷つくなんて思わなかったんだ。本当にごめんよ。」
君の顔を見たくて一歩また一歩と近付きながら君の返事を待つ。
君は許してくれるだろうか。こんな冴えない僕が君を見つめている事を…。

「酷いよ…浅井君。そんなのずるい。」
「ずるい…?」
「そうよ。あたしのほうが先に廉君を好きになったのに、廉君が先に告白しちゃうなんてずるいよ。」
香織はそう言って溢れる涙を擦ってから、怒ったように僕に向かって進み出た。
距離が縮まり、香織の輪郭がはっきりと捉えられる距離になってようやく香織の口元が微笑んでいるのがわかった。

ああ、この笑顔だ。

僕の目の前に立ち柔らかな笑顔で真っ直ぐに僕を見つめてくる。
どんな時も笑顔の君だけど本当の笑顔を僕は知っているよ。
苦しげな切なげな笑顔はもう見せないで。
無理に笑う必要なんてないんだ。
君はほら、僕の傍でこんなにも自然に幸せそうに笑ってくれる。
心の迷いに言葉を詰まらせた僕の背中を香織の笑顔が押してくれたような気がする。
その微笑につられるように僕はずっと前から心の奥深くで望んでいた言葉を初めて口にした。

「香織…僕とつきあってくれる?」

+++++     +++++     +++++

廉君の声があたしの想いを包み込むように胸に染み込んでくる。
ずっとずっと好きだった。
あの日この場所で眠っていた彼にそっと唇を寄せたときから

耳に届く彼の言葉がまるで夢の中の出来事のように遠くに響く。
現実なのだと確かめたくて、彼の元へと歩み寄ると手を伸ばしその腕に触れた。
廉君の温かい体温と、緊張の為か腕から伝わる僅かな震えがこれを現実だと教えてくれた。
悲しみの涙が幸せの涙に代わるのを感じる。
心があなたを求めている。
「あたし…廉君が好き。春にここであなたを見かけてからずっとずっと好きだったの。」
あたしは廉くんに微笑んでいられたのかしら。
あまりにも嬉しくて涙が止まらなくて…あたしの表情は泣き笑いだったに違いない。
触れた先から二人の胸の鼓動が伝わり頬が熱くなるけれど、互いの鼓動が同じリズムを同じ速度で打っているのを感じて心が満たされていくのを感じる。
緊張で僅かに震える指があたしの身体をふわりと抱きとめてくれた。
とたんに心がもっとあなたを知りたいと騒ぎ出す。
あなたが好きです…廉君。あなたをもっと知りたい。

もっと…好きになってもいいですか。


+++++     +++++     +++++


「香織…僕とつきあってくれる?」

僕の言葉を待っていたかのように、彼女は僕が今までで見た一番の笑顔を僕にくれた。
その笑顔に桜の木が秋だという事を忘れ全ての花が一斉に芽吹いて満開になったかのような錯覚を覚える。

この笑顔は僕だけのために向けられている。君の心は今、僕だけを真っ直ぐに見つめているんだね。
「あたし…廉君が好き。春にここであなたを見かけてからずっとずっと好きだったの。」
ふわりと手を伸ばし僕に触れてくる香織。
触れた先から二人の胸の鼓動が伝わり頬が熱くなるけれど、互いの鼓動が同じリズムを同じ速度で打っているのを感じて心が満たされていくのを感じる。
緊張で僅かに震える指が君の身体をふわりと抱きとめる。
まるで生まれたての子猫を抱いているように柔らかで不安定で、こんな危うい君を心から護ってあげたいと思う。
心の奥から強い思いが込み上げてきて、震えていた指が静かに治まっていく。
君を抱きしめる。ただそれだけで僕を強く変えていく何かが、君にはあるんだろうか。
「あなたをもっと好きになってもいい?ずっと好きだって言えなかった分取り戻したいんだけど。」
そう言って僕を見上げてくる輝かんばかりの君の笑顔が眩しくて、柔らかな頬に手を添えると彼女に負けないくらいの思いをこめて微笑んでみせる。
「僕も君をもっと好きになってもいいのかな?いままで想いを抑えてきた分この想いが止まらなくなりそうで怖いんだけど。」
「いいよ、止めないで…。全部受け止めるから。廉君の想いはあたしの心で全部受け止めるから。廉君はあたしの想いを受け止めてくれる?」
「モチロン。どれだけでも受け止めるよ。君が僕の想い受け止めきれるか不安だけどね。」
「あたしのほうが先に好きになったのよ?受け止めきれないはずないでしょう。こんなにも…あなたを好きなのに…。」
擦れるように切なく響く香織の声に思わず感情を抑えきれず強く抱きしめる。
高鳴る胸の鼓動も、少し早い息づかいも、いつもより高い体温も全ては君の為だけに引き起こされる類稀な現象で…これを治めるのはたった一つの特効薬だけだって僕は本能で知っている。
香織の顎に指を添え上を向かせると静かに唇を寄せる。
想いに惹かれるように静かに唇を重ねるだけのkiss

溢れる思いに誘われるようにもっと触れたいと唇を啄むKiss

互いの想いを確かめるように求め合い絡めあうKISS


ふたりの鼓動が重なり想いを伝え合うたびに繰り返されるキス
どうして僕は君に相応しくないなんて思っていたんだろう。
香織とのキスの相性が僕たちの相性を教えてくれているじゃないか。

「香織のキス…好きだな。何もかも忘れてしまいたくなるくらい夢中になってしまうよ。」
唇を離す間も惜しくて触れたまま呟く。
「廉君がこんなにキス魔だとは思わなかったわ。」
キスの合間に甘い吐息と共にそう呟く君が愛しくて…何度もその可憐な唇を啄み堪能する。
「誰にでもって訳じゃない。香織限定だから…。僕の想いを受け止めてくれるんだろう?」
「うん…大好き。廉君。」
「僕も好きだよ。香織…もう、香織に溺れそう。」
「クスッ…溺れるって?」
「香織のキスの虜になった。もう、離れられない。」
「あたし以外の人とキスしちゃ嫌よ。」

予鈴が鳴るのがずっと遠い世界の事のように耳に届く。

「廉君…授業始まるよ…。」
「うん、そうだね…。行こうか。」
離れがたい気持ちを無理やり押し留めて唇を無理やり引離す。
心が引き裂かれるような寂しさを覚えるのは僕たちの気持ちが一つになったからだろうか。

指を絡め手を繋ぐ。
少し君を引っ張るようにしてその場を後にする。
…はずだったのに……

身体は無意識に動き、君の手を引き寄せそのまま腕の中に抱きとめていた。

「やっぱり離れたくないかも…。」

気持ちを確かめる様に触れるkiss

「優等生の浅井廉がサボっていいの?」

気持ちを伝える様に啄むKiss

「うん、いいんだ。今はこっちのほうが大事だから…。」

互いに想いを重ねる様に求めるKISS

サボった事なんて無かったけれど君と一緒だったらどんな事でもできてしまう新しい自分を発見できるよ。
優等生の浅井廉なんてもう要らない。
僕の中の新しい僕が君の手によって目覚めていく。
君のその微笑が僕の心を明るく照らし、鈴の音の様な澄んだ笑い声が僕の心の扉を開く。
君の隣りに相応しい男になるために僕は変わっていくのかな。


「今日の授業位聞かなくても差し支えないよ。」

そう言って香織の唇にもう一度思いを寄せる。

繰り返す事で伝わるのならば何度でも繰り返そう。

唇から伝わる熱で何度でも想いを伝えよう。

『君が好きだよ』

言葉で伝えきれない想いを唇に込めよう。

kiss

Kiss

KISS


初めて君の唇が触れたあの時から僕は君のキスの虜になっていたんだ


君の甘いキスの魔力の前には、ほら。


予鈴なんてすぐに聞こえなくなってしまうよ。


+++++     +++++     +++++


明日もきっといつもの角を曲がると、いつもの通り君がそこにいる。
友達と楽しそうに笑いながら歩いている君。
その姿を見つけるとほっとして、それから頬が緩んでくるのは僕。
そんな僕を見つけて、君は満面の笑顔で声をかけてくるだろう。
「あ、廉君おはよう。」
君は僕に向かって駆け寄ってくる。
それからこう聞くんだ。

「英語の宿題がんばってみたのよ。後で見てくれる?」

少しおねだりするように君は甘えて言うんだろう?

だから僕はこう答えるんだ。

「おはよう、香織。もちろんいいよ。…だけど」


―― お礼に甘いキスを忘れないでね。――



桜の木の下の小さなキス



きっかけのキスの魔法が僕たちの恋を静かに動かし始めていた。




+++ Fin +++
2005/12/21
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【ホタルの住む森】&【月夜のホタル】100000Hits MemorialFreeNovel

** Little Kiss Magic2 **

いつもの道。いつもの角を曲がると、いつもの通り君がそこにいる。
「おはよう(れん)君。」
待っていたかのように僕を見つけて、君は満面の笑顔で駆け寄ってくる。
愛らしいその姿を見つけ君の心からの笑顔を見る時、僕はホッとして、それから頬が緩んでく
る。
春の陽射しを浴びて肩で跳ねる柔らかなマロンブラウンの髪が天使の輪を作っている。
満面の君の笑顔は満開の桜の花にも負けないくらいに鮮やかだ。
今日もまた君は本当の笑顔で僕のために笑ってくれている。そのことが僕にとって何よりかけがえの無い宝物でもある。

「おはよう香織(かおり)。」

付き合い始めて半年。今日僕たちは2年生に進級する。
「ねぇ、また同じクラスだといいのにね。」
「うん。…きっと同じクラスになっているよ。」
「随分自信たっぷりに言うのね?まるで知っているみたい。」
僕の確信めいた言葉に不思議な顔をする香織の表情が可愛くてそっと耳元に唇を寄せてないしょ話のように小声で話す。
彼女の表情も二人で過ごすこの時間も、とても繊細で大声で話すと壊れてしまう。
何故かそんな風に感じたからだ。
「僕は魔法使いだからわかるんだよ。」
「クスッ…廉君は魔法使いなの?じゃああたしが今考えている事わかる?」
「わかるよ。『廉君大好き』って思っているんだろ?」
僕の言葉に図星といわんばかりに桜色に頬を染める香織。
そんな彼女が可愛くて、今すぐにでも抱きしめたくて……

かすめるように一瞬だけ唇を重ねた。

唇の触れた瞬間ピクッと肩を揺らし、離れると同時にポンと顔を朱に染めて恥ずかしそうに僕を睨む。
この可愛らしい反応があるから、ついつい不意打ちで唇を奪う悪戯を僕は止められないでいる。
「…っ!もう、こんな所でっ!人がいるのに…。」
「ん…大丈夫。誰も見ていなかったし。」
「そう言う問題じゃないでしょ?」
困った顔をして周囲を見回す香織にチクリと胸が痛む。
香織と付き合いだしてから少しずつ自分に自信を持てるようになってきたけど、それでもまだ、自分が香織に相応しい男だと思えない僕は、この時の香織の様子が拒絶のように映って心の中にざわめくものを感じた。

「……ごめん。」

だから謝る言葉もぶっきらぼうで、声も冷たかった気がする。だけど僕には彼女を気遣う余裕は無かったんだ。
彼女の戸惑いを見た瞬間、ずっと思っていることが胸を抉っていたから。
彼女は僕と一緒にいることを恥ずかしいと思ったりすることがあるんじゃないか?
そんな事を時々思うときがある。
僕は…香織にコンプレックスがあるのかもしれない。
香織はクラスでも一番人気のカワイイ子だ。明るくて誰にでも優しくて男女を問わず人気があ
る。
それに比べて僕はボサボサ頭に瓶底眼鏡で、おまけに性格だってパッとしない。とりえといったら少し勉強が出来るくらいで…。

でも香織はそんな僕を好きだと言ってくれた。
端から見たら月とスッポンって感じのカップルなんだろうな。

彼女が友達に『どうしてあんな根暗男と?』とか『趣味が悪い』とか色々と言われているらしい事を僕はちゃんと知っている。

お洒落になんて興味は無いし、誰かに好かれる為に自分を変えるなんて、真っ平ごめんだけれど…。
それでも彼女が友達からそんな風に言われると傷ついてしまうんじゃないかとか、僕の事を嫌いになってしまうんじゃないかとか色々考えてしまったりする。
自分を人の為に変えるなんてポリシーに反するけど…それでも香織が大切で彼女を傷つける全てのものから護りたいから…
彼女の為にも僕は少し変わるべきなのかもしれないと最近は思い始めてきた。

香織に相応しい男として彼女の友達に認めてもらえて彼女が喜んでくれるなら努力は惜しみたくないと思う。


僕が変わったら…香織は喜んでくれるだろうか。


+++++     +++++     +++++


「……ごめん。」

彼のその言葉に何だか一線を引かれたみたいで…胸がズキンと痛んだ。
その後学校まで肩を並べて歩いたけれど、どこか口数も少なくて、廉君は何かを考え込んでいるようだった。
何を考えているんだろう。
もしかして、さっきのキスをあたしが嫌がったと思っているのかな?
イヤだったわけじゃない。ただ、クラスメイトが周りにいるかと思って恥ずかしかっただけなの
に…
廉君…怒っているのかな?
少し俯き加減で何かを考える時の遠い目をしている廉君の横顔をじっと見つめる。
長い睫毛、すっと通った高い鼻、眼鏡をとるとすごく綺麗な瞳をしていて、結構整ったカッコイイ部類の顔立ちをしている。
目立たないけどスポーツだって実はかなり出来て、頭が良くて、身長だって高い。
付き合ってみてわかったけれど、廉君はひょろりとした見かけほど細くなくて意外とがっしりしていたりする。

クラスメイトたちはあたしが廉君と付き合いだしたことに異議を唱えたりもしたけれど、あたしは全然気にならなかった。
彼の瞳がどんなに綺麗か誰も知らないくせにって心の奥底で優越感に浸っていたのよ。
あたしにだけ見せてくれる眼鏡を外した廉君の笑顔があたしは大好きで…。
その笑顔の傍にずっとずっと一緒にいたいと思うの。

あたしと付き合いだしてから彼は少しずつ変わってきていると思う。

どちらかと言うと大人しい印象で目立たないタイプだった廉君。
だけど、最近は以前よりも堂々としているというか、話し方にも余裕があるというか…。
廉君の言葉や行動にあたしが翻弄されてしまう事も多くなってきた。
その度にドキドキしてしまうのはもちろん好きだからもあるけど、それだけじゃ無い。
これまで人前では決して見せなかった姿があたしの前に現れる度、意外だったり、とても素敵だったりして…。その一つ一つにまた恋をしているからだと思う。
日を追うごとに彼への想いは益々募っていく。
そんな自分の気持ちが怖いくらいで、廉君がこの気持ちを受け止めてくれるのか不安になってしまうときがある。
どんどん素敵になっていく廉君。
あなたを気にもとめないクラスメイトたちがある日突然あなたの魅力に気付いて意識するんじゃないかって実はかなり心配していたりするのよ。

その綺麗な瞳にはあたしだけを映していて欲しいの。

ずっとあなたに片想いしていたあの頃の気持ちはいつの間にかあたしの中で根雪のようになっていて、その上に更に折り重なる新雪のように、新しいあなたの表情(かお)が『もっと好き』と言う気持ちとなって静かに降り積もっていく。
それは日を追うごとにどんどん(かさ)を増していて、胸の中はあなたでいっぱいになってい
る。

廉君、あなたが大好き。

お願い…そんな哀しげな瞳で遠くを見ないで…。あなたの優しい笑顔が大好きなの。



+++++     +++++     +++++



僕が予言したとおり僕たちは同じクラスになった。
新学期は出席簿の順番に席が配置されている為『秋山香織』と『浅井廉』は必然的にまた隣同士の席になった。

新しいクラスで新しい顔ぶれであるにもかかわらず、人気のある香織の席はあっという間にクラスメイトで取り囲まれ、僕の隣りの席は瞬く間ににぎやかになった。
香織はニッコリと笑うと、その状況をすんなり受け入れすぐに新しい環境に馴染んでいく。

それに比べて僕は、相変わらず無口で誰かと会話を交わすことも無く、にぎやかな隣りの席から意識を遠ざけるように窓から校庭を彩る桜並木を眺めてぼんやりと考え事をしていた。

朝の出来事がきっかけで僕は自分を変える決意をしていた。
両親の仕事の関係で幼い頃から外見だけで擦り寄ってくる人間関係をうんざりするほど見てきた僕は、いつの頃からか人と接するのが苦手になった。
身なりが良いなどの上辺だけで人を判断する中身のない大人にも、両親の顔色を伺い子どもの僕にさえ媚びてくるプライドの無い大人にも幻滅していた。
だから…自分を隠すようにわざと人と直接目を合わせなくてすむ瓶底の眼鏡をするようになった。
もともとお洒落になんて興味は無いけれど、人と距離を置くようになり、ますます身なりに構わなくなった。
だけど…香織を好きになって僕の中の気持ちも少しずつ変化して、今は彼女か恥ずかしくない程度に変わってもいいと思う。

香織は僕の外見では無く本当の僕自身を…僕の内面を好きになってくれた。

だから君を信じたいと思う。

僕の外見が変わってもきっと君の心は変わらないと…。


――そして、次の日


自分で決めた事だけど正直、僕は香織に会うのが少し怖かった。

だけど逃げるわけには行かない。
君の為に僕は変わると決めたのだから…。


「おはよう香織」

いつもと同じように声をかけて僕に振り返った香織はそのまま固まった。
綺麗な茶色の瞳を大きく見開いて、信じられないというように僕を見つめる。

「香織?」

「れ…ん君…どう…して?」

「ん?イメチェンかな。似合う?」

眼鏡を外してコンタクトにして、いつもはボサボサのままにしている髪を手入れすると、僕だって一応それなりにみれる男になることくらいは知っている。
今まであえてそれをしなかったのは、自分らしくあるためだった。
外見や家庭環境など関係なく本来の『浅井廉』を受け入れてくれる人間関係を僕は求めていた。
そして僕を受け入れてくれたのは香織だけだった。

誰だって多少触ればそれなりに見られるようになる。だけどその本質は変わることは無い。
頭は良いけど性格が暗くて冴えない優等生の『浅井廉』
これが僕の本当の姿だ。

僕の容姿が変わったって僕自身が変わるわけではないのだと、香織ならきっとわかってくれるはずだ。


そうだろう?香織…。


+++++     +++++     +++++


髪を整えてコンタクトをした廉君が登校したその日、クラスは大騒ぎだった。
一日中廉君はもみくちゃにされるくらいにクラスメイトに囲まれて、何があったとか、今までどうしてこの容姿を隠していたとか質問攻めにあっていた。

あなたの視線を独占したいという気持ちが日ごとに強くなっていくあたしは、彼が学校で眼鏡を取ったと言う事実にこんなにも不安になっている。

あなたが変わったことにみんなが驚いていた。
今まで廉君を気にもしていなかった女の子の視線があなたに注がれていた。
今まで廉君を話題にもしなかったクラスメイトがみんな我先にと廉君に話し掛けていた。

廉君は相変わらず言葉は少なかったけれど、ボサボサではなくサラサラの髪に瓶底では無い真っ直ぐな瞳でみんなを見つめて話していた。

誰もあなたの魅力に気付きませんように…
あなたを独占したくてそう思っていたあたしは、すごく我が侭で嫌な女の子だと思う。
きっと嫉妬で凄く醜い顔をしているんじゃないかと思うの。

あなたが楽しげに話すのはうれしい事の筈なのに何故だか胸が苦しくて。
あなたの為に笑ってあげなくちゃって思うのに何故だか上手く笑えない。
あなたが素敵になってあたしから離れていくような気がして…
あなたがなんだか遠い人に見えてしまって…
寂しくて仕方が無いの


―― その日の放課後


『桜が満開みたいだからあの桜を見に行こうか』


廉君がそう言い出して二人で校舎の北のはずれにある桜の木の下へとやってきた。

ここはあたしが廉君に恋をした場所。そして二人の恋が始まった場所だ。

この木の下で眠っていた廉君に思わず唇を寄せたときから、あたしたちの恋はゆっくりと静かに動き始めていた。

大きく枝を広げ零れんばかりの淡いピンクの花を咲かせている桜の下まで行くと廉君はあの日と同じように寝そべった。
胸の奥に大切にしまってあるあの日の情景が重なる。

「香織もおいで…綺麗だよ。」

優しいその声に胸がキュンとなってなんだか泣きたくなってくるのはどうしてだろう。
滲みそうになる涙をごまかしながら廉君の隣りに座り同じように視線を桜へと向けた。

春の柔らかい陽射しと抜けるような青空が桜の花を一層引き立てている。
風にゆれる枝が零れんばかりに咲き誇る花をゆらし、その花びらを雪のように散らしている情景がまるで夢の中のようで、あたしは溜息を付いた。

「綺麗ね…。」

「うん。ここはお気に入りの場所なんだ。」

「お気に入りって…そう言えば去年ここで見かけたのは入学してそんなに経っていない頃だったわよね。ここには上級生でさえ余り来ないし、知っている人は少ないでしょう?良くこんな場所を知っていたわね。」

「ん…まぁね。でも香織だってあの時ここで寝ている僕を見つけたって事は知っていたんじゃないのか?」

「ううん、あたしのは単なる偶然。…っていうか…。」

「もしかして…迷子になってたとか?」

……図星…です。
まだ入学して間もない上に、もともとの超が付く方向音痴が手伝って校舎を彷徨(さまよ)っているうちにたどり着いたのがここだったのよね。
恥ずかしくて視線を逸らしたあたしをクスクスと笑いながら髪をかき上げて覗き込んでくる。

眼鏡の無い彼の瞳には複雑な顔をしたあたしが映っていた。

あたしの大好きな廉君の瞳。
その瞳に映るのは…こんな迷いのあるあたしの顔ではいけないのに…。


ズキ……ン


胸が締め付けられるように痛くなった。



「もうすぐ1年になるんだね。」

眩しいものを見る様に少し細めた瞳で見つめられてぼうっとしていたあたしはその台詞で現実に引き戻された。

「え…なに?」

「いや、もうすぐ僕たちのファーストキスから1年になるなって思って。」

その台詞に、あの日思わず寝ている彼にキスしてしまったことを思い出し、頬が熱くなった。

「…っ、やだ。何を言い出すのよ、いきなり。」

「だって香織に僕のファーストキス奪われちゃったしね。」

「もう…恥ずかしいわよ。どうしてそういう事言うかな?あたしだって初めてだったのよ。でも、気がついたらもう触れていて…自分でも信じられなかったんだから。んもう、この話止めよう?」

「クスクス…わかったよ。でも、僕はあれが現実かどうかさえわからなかったからね。あの時香織がどんな顔していたのかなって気になってさ。」

「…っ!悪趣味。」

「クス…そう?でも見てみたいな。もう一度あのときみたいにしてくれる?ここに寝ているからさ。」

「イヤ。」

「即答?…じゃあ僕がしてあげる。」

「なっ…いいわよ。そんなことしなくても。」

「遠慮しないで、ほらっここに一緒に寝てごらんよ。」

「え…あ、きゃっ!」

いきなり腕を引寄せられ胸に倒れこむようになったあたしを彼はキュッと抱きしめた。

「危ないじゃない、もうっ!」

「あははっ、ごめんごめん。驚いた?でもほら…上見て。」

「う…わぁ…」

先ほどまで見ていた桜と同じ筈なのに見る角度が変わるとこんなにも違って見えるんだろうか。
桜の花の薄いピンクと柔らかな新芽の黄緑色の葉が目に鮮やかで、その隙間からキラキラと零れ落ちる木漏れ日が風に煽られ散ってくる桜の花びらに反射して、太陽のカケラが落ちてくるように見える。

「すっごい綺麗…。」

「だろ?去年もさ、ここでこうしてずっと桜が散っていくのを見ていたんだ。」

「桜…好きなの?」

「日本人なら誰でも好きなんじゃない?桜ってさ、咲くまでが凄く楽しみで、咲いたら今度は満開になるのが楽しみで、散っていくのが惜しいんだけど、その花吹雪がまた楽しみで…なんだか心が花から離れたくないって言っているみたいじゃないか?」

「あぁ…そういわれればそうね。」

いつの間にかあたしは廉君の腕枕で同じように寝そべって桜を見上げていた。
同じ光景を同じ視点で見つめていることがなんだかくすぐったくて…。
だけど、今までよりずっとずっと廉君が身近に感じられて幸せだった。

『心が花から離れたくないって言っているみたいじゃないか?』

まるであたしの気持ちそのものの言葉のようでドキドキと胸が高鳴って、廉君に聞こえてしまいそうだったけれど

それでもあたしの心はこの腕の中から離れたくなかった。


+++++     +++++     +++++


『心が花から離れたくないって言っているみたいじゃないか?』

その言葉の本当の意味に香織は気付くだろうか。
桜に例えて言いたかったのは僕の心の事だった。

最初は君を見つめていること、ただそれだけが凄く嬉しかった。
そのうち毎朝勉強を教えてあげる僅かな時間がとても大切なものになった

それは言うならば僕らの桜が固い蕾から花へと綻び始めていた時期だったのかもしれない。

君の気持ちを知ってからは少しずつ互いの距離が近付いていく事がとても嬉しくて
君の笑顔が僕に向けられている事が幸せで

まるで花が満開になる時を待っているかのように毎日ワクワクしていた。

香織という花から僕はもう離れられないでいる。
ただ一人僕の本質を好きだと言って認めてくれた君。

僕たちの桜が永遠に散らないようにずっと大切に咲かせていたいと願うのは僕だけじゃないと思っても良いよね?


君も…僕と同じ気持ちでいてくれると信じても良いだろう?



「ねぇ、香織。僕がコンタクトに変えた事みんな驚いてたね。」

僕の右腕を枕にして桜に見惚れている香織に視線を向けてポツリと呟く。
予想通りだったとはいえ、あの反応はやはり失望もあった。
今まで見向きもしなかった女の子が、僕の机の周りに休み時間の度にやってきて話し掛けてくる
『廉君ってかっこよかったのね。どうして今まであんな眼鏡をしていたの?』

上辺しか見ないそんな反応がイヤだったからだよ。そうはっきり言ってやりたかった位だった。


「廉君凄い人気だったね。」

クスッと笑い一瞬だけ僕を見るとすぐに視線を逸らしてしまう香織に何だか二人の心が距離を置いたような気がして急激に不安になる。
その不安を拭いたくて身を起すと香織を組み伏せるようにして瞳を覗きこんだ。

「香織…どうしたの?」

僕の突然の行動に驚き大きく見開かれたその瞳は僅かに潤み不安げに揺れている。

「何でもない…」

「何でもないこと無いだろう?…もしかして君は僕が変わった事を良く思っていないの?」

「――っ!そんなこと…」

彼女の一瞬の動揺にその答えを見つけた僕は大きくひとつ溜息をついた。

「…そうなの?」

「…ごめ…あたし…嫌なコなの…見ないで…。」

身体を捩って僕の視線から逃げるように顔を隠し、腕の中から逃げようとする香織を強く抱きしめた。

「…僕は君に相応しくなりたい。香織の隣りにいて誰も文句なんて言えない男になりたいんだ。僕のせいで君が悪く言われるのも不快な思いをしたり傷つくのも見たくは無いんだ。」

「そんな事…誰が何を言ったって関係ないわ。眼鏡を外した本当の廉君の笑顔はあたしだけが知っているって思っていたから。あたしの中ではそのことがいつの間にかとても大切な事になっていて…だから、眼鏡を外した廉君がクラスの女の子と話している事に凄く嫉妬してしまって…。」

哀しげに瞳を閉じた時、薔薇色の頬に硝子の欠片のような綺麗な涙が伝っていったのを頬に添えた指で拭った。

「香織…。」

「ごめんね。あなたが明るくなって、どんどん素敵になっていくのは嬉しい事の筈なのに、あたしから離れていってしまう気がして怖かったの。あたしって嫌なコだよね。…廉君があたしのこと嫌いになったってしょうがな…――っ…」

その言葉を最後まで聞きたくなくて言葉を奪うように唇を重ねた。
柔らかで甘い君の唇。
去年の春、この場所で初めてかすめる様に触れた君のキス。あの日から少しずつキスの魔法は僕の心の中に変化をもたらし始めていた。

君のキスには魔法がかかっているんだ。
その証拠にほら…君に唇を重ねる度に僕の中の何かが目覚めていく。
君への想いが僕の進むべき道を真っ直ぐに示していくんだ。

「僕がどんなに君が好きか分かるかい?君を護るためなら…君が笑顔でいてくれる為なら僕はどんな事でもするよ。君の事が誰よりも好きなんだ。」

「あたしも…廉君が大好きなの。あなたの瞳にはあたしだけを映して欲しい。我が侭かもしれないけれど…廉君が見つめるのはあたしだけであって欲しいの。」

「僕はいつだって君しか見えていないよ。僕の内面を好きになってくれたのは香織だけだからね。香織が僕のことで不安に思っていたなんて考えてもみなかったよ。不安なのは僕だけだと思っていた。自分の事しか見えていなくて…ごめんよ。」

「ううん、あたしもつまらない嫉妬なんかしてごめんなさい。」

「僕の事なら心配なんて必要ないよ。香織しか目に入らないし…。むしろ心配なのは君の事だよ。僕からなら簡単に君を奪えると思っているヤツが多いのは知っているんだ。そんなヤツが香織にちょっかいでも出したらキレそうだよ。」

「キレるって…廉君が?クスクス…心配しすぎよ。あたしはそんなにモテないわ。それに廉君は心配ないって言うけど今日の廉君を見てファンクラブでも出来たらあたしだって嫉妬でおかしくなっちゃうかもしれないわ。」

「クスッ…それはありえないよ。だって僕は明日からまた瓶底眼鏡の浅井廉に戻るんだから。」

「え?どうして?」

「君以外の他の誰かに好かれたい訳じゃないからね。」

柔らかな頬に触れ、優しくその唇へと気持ちを伝えるキスを贈る。

「言っただろう?君が笑顔でいてくれる為ならどんな事でもするって。」

頬を染めて嬉しそうに微笑む香織の表情がとても幸せそうで…この笑顔が全て僕だけのためなのだと思うと言葉では言い表せないくらい幸福な気持ちに包まれる。


いつだって僕を幸せにしてくれる香織…。


だから、僕はどんな小さな不安からも、些細な事からも君を護ってあげたいんだ。




+++++     +++++     +++++


いつもの道。いつもの角を曲がると、いつもの通り君がそこにいる。

「おはよう廉君。やっぱり眼鏡をかけてきたの?」

「おはよう香織…うん。やっぱりこの方が僕らしいからね。寝癖も復活だよ。」

「クスッ…うん、やっぱりこの方が廉君らしくて好きよ。」

「ありがとう。僕さ、今回の事で香織なら僕がどんな人間でもちゃんと受け入れてくれるってわかって凄く嬉しかったよ。」

「どんな人間でも…?」

「そう、どんな人間でも…僕はちょっと特殊な立場にいるんだよ。だから昨日僕らのクラスが同じだって事も知っていたんだ。」

「あら、廉君は魔法使いじゃなかったの?」

「クスッ…まあね。……香織にだけ僕の秘密を教えてあげるよ。」

笑いながら香織の肩を抱き寄せて、耳元でそっと囁いた…。



「………この学校の理事長って僕の父親なんだよね。」



「……ぇ…ぇぇええええええっ!…うそっ?」

「本当だよ。内緒だからね?」

「ぁ…う…うん。…はぁ〜ウソみたい。」

「驚いた?」

「うん…。」

「僕を見る目が変わった?」

「ううん、それはないよ。だって廉君は廉君だもん。」

そう言ってパアッと花が咲いたように微笑む香織を見て、本当に彼女を好きになってよかったと心から思う。


ねぇ、香織。君は僕の桜なんだ。

君という花から僕の心は離れられない。

だから僕は美しく咲く君を彩る青空のような存在になりたいんだ。

優しく君を見守り大きく包み込んであげられる存在になりたいんだよ。



いつかきっと…君を護れるだけの強さを持ったそんな大人になるから…。



ずっと僕の為だけに咲き続けて欲しいんだ。



「香織…好きだよ…。」

柔らかな髪を弄り、一瞬触れるだけのキスを奪う。

「もう…またぁ。通学路ではダメよ。」

「…ごめん…つい。」

「クスクスッ…優等生のくせにこんな所だけ学習能力がないんだから…。」

香織はそう言って少し背伸びすると―――


チュッ…


僕にキスの魔法をかけて逃げるように先に駆け出して行った。


少し先を走って僕をからかうように振り返る香織の笑顔が眩しくて…


だから僕はその笑顔に誓うんだ。


君を大切にするよ…って。



+++ Fin +++

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朝美音柊花
2006/04/14


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