5.
 
すぐに冬休みに入ったこともあったけど、それ以来工藤は誰とも付き合わず、ひたすら勉強しているらしかった。
受験の間際と言うこともあって、今年のクリスマス会は見送りになってしまった。当然初詣を兼ねた新年会も...去年はクリスマスも新年会もみんなで盛り上がったんだけどなぁ...
 
クリスマスイブの夕方、岡本くんがいきなりうちにやって来た
メールは結構来てたけど、来るなんて言ってなかったから本当に驚いてしまった。うちも結構親が厳しくて、突然クリスマスプレゼントを持ってきたっていう岡本くんには母親も驚いていた。
「椎奈、プレゼント渡したいんだけど、椎奈の部屋に行ったらだめかな?」
「え、あたしの部屋?」
「ああ、二人っきりで渡したいんだ。」
「ごめん、散らかってるから...」
玄関先だったけど、そのままあげるわけにも行かなかった。お母さん睨んでるし...あたしはそのまま靴を履いて外に出た。玄関先でも母親が耳をダンボにして様子伺ってるんだもん。
「これ、よかったら使って、椎奈に似合いそうなのみつけたんだ。」
そういって差し出されたのはチェーンににいろんな星とかハートとかがついたかわいらしいブレスレットだった。
「こんなのもらえないよ!!あたしプレゼント用意してないし...ここんとこ出かけてなかったから、それに...」
まだカノジョになった訳じゃないよ?なのにこんな...
「いいんだよ、オレがしたかっただけだから。返されたってオレそんなの出来ないしね。それにお返しはモノでなくってもいいよ?」
なんのことかわからずにいたら急に岡本くんの顔が近づいてきたので慌てて逃げた。
「逃げるなよ、キスでいいのに...お返し。」
「岡本くん、あの、あたし勉強あるし、プレゼントお返し何か用意するから、じゃあっ!」
その時はそういって帰ってもらった。
どうしよう、受験が終わったらちゃんと返事するつもりだったのに...なんか岡本くんすごく本気で、怖いくらいだった。
 
 
 
正月元旦、昼過ぎの神社は結構にぎわっていた。ここはうちの近所ではかなり大きな方だからね。誰かと出会うかなぁなんて思ってたけど、この人混みじゃそれどころじゃないみたい。
どうしようかなって思ったけど、初詣だけは家族で出かけることにした。何たって受験生だから、いっぱいお願いしておかなきゃね
「あれ、椎奈?あけおめ!」
「工藤...?あけまして、おめでとうだね。受験勉強がんばってるんだってね。」
「ああやってるよ、椎奈も?」
「うん、ラストスパートかけてる。」
久しぶりにみる工藤のスッキリした笑顔だった。吹っ切れたみたいだね?
「椎奈、珍しく正月らしい格好してるじゃないか?」
今日のあたしは、晴れ着ってほどじゃないけど、簡単な着付けの着物姿だった。着物好きな母親に無理矢理着せられたんだけどね。もちろん親と車で来たから、でないと苦しいもん。
「お母さんがね、ちゃんとした格好で拝んだ方が御利益があるだろうって、縁起担ぎだよ。」
「ふうん、けど椎奈は大学今のとこ余裕だろ?」
「無理なとこはあんまり受けないからね。でもやっぱり神頼みしてしまうよ。」
「そっか、オレも祖父母達と来たけど、ゆっくり頼んで来いって食堂にいっちまった。まあ、あれだけさぼってるんだからもう後は神頼みしかないだろ?椎奈、あんときは、悪かったな。おまえに言われるまでオレ逃げてたよ。」
あれ以来ゆっくりと話すのは久しぶりだった。
「いいよ、それだけ本気だったんでしょ?もう、吹っ切れた?」
「ああ、吹っ切れた。あとは受験ガンバって、大学生になったらもっとイイ女探すよ。」
大学で、か...大学じゃもうあたしにはわからない世界になるな。だって、あたしが行くのは女子大だし、工藤は街の方受けるらしいし、そうなると彼女が居るのかどうかも判らなくなるよ。まあ、その方が気が楽になるかもしれないけど...
「そっか...ね、お参りは?もう済んだの?」
「ああ、あとは絵馬だな。」
「え、書くの??」
絵馬って受験生は書くもんなのかな?やっぱり。
「書かないのか?やっぱ絵馬しかないだろ?一緒に書くか、だったらオレもっかいお参りするよ。ちょっとさぼっちまったからな倍ぐらいお願いしなきゃだめだろう?」
そういって先にお参りをしようと向かうあたしに並んでくる。
あたしが友人と話してると思った家族達は早々と境内を出て行った。食堂に行くらしい。しかし、人が多い中、着物で草履はちょっと辛くってさっさと歩けなくって、うう、辛い。
「あっ!」
「あぶね、気をつけろよな。」
歩いてて躓きそうになって、工藤の腕に支えられた。
「あ、ありがと...」
工藤って、カノジョと付き合ってるときはちゃんとエスコートしてるんだろうな...今日に限って女の子扱いされてる自分が不思議だった。気を遣って歩いてくれるのがわかるんだ、さっきから歩調がゆっくりになったから。
一礼二拍いつもの年より長めにお参りをする。大学合格しますように...工藤も合格しますように...それ以上は望んじゃいけない気がして、そこまでにした。でも、こうやって隣に工藤が居て、お参りしてると大学受験が絶対大丈夫な気さえしてきた。
「絶対合格だぜ?」
にやりと自信ありげに笑う。工藤らしくって、あたしも負けじと笑い返す。
「あたしも絶対受かってみせる!」
二人で絵馬に志望校合格祈願を書いて、奉納してもう一度お参りした。
これでいいんだ。こんな関係が一番あたしたちらしいんだ。
親友なら、カノジョのように別れることだけはないんだから...だったら告白さえしなかったら、いつまでも側にいてもいい?こうやって、二人でいられる?
あたしはほんの少しの間だけ一緒にいられる幸せを感じていた。
 
 
 
3学期が始まっても受験一色の学校は静かだった。
あたしは工藤と絵馬を書いた後思い出したようにお守りを買った。自分の分と、岡本くんの分と。それは新学期に学校に来たときに彼に渡した。クリスマスのお返しにと冬休みの間に買っておいたフリース素材のマフラーと手袋のセットと一緒に。
正月以降はやっぱり受験勉強が大変だったのか、あんまりメールも来なくなってたんだけど、プレゼント渡したら笑ってありがとうっていってた。とにかく受験が終わるまでは岡本くんを傷つけたくなかったから、そのままだったんだ。渡しに行くのも未来についてきてもらった。
ほんとは怖かったんだ、岡本くんと二人っきりで会うってことが。
 
 
 
あたしは私立の受験だけだったので、2月の半ばには試験は全部終わっていた。
3月の頭に卒業式が終わってもまだまだ結果が出てないこが大半で、落ち着いたらみんなでもう一度集まろうって話になっていた。教室を借りてクラスでパーティをやろうってことになってた。特別にジュースやお菓子の持ち込みを許可してもらって...クラスごとだけど、ほとんどのクラスがやるみたいだった。
3月の半ば過ぎ、クラス会は行われた。
あたしは、岡本くんの試験が終わったら会おうと言われていたので、あえてその日の学校を選んだ。岡本くんのクラスも同じ日にあったから。
このまま付き合うか、別れるか、あたしの気持ちの中ではもう決まっていた。だからブレスレットも返すつもりで持ってきていた。
 
「椎奈のクラスはもう終わったの?」
クラスパーティが終わりかけた頃、岡本くんに教室から少し離れた資料室に呼び出された。
「まだだよ。後かたづけもあるしね。」
「椎奈は第一志望受かったんだよな、オメデトウ。」
「ありがとう。あの、岡本くんは...?」
「第一、第二と全滅。なんでだと思う?」
「え?」
「椎奈がオレに冷たいから...」
「お、岡本くん?」
「工藤と付き合ってるんだろ?」
目の前に怒った顔した岡本くんがいた。
「何言ってるの?付き合ってなんかないわよ。」
「これ、ほら、同じの...オレも元旦の昼頃神社に行ってたんだよ。」
見せられたのはあたしが買ったお守りと同じお守りが二つ岡本くんの手の上に載っていた。
「トモダチとしてって最初に言ったけど、まさか二股かけられるなんてな。」
「かけてないよ、そんなの!」
「じゃあなんで工藤と一緒に初詣に行ったんだよ!着物まで着てさ。オレのこと馬鹿にしてるのか?」
「してないわ!!一緒に行ったんじゃないもん、向こうで出会っただけよ?トモダチなんだから少しくらい話するわよ!見かけたんなら、なんで声かけてくれなかったの?」
「楽しそうにしてたから、声かけにくかったんだよ。好きな女が他の男の前で笑ってるの見るの辛かった。正月からこっち、なんて聞こうかずっと考えてた。言い出せば別れようって言われるんじゃないかって、そう思って...そのつもりだったんだろ?」
あたしは仕方なく頷いた。確かにあたし、岡本くんにこれ以上トモダチ以上にはつきあえないって言おうって思ってたから...
「やっぱりな、椎奈は最後までオレのことカレシとしては見てくれなかったってわけ?」
「トモダチ以上には、思えなかったの。ごめんなさい、もっと早くに言えばよかったけど、あたし、よくわからなくって...」
「オレは、ずっと我慢してた。椎奈を好きで、受験さえ終わればオレの方を向いてくれるって...気が散るばっかりで全然集中出来なくて、工藤と一緒にいるとこ見てからはとくに、椎奈はすごく嬉しそうだった。オレといるときはあんな顔してくれなかった。それが悔しくて...くそっ、椎奈、オレじゃだめなのか?な、椎奈っ!」
「ご、ごめんなさい!!あ、あたしっ、あたし...」
思わず工藤が好きだからといいそうになるのを止めた。あたしの肩をきつく掴んでる岡本くんがあたしをいきなり抱きしめた。
「やだっ!」
彼の唇がまた前みたいにあたしに触れようとしてきた。必死でもがいて暴れて、腕を振り払ったひょうしに、そばにあった机の脚に引っかかって尻餅をついた。
「椎奈っ!」
立ち上がろうとする前に岡本くんが覆い被さってきた。やだ、何する気?
「いやっ」
彼の片手があたしの両手首を掴んで教室の冷たい床に押しつけた。
「やめて、お願い!」
「ずっと我慢してきたのに!!まともにキスもさせてもらえずに...おまけにオレはこのままじゃ浪人決定だ、おまえは大学に行って男作って、唇を、この体を許すんだろ?いやだ...オレのもんなんだ...ずっと欲しかったのに、くそっ!くそっ!」
体中をはい回る反対の手が制服の下に入り込んでブラを押しのけてぎゅっときつく胸を掴んだ。
「やあぁ!いたっ、やめて、ぐうぅ...」
叫びかけた口の中にセーラー服のスカーフが押し込まれた。あたしは苦しくて、涙がぼろぼろこぼれるのがわかった。足をばたつかせてそこら中を蹴りまくるけれど、すぐさまカレの足に阻まれる。
「うう、ううっ」
「ずっと夢見てたんだ、受験が終わったらこうやって椎奈の全部をもらうって...」
いやいやと頭を振っても何しても止めてくれそうになかった。まるで何かに憑かれたようにあたしの体中をまさぐっている。首筋や胸の先にまで唇を押しつけられ、恐怖で体が指の先からじんじんと固まっていく。スカートをまくり上げて下着の上から足の付け根にカレの指が触れてきた。怖くて体が固まる。
「椎奈、ホンとは気持ちいいんだろ?なぁ、こういうことされたかったんだろ?」
そんなはずない、されたいはずがない...そんなことあるはずない!体中が恐怖で震えていた。怖くて怖くて、手も足も思うように動かせなくて、声も出せなくて息が詰まりそうで頭が真っ白になりそうになる。
「椎奈、ここは?もうやられたのか?工藤に...そうじゃないなら、オレが奪ってやる、誰にもゆずらない...どうせ浪人して当分こんないい思いできないんだからな!おまえのせいで浪人するんだからな、これは当然の権利だろ?」
「うぐぅ、うう...」
下着の中に岡本くんの指が入ってきて、あたしの中まで入ろうと無理矢理押し込んできた。恐怖で乾いて固まったそこは拒否してひりついてひどくいたんだ。吐きそうなほどの嫌悪感で喉が詰まる。
「ううぅっ!!」
跳ねた足が近くにあった椅子をけっ飛ばしてがしゃんと音を立てた。
がらっとドアの開く音がした。
「「椎奈っ!!」」
何人かの声がした。
「まて、この野郎っ!」
工藤の声だった。どう見ても合意じゃないあたしの姿に驚いた工藤は逃げだそうとした岡本くんをひっつかんでがしっと殴りつけた。飛ばされた先にいた土屋がまた引きずりあげてまた殴った。
「椎奈、大丈夫?」
目の前には未来と京華があたしを抱き上げて口の中のスカーフを抜き取ってくれたあたしはしゃくり上げながら息をした。吸って吸って、止まらない嗚咽に喉が焼ける。
「ひっ、ひっ、ひっ」
あたしは手も足も動かなくて、まともに息も出来なくなっていく。苦しい...小刻みに震えながら開いたまま冷たく動かない指を見つめていた。
「椎奈、しっかりして、椎奈!」
呼んでる声は聞こえても動けない、まるで自分がコンクリートで固められたみたいに...ただひたすら引きつけを起こしたように震えていた。視界が霞始める。しゃくり上げるような息は止まらない。
「どけ、未来!何か紙袋かビニール袋、ないか!?」
「え、そんなもん...ないよっ!」
未来の声が遠くなっていく。がんがんと耳鳴りがひどい。
「探してこい!!ち、仕方ない、椎奈、息をするんだぞ、ゆっくりだぞ!」
そういって工藤はあたしの鼻をつまむとあたしの開いたまんまの口を自分の口で覆った。何度も工藤から空気が送られてくる。鼻をつままれてるので口でしか息が出来ない。何度も何度も...それをゆっくり吸い込む。
しばらくすると体の緊張が少しゆるみ、あれだけ激しかった息が収まっていくと、工藤があたしの鼻をつまんでるのをはずした。それでもまだくっついたまんまで、動けないあたしはそのまま呼吸を続けた。
「ゆっくり、まだゆっくり、吐いて、あんまり吸うんじゃない。」
ようやく唇を離した工藤が優しい声であたしに話しかける。
「過呼吸だよ、うちの部でよくなる奴が居て、二酸化炭素を吸えば楽になるはずなんだ。」
指先が呪縛から解き放たれたようにゆるんでぱさりと床の上に落ちていた。からだの力が抜けて、そのまま工藤の腕の中であたしは意識を手放した。
 
 
 
「椎奈、気がついた?」
おでこに冷たいモノを感じて目をゆっくりと開けた。目の前には未来と京香が心配そうに覗き込んでいた。
「工藤、土屋、椎奈の気がついたよ!」
未来が呼ぶと工藤が駆け寄ってきた。
「大丈夫か、椎奈。」
声が出なくて頷くだけだった。
「未来と京香とも話したんだけど、どうする?岡本の奴、学校につき出すか?それとも警察にでも?それともこのまま話つけるか?」
目線をあげると土屋が羽交い締めにしたまま岡本くんを捕まえていた。
「ここにいるのは俺たちだけだ、他の奴らは先に帰した。オレたちは椎奈がいいようにしてやる。黙っていろと言えば黙っている。椎奈が岡本を殴って気が済むんならそうさせてやる。学校側に言って奴の卒業をなしにしてやってもいいし、警察に言ってもいい。どうする?」
どう答えていいのか...頭がまわらなくって答えが出ない。
「無理だよ、さっきの今で、椎奈にそんなこと考えられないよ!」
未来があたしを支えたまま反論している。たしかに今考えられないよ...
「いや、椎奈なら答えられるはずだ。」
工藤の腕がぐっとあたしの腕を掴んだ。きつくない、優しく聞いてくる。
「オレたち全員が守ってやるから、椎奈。」
「あ...」
声を出そうと必死になる。すぐさま未来が用意していた紙コップに入ったウーロン茶を目の前にだしてくれた。ゆっくり、未来に助けられながらそれを飲み干す。
「椎奈?」
工藤がもう一度聞いてくる。
「も、う...見たくない。二度と...」
「いいんだな、それで?」
「わすれたい...全部...」
ぽろぽろと涙がこぼれてくる。横から未来がぎゅうって抱きしめてくれる。京香が優しく背中をさすってくれていた。
「オレたちが忘れさせてやるから...」
工藤がそういうと、あたしの髪を優しく撫でて立ち上がった。
「未来、京香、今日はなんとか話を作ってどっちかの家に椎奈を泊めてやることできるか?」
「わかった。じゃあ、あたしんちで二次会してそのまま泊まりってことで、いい?」
比較的両親もさばけてる京香が申し出てくれた。
「じゃあ、あたしもそこに泊まるね。」
未来もそう答えた。
「オレらこいつと話しつけたら、いったん京香んちに寄るから、先に帰ってろ。」
あたしは二人に抱えられるようにしてその場を立ち去った。岡本くんの前を通るとき怖かったけど、小さくごめんと声が聞こえたのがわかった。
 
 
 
京香のお兄ちゃんに迎えに来てもらって車で帰った。すぐにお風呂に入れてもらって、あたしは体をきつくこすりながらあの嫌な感触を消そうと必死になっていた。気がついた京香が飛び込んできてあたしの手を止めた。あたしは京香の濡れた服に顔を埋めてまた泣いた。
そのまま脱衣所に連れて行かれて守られるようにしながら着替えた。京香が出してくれたパジャマに着替えてそのままベッドに寝かされた。でもまだ怖くて眠る事なんて出来なかった。
何時間かして工藤と土屋が京香の家にやって来た。
「椎奈、起きてたのか?」
あたしは寝ていられなくって、毛布にくるまって未来にずっと抱きしめられていた。
「岡本の奴にはちゃんと制裁加えておいた。このことは誰にも言わないと約束させた。あいつが椎奈に連絡を取ってくることは二度とない。顔も合わせないように、同窓会系にも一生顔は出さない。それでいいな?」
あたしはこくりと頷いた。工藤はあたしの前に来て片膝をついた。
「それと、岡本からの謝罪の言葉、言ってもいいか?」
再び頷いた。今度は未来にぎゅうっと抱きついて...
「岡本はおまえのこと本気で好きだったそうだ。だけど、おまえがなかなかカレシとしては見てくれないのが辛かったんだと。ずっと我慢してたのと、受験がうまくいかなかったのとでちょっとノイローゼになってたみたいだな。これは全部いいわけでしかないけど、好きな気持ちだけは本気だったみたいだ。まあ、いくら言ってもオレらも許せないけどな。」
ちらっとドアの方を見ると、ドアの横の壁にもたれてた土屋が小さく『ああ』と答えた。
「椎奈?辛かったらここにいる奴にいえよ。あの場にいた奴しかおまえのことは知らない。このまま清孝や智勝、雅美にもいわない。これから大学に入って会うこともまばらになるかも知れないけど、辛かったら我慢せずにオレらを呼び出せよな?いいな?」
「そうだよ、椎奈が辛いんならあたし、春休み中ずっと椎奈と居るよ。」
「未来...」
「居たいだけここにいていいから...」
「京香...ありがとう、あたし、今はまだわからないけど、きっと大丈夫になるから...」
「椎奈」
工藤の手が優しくあたしの髪を撫でた。
「椎奈、これ、おまえの好きなアイス買ってきだんだ。溶けないうちに食べないか?」
壁から離れて土屋が目の前に来た。目の前にコンビニの白いビニール袋。
「ほら、雪見だいふく。徳用だから全員で食べても残るから、それ全部椎奈が食べてもいいからな。」
「そんなに食べれないよ...」
「やっと笑った...」
不意に緩んだ口元を指さして工藤がいった。
「だからいっただろ、椎奈には食べ物だって。」
「ひどいなぁ、土屋...」
笑い声が広がる。大丈夫、あたしにはこんなに心配してくれる親友たちがいるのだから...きっと、大丈夫、きっと...
 
 
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〜あとがき〜
すみません、甘くならない上にこんな事件で...痛いですよね?ほんとに嫌な経験をしてしまった椎奈。
これからまだこんなのが...続くかもです。すみません!!次回から大学編始まります。
 

 

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