あたしには男トモダチがいる
男女間の友情は成立するのか?
するって、思ってた、最初は...
トモダチとしての好きの曖昧さ
どこまでが友情でどこからが恋なの?
もっと一緒に居たいって思った瞬間から成り立たなくなるんだね
誰かと居る彼を、誰かとキスする彼を、誰かを抱いてる彼を
想像しては苦しくなる胸...
あいつは知らない。
誰も知らない...
 
 
1.
 
 
「椎奈、帰るの?」
「え、うん、帰るけど...」
「じゃあ一緒に帰ろうぜ。」
あたしを気軽に誘うのは男トモダチの一人、工藤圭司。
「ねえ、なんであたしがあんたと帰んなきゃいけないのよ?」
「え、だって途中まで一緒だろ?」
確かに、帰りの方向は同じだ。工藤の方がはるかに遠いけど。
「彼女は...どうしたのよ?」
「今彼女いねえよ?だから早く用意しろよ。」
「なっ!もう別れたの?あの1年の彼女...」
「そ、今回は椎奈に相談するまでもなくあっさりとね。」
「あきれた...ちょっと早すぎない??」
「しょうがないだろ、あっちがもういいっていうんだから。」
あまりのあっさりさに目眩を起こしそうになった。
あたしは工藤からすると女でも親友の位置を確保しているらしい。いろいろと相談事を持ちかけられたりもする。でもね、こうやって二人でいるのを見て誤解していちゃもんつけてくる奴がいたりするんだよね、こいつモテるから。
だけどね、その誤解はあり得ない。
工藤は仲間だし、トモダチだし、最初は親友のカレだったんだから...
 
 
 
高校3年、6月も終わりになれば部活動も引退する。受験勉強のためなんだけど、最後の大会を終えて、あたしたちは空いたその時間をもて余していた。虚脱感か開放感、あたしの場合どちらかって言うと前者の方。県大会出場をかけた準決勝で、あたしは最後の最後で大きなミスをしてしまった。だから余計に引きずってるのかもしれない。
 あたしは望月椎奈。4月生まれだからもうとっくに18歳になってしまってる高校3年生。彼氏、18年間なし。それだけスポーツに打ち込んでたと思って欲しい。だって練習のきついクラブで休みはなかったから...まあもてるタイプじゃないのはわかってる。部活中はコンタクトしてるけれどもそれ以外はめがねの多いあたしは、髪も邪魔にならないような超ショートカット。なんせ美容院で『風が吹いても絶対に顔に掛からない髪型にしてください』と言って失笑を買ってしまったぐらいの部活ばか。だってバッターボックスに立ったとき風が掛かると好チャンスを逃すかもしれないでしょう?っていったらクラブも何かバレバレだよね。ソフトボール部で、一応キャプテンやってました。ポジションはショート。だから、色気は...どっかそのへんに落ちてないかな?さばさばした性格が災いしてあんまり女扱いしてもらえない。男からは姉御と頼られ、女の子からは男子よりも頼りになると言われ...これ以上いうと落ち込むから止めておくね。
 
 この工藤とは1年の時の同じクラスの学級代表で一緒になった時からのつきあい。1年ながらその時学級代表がそのまま実行委員になり、上級生と一緒になって7月の文化祭と9月の体育祭を思いっきり盛り上げてしまった。2年になるとその時のメンバーの一部が生徒会役員になった。生徒会長には見かけだけ真面目な生徒会長風のあたしのいとこの清水清孝がなって、副会長には勉強も運動もできて誰にでも受けのいい友人の吉野未来(みき)が、書記にはクールで才女の能瀬京香、総務には政治家の秘書が向いてそうな使える男三宅智勝がなった。
そのほか実行委員は工藤の友人にしては穏やか和の性格の土屋章則、と京香の友人の坪井雅子、それとあたしと工藤と、今はグループに居ないけれども、あたしの小中学からの友人の宮下苑子の10人近い仲間が出来た。
2年では再びあたし達も実行委員を名乗り出て、工藤も悪のりして運動部をたきつけて盛り上げるし、あたしも色々企画したり総務の三宅智勝って使える男が見事に根回しして、書記の能瀬京香が提出文とか見事にまとめて先生を言いくるめたりと、文化祭も体育祭も派手にやっちゃったわけ。
 
 実行委員をやるまでは、工藤はそう言うことに乗り気になるタイプじゃないって思ってた。その運動神経と、180近い身長と甘めのマスクは軟派な弱小サッカー部でも群を抜いていた。
男子生徒と親しく話したりすることの滅多になかった硬派のスポーツ少女だったあたしは、男の子とトモダチになることの楽しさをはじめて知ってちょっと浮かれていた。中学時代も部活一辺倒で好きな人すら出来なかったんだもん。そのときだって、あたしは真剣に悩んだんだよ?もしかして自分は男の子を好きになる感覚がないんじゃないかなって...だからこの気の合うトモダチを大事にしたいなって思ってた。
 
1年の文化祭が開催される頃、工藤は宮下苑子とつきあい始めた。
苑子はあたしとは小学校から同じの腐れ縁っていうやつで、昔はよく遊んだし、普通に話する程度の仲よさだったのが、進学する高校が同じだっていうので、急にまた仲良くなっていた。
よく苑子があたしに『椎奈は親友だね。』と言っていた。親友って名前を付けなきゃならないみたいに、あたしはあなたが特別よって無理に言ってるみたいだったけど、そう言われて嫌な気はしなかった。だから行き帰りも一緒で、実行委員会も一緒にやって...
ただ、実行委員会の集まりが始まってしばらくして苑子が工藤に恋をした。
苑子はあたしから工藤の情報を聞いては喜んでいた。自分からはなかなか話しかけられなかったみたいで、あたしが『工藤が中学の同級生と付き合っていたけど別れたらしい』って情報を仕入れると、とうとうあたしを間に立てて告白した。
『工藤、話があるんだけど、放課後実行委員会が終わってから、少し話しいいかな?』
教室に呼び出した工藤のところに一人ではいけないと駄々こねる苑子に押しやられて、先に入ると工藤は照れたような笑顔で待っていた。
『えっと、工藤?苑子がさ、付き合いたいって言ってるんだけど...』
彼女と別れたばっかりで、きっといい返事はないかもと苑子にも言っていた。実際苑子と直接話したことなかったしね。
『苑子ってそのこ?』
電気のついてない放課後の教室は暗く、工藤の表情ははっきりとは見えなかった。だけど、少しだけ不機嫌そうな声。やっぱり別れてすぐは良くなかったと思ったとたん、苑子はあたしの後ろに隠れてしまっていた。
『工藤〜〜、おっさんぎゃぐ言ってるんじゃないの!!こっちは真剣なんだからね?』
後ろでは苑子があたしの制服をぎゅうって握りしめていた。泣きそうになってるのがよくわかる。苑子は大人しくって女の子女の子していて、いつも誰かに頼っているような子だったから...
『悪い、冗談だよ。宮下さんって苑子って名前だったんだ。いいよ、オレ今彼女居ないから。』
その一言で苑子は嬉しそうに微笑み、やっとはじめてあたしより前に出た。
 
その日から苑子と工藤は付き合いはじめた。間に立ったあたしはそのままで、苑子が恥ずかしいからと二人の所に引っ張って行かれたり、相談されたり...たまに帰りも3人になったり。いや、邪魔者だって言うのはわかってるんだけどね。工藤って意外と人気あったらしくって、あたしが居ると苑子が攻撃受けなくて済むらしくって...
 
けどね、そんな不自然な形はするべきじゃなかった。
 
『椎奈、あたしよりもたくさん圭司と話してない?』
『椎奈、悪いんだけど、今日から別で帰ってくれる?二人っきりになりたいの』
『椎奈、圭司と話しないで!!』
苑子からぶつけられた言葉はどんどん独占欲を増していった。工藤の前ではそんなところは全然見せない。
それは夏休みのあたりから始まった。夏休みの間あたしは練習が忙しくって誰ともまともに遊んでなかった。だけど苑子からの電話で、夏休み中に工藤と苑子がそういう仲になったってきいた。初めてのキスの話しも、えっちに至るまでの話しも、全部苑子から聞かされた。あたしはそれを笑って聞いてなくちゃいけなかった。それがだんだん辛くなってきて、苑子のそれは、だんだん惚気と言うよりも、工藤は自分のものだとあたしに知らせるためのものになっていったから...。
それでも同じ実行委員、工藤と話すことも色々ある。二人が計画を立てて、皆で実現していく感じだったんだし、工藤はあたしに苑子のことを相談してきてたから。
それが苑子には許せなかったらしい。
『なあ、望月、あいつちょっとおかしくねえ?』
体育祭前に工藤からそう相談を受けた頃には、もうあたしは苑子から離れていた。
『最近苑子と一緒にいないけど、どうかしたのか?』
『え、どうもしないよ?』
そう答えるしかない。苑子があたしにしていることを知れば、きっと工藤は苑子を責めるだろう。けれどもそうすればまたあたしが工藤にそのことを話したことになってしまう。疑心暗鬼になっている苑子に何を言っても無駄だと思っていたから、あたしはあえて何も言わなかった。
『椎奈ったら、あたしと圭司の邪魔ばっかりするのよ。自分にカレシが居ないからひがんでるのよ。』
苑子はそういって女友達に吹聴しまわっていた。
それを聞いた未来が怒ってしまい、実行委員会の中の女子はだれも苑子を相手にしなくなった。工藤も心配してあたしに何度か相談してきていたけど、あたしは言えなかった。その理由を...
見かねた京香が体育祭前に工藤にそれを告げると、彼はさっさと苑子と別れてしまった。
『友人を悪く言う奴は信用できないからな。』
それ以来あたしは彼の信用を手に入れたようだった。あたしが一言も苑子を悪く言わなかったから...工藤はトモダチを大事にする奴なのはよく知っていたから。
けれども実行委員会以外では、苑子の言葉をそのまま飲み込んで、あたしのことをうらで陰口言う子たちも居た。でもそれは、ほとんど工藤と仲がいいあたしに対するやっかみがほとんどだった。
苑子はまた、あたしが工藤と別れさせたと言い回っていたみたいだった。
いいわけをしなかったあたしは同じ中学の子達からもしばらくは白い目で見られていた。行きも帰りもだれも一緒になる子はいなくなってしまった。
それでも構わなかった。あたしには未来や京香がいたし、ソフト部の連中はそんなこと針の先ほども信じちゃ居なかったから。
 
それから苑子は変わってしまった。
大人しくてなにも言えないような子だったのに...目元がきつくなって、制服のスカートも短くなった。実行委員会にも顔を出さなくなった。苑子はちょっと派手なグループの子達と一緒にいることが多くなっていた。だって、苑子がいう悪口をまともに聞いてる振りをしてくれるのは彼女らだけだったから。
けれどもあたしは苑子を攻められなかった。苑子は工藤が好きだったんだ。本気でね。なのにあたしが話すのが許せなかっただけだよね?
その気持ちはあたしにもよくわかっていた。
だって...
自分の中の気持に気がつき始めていた。
親友のカレシを好きになるなんてあたしには絶対許されないことだから...自分の中に芽を出し始めた感情に必死で蓋をした。どうせあたしなんか女としては見てもらえないだろうし、友人役が精一杯だからと...
親友のカレだった工藤。
その親友と別れても工藤とあたしはトモダチだった。周りの視線はあたしが苑子から工藤をとったと思って見ていたから、それが余計辛かった。
 
それからすぐに工藤は別の女の子とつきあい始めた。申し込まれて即OKしたらしい。その子とも長くは続かなかったみたいだけど、それからも工藤は誰かと別れては告られ、つきあい、また別れてを繰り返した。相談とも愚痴ともつかない話を聞かされるこっちはたまったもんじゃないけど、あたしは女でも信用できて話せる相手らしかった。
誰とも長くは続かない工藤をあきれた口調でたしなめる、そんな関係が3年間続いてるんだ。
 
 
誘われてまっすぐ一緒に帰る訳にはいかない。こっちには色々事情があるんだからね。
「取りあえず三宅も誘って帰ろうよ。」
「あぁ。」
めんどくさそうな工藤を引っ張って、生会室をのぞいた。文化祭の準備やなんかで忙しくしてるんだけど、三宅も帰りの方向が同じだったから何度か誘って三人で帰ったりしている。そうすればあらぬ疑いをかけられずに済むので助かるのよ。
「三宅はまだかえらないの?誘いに来たんだけど。」
「ああ、こいつらまだ書類出来てねえんだよ。シリ叩いてからかえらぁ。」
きつい一重の目で2年の新生徒会役員を睨み付ける。元総務の三宅は男子の中じゃ一番頭がきれるのではないだろうかとあたしは思っている。ひょうひょうとして、つかみ所のない奴だ。欠点は自分の容姿にコップレックス持っていて、『どうせ自分は』ってすぐに言ってしまう情けない面もある。けれども社会に出たら一番仕事するんだろうと確信するぐらい物事が回せる奴なんだ。
「んじゃあ、オレら先帰るぞ。」
工藤はさっさと廊下を歩いていく。
うう、困った...またこんなとこ見られたら言われるんだけどね...
だってさ、すぐに『付き合ってるの?』とか聞きに来て、『違うよ、トモダチだよ』っていったら必ず返ってくるのが『そうよね、望月さんじゃねぇ。』と笑われてしまう。
そりゃあたしは背も高いし、髪も短くて男みたいで釣り合わないのはわかってるよ。カノジョとして横に並ぶのも許せないんでしょう?たしかに工藤と付き合う子って、そこそこ可愛い子ばっかりだもんね。言いたくなる気もわかるけどさ...
「ふぅ」
「お、珍しいなぁ椎奈のため息なんてさ。恋煩いかよ?」
ばか!なんで悩んでると思ってるのよ?あたしのため息を逃さず見てる奴。
「違うわよ、もう文化祭だなって思っただけよ。」
「ああ、去年も盛り上がったよなぁ。」
「去年は招待状を増やして来校者が増えたからね。おかげで各クラスクラブともに実入りが多くって今年はすごく楽だったしね。」
「今年はやらないのか?椎奈のヅカウエイター。」
「そっちこそオカマのウエイトレスは?」
昨年はサッカー部とソフト部で隣り合わせて喫茶甘味処を派手にやって実入りを稼いだ。ソフト部は宝塚風洋風喫茶店、サッカー部は純和風お茶屋。うちには洋菓子店の娘が、サッカー部には和菓子屋の息子が居たから何だけど、これがまた大受けしちゃって...なんせショーとかやってたからね。
「うえ、もう二度とやりたくないね。おまえ似合ってたぞ?女性ファンも増えたじゃないか。」
「うるさい、もうやらないわよ。あんなのやってたらカレシ出来ないじゃない!」
「え、椎奈カレシ欲しいの?」
ドキリとした。そうだ、今こいつには彼女は居ない。
「そ、そりゃね!やっと部活も引退してこれからなんだからね!やっと髪も伸ばせるしさ、女らしくしてりゃカレシの一人や二人!!」
「あはは、無理無理!椎奈じゃそんじょそこらの男じゃパワー負けするだろ?居ないって、そんな奇特なやつ〜」
うぐぅ、そこまで言うか?そりゃね、そのとうりだけど...でもさ、工藤は申し込まれたら断らない奴なんだよな?じゃあ、もし、今、ここで、あたしが『付き合って欲しい』と告白したら......どうなるんだろう?
「まあそれまではオレで我慢しとけ。一応女扱いして送ってやるからさ。」
あ、ああ、そう言う意味ね?一瞬耳を疑ってしまった。
「一応ね、はいはいありがとう。で、文化祭あの案で通すとして、本当に部の方に行かないんなら当番にばっちり食い込ませるよ?あたしはちょっとだけ行かなきゃ仕方ないから午前は抜けさせてもらうからね。」
「やっぱりやる気じゃないか!」
「違うわよ、準備手伝うのよ。そっちは?」
「じゃあオレも午前パス...」
うちはカラオケ喫茶なんてやるから当番制ですみそうなんだけど。
「まあそのあたりは椎奈に任すよ。」
「もう、あたしに全部やらせる気?ったく楽することばっかり覚えて!ちゃんとやってもらうからね!」
工藤はくすくすと笑って、すーっと隣に並んだ。
「椎奈は人のシリ叩いてる時の方が、がんばれる奴だろ?だからさ任せられるんだよ。」
何よ...いつだってそうやって、そんなふうにあたしのことわかってるって顔して見ないでよ。
あのときみたいに...
 
 
3年最後の試合、県大会出場をかけた準々決勝。
仲間のみんなも見に来てくれていた。でも四回にあたしのエラーで奪われた一点が勝運を分けてしまった。キャプテンだったから、落ち込むことも出来ずにみんなに謝って、でも励まして、目一杯強がっていた。
なのに試合の後、『さすが椎奈、エラーの後も持ち直してたじゃないか!でもおしかったな!』ってみんなは褒めてくれるのを必死で笑顔を作って我慢していた。平気な振りしてただけで、もうぼろぼろだった。自分のせいで...そう思うだけで泣けてくるのんだけど、今あたしが泣いたら、みんな慰めてくれるだろう。でもそんななぐさめの言葉は欲しくなかった。同情の言葉をもらってしまうと、あたしは強い頼れるキャプテンじゃなくなってしまうから、だから...そう思うと泣けなかった。みんなが心配そうに見てるところでは泣けなかった。
そんな中、工藤だけはじろってあたしのこと睨んでいた。
みんなのいないところで『かっこつけやがって、最後ぐらい正直に悔しい顔しとけ』って小声であたしに言った。
あたしはそのあとトイレで泣いたんだ。
なんでわかったんだろ?あたしが強がってたこと。本当は泣きそうでどうしようもなかったこと...
意外と見てくれてることで優越感はあったと思う。ちゃんと見ててくれてるんだなって思えた。
そしてトモダチだから、だから彼女みたいに別れない。ずっとこうやって居られるはずだって...
 
 
「清孝も生徒会室にいなかったね。ほんとはあれ清孝の仕事じゃないの?」
「ああ、けど坪井を送って帰ってるだろ?」
去年のクリスマスに清孝が坪井雅子に告白してくっついて以来あの二人はらぶらぶだ。清孝はあたしのいとこでもあるんだけど、まあみれた見かけなんだけど、ちょっと理屈っぽくって、物事を即決出来ないとこがある。三宅に支えられてやってきたけど、話なんか落ち着いて出来る奴だから、見かけかっこいいなんて後輩からは思われてるらしいけど、中身はね...ちょっと頼りない奴なんだよ。かっこつけるけどぼろぼろ。雅子と付き合いだしてからも、彼女の前では必死に大人びて見せてるのが笑える。だめだね、鼻水垂らしてる頃からの身内なんてさ。
雅子は結構いい家のお嬢さんで、父親が市会議員なんてやってたりして、家もすごく厳しくて、遅くなるときはあたし女子全員が挨拶しないといけなかったりする。
お嬢様らしい立ち振る舞いには感動するけど、何考えてるのかわからないとこがある。ある意味大人っぽいのかもしれない。京香も大人っぽいけど、彼女の場合物事のとらえ方がすごくクールなだけだしね。
 
自転車置き場までぶらぶらと歩いていく。
ちょっとだけくすぐったい時間。周りは部活してるけど、所々にぶらぶらしてる三年もいる。
こうやって黙って歩いてると、時々自分が工藤の彼女になったような錯覚に陥る。だってさ、今では男子に姉御と言われるほどぽんぽん物言うあたしだけど、実際はばりばりの女3姉妹の長女で、男が欲しいと切望する父にあわせてキャッチボールで育ったもんだから、高校にはいるまで男の子って意外と苦手だったりしたんだから。
こうやって一緒に並んで歩いてると、ちょっとだけ自分が女の子扱いされてるようでいやじゃない。だからつい、一緒に帰ろうと誘われても断れない自分がいる。
期待しちゃいけないのはわかってるけどさ...
「工藤は当分誰とも付き合わないの?」
「そうだなぁ、しばらくはいらないって気がするけど...」
「そう...」
「けど、オレ、告白されちゃったら断れないし?」
にやって笑う。片方の眉と唇の端をわずかにつり上げて...やだね、すっごい余裕の笑顔。
「すぐ別れるけどね...」
「そういうけどさ、取りあえず付き合ってみなきゃわかんないだろ?すっごく好きになるかも知れないし、なれないかも知れない。」
「そうかも知れないけど...」
期間短すぎだよっ!て言いたかった言葉を飲み込んだ。だって1年生の女の子は1ヶ月で終わりでしょ?それでも次々告られるんだからあきれてしまう。まあレベルの高い子ばっかり告白してる気がしないでもないけど。それって断らないって噂のせいかな?あたしらといるとそこそこ機嫌の悪い顔も、興味のなさそうな顔も、彼女たちにはあんまり見せない。この癖のある笑い方もあんまりしないな。どっちかって言うと、なんでもいいよっていいそうな愛想の良い笑い方をする。でも工藤って去る者追わずで、冷めてるって思う。
「もてる男はいいわよねぇ、三宅にも誰か紹介してやれば?この間のたうち回ってたじゃない?」
彼は先日生徒会室で騒いでた、っていうか叫んでた。その、やりてーとかカノジョほしーとか...
「あれは、清孝がだな、あっ...いや、なんでも...」
「へっ?なによ、言い出してやめるなんてさ!」
ぎろっとにらみを入れる。口元を押さえてちょっとあさっての方をみてるけど、あ...その横顔きれいって思ってしまった。
「清孝の奴、生徒会室で雅子とキスしてたんだよ...それを智勝が見ちまって...あいつ雅子に前から惚れてたから。」
「嘘...」
「内緒だぞ、たぶんオレと章則しか気が付いてない。」
土屋章則も工藤と仲がいい。背も工藤と同じぐらいなのに運動部に入ってない穏やかな奴。
「告白する前に清孝とつきあい始めたから...たぶん惚れてたのは智勝の方が先だったと思うよ。けどあいつ変に自分にコンプレックス持ってるだろ?だから言えずにいたとこを清孝に持ってかれたんだよ。清孝気がついてなかったもんな。」
あの鈍感...我がいとこながらトモダチの好きな子ぐらい気がついてやればいいのに。
「グループ内はさ、こじれたら後味悪いだろ?だから智勝は何も言わなかったんだよ。オレもさ、グループ内はもうこりごりだよ。苑子のことでは椎奈にも辛い思いいっぱいさせちまったしな。だけどさ、あの件でおまえのことマジで信用できる奴だって思ったんだ。言っちゃ悪いけど女ってさ、人の悪口平気で言う奴居るだろ?オレアレ嫌いなんだ。自分の身内や仲のいい奴をコケにされるのってすごく嫌な気分だもんな。けどそう言うの平気で言う奴多いんだよ。そしていかにも自分が被害を受けた風に言ったりする。苑子もそれがひどかったよ。おまえには言わなかったけど、結構おまえのコト色々言い出して、それで嫌になったのもあるんだ。」
「いいよ、もうその話は...」
苑子は今でも廊下で見かけると睨んでくる。すっかり遊び歩いてるみたいで、いかにも男にもてるのを自慢げに話してるのが聞こえる。けど遊ばれてるって言ってるみたいで悲しくて、あたしが言うと余計に意地になるから言えなくて...でもつい、心配してしまう。
「おまえってさ、女っ気がないから気をつかわなくっていいから、つい本音いっちまうんだ。やっぱそういうのいいよな?性別を越えた友情ってさ。こう親友ってかんじで...オレ、彼女とかといると気使うんだぜ?どうして欲しそうだとか、何しゃべろうかとか。で、だんだん面倒くさくなって...あ、そっかだからオレ長続きしないんだ。」
一人でしゃべって、一人で相づち打って...恋の告白でもないのにやたら照れて、工藤らしくもないよ。
「わ、悪かったわね、女っ気がなくってね!」
そんな返事しか返せなかった。親友って言葉が意外に重くって、そのくせ心地よくって...
 
そうだよね、告白して、無理に彼女にしてもらっても、すぐに別れるんなら親友として付き合った方がきっといい。
あたしはその時から親友の位置を選んだ。
 
 
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〜あとがき〜
最初は短編で書く予定だった、親友の事情でしたがあまりに長くなりそうなので連載にしました。ラブ甘ものを期待されてる方にはちょっと辛いかも?まああたしの書くものですからラストは泣かずに済むようにしたいのですがね。
短編で書くつもりだけあってちょい書きづらい内容かも知れません。それを連載とはあたしも無謀なことをする(涙)

 

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