〜月がほほえむから番外編〜
郁太郎のジレンマ6

オレは…サチならすべて許してくれるって思ってたんだ。
母親を早くになくして、オヤジと女っ気なしで育ったせいか、サチに母親のように構われるのは嫌いじゃなかった。
幼い頃から食事は宗佑ん家の食堂で食べるのが当たり前になってたから、コイツが来てからのしばらくは家で食ってたんだよなぁ…
オヤジは早々に自力で離れを建てて、夜中母屋にはオレとサチだけだった。サチはどんな場所でも、どんな行為でも受け入れてくれていた。オレは、はらせなかった思いのすべてを彼女にぶつけるべく激しく攻め立てた。時には酷い言葉で…それでもサチは側にいてくれた。
なのにあの日…
朝からサチの顔色が悪かったのは気がついていたさ。だけどもその日、菜々子が早産で病院に担ぎ込まれた。菜々子の場合は出産すら命取りで、心臓に負担をかけないようにと帝王切開を受けたが、麻酔や出血にどこまで母胎がもつか危ないところだった。
何とか無事だったのを確認して自宅に戻るとサチは真っ暗なん中一人で座っていた。
いつものようにそこら中のモノをオレに投げてよこすのかと一瞬身構えたが何も飛んでこない。
「サチ?」
「お帰りなさい。奈々子さん無事だったの?」
「ああ、菜々子も赤ん坊も無事だった。菜々子の方は当分退院できそうにねえけどよ、保育器っていうのか?あん中に入ってる菜々子の赤ん坊はは可愛いかったぜ、奈々子に似てよ、」
「もういいわ、その子があんたの子だったら良かったのにね。」
「何言ってるんだ?ありゃ宗佑の子で…」
「そんなの判ってるわよっ!いくら頑張ったって、郁太郎のモノにはなりっこないのに…朝から出てって、これ?もうたくさん!!」
「サチ、おまえ何怒ってるんだ?今更…なあ、オレ風呂入ってくるからな。」
オレは首をかしげてサチの側を離れた。
風呂から上がったオレはサチの側に行く。なんだかんだ言って、オレがサチを抱かない日なんて無かったんじゃないか?
「いや…やめてよっ!」
「なんだよ、オレはしたいんだよ。」
「今日は…いやなのよ…」
「よく言うぜ、すぐにその気になってイイ声をあげるくせによ。」
「やめてって言ってるでしょ!」
「ここはそう言ってねえ。なぁ…サチ?」
後ろから抱きついて首筋に舌を這わせるとすぐに身体が震える。なのにこっち向きやがらねえ。
「おまえ、また乳がでかくなったんじゃねえのか?」
胸の先をつまみ上げると身体を大きく揺らす。
「ここも、準備できてるじゃないか?なあ、サチ…」
さわさわと撫で上げるがサチはいつものように声を上げてオレを求めない。
「なんだよ…くそっ、可愛がってやろうっていってんのによぉ!」
オレはサチのパジャマと下着を刷り降ろすと後ろからあてがい強引に入れようとした。
濡れてるはずのそこは頑なにオレを拒否する。
「いいのか?このまま無理矢理やっちまうぞ?」
返事がない…オレはかっときて、いきなり根本まで挿入した。
「うぐっ…」
わずかに喘ぐ声が聞こえたが、オレはがむしゃらに腰を振り、サチの敏感な芽を指で押さえて嬲りながら、サチの中が締まった瞬間中に解き放った。それだけでは収まらないのでもう一度…
オレはそのまま眠った。

その翌朝、サチは居なくて、オレが菜々子を見舞いに行ってる間に荷物が消えていた。
テーブルの上の置き手紙には愛想が尽きたの一言で、離婚届は出しておくからと添えてあった。
その離婚届は、結婚したときにお互い書いたもの。「嫌になったらいつでも別れてあげる」そう言われて結婚したときにハンコを押していた。
オレは…どんなに怒っても、いつでもサチはオレを許して受け入れてくれるんだと思いこんでいた。
おべっかや愛想を使わなくったって、何もプレゼントしたりしなくったって…まあ、あいつは自分で買ってたけどな。
オレはいきなりなサチの別れにひどく腹を立てた。だけど結婚式も挙げてない、サチの両親すら会ったことがない。そんなオレは彼女を捜しようもなく、月日と共に忘れ去ろうとしていた。
椎奈ちゃんがいいなと思ったのもつかの間、妊婦だと知ってショックを受けたが、今度は日向子に恋をして、今度こそ、最後の恋かもしれねえなんて一人で盛り上がって、また宗佑に花送っちまって、その恋が終わった日にサチに出会うなんて、自分がやってきたことの戒めだと思った。もちろん、オレがサチにしてきたことのひどさは判ってた。

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