〜拘束・1〜


「おい政弥、おまえまたこの間の出張明け、夕方近くまで部屋に籠もってたらしいな」
「な、なんで知ってるんだよ、兄貴」
 仕事の報告を済ませたあと、いきなり言われた。確かに先日の海外出張から戻ると、空いた日数分愛しい妻を可愛がりたくて、野良をめちゃくちゃに抱いて、そのまま夕方近くまで眠ってしまった。
「この間賢人がうちに来ててな、その時聞いたんだよ。妹が部屋に行こうとするのを止めるのに大変だったって嘆いてたぞ。おまえ、中学生に気を使わせるなよな」
「はぁ、なんでそれを兄貴に言うんだよ」
 藤沢建設の社長である兄の雄弥を尊敬する大人の男性ナンバーワンに据えてリスペクトしている長男の賢人は、事あるごとに兄貴に相談事を持ちかけるというよりも愚痴を漏らしているらしい。それも父親である俺のことを、だ。
「それは、他に言うところがないからだろ? たまに朝から家族で出かけることになっていても、母親がぐったりとして出かけられないこともあるって。とうさんには、もう何度も窘められているんだろう? それなのに、まったく聞き入れないから。それで僕のところなんだと思うけど?」
「賢人のやつ……」
 一番厄介なところに相談持ちかけやがって。帰ったから一発入れておかないとだな。
 中学生になった賢人は背も伸び大人びてきたが、まだまだ子供だ。それなのに態度だけは兄貴みたいに落ち着いているから気に入らないというか癪に障るというか……野良のやつも、子供なのに俺よりも賢人のことを頼りにしているようなところがある。親父だって……それって親としての権限はどうなんだ? もちろんやんちゃ坊主の、次男の優人や三男の直人は腕っ節でかなわない俺には絶対服従だ。おとなしい四男の和人は逆らうこともないし、親父にべったりで本の話ばかりしている。末娘の茉亜沙は……皆が甘やかすから少々我儘に育ってしまったが、あの無条件に甘えてくる可愛さは誰だって全てを許してしまいそうになる。
「だけどおまえ、ほどほどにしておかないと茉悠子さんに嫌われるぞ? あの子は体力もない方だし、何でもOKってわけじゃないんだろう? おまえはソッチのほうで繋ぎとめようとするところがあるが、無茶はよくないぞ」
「兄貴がそれを言うかな?」
 これまでに何度か……それらしき場面を垣間見る羽目になってしまった。兄貴が澄華に何かをしているところを、それも想像していたとおり調教っぽい。ご主人様として、あの気の強かった義姉の澄華を、絶対服従させているんだからすごいよ。俺はあそこまでの仕込みはするつもりはないからな。うちはようやく飼い慣らした野良猫というか、口や態度では逆らいもするけどそれが楽しいというか大抵のことは受け入れてくれる。従順な時はすげえ甘ったれて可愛いからな。不満があるとすれば、夫婦の営みにおいて、未だに彼女が受け身一辺倒だということだ。自分からなんて恥ずかしがってしてくれないからなぁ。
「うちは彼女がそう望んでいるからやってるだけさ。最近はおとなしく見えるけれど、積極的なところは昔と変わらないよ」
 にこりと笑う兄貴の表情は、優しい顔立ちが一瞬で胡散臭く見えるほどウソっぽかった。これは……牽制しながらものろけてるのか? 今じゃもう気にしていないようにも見えるが、昔俺と自分の妻が関係あったことを、未だに根に持っているのかもしれない。俺にとってはもう前の話で決着は付いている。毎日顔を合わすのに、一々そんなことでギクシャクしたくないから、平気な顔をしているが……兄貴も大概屈折してるからなぁ。欲しい物を素直に欲しいといえない。その代わりに相手から言わせる、そういうところがあった。
 しかし、積極的ってことはアレだよな。自分からってことか? 元々澄華は自分からしゃぶったり乗っかって腰を動かしたりとセックスに対しても貪欲な女だった。他の面において何事もリードしなければ気がすまないところもあった。いつだって俺たち兄弟の間でも女王様的な存在で、事実そういう態度が多かった。それが今では……兄貴である主人に絶対服従だ。つまりは、積極的なところは同じと言っても、命じられれば何でもすることを言いたいのだろう。今の澄華をみていると、本当に兄貴の言うことにはなんでも従ってしまいそうだ。人前に真っ裸で出ろと言われれば出ようとするだろうし、他の男とヤレと言われればやろうとするかもしれない。だが実際にはそこまで命じられることはないとわかっているのだ。だからこそ、そういった信頼のもとにふたりの隷属関係は成り立っている。あの澄華を……たいしたものだよ、兄貴
「それは兄貴が仕込んだからだろ? こっちは……積極的に、なんてあいつには一生出来そうにないよ」
 あまり野良には無理やりなことはしたくない。そりゃ、何度か強引にしてはいるが本気で嫌がったら俺にはできない。あいつの過去を考えると、やっぱ出来ねえだろ? だけどそこは夫婦で、嫌がっても本気の嫌かそうでないかぐらいわかるからな。甘えたい時はあいつから擦り寄ってくるときもあるから、それで十分だ。そりゃ、それ以上のこともたまには想像するが、野良が自分からなんて……無理だろうな、あいつには。せいぜい潤んだ目で『お願い』と無言で懇願してくるぐらいだろう。まあ、それに俺が弱くて一発でノックダウンされるんだがな。
 しかし、たまにはフェラだとかご奉仕してもらうのもいいよな……メイド姿でご主人様にご奉仕、なんてのもいいよなぁ。嫌いな男なんていないんじゃないか? 他の女にはさんざんしてもらったことがあるが、それじゃ意味が無いんだよなもうその気にもならないだろうし、アレを野良がしてくれたらと考えると……ちょっとヤバイかもしれない。想像しただけで生唾が出る。
「なあ、兄貴。兄貴はどうやって……その、従わせたんだ?」
「政弥……おまえがそれを聞くのか? まあ教えないわけじゃないけど、澄華と茉悠子さんじゃタイプが違うだろ?」
「それはそうだけど……さ」
「澄華はあのとおり昔からプライドが高く負けず嫌いで、その分努力も怠らない。そんな彼女が僕達は大好きだった。そうだろう?」
「ああ……」
 初めて好きになって、初めて抱いた女だった。夢中になって、溺れて……捨てられた。兄貴に乗り換えられても恨むことすら出来なくて。だけど実際には彼女の初めては兄貴で、他の男が試したくて俺に抱かせたんだ。最終的には兄貴に戻った彼女の判断は正しかった。こんなことなら兄貴もさっさと本性を見せとけばよかったんだ。嫌われるかもしれない、また俺の元へ帰ってしまうかもしれない、それを恐れて兄貴はずっと仮面をかぶっていたんだ。本性を露わにした二人の相性はかなりいいみたいだ。俺も澄華に振られてなかったら、と考えるとちょっとぞっとする。野良と一緒でない人生なんて、想像できない。どんな場合でも、俺は必ず野良と出会い、野良を選ぶはずだ。今はそう断言できる。
「だけど、僕とおまえを手に入れたことで彼女は少し勘違いしてしまったからね。女王様化して、人を見下し、人を思いやれない嫌な女になってしまった。だから僕は……それはいけないことだと教えただけだよ。彼女は快楽に弱かったからね。まずは自分が乞い願わないと何も与えてもらえない存在だとわからせたんだ。そのプライドも自信も羞恥心も全て地に貶めてね。だけどそんな方法は茉悠子さんには合わないんじゃないかな? 彼女は確かに隷属基質はあるみたいだけど、無理やり落とさなくても少し虐めれば、すぐに言うことをきくだろう? だけど、おまえが今まで散々なことをやってきたから、その自責の念に耐えられなくてそこまで強要できないだけじゃないのか?」
「それは……確かにそうだな」
 俺は色々と野良に弱い。辛い思いをかなりさせた。酷い目にも合わせてしまった。
 高校時代、兄貴と澄華が離れることなく、俺が彼女と付き合うこともなく……側にいた野良への気持ちに気がついていれば、元夫となんか付き合わせたりしなかったのにと、考えてしまう。だが、紆余曲折いろいろあって結ばれて、今があるのだということもわかっている。今のふたりだからこそ大事にしてやりたいと強く思うのだから。
「優しくお願いだとか、奉仕しまくって焦らせてみるとかはやってるんだろう? だけどおまえのことだから、最後には偉そうに命令してるんだろ? 俺様でさ」
「なっ、そんなことは……くっ」
 ある。いつだって俺は優しく言いながらも命令、してるよな?
「メイドでご奉仕っていうのが一番茉悠子さんにあってる気もするけど……それって今までと変わらないよね。いっそのことおまえがお嬢様にお仕えする執事にでもなってみたらどうだ? 跪いて服従を誓って、言われるまでなにもしなければ、彼女だって焦れて痺れを切らすだろうし。ただ……お前が我慢できればだがな」
「俺が、我慢するのかよ」
 それは、ちと辛いな。今でも少しでも家を空けてあいつと離れていると、開いた日数分全開で注ぎ込んじまうぐらいだからな。文字通り朝までどころか昼過ぎまで可愛がるもんだから、この間みたいに夕方までぐったりして起き上がれなくなって……賢人に愚痴られる羽目になってるんだからな。
「そのぶん、向こうも我慢することになるだろうけどね」
「それっておたがいに生殺ししあうってことか?」
「痺れを切らして欲しがったほうが負けさ。あの子は、かなり我慢強いほうだろうから、おまえが勝てるかな? うちは……僕が先に折れることはまずはないけどね」
 我が兄ながら平然と言ってのけるあんたが怖いよ。優しい顔してる分そのギャップがキツイ。揺らがないポーカーフェイスは時として相手に驚異を与えるだけだ。
 痺れを切らしたほうが負け……か。我慢できなくさせるなんて、そのぐらいはとっくにやってるけどな。何度もセックスで落としてはいるんだ。兄貴が自分の妻にやっているようなことは俺には出来ない。だけど、野良が狂ったように俺を求めて来てくれたら……
 脳裏には我慢できなくなって俺を求め乱れる野良の姿が次々と浮かんで止まらなかった。しかし、俺が……勝てるのか? 強引にヤルなら勝てるとは思う。だけど我慢するとかそういうのは……
「無理だな、俺には我慢するなんて出来そうにない」
「んー、それじゃ僕に任せてみる?」
「えっ、兄貴に?」
 それってまさか……兄貴が野良を調教するとかってこと?? ダメだ、絶対ダメだ!! そりゃ、俺は兄貴の女に手を出した形になってるから、それは申し訳ないと思う。だからといって野良にそれをさせるつもりはない。指一本だって他の男の手は触れさせたくないんだ!
「おいおい、怖い顔して睨むなよ。別に僕が仕込むとかそういうのじゃないよ。お膳立てしてあげようって言ってるのさ。たしか来月結婚記念日だったよね。いいところに連れて行ってあげるよ。大丈夫、茉悠子さんは澄華に準備させるから。別々に待ち合わせるんだ、新鮮でいいだろう?」
 なんかヤバイって気がするんだが……いいのか? それで。
「ああ、自分で用意したいものがあったら準備しておいて。僕が用意したものなんて使いたくないだろうし」
「あ、ああ……」
「それと、ちょうど週末だから、おまえの子どもたちはうちに呼ぶことにしよう。父さんも一緒にね」
「いいのか? それは……助かるが。茉悠子は子どもたちを家に置いて出かけるのをひどく嫌うからな」
「いいよ、大歓迎だ。うちの娘は賢人のことを王子様か何かだと思ってるようでね、次は何時来るんだと煩いぐらいだ。昔の……俺達の男女入れ替えバージョンを見ているようだよ」
 兄貴とこの娘は一見おとなしく見えるが、結構我儘なじゃじゃ馬娘だ。いつも茉亜沙と賢人を取り合っている。
「賢人ねぇ……ハッ、どこがいいんだあのクソ生意気なガキ」
 茉亜沙も最初はパパがイイ、パパのお嫁さんになるって言ってたはずなのに、最近では『賢人お兄ちゃまが一番好き』とか言い出して……ったく、ただでさえ兄貴に言動が似ていて、自分の子なのにどう対処していいのか困る時があるっていうのに、まったく腹立たしい。
「うちの娘も、『パパと結婚したいけど、それは無理だから賢人おにいちゃまにするわ。いとこ同士なら結婚できるでしょ』って、ことらしい」
 くそっ、それはいったい誰自慢なんだよ、まったく。
 賢人の女性受けがいいのは兄貴の時と同じだ。まあ、優人や直人の良さは大人になって落ち着いてこないとわかってもらえないだろうな。俺に似て今はただの傲慢な悪餓鬼でしかない。好きな女でもできたら……きっと変わるさ。
「それじゃ頼むよ、兄貴」
 取り敢えず兄貴の案に乗ってみることにした。新鮮でいいだろうしな。しかし、使いたいものねぇ……何を揃えればいいんだ? 執事プレイをするなら、持っている燕尾服を使えばいいか。それからアレも一応準備しておこう。大人のオモチャってやつ。それから、アレも使ってみたいし……確かどこかに載ってたな。と、暫くの間俺の妄想は止まらなかった。PCを開いて、ネット通販で良からぬものを購入しまくっていた。

「おい、兄貴これはどういうことだ?」
「いい眺めだね、政弥」
兄貴に連れて来られたのは私有地にあるレトロな館のようなコテージだった。部屋の中もやたらと古い作りで独特の雰囲気があった。友人に借りたのだと言っていたが、そもそも兄貴と俺との交友関係は仕事上では似たようなものになる。こんな怪しげなコテージを所有する友人なんて浮かんでこない。ということは、ここは兄貴のプライベートな友人の持ち物ということになるだが問題はそんなことじゃない、俺の格好だ!
「ここはホテルのように誰かが出入りすることもない、物を壊しても汚しても別に何も言われることはない。いろんなプレイに使えるようにと工夫が施されているんだ。他にも部屋は色々あるけれど、お前たちにはちょっと無理だろうと思うけど、使いたかったら好きな部屋とそこにある道具も使っていいからね。キッチンにある食べ物も飲み物も自由にどうぞ。好きなだけ楽しんでくれ」
「何言ってるんだよ、この状況で何を楽しめと?」
 ここに着いてから、準備していた燕尾服に着替え、執事姿で茉悠子に奉仕しようと準備し終えた途端、いきなり兄貴に手錠を嵌められ、あっというまにベッドの柵に拘束されてしまった。
 この体勢でどうやって楽しめと?
「この鎖はタイマー形式で解錠するんだ。我慢していればそのうち外れるよ。そしてその手錠もね。ただしどのくらいで外れるかは教えないよ。たまには不自由な身になって、茉悠子さんの同情を買うといい。彼女は優しいから色々と面倒を見てくれるかもだよ」
「それじゃ今までと変わらないだろうが!」
「そうかな。ねえ政弥……身体、熱くない?」
 そういえば……さっきからやたらとカッカして熱い。耳に聞こえる自分の鼓動がやたら大きく感じられる。息苦しいような逆上せるような……そして、すこしでも擦れるとあっという間に勃ってしまいそうなほど、血液が下半身に集中してるような気がする。力も入りにくい。そうでなければ兄貴ごときに簡単に拘束されたりしなかったはずだ。
「来る途中栄養ドリンクと一緒にカプセルを飲んだだろ? あれ、栄養補給の滋養強壮剤だって言ったけど、実は僕の友人特製の生薬漢方の精力剤だったんだ」
「まさか……あれでこんなに、なるのか??」
「普通はならないだろうね。だけどおまえみたいに何にも飲まなくても精力抜群の男がそんなの呑んだら……ちょっと大変かも。だけど、結構いいよ。一晩に何度も愛する人を喜ばせてあげることができるからね」
 それ、兄貴も試したのかよ。
 くそっ、身体が熱い。下半身に熱が集まっていく感じだ。だが、何とかしたいのに何も出来ない。抗いたくとも両腕を上げた腕は動かないのだから。ベッドの柵が低いため起き上がることも出来ないまま、俺は兄貴に懇願する。
「たのむよ、鎖だけでも外してくれないか? これじゃ何も出来ない」
「それがいいんだよ。もうすぐ茉悠子さんも到着するよ。澄華にコーディネイトを任せたんだけど。あ、ほら着いたみたいだよ」
 車の止まる音のあと、しばらくすると部屋のドアが開いた。
「茉悠子!」
 そこには目隠しされたまま澄華に連れられたメイド服姿の彼女がいた。
「その衣装になったのかい?」
「ええ、ドレスとか着せてみたんだけど、彼女が一番かわいく見えるのは、やっぱりこれが一番だと思って。でもちゃんと……」
 澄華が兄貴に耳打ちする。
「それはいいね。さすが僕の奥さんだ。あとでご褒美をあげるよ」
 ニッコリと微笑む兄貴を前に義姉さんがうっとりとした表情を見せた。
 まったくこの夫婦は……俺達の遥か上を行ってやがる。
「政弥、いいかい? あのメイド服のエプロンの胸のところはマジックテープで留められているだけなんだって。それから下着も……ガーターをしているけれど、シーツの下着の横のリボンを解けば脱がせられるよ。よかったね、彼女が自分から出来なくても、それならおまえだって何とか出来るだろ? まあ、彼女の協力がなければムリだろうけど」
「兄貴、それは嬉しいようで嬉しくないんだけど」
「喜んでもらえて光栄だよ。君の薬のことは少々大げさに彼女に伝えておいてあげるから。しっかりと奉仕してもらいなさい」
 いや、喜んでないから! それに……今日は俺が奉仕スルつもりだったんだ。たしかに、セックスの時は俺が奉仕スルばかりだ。だけど普段の生活面では野良が全部やってくれるから、たまには色々と跪いて仕えてみたかったのに。
「茉悠子さん、目隠しをとるけど驚かないでね」
 澄華は優しくそう伝えると野良のアイマスクをそっと外した。
「ま、政弥さん?? どうしたの……その格好は?」
「すまないね、茉悠子さん。おとなしくなる薬を飲ませたつもりが間違えてしまってね。どうやら、興奮して治まらなくなる薬を飲ませてしまったようなんだ。政弥は薬を呑まなくても元気過ぎるだろうう? 効き目がすごくてね。だから仕方なくこうやって繋いでいるんだよ。そうでないと、君になにをスルかわからないからね」
「そんな……大丈夫なんですか?」
「もちろん、危ない薬じゃないから、安心して。ただ……興奮してしまった政弥を何とかしてやって欲しいんだ。このままだと彼も辛いだろうし。時間が経てばその拘束も外れるようにしているからそれまで待てばいいんだろうけど、あれはかなり辛いんだ。だけど、こんな機会は滅多にないと思わないかい。普段から政弥には好き勝手されて困っているでしょう? こうしておけば無茶できないから君の好きなようにすればいい。茉悠子さん、頼んだよ」
「え……あ、はい」
「それじゃ僕たちは帰るから。どうしても帰りたくなったら電話してもらえば迎えにくるよ。ただ……僕達も父や君たちの子どもたちと一緒に出かけるつもりだから、迎えには僕の秘書を寄越すことになるけれど、部下にこんな姿を見せるわけにはいかないからね。せめてそれまで待ってやって欲しい」
「わ、わかりました……お義父様と子どもたちをよろしくお願いします」
「ああ、まかせて。うちの娘も一緒に出かけるのを楽しみにしていたから。それじゃ」
 そう言って兄貴は義姉さんの腰を抱いてさっさと帰っていきやがった。

「政弥さん! 大丈夫なの??」
「ああ、たぶん……」
 身体はさっきからやたらと熱い。そして勃立しはじめた下半身が下着に擦れるのがちょっとやばい状況だ。
「どうしたら、いい? どこか苦しい?」
「見てわからないか?」
「あっ」
 燕尾服のズボンはタイトなものだった。若いころに作ったものだしな。サイズはそんなに変わってはいないつもりだが、やはり骨格は少々しっかりしてきているはずだ。上着は燕尾服タイプで下にベストを着ているが、腰までしか合わせがないのでしっかり股間の膨らみを主張している。
「頼んで……いいか?」
「えっ、何を?」
「ズボンの前をくつろがせてくれ」
「はっ、はい! あっ……」
 おいおい、亭主のナニが勃ってるぐらいで怯むなよ。何年夫婦やってんだ? まあ、そこが可愛んだけどな。
「大丈夫? すごく苦しそうだけど」
「見りゃわかるだろ。いつもならおまえに襲いかかってるところだ。だけどこのザマじゃ何も出来やしない。兄貴のヤツ、くそっ」
 悪態をついても、もう遅い。兄貴の話に乗ったのは俺なんだからな。
「えっと、じゃあ……出すね」
「っ……」
 くそっ、さすがにちょっとでも触れられるとヤバイというかこの構図、結構興奮するよな。俺の上に跨って自らアレを取り出す野良。それもメイド姿で、いかにもご奉仕してくれそうだ。いや……本当にしてくれるのか?
「出して、そのあとどうするつもりなんだ?」
「あの、澄華さんがメイド姿の時はご主人様に奉仕しなきゃいけないから、何でも言うことを聞きなさいって」
 それって、命じたら咥えて舐めてくれるってことか?
「そのままじゃ辛いのはわかるよな? どうすればいいかも……言わなくてもわかってるはずだ」
「は、はい」
 頷くと勃立したアレを両手でそっと包み込むと、そっと舌先を這わせてきた。決して上手くはないけれど、そのたどたどしい動きに余計に焦らされて辛さが倍増する。
「くっ……ま、ゆこ……」
 根本を擦り上げて、おい、そんなことどこで覚えたんだ? ヤバイな……こみ上げてきそうになる。だが、早々に放出するつもりはない。こんなことは滅多にないんだから、楽しまないとだ。
 メイド服姿の彼女が、俺の股間に顔を伏せ必死で舌先を這わせていた。まるで飴でも舐めるようにペロペロと恥ずかしそうに。まったく、可愛いんだよな……何人子供を産んでも歳を取らないというか、一向に老けない。結婚前は子供みたいだったのが、いつのまにか綺麗になって色気がましてきたが、不思議と年をとっているような感じはしない。夫婦としてそばに居ても他人行儀な言動もたまにはあるが、つまりは慣れて怠惰な面はそう見せてこないのだ。その距離感がもどかしく、なんとかして慣れさせようと、一緒にいると構いまくりたくなる。触れていると当然したくなるわけで、平日はなかなかゆっくり出来ないから、つい休みの日は明け方までセックスに耽ってしまう。いくら抱いても飽きないんだよ、野良は。恥ずかしがったり抵抗したりして俺に歯向かってきたかと思えば、甘えたり泣きそうな顔して俺を誘うんだ。こいつに関してはまったくコントロール不可能で、俺のほうが亭主関白でやりたい放題やってるように思われるが、本当に振り回されているのはこっちの方だぞ。
 ああもう! 短いメイド服の裾が可愛いおしりの上で跳ねてるぞ? その下は……もうそろそろ濡れてるんじゃないのか。俺も……このままじゃ苦しすぎる。
「たのむ……そのまま……咥えてくれ。そう……そのまま歯を立てずに唇で上下させて……くっうぁ……」
 必死に俺の言うがままに尽くしてくれる。目に涙ためて、たまんねえな、くそっ!
「野良、こっちに来い。キスがまだだろ?」
「あっ……はい」
 自分のを咥えていた口だが、構うもんか! このままじゃ出ちまうし、まだ野良がその気になってないとすればそれは不本意過ぎる。
「んんっ……あふぅ……」
 こちらからは舌を絡め吸い上げるぐらいしか出来ない。だけど野良が自ら角度を変え、俺に舌を絡めてくる。何度も、何度も。
「はあっ……茉悠子」
 動ける範囲でキスを首筋へと移動させると、それだけで野良は身体を震わせていた。もうすでに感じているのか?
「もう少し身体をずらして、上に上がるんだ」
 彼女は命じられるがままに身体を起こしてくる。
「あっ……やっ、政弥さん!」
 メイド服の胸あての部分を口に咥えてそのまま引き剥がす。兄貴の言ってたとおりマジックテープになっていて、そこに下着はつけていなかったらしく、可愛らしい胸の蕾が姿を見せる。すでに赤く尖っているのは、感じているからなのか?
「野良……っ、相変わらず美味いな、おまえのここは」
「やぁあっん」
 優しく舐め上げたあとは強く吸い、軽く歯を当てるとそのまま背をのけぞらせて感じていた。
「気持いいのか? ん?」
「やぁ……ダメェ」
 痛いぐらい噛んでいるのに、野良は気持ちよさそうな声をあげて仰け反る。
 やっぱりこいつはMだよな。それは間違いないとは思う。ただ、どこまでやっていいものか……
「今度は俺の顔の上を跨げよ」
「えっ……そんな」
「早くしろ!」
「は、はい!」
 強めの声で命令すると、すぐさま素直に従う可愛いやつ。
「スカート、邪魔だ」
 野良は自らスカートを持ち上げた。その下はガーターにストッキング。下着は兄貴の言ったとおり紐で結ばれた薄い生地の儚げな物だった。俺はその上から鼻をこすりつける。
「んっ……」
「おい、濡れてるんじゃないのか? 俺のを咥えただけで。いい匂いさせやがって……」
 そこは女の匂いを放ちはじめていた。野良が感じはじめている証拠だ。目の前の薄い下着は濡れて透けているようにも見える。突起と襞の溝にしゃぶりつくと、堪らないのかそのまま俺の顔の上に腰を落とし腰を揺らしてきた。こういうところは素直というか、快感に抗えないのだろう。十分知っているのだからな、ここを刺激されると気持ちいってことを。
「薄いけど邪魔だな、この布っきれは」
 手が自由ならすぐさま解いてそこにむしゃぶりついてやるのに! くそっ……
 頭をなんとか持ち上げて紐を口に咥えて解こうとするがうまくいかない。
「おい、自分で解けよ、それ。直にして欲しいだろ?」
「……馬鹿ぁ」
 馬鹿とは何だ馬鹿とは。だけどその言葉とは裏腹に、真っ赤に呆けた顔をしながら、野良は自ら下着の結び目を解き、俺の前に全てを曝け出した。
「いい子だ。褒美をやるぞ、ほら」
「んんっ!!」
 何度も腰を引きながらも、終いに野良は俺に押し付け太腿を震わせ、そしてはじけた。俺の舌と唇だけでそのあとも何度か軽くイかせた。
「ま、さや……さん、もう……わたし」
 泣きそうな顔をして擦りつけてくる。それだけじゃ物足りないのだろう。わかっているさ。だがここからこいつが出来るかどうか、だ。
「ああ、俺もたまらん。自分で、入れられるか?」
「やって、みる……」
 ああ、こいつも我慢できないんだな。そのことが嬉しかった。自ら求めることを恥ずかしがる彼女は自分からなんて滅多にない。無理やり上に乗せて動けとかはあるが、今のこの状態じゃ野良が自分からしないことにはどうしようもない。泣きそうな顔をしながら野良は俺の昂ぶりの上に移動して、ゆっくりと腰を落とした。
「んっ……ああっ」
 先っぽが温かく濡れた襞に包まれる。いつだってすんなり入るわけではない。俺のが大きすぎるのか、野良のソコが小さいのか、いつだって無理やり押し込む感がある。子供を産んでから多少楽になった気はするが、締め付けてくるキツさや蠢く感じは以前にはなかったものだ。いつの間にかそんなことを覚えやがって! だから余計に離せなくなるんだろう? こんなに感じやすくて、快感の得方まで覚えたこの身体を。もし……他の男とでもこの快感が得られると知ったら? この身体の良さを他の男が試そうとしたら? そんなこと許せないに決まってる! これは全部俺のものなんだ!
「野良、気持ちいいのか?」
「ん……いい」
 ゆっくりと腰を回して入り口の感触を楽しんでいるようだった。エロいよな、その顔。男をその気にさせようとしているのではなく、素直にその快感に浸っている。こいつには計算とか駆け引きなんて存在しないからな。だけど、もうそろそろヤバかった。薬のせいか、かなり敏感になっているようだ。そうやって擦られるだけで暴発してしまいそうになる。
「なあ、俺が我慢できないんだ。頼む、早く奥まで入れさせてくれ、野良」
 こんな中途半端なところで果てたくない。
「だって……普段は政弥さんが好きな様にするじゃない。ゆっくりして欲しくてしてくれなかったり、早くして欲しいのにくれなかったり……だから、今日はわたしがするの」
 おいおい、そんなうっとりした顔で言ってくれるな。普段とは全く別人のように快楽に素直で……って、まさか?
「なあ、野良。ここに来る前に何か飲まなかったか?」
「澄華さんが、お祝いにって綺麗なカクテルを……」
 それか……いつもより積極的で、いつもより濡れているのは。まさか野良にも何かクスリを飲ませたんだろうか?
「それは……苦くなかったか?」
「甘くておいしいカクテルだったわ」
 それじゃあ、違うのか? まあ、こいつは少量のアルコールでもしっかり酔っ払うめでたい体質だからな。
「それで酔ったのか? 酔ってこんなにエロい腰の使い方をするなんて……困ったメイドさんだな。ったく、酔わないとしてくれないっていうのは、気に食わないけどな」
「ひゃっ……ああんっ」
 ブリッジのように腰を突き上げ、彼女の膣奥まで己の怒張を飲み込ませた。
「くっ、きつ……」
 ヤバイヤバイヤバイ。もう限界、果てそうだ。野良だって、一気にイッたらしく、ビクビクと襞壁をひくつかせて仰け反ったままだ。
「野良……茉悠子っ!」
 腰を掴めないもどかしさを感じていた。ヒクヒクと中でイキっぱなしの彼女に激しく突っ込みたいのに、突き上げ擦りつけて啼かせたいのに、腕さえ動けば……
「えっ?」
 いつの間にか鎖が外れていた。しびれてはいたが腕は動く。俺は手錠で不自由な手を下ろすと、野良の身体を通して腰を掴み、ズンとそのまま己の腰に押し付けた。
「やあぁ、だめ……深っ……」
「逃げるなっ!!」
「ダメ……イッてるの、苦しい……だから、それ以上しちゃ……だめぇっ!!」
 そんな言葉にお構いなしに腰を突き上げる。ようやく自由になった腕で野良の身体をコントロールできることに感謝しながら。
「出る……もう、茉悠子っ」
「ああっ……あっ……ん」
 あっという間に吐精していた。いつもと違ったのはその後だった。イッたらすぐにぐったりとしてしまう彼女が、中をぎゅうぎゅうと締め付けてくねくねと腰を擦りつけてくる。それはイッたばかりの下半身には強すぎる刺激で……持ってかれそうになるぐらい搾り取られていた。
「……はっ……くっ」
 俺はそのまま二度目の精を放っていた。

「美味しい? 政弥さん」
「……ああ」
 これは何の拷問だ? いつもなら、ぐったりする野良を腕にイチャイチャを繰り返し、再戦を挑むところった。薬なんか飲んでなくても一回じゃすまないのに、効き目が残ってるまま野良に後処理をされ、そのあとさっさと俺の側を離れると、『おなか空いたよね』といって何やら食べるものをお盆にのせて戻って来た。そして、手錠を嵌められたままのこの腕じゃどうしようもないってことで、『はい、あーん』とおこちゃまよろしく食べさせられていたりする。それ、どっちかっていうと俺がやりたんだけど?
「なんで食事なんだよ」
「澄華さんが、ここの料理凄く美味しいところのだから、早めに食べてっておっしゃってたから」
 おまえ、色気よりも食い気か? 野良が呑まされたのは、やはりアルコールだけのようだった。それだけでアレかよ。マジでなにかクスリでも使えばどうなるんだろう。
「政弥さんは、おなか空いてなかった?」
「いや、そりゃ空いてるけどな」
 時間は……2時を回ったところだ。ここについた時すでに昼前だったからな。そういうおまえは食べる気満々だったんだよな。もう一回やりたそうにしてる俺のナニを無理やり下着の中に押し込みやがって。
「おまえ……手錠外れたら覚悟しておけよな」




「政弥」
「なっ、なんだよ……親父」
 疲れた顔で無理して笑う野良に気付いたのか、帰宅したとたん親父が渋い顔を見せた。
「ちょっと無理させたが、酷いことはしていないからな」
 自ら言い訳なんて情けないが、それだけは事実だ。俺達は愛しあった行為をした。調教やSMプレイは俺達には向かないことはよくわかった。そういうのは兄貴の領分のようだ。
「ならいいがね、大事にしてあげなさい。それと、賢人もそういうことに敏感な年齢だ。誤解されないようにしておかないと。男の子はやはり母親の味方だろうからね」
「ああ、わかってるよ」
 一度アイツとは腹を割って話さなきゃならないかもだな。
 そう、男と男として。その日はそんなに遠くないはずだ。


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サイト11周年記念で地下室用に書いていましたが、前半1/3は手錠以外は普通だったので(笑)サイトにアップさせていただきました。なんとか後半は少しだけ地下室っぽくなったのでそのまま地下室です。
でもこれでもじゅぶんエロいというか、困らない内容になったと思います(笑)   2014.5.6更新

 

 

素材/Tricot