2011クリスマス企画

It's a New Christmas

 4

2011.12.25

〜富野〜
「勝さん、ごめんなさい……」
「いや、いいよ。気にすんな」
 クリスマスの朝、オレは頬に濡れたタオルを押しあてていた……

 昨夜の披露宴のあと、各夫婦は早々にセミスイートの部屋へと戻った。だけどうちの嫁は、周りの雰囲気に気押されてすっかり緊張してしまったのか、かなり悪酔いしてしまっていた。一緒にいた朱音が気を使って、途中からセーブさせてくれていたので、皆がいるところではちょっと酔ってる風にしか見えなかったけど、部屋に戻ったら気を抜いたのか、一気に酔いが回ってきたみたいで、もっと飲むんだと暴れて……止めるオレの顔面に拳が入っただけのことだ……救いだったのは、代りに飲んだ朱音自身がそう酔ってなかったことだ。これで彼女が同じ調子で酔っていたら……オレは本宮部長の報復が想像できて怖かった。その時は嘘でも辞表を書いて誠意を見せないとヤバいんじゃないかってほど。あの人の場合そのぐらい執着してるよな? 自分の妻に。
「痛いよね? わたしがやっちゃったんだよね? もう……お酒飲まないから、許して?」
 そう言いながらまた飲むんだろうけど……可愛いから許してしまう。一時は本気で別れようとしたけど、やっぱ惚れた女なんだよな。朱音と本宮さん見てて、もう一回やり直そうと思って寄り戻したけど、一度は最悪なとこ見てるから、それ以上はもうなくて……反対にこういう可愛いとこ見せられると、オレは弱いんだよな。

『どうよ、わたしだって捨てたもんじゃないでしょ?』
 そう言って披露宴で着るドレスを当日はじめて見たわけだけど、ちょっとヤバかったな、そん時のオレ。
 うちの嫁が選んだのは、見た目はピンクで可愛らしいんだけど……生地がさ、なんかこう柔らかくてふわんとした、シフォンっていうの? それらしくってさ。それがこう、揺れる具合とかがかなりエロいんだよなぁ。おまけに脚に自信あるからってひざ丈はないだろ? 座ったり立ったりしたら、ああもう! ふたりの子持ちには見えなくて困る。うん、オレがかなり困る……
 年齢層の高い花嫁の友人の中では恐らく唯一の20代。まあ来年30になるんだけどさ、それでも若い方だったのが幸いしたのか、結構男性から声をかけられて喜んでいたみたいだ。ただ……招待客の年齢が全体的に高いうえに、ステータスも並みじゃなかったはずだ。なんてったってわが社の社長の結婚式だぞ? それに係長クラスのオレがどうして夫婦で招待されるの?? 普段家族ぐるみで付きあわせてもらってる本宮営業部長と、その親友の羽山総務部長はそれぞれ社長の両腕とされる人たちだっていうだけだ。たまたまふたりの馴れ初めとなるクリスマスパーティにオレ達がいて、今年も同じくその場にいただけじゃないのか? それと、花嫁はオレの上司だから、部下としてはおかしくないかもだけど、上司の課長が来てないのにおかしいだろ? だから、式に招待されてることを、営業内では言えなかった。特に新任の営業課長には口が裂けても言えねえよ!
 そんなわけで、ぺーペーのオレ達。他の招待客の顔ぶれ見ても重役に社長の身内、それから取引先まで揃ってるわけだから、圧倒されることこの上ない。そんな中で堂々と祝辞を述べていた本宮さんや羽山さんはやっぱり凄い人なんだと、感心しつつもどうしてオレ達が? というのは感じていた。
 だから……緊張から解かれて、麻里が酔って暴れたとしても文句は言えないんだ。うん。

「腫れてるよね……やっぱり」
「まあ、な。けどおまえだって緊張するのわかるからさ。オレでもヤバかったわ。普段から営業で社長とか相手にするのは慣れてるけど、それでもなうちは上司があれだろ? みなして迫力あるからそのおかげで乗りきったけどさ、おまえはオレと離れた席にいたし、そういうのに慣れてないのわかってるから。気を使ってたんだろ?」
「だって、変な対応してたら勝さんが困ると思って……それに、朱音さんに変な虫寄せ付けちゃだめでしょ?その点わたしは、彼女よりも男あしらいだけは慣れてるから」
「まあ、そうだよな」
 やっぱ朱音が最優先かよ。ほんと好きだよな、彼女のこと。
 けれどもその結果、昨夜はせっかくセミスイートの部屋に泊まらせてもらったけど、酔ってもっと飲むと暴れる嫁を抑え込むのに必死で……殴られちゃったわけだけど。でもさすがに何もしてないってわけじゃない。酔った勢いでしっかりやっちゃったわけだけど、目が覚めたら裸のオレが覆いかぶさったままだったから、びっくりした嫁にベッドから蹴落とされたけど、それもいい。酔ってエロくなっておねだりする嫁は最高だったからね。記憶ないらしいけど……あ、それじゃ言わない方がいいよな? 避妊し損ねたこと。だってさ、ゴムつける前に麻里が乗っかってきて、腰振ってさ……おれもあっけなく昇天しちゃったから。それまでたっぷりとご奉仕頑張ったオレへのご褒美ってことにしておく。
「とりあえず朝飯行く? まだ間に合うだろうからさ」
「そうね、じゃあシャワー浴びて来るわ……きゃっ!」
 立ちあがった麻里の表情が般若へと変わっていく。
 あ、出てきた? 結構出したかも……なんせ1回出したら同じかなと思って、その後も……な?
「まーさーるーさーん!!まさか、中でやっちゃったんじゃないでしょうね?」
「いや、それは……おまえが『深いのがイイ! ナカにして!』って言ったんだぞ?」
「嘘っ! 言ってない!」
 それは酔ってて記憶がないだけだろ? しっかり言ってたし、腰も振って……あ、いや、あれはオレが突きあげてただけだ。
「ごめん、けど……ほんとにダメだった? オレ、甲斐性はあんまないし、課長にも当分なれそうにないけど、子供は好きなんだ。可愛くてしょうがないんだ。だから……3人目、ダメか?」
「わ、わたしだって……子供ってこんなに可愛いんだって思うわよ?心に余裕ができたら、全然違って見えるんだもの」
「ほんとに? 麻里!」
「……あ、でも、今日は安全日よ」
 思わずガクッとこけそうになる。
「シャワーに行ってこようっと!」
 一瞬喜んで落ち込んだオレを残して、嫁は鼻歌を歌いながらシャワールームへ向かった。


〜羽山〜
「おはようございます! 羽山部長」
「おはよう、なんだ? 富野、その顔は……」
「あはは、まあ、ちょっと」
 隣で麻里さんがすまなそうな顔している……彼女か?それでもしゅんとして下を向いてるあたり、反省はしているんだろう。富野もなんだか嬉しそうな顔だしな。だったら詮索はしなくていいか。
「あれ? まだ、羽山さんとこだけッスか?」
「ああ、蔵木のところは部屋で取るってメール来てたからな。本宮のとこは……ああ、来た」
 ようやっとお出ましか。ん? 朱音さんがいないぞ?
「おはようございます、本宮さん。あれ、朱音は?」
「朱音はよく寝てたから置いて来た。あとでルームサービスでも取るよ。それよりおまえ、なんて顔してるんだ……」
「え、まあ……あはは」
 富野の問いにサラッと答えてるけど、おまえも蔵木と変わらんのか? 妻を起きられないような目に合わせたっていうことか? だが、聞くと怒らせるので黙っていた。
「もう、またまた動けなくしたんじゃないですか?」
「おい、麻里」
 おいおい、そんな率直に聞くのか? まったく富野んとこの麻里さんは、本宮にも遠慮がないんだよな。朱音さんをかなり慕っていて、彼女を守ろうとしてるのがよくわかる。昨日は反対に守られてたみたいだけど。
「そういうことだ。当分動けそうにないので、わたしだけだ」
 しれっとまあ……それがこいつの怖いところだ。クールそうに見えて情熱家。淡白そうに見えて、執着心が凄い。最初の結婚の時に、執着できる女が見つからないと言って、さっさと上司の娘と見合い結婚したのには驚いたがな。執着がある場合とない場合では雲泥の差と言うわけだ。同じワンゲルで、元々締まった身体をしていて、いまだに鍛えてるのは見てもわかる。一緒に風呂に入ればその辺りはよくわかるんだよな。
「あれ? 瞳さん、食欲ないんですか?」
「え、ええ……まあ」
「大丈夫か、瞳」
「……」
「……すまん」
 理由はわかっているさ。だから謝っているんだが……おいおい、そんな目で睨むなよ?
 昨夜と、今朝のこと……だよな?

 いやぁ、昨夜は実に燃えた。
 妻の許可をもらい、和服の妻をたっぷり堪能。帯をほどく快感は癖になりそうだった。それに、和服の襦袢を乱れさせるなんて、どっかのAVみたいだが、そこはやはり男だから、きっちりとやっておいた。それなら豪華なセミスイートよりも、古びた旅館の畳の上でもよかったな、と思ったぐらいだ。
 十何年連れ添ってた妻は、いまだにわたしを官能的に刺激してくれる。飽きる飽きないなんて互いの気持ち次第だということはよくわかっていた。何度も大きな喧嘩をして、互いに何かを望むばかりじゃ腹が立つだけだから。感謝する気持ちでいれば、そう喧嘩することもない。その前に諦める事を覚えたがな。
 だが、ほぼ絶対とも言える信頼もある。どんな時でも妻は家族を、子供を大事にしてくれる。それが何よりだ。そして、構うべき子供たちが成長してくると、きちんと夫も構ってくれるという……まあ、いい妻なんだ。 その妻が、珍しく和服を着て装う姿は、欲目で見ても美しくたおやかだった。普段から着付けだとかお茶をやっているだけあるんだよな。

『ああ、あなた……早く、もう……ああっん』
 帯を解いた後、着物を脱がせ、襦袢姿に足袋を履かせたまま、普段の倍以上かけて妻の身体を愛撫し、その後たっぷり堪能した。回数には自信はないが、その分時間をかけて最後まで襦袢を脱がさずゆっくりと楽しませてもらったさ。
 朝起きた時にメールが入ってることに気がついたのは、妻が風呂に入ってる時だった。もちろん、一緒に入ったが、長風呂なので先に出て来ただけだ。
<朝食一緒にしようと思ってましたが、部屋で取ります。見送りできませんが、昨日はありがとうございました。こっちはもう1泊するつもりです>
 蔵木からだった。新婚旅行は正月過ぎてからゆっくり行くと言っていたし、まだ今日は日曜だからな。確か楓は有給取って、このまま休みのはずだったな。まだクリスマス気分を味わうんだろうな……ベッドの中で。
<オレ達の事は気にするな。適当にチェックアウトして帰る。いい部屋、ありがとうな。けど、楓に無理させるなよ?>
 そう送るとすぐに<無理>と一言帰ってきた。
 おいおい、まだ出来てるかどうかわからないと言っても、妊婦に無理させるなよ? というか、朝からも頑張ってるわけか? タフなヤツだ。朝からか……オレはヤツに影響されたのか、そのままバスルームの扉を開けて、妻をもう一度ベッドに攫った。
 だから、瞳のヤツちょっと怒ってるんだ。まあ、朝からサカるのはよくあることだが、まさか風呂上りに襲われるとは思わなかったらしい。
「瞳、もう食べないのか?」
「食べられないわよ、馬鹿っ……お昼と夜はパパが作ってよね?」
「わかった、やるから、な?」
 朝の風呂上りの状態では体力消耗しまくったようだった。すこしのぼせも入っていたのだろう。

「羽山のとこにも蔵木からメール来てたか? うちは時間がきたらチェックアウトして帰る。今日は聖貴の誕生日だしな」
「ああそうだったな。うちもそうするよ。けど、あいつはまた無茶してるんじゃないかと心配になるよな」
「おまえ、妊婦相手にしちゃいけないこと教えておいてやれよ。先輩だろ?」
「オレがか? まあ、大丈夫だと思うけど……うちは妊婦の時は我慢したほうだからな。こいつは、悪阻酷かったし。おまえの方がいいアドバイス送れるんじゃないの?」
「……わかった。そのうち加減のしかたでも教えとくよ」
 本当に加減したのかどうか心配だが、まあそっちのほうは本宮に任せておこう。どうやらこのふたりは、よく似た者同士のようだ。
「さてと、部屋に戻って少し瞳を休ませるよ。お先」
 そう言って席を立つ。富野のところはヤツが忙しく立ち回って嫁の面倒を見ているらしかった。まあ、殴られても怒らないんだったらそれもいいか。
「それじゃ、朱音さんによろしくな。おまえも怒られないようにしろよ」
 そう言い残して部屋へ戻った。今度は本当に妻を休ませるためにだ。


〜朱音〜

……動けない。
 いくら記念日だからといって、こんなになるまでするなんて……
 そしてさっさと自分だけ食事に行っちゃって、目が覚めたら伝言だけが残されていた。
「朱音?」
ドアが開く音がして、俊貴さんが帰ってきた。
「起きてたのか? ルームサービスでも取ろうか? 何がいい?」
 いつもの落ち着いた声。わたしは動けないのにずるいと思う。
「なんでもいいわ……」
「わかった」
 なにやら注文しているようだった。
「わたしも……食事に行きたかったのに。だってみんな来てたんでしょ?」
「いや、楓と蔵木はまだ部屋だった。瞳さんも疲れてるみたいで早々に部屋へ戻ったよ。富野のとこは……元気そうだったが、ヤツが頬を腫らしてたぞ」
 勝が?まさかまた麻里ちゃんと……喧嘩?
「ああ、大丈夫だ、酔ってまだ飲むと暴れる彼女を抑えようとしてやられただけらしい」
「そう……ならいいんだけど」

 運ばれてきた食事をベッドにもたれたまま、食べさせてもらっていた。だってひとりじゃ食べられなかったから。
「おいしいか?」
「ん……」
 合間にキスされると凄く困る。プレートを膝に置いてベッドに腰掛けてわたしにスプーンを運んでいるだけなのに、こんなに甘い雰囲気……どうしたらいいの?
「あの……これ食べたら帰るよね? 聖貴のお誕生日なんだし」
「ああ、おふくろがごちそうこしらえて待ってるって言ってたぞ。だから安心して手ぶらで来いってさ」
 そうは言っても手ぶらってわけにはいかない。あとでホテルのショップでお義母様の喜びそうなもの見させてもらおう。聖貴と愛音へのサンタさんのプレゼントは昨夜の間にお爺ちゃんサンタとお婆ちゃんサンタが枕元に置いてくれたはずだ。あとは、聖貴の誕生日。そのプレゼントは車の中に置いてある。
「あ!」
「どうした??」
「メリークリスマス。言ってなかったと思って」
「ああ……言ったぞ? おまえは意識が飛びかけてたけど。日付が変わる瞬間、朱音の中にいたから」
 メリークリスマスと耳元に低い声で囁かれて、頬にキス。そして……
「んっ……」
「朱音……帰るのが夕方になっちゃだめか?」
「え?」
 それって……ダメ!ダメよ、絶対! 子供たちに早く逢いたいのに……だってイブはふたりの甘い時間を味わったとしても、クリスマスは聖貴の……家族と一緒に幸せをかみしめたいんだもの。
「ダメか……まあ、仕方ないな。わたしも早く子供たちに会いたいしね」
 よかったとホッと胸をなでおろす。
「愛してるよ、朱音。早くこれを食べ終わって、チェックアウトまでの時間、少しだけわたしに付き合ってもらうよ?」
「……そんな」
 無理!もう身体動かないのに??
「大丈夫、わたしが可愛がるだけだから、朱音は寝ててもいいよ?ちゃんと連れてかえってあげるし? 実家まで車の中で寝てていいから」
「だから、お義母様へのプレゼントとか、買い物したいんだけど??」
「それはチェックアウトしてからでもできるよ」
 嘘……まさか、本気?
「時間目いっぱいまで、この部屋と朱音を堪能しないとな」
 にっこりと笑う優しくて鬼畜な夫。これを幸せと言っていいのかどうなのか……
 許しちゃってるってことは、きっと幸せって言ってもいいのよね?
 結婚7年目を迎えても、こんなに愛されてるなら……きっとわたしは幸せなんだ。
 昨日式をあげた楓さんも……同じように幸せな月日を重ねられますように。

 自分たちと同じ日に式を挙げたふたりの幸せを心から祈る。
 楓さんは確かにわたしとよく似ているところがあると思う。そしてわたしたちがこんなに幸せだから……だからあの二人にも幸せになって欲しい。
 
 そう、どの夫婦にも……幸せなクリスマスを!
 〜It a New Christmas! 新たな始まりの時……
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クリスマス、リアルタイムじゃなかったですが、楽しんでいただけましたでしょうか?
熟年?カップルは書いてると照れますね。(汗)
でもわたし自身も楽しんで書けました。みなさま、よいお年を!!