2004クリスマス企画

Last of chance

 

〜クリスマスを過ぎても〜
12月17日

 
「朱音、来週から頼むよな?」
「はいはい、判ってますってば!ほんとに、このクソ忙しいのに早めに正月休みに入るんじゃないわよ...」
12月の23日なんてとんでもない日に結婚式を挙げるのはこの馬鹿、同期の富野勝。
「それもこれも信頼できる相棒のおまえが居るから出来る業だろ?俺が居ない間、頼むな。」
にっこりと人懐っこい笑顔を向けてくる勝にあたしはため息を返してやる。
「それと、その前の披露宴も頼むな。おれ側の友人で女はおまえ一人だけど、いいよな?テーブルは部長、課長とおなじだけど、長瀬と清野もくるからさ。」
長瀬知治と清野実は、富野と同じく同じ大学からの友人たちだった。
そう、あたしは富野とは大学からの友人で、同僚で...
でも、何であたしだけがこいつの披露宴に出なきゃなんないのよ?新郎側のテーブルで女子社員はあたしだけって聞かされたのは先週だよ?いくら結婚しちゃったからって、もう一人の女友達の美和ぐらい呼んでよっ!同じテーブルに、人はいいけど酒癖の悪い部長と、無口で切れ者の課長と一緒だなんて、接待でもしろって言うの?
それも...好きだった男の結婚披露宴でさ。
 
杉原 朱音、クリスマスもとうに過ぎ去った28歳、独身、企業勤めの一般職。人並み、男以上に仕事してきて、認めてもらえるようになったのはいいけど、多忙すぎる毎日に、恋愛する暇もなかった。
この男のような性格と負けん気の強さが災いしてるってわかってる。恰好だってそんなに構いやしない、地味できっちりしたスーツは一応それなりの物を選んでるけど、ひっつめた髪に眼鏡、出来る女を気取っては見るけど、そんなもの見せかけだけかもしれない。
こんなあたしでも、ずっと秘めた思いを抱いていたりする。
仕事でペアを組むことの多かった同期の富野 勝とは大学も一緒で、長年の気心も知れた仲だったから、仕事のあと飲みに行ったり、悩み相談しあったりして、心の支えって言うか、既にあたしの中ではなくてはならない存在になってしまっていた。
だけど、色っぽい関係には一度もならなかった。それは、カレがあたしを女としてみてなかったから。
あたしはいつだって、カレの視線を気にして、いい相棒、いい友人、いい女に、見えるようずっと努力してきたけれど、カレにとってはただの同僚だったってこと。
だって、カレが選んだのは入社2年目の可愛い麻里ちゃんだったんだから。
紹介された時はマジで倒れそうになった。二人で食事だって思って出かけた先に彼女が居て、勝ち誇った顔で挨拶されて、あたしは必死で笑ってみせるのが精一杯だった。ちょっと意地悪して二人にしかわからない、いつもしてるような仕事の話や、大学時代の友人の話をしながらにっこり笑って最後までお祝いし続けたわよ。
最後には泣きそうな顔してたな...麻里ちゃん。悪いなって思ったけど、一番悪いのは富野だからね、あたしに彼女を引き合わせてなにがしたかったの?なんの話をしろって言うの?
それとも、あたしの気持ちなんてとっくに気がついてて、諦めさせるために仕込んだのかとも思ったわ。コイツにそんな悪知恵はないのはしってるけどさ...
馬鹿正直で、あたしのことをこれっぽっちも疑ってないおめでたいヤツ。
何でも一生懸命で、アイデアはいいんだけどいまいち詰めが甘いのをずっとサポートしてきた。このままヤツだけが上に上がってもいいとさえ思ってた。
それがコレ...
なんであたしが?
馬鹿みたい...
披露宴での挨拶の要請がないだけましかもね?女友達にそれをさせるのは危険だよ。何言われるか保証はしないから...でもその前に呼ぶのやめてほしかった。
事後報告だけでよかったのに...
それともコレはヤツなりの思いやりってわけ?ヤツの親戚や幼馴染のなかからいい相手でも探せばっていう心遣いかしら?
イヤよ、一生あの二人を見てるなんてね。
『おまえ、最高!』『おまえしか居ないよ、こんなに気が許せるのって。』
何度もいわれた褒め言葉が馬鹿のように聞こえる。
いつかは...って、思ってたあたしが甘かったのね。
 
「で、二次会もあるから、楽しんでくれよな?まあちょっとはおしゃれでもしてさ、そのうち声かかるって。」
「おあいにく様、それほど男に飢えちゃいませんっ。」
ココでちょっと誤解。あたしはいつだってこうして誰か紹介してやろうかなんてありがたいお言葉を丁重にお断りしてきたけど、別にカレシがいるわけでも居たわけでもない。
大学時代は勝も知ってるはず。みんなで遊んでたし、特にヤツと仲良かったからすっかりカレシ持ちだって誤解されてたしね...
その責任なんて、感じても居ないよね?会社でも同じ。
見かけ出来る女になりはてたあたしには、会社の男は誰も手を出してこなかった。
それも富野勝のせいでもあるのに...
「あはは、あいかわらずだなぁ。けどな、なんでか課長までが二次会でるって言い出してさ、悪いけど杉原、頼むよ。」
あ、そ。あたしは接待係ってワケ?
それに、本宮課長は苦手なのよね...冷たい端整な顔立ちで、威圧感があって、いかにも仕事一筋って感じで...妻帯者なのに、イベント時には注目されるんだけれどもその何とも言えない寄せ付けないビームで若手の女子社員達は近づくことすら許されないらしい。歳はたしか若かったはず、課長クラスの中では抜群の出世頭だって。あたしよりも5〜6歳上だから、今年34かな?すでに部長の仕事もかなり取ってしまってるって話しだしね。うちの企画部を既に取り仕切ってるのは課長ってわけ。
何度か接待やお酒の席にも一緒するけれども、酔ったとこなんか見たこともない。怒鳴ってても、感情にまかせてでなく、相手にカツを入れるような怒り方をする。
男性社員達はすごく心酔してる人がいたりするらしく、『男が惚れる男』?でもあたしから見れば、家庭を顧みない冷血感の仕事のオニ。家に帰って笑ったり子供あやしたりしてるとこは想像できないわ。そんな課長をどうやってもてなせと?ヤツの出世には大きく作用してくる人物なのには間違いないけど、愛想笑い振りまくだけ無駄な気もする...
きっと富野は、あたしには何頼んでもいいって思ってるんだね、きっと。
 
「杉原、ちょっといいか?」
「はい。」
本宮課長の低い声に呼ばれた。今やってる企画の件かな?確かプレゼンが22日になってて、富野と二人でそれをやってからあいつは結婚する。おそらくそれまではべったり二人で残業になるっていうのが、いつものパターン。悪いわね、麻里ちゃん。
「K社のプレゼンの日程が変更になった。24日だ。」
「えっ、そんな!」
24日には新婚旅行先でクリスマスを迎えるべくヤツは機中の人となってるはずだった。
「富野はその日から休み取ってますよ?」
「ああ、わたしが許可したんだからな。別にいざとなったら杉原一人でもやれないことはないだろうって思ってな。そうだろう?」
「そ、それは...」
今回の企画はあたしの発案でもあったけれども、発表はいつも人当たりのいい勝の担当だった。
「では、やってくれ。しかし当日富野が居ないとしたらもう組んで仕事する必要もないな。いつも下準備はほとんどおまえがしてるんだろ。まあ、サポートぐらいはしてるだけだろうがな。あいつも今まで楽しすぎたんだ。ああ、しかしうちの課で、今手が空いてるのはわたしくらいしか居ないのでな、責任は共に取る。今日から手伝うから資料そろえておいてくれ。悪いが当分残業はわたしとだ。いいな?」
NOなんて言えない雰囲気が漂う。
「わかりました。準備でき次第資料をデスクにお持ちします。」
「では頼む。おい、富野、ちょっと来い。」
あたしを通り越してヤツを呼んだ。あたしはその場を辞して席に戻った。課長からプレゼンを外されたことを告げられ、一気に肩の力を落とす勝。そんなに世の中おいしくは出来てなかったってことだね。今更新婚旅行を伸ばしますって言うほど仕事のオニでもないし...あ、でも本宮課長ならやりそうだけどね。
ああ、でもこれで、しばらくあいつと遅くまで顔を合わさなくてもすむ...
嬉しいのか、それとも寂しいのか?
代わりが課長だって言うのも引っかかるけど、これで、もう、心を押さえて、平気な顔して笑ってなくてもすむんだ...
そう思ったら、思わず肩の力が抜けた。
 
 
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2004クリスマス企画です。
最近クリスマスらしいクリスマスが送れないKの思いつきです。
クリスマスに恋いしたい!
更新が遅れてましたので、取りあえず上司と部下、出来るもの同士。
女性はもう得意の?コンプレックス塊人間です。(笑)
ではではクリスマスまで、GO!