バカップルの日常シリーズ

〜姫と直〜    姫の激怒

〜直樹〜

『峯田さん、ヤバイです、姫さんが狙われてます!!』
夜中会社で残った仕事をこなすオレの元に、オレの舎弟から携帯に連絡が入る。
まあ、舎弟って言ったって団体の後輩で、オレを尊敬してくれてるらしくって、オレの彼女である姫をオレのいない時など密かに守ろうとしてくれているらしい。なんでかって?もてるんだよ、姫はっ!
色白小柄で腰のあたりまであるふわっと艶のある髪は日に当たるとわずかに茶色がかって見えるが染めたことなんか一度もないはずだ。可愛らしい従順な少女のように見えるその風貌は、男の支配力を多いにかき立てる。おまけに大和撫子としてどこに出しても恥ずかしくないよう教育されてきた彼女だ。酒の席でも丁寧に酌をして回り、小首を傾げてにっこりと『どうぞ』なんて言われてみろ、杯を重ねて撃沈しちまう。下手な男はもしかして自分に気があるのかと勘違いすらしてしまうらしい。
今日は団体の飲み会だって聞いていた。その姫の周りをうろちょろする輩がいるらしい。
同じ支部の者ならばオレの存在を痛いほど知っているはずなので、手を出してくるような不届きな輩はいない。しかし今日は各支部の主だった者の集まりだ。オレの存在を知らない男が姫の気をひこうと躍起になってるらしい。こういう時の姫はにっこりと愛想もよく相手を十分その気にしてしまう。まあ、天然なんだが...だが、嫌そうな顔をして追い払うことの出来ない姫に酒の席で調子に乗った男は何をするかわからないからな。
『あぁ、峯田さん、姫さんカラオケでデュエットなんかはじめちゃいましたよぉ〜ぐわぁ、か、肩に手が!!』
「なんだって?くそ、そいつから引きはがして女どもの所へ連れて行ってくれ!」
『了解です!』
「それからその男に...」
『わかってます、ちゃんと言い聞かせておきますよ。うちの連中できちんとね、ふっふっふ』
不気味な笑いをのこして刺客Aは去っていった。(違うだろ、舎弟だっただろうが?)

延々その宴が終わるまで逐一入ってくる報告のせいで、オレは2時間でかたづける予定の仕事を3時間かけてしまった...
くそ、オレの姫に、近づきやがって許せん!なんてオレは散々悪態ついて家に帰った。



〜姫〜

なんなの?これ?

宴会と言っても支部同士の交流会も兼ねてる。だからあたしは始終愛想よく振る舞ってた。内緒だけど、次期代表に推挙されてたりするの、あたし...だから他の支部でもみんなと仲良くしていたいから、カラオケでデュエットしたり、お酌して回ったりした。
なのに最後の、方他の支部の男性陣がやたらとよそよそしくなってきた。おかしいなって思って、同じ支部の男子に聞いてみたらとたんに挙動不審なんだもん。しょうがないんで、ちよと二人で詰問したらあっさりと吐いたの。
「すみません、峯田さんのことをあいつらに教えてやったんですよ。あいつらやたらと清宮さんになれなれしいから...」
「それって直さんの差し金?」
「い、いえっ違います!!お、オレが単独で...」
だけどこの男、直さんの崇拝者の一人だもん。直さんて、たまに男に惚れられちゃうんだよね。面倒見いいし、出来るところが親分肌で、優柔不断タイプな奴はころってついて行っちゃう。この人もその一人だもん。
取りあえずその場は謝らせて帰ったけど、うちに帰ると直さんからの留守電が入ってたの。
<姫、オレ今帰ってきたとこ。今日は飲みすぎてないか?ちょっと話したいことあるんだけど...明日時間つくってくれるかな?平日だけど、どうしても会いたいんだ。>
なによ、知ってる癖に。逐一報告聞いてたくせに?

ムカムカムカ....許せない!!

「ちよ、なんか考えてたらすっごく腹が立って来ちゃったよ。なんであたし見張られてなきゃいけないの?あたしのすることにいちいち口挟むわけ?」
『まあまあ、姫。峯田さんは姫が可愛くてしょうがないんだよ。確かに行き過ぎなとこもあるけどさ、そんなに怒ってどうするの?』
電話口のちよもさすがに今日はつかれてるらしかった。
「だって、悔しいじゃない、おまえは無力で、守ってられてればいいんだって言われてるみたいで...」
そう、あたしって、見た目で誤解されやすいんだけど守ってもらいたい訳じゃないんだ。直さんだってそれは認めてくれてるはずなのに、他に男の子とかが絡んでくると見境がなくなるんだから、もうっ!でもね、こと仕事に関しては絶対に妥協したくないの。今日だって仕事の一貫なのよ。今まで真面目にやって、それで代表に推挙されるに至るほど頑張ってきたんだもん。自分のことは出来るの!それなのに、この間からそう、直さん心配してくれてるのわかるけど、あたしだって、一人前の仕事がしたいのよ?なのにこんなやり方卑怯だわ。
「なんか許せない!!いまから直さんとこいってくる!」
『い、行ってどうするの?』
「うーっ、勝ち込みに入ってきますっ!!」
電話口の向こうでちよの『ひえ〜』と叫ぶ声が聞こえた。あたしはタクシーを呼ぶと20分の距離をひた走らせ、その間に怒りのボルテージが上がっていくのを感じた。

「ひ、ひめ?」
素っ頓狂な声してあたしを迎えた直さんはスエットのズボン一枚で眠い目を擦っていた。
「直さん、どういうこと?人を使ってあたしを見張らせるなんて...許せない!」
「へっ?」
ずかずかと部屋に上がり、直さんちのローテーブルを力任せにがたんとひっくり返した。
「直さんの馬鹿っ、あたしだって一人前にやろうとしてるんだから、邪魔しないでよね?それに、もう少しあたしを信じてくれたっていいでしょ?それにそれに...」
あたしは思ってる怒りを直さんにぶつけ続けた。直さんは黙って聞いてくれてた。
「姫、ごめん...これからは気をつけるよ。もっと姫のこと尊重する。だからもう...」
『許してくれる』と耳元で謝られて、あたしは全力で怒りを放出仕切った脱力感で、その場にへなへなと座り込んだ。やだ、あ今時分酔いが回ってきたみたい...
直さんはそのまんま優しく近づいてきて、そっと抱きしめられて直さんの腕の中に吸収されてしまった。しばらくはじーっとそのまんま。背中や頭を何度か直さんの大きな手が撫でていく。まるでよしよしとあやされててる気がするんですけど?
「すこしは治まった?それともまだ怒ってる?」
「うーっ、もう、いい...わかってくれたんなら。」
「ここのところお互い忙しかったからね。1週間ぶりなのわかってる?」
「ん...」
そうだった、そんなにもあってなかったの。あたし、それでイライラしてた?
「そっか、じゃあせっかくうちに来たんだ、ちゃんと仲直りしよう?」
直さんの腕の中で頷く。身体はもうふにゃっとして、安心感のようなもので眠気すら...
「もう一回飲み直す?それともお風呂は?」
「シャワー浴びてきたよ。」
「そっか、じゃあ...」

「しよっか?」

にっこりと笑った直さんにそのまま抱き上げられてしまった。
「えっ、そんな...やっん」
ベッドに落とされて、唇が塞がれて文句も言えなくなっちゃう。その唇はあたしの弱い首筋を這いはじめてるし...
「ああん、やぁ...んっ」
「姫、悪かったよ。でもさ、しょうがないんだよ、オレは馬鹿なくらい姫に夢中なんだ。他の奴らが近づくのはやっぱり嫌だ。だけど、もう団体の中でそんなまねはしません。約束する。だから...今夜、いまからの姫はオレだけのモノな?」
「はぁん、な、なおさん...やん」
みるみる間に剥がされていくあたしの服。身体のあちこちに熱が灯っていく。触れられたところの神経が敏感に尖っていってしまう。
「ん?感じるの、姫...」
「もう、直さんの...ばか、えっち...」
とぎれとぎれの声になってしまういつものセリフ。
「しょうがないだろ?姫が相手なんだから。」

その後朝まで鳴かされたのはあたしでした...
行って良かったのか悪かったのか、ちよにはすっかりばれてたんだけど、なんでかな?